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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
外伝 シルヴァフォックス編
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希少という名の惑い、練磨の真実


 ステラさんの連れである少女はいきなり背筋を伸ばし角張った喋り方を始めた。


「少し説明をさせて下さい、今回の品評会貴方の作品が失格だった訳を」

「不出来だったからじゃないの?」

「本当に冗談でもそんな事言わないで下さい。パパがクビになるから」


 

 作品の良し悪しなど所詮剣のでき次第。そんな若いとしかいえない価値観を持っている僕に金髪の少女は一家の危機だと言うほどに強く反論した。ただし最後のパパ予呼びで本来の人格が透けていたのは愛嬌だろう。ステラさんの連れが緊張しているお陰で僕はかえって冷静になることが出来た。


「お姉さん、落ち着いて」

「ルーミアでいいです。それより落ち着きは出来ないです。ここで我が家の悪評を広められたら今後生まれてくる兄の息子達に顔向け出来ないので」


 何を大袈裟にと思っていると。手の中にある剣が「聞いてあげて」と訴えてくる。


「で、ルーミアさんは何を話に来たの?」

「すいません。では此度の品評会の結果なのですが落選ではなく失格とさせて頂いた理由をお話に上がりました」


 彼女のより緊張した表情に先程冷静になったはずの僕も再び緊張してきてしまった。剣を持つ手に汗が溜まりより力強く剣を握ってしまった。


「失格とした理由は貴方様の剣が今回の品評会の意図に合わなかったからです」

「合わなかった?」

「はい、若き鍛冶師を見るのが今回の品評会の意図であり、貴方様のような歴戦の鍛冶師に大賞を取られては困るのです。ですがアトラディア王国に不満を持たれ去られるのは我が国において大きすぎる損失、少しでも納得されるよう品評会特別審査委員の私自ら説明に参りました」


 これはベタ褒めされているのでは。抱いている剣を優しく撫でると誇らしさが返ってくる。それはそれとして幾つか訂正しなければならない。


「あのルーミアさん」

「は、はい」

「僕11歳なので品評会の応募条件を満たしてます」

「えっと、長寿族か小人族の方では?」

「いえ、古代種です」

「古代種は……わかりませんが何処かで賞を取ったことは?」

「ないです。いや正確には子供名誉賞みたいなのは昔取ったことがありますけど。僕自身が応募したのは今回が初です」


 その場で呆然とするルーミアにステラさんが肩を軽く叩く。


「やってしまったとういう事ですね」

「ああ、パパの馬鹿〜〜」


 叫ぶルーミアさんに貧民街の住民その視線が突き刺さるがそれも一瞬だ。いつも何処かで起こっている馬鹿騒ぎと結論づけ皆視線を外した。


「すいません。ロストさんですね。失礼ながらどこか有名な鍛冶師のお弟子さんですか?」

「うん。現王宮鍛冶師のテオ・ホワイトドックスの弟弟子だよ」

「ハイゼン一派の……」


 テオ兄さんの顔を売るチャンスと思い胸を張り声高らかに答える。笑顔の僕とは裏腹に顔を青くするルーミアさんはステラさんに飛びつき。


「ずでら、何で教えてぐれなかっだの?」

「泣かないで下さい。それに教えたとしても既に手遅れの段階でしょ」

「ぞうだけども」

「ちょっと、お姉さんステラさんが苦しそうだから」


 ステラさんの胸ぐらを掴み、縦に振り回すルーミアさん。首を服で締められ顔を青くし始めたステラさん、これはまずいとステラさんを助けるためルーミアさんを宥める。


「ちょ、ルーミアさん、ステラさんの顔がまずいことになってるから」

「は、ごめんステラ」

「いえいえ、大丈夫です」


 軽く咳き込むステラさんの背中を今度は僕が擦り一旦落ち着かせる。さて用事も済んだ事だし二人にはさっさと帰って欲しい。でないと背後から刺さる怒りの視線、そこから僕のやらかしがバレてしまう。


「用事も済んだことだし二人も寮の門限とかあるでしょ。剣の事はありがとうございました。さ、帰った帰った」


 僕の言動にステラさんは目を細めた。彼女の顔には何か問題を起こしているのではないか、そんな疑念をを感じられる。そして間の悪い事に僕らの背後にある列、その奥の方から声が聞こえてきた。


「ロスト、早く戻ってこい、お前が起こした騒ぎだろう」


 その一言を聞いて僕は苦虫を噛み潰したかのような顔をする。ニヤリと笑みを浮かべるステラさんに苦笑いを浮かべながら。


「ロベルトちょっと待ってて」


 人だかりで見えないだろうがロベルトに手を上げもう少し待ってくれと指示を出す


「無理だ今すぐ戻ってこい。二人じゃ手が回らん。わかった後5分だ」


 僕がロベルトの返答に何も返さない所で察してくれたのだろう。これからルーミアさんに聞く事の重要性を、なんやかんやロベルトは僕に甘いんだから。彼に心の中で感謝する。


「1ついいですかルーミアさん」

「はい」

「別に今回の品評会について文句を言う気は僕にはありません。それはあなた達に対してもです」

「ありがとうございます」


 僕の言葉に安心したのかルーミアさんの顔色が少し良くなり体の震えも止また。だが僕の用事はまだ終わっていない。


「その代わりに僕が品評会に出した剣その評価をここで教えてください。ちなみに罪の意識から嘘を言ったら何が何でも問題を起こすのでプライドを曲げるなら覚悟をしてくださいね」

「はい、そこは大丈夫です」


 脅しも掛けてみたが彼女の表情は変わらない。恐らく剣の審査はルーミアさんの実家、その家業だ、だがら誇りを持っている、嘘をつく事はありえない、信じられる根拠はそう大した理由はない、ただ僕はルーミアさん自身をこの目で見て信頼できそうだと結論づけた。


「総評ですと、素晴らしいの一言です。剣の形、研ぎの精度、素材の加工技術、どれを取っても素晴らしかった。ただ惜しむらくは剣のサイズ。標準より少し小さく剣の角度も独特で持ち手の部分も少し短い、そこは減点対象です。審査員側の用意した剣士が素晴らしい剣だが振りにくいとと仰っていました。評価は以上になります」


「そっか……課題も多いか」


 少し空を見上げた。夕日が地上と空を照らしていく中僕の心には後悔が宿る。剣のサイズに関しては僕の身長や手の大きさ腕の長さを計算して作っているので大人が振りにくいのは当然だ。正直それ以外は文句ないという審査員の評価は僕自身納得がいっていない。久しぶりの鍛冶且つ限られた素材、今回僕は品評会にあたっての剣の素材、鉄は少し特異な物を選んだ。市場などに出回っているくず鉄とテオ兄さんから質の良い鉄、この2つを混ぜ剣を作った。なぜテオ兄さんから貰った鉄のみで剣を作らなかったかそれは師匠の言っていた言葉が理由だ。希少な鉱石で一本剣を作るくらいなら合金にして100本作れ。そうすれば希少な鉱石を使い切った、たった1本の剣よりも間違いなくそれより優れた剣が100本目に生まれるだろう。


 まぁ一番優れた剣は70本目ぐらいに気まぐれで生まれてくるんだけど。1発本番で最高の物が出来るなんてあり得ない。テオ兄さんから貰った質の良い鉄も限りある、だから合金にした。もう1つの理由として他の鍛冶師達と条件を出来るだけ合わせたかったからだ。ま、負けず嫌いを発揮したという訳だ。

 

 正直鍛冶の腕は錆びついていた。最善を尽くせていない後悔で最近夜も眠れず廊下を行ったり来たりしていた。


 振りにくい事が問題点。そんなもの昔の僕であれば剣の出来で黙らせていただろう。お陰で自分の甘さを再認識できた。


「ありがとうルーミアさん。僕戻るから」


 いい加減戻らないとロベルトが怒り出す。


「え、はい、ありがとうございました」

「ステラさんもまたね。王都にいるならどっかで会おうね」

「ええ、今度遊びに行きましょう」

「うん」


 嬉しい再会に心を躍らせながら僕は自らのやらかした事に向き合う為自宅前に置かれた大量の魔物肉に向き合う。血抜きした魔物の体から肉や様々な部位を分け解体をする。流石に何時間も同じ作業をしていれば気が遠くなり始め、ロベルトと犠牲者アガレスに目をやると。


「早く魔物を捌け」

「お前がやらかした事だしっかりしろ」

「はい、すいませんでした」


 アガレスさんとロベルトに冷たい視線を向けられ心を痛める。でもしょうがない。この家を飲み込める量の魔物の肉。品評会の結果が芳しくなかった事が引き金となり一昨日僕は近場の森で魔物を狩りまくった、現在している事はこの魔物肉を無駄にしないように炊き出しをし周りの人に配る事。僕の担当は魔物解体だ。


 因みに一番傷ついた言葉は。


「シズカに似てきたなお前」


 というオプシディアさんからの心ない言葉だ。強さという意味なら勿論嬉しいがオプシディアさんの言った言葉の意味は違うと思う。シズカの鬱憤を溜め込んだ際、そのストレスの吐き出し方とそっくりだと言われてしまったのである。


「おい、ロスト手が止まってるよ」

「あい」


 鈴を一度鳴らし魔物の構造を理解する、そして淀みないナイフ捌きで魔物を切り分けていくのであった。そして僕の捌いたお肉は炊き出しとして振る舞われていった。因みにこの肉を捌く作業はあと2日ほど続いたのはここだけの話。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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