再会2
食堂が開いている時間も限られている。 まず朝食を取ってからルーミアの話を詳しく聞く。ルーミアの家は代々王家が開く品評会の作品、それらの管理をしている。そして現在進行系で品評会の入選、佳作を除いた作品を持ち主の所に返す作業を行なっているらしい。そして今回少々の問題作がルーミアの所に送られてきた。ルーミアに送られてきた理由、それは彼女にもその手伝いをさせる為だ。職人は気難しい人間が多い、その硬さを柔らかくするためにはむさ苦しい男よりかわいい女の子の方がやはり受けがいい。そんな打算的な理由でルーミアの手伝いはほぼ強制的な家の命令でもあった。
「では放課後にギルド本部に行きましょう」
「わかった。ありがどう、ずでら」
涙と鼻水でグシャグシャになった顔でただ只管に私の腕を上下に振り続けるルーミア。そして彼女をなだめて私は授業に向かう。
「このアトラディア王国の歴史は……」
5限目は歴史の授業。すでに己の中で知識として芽吹いている物を聞くのは退屈ではあるが義父に授業料を出して貰い通っているのだ不真面目には聞いていられない。それにそろそろやってくるはずだ。
「っっ」
突然現れる眠気、午後の一限目故の日差しが作る優しい誘うような眠気ではない。自分以外の何者かが寝ろと命令をしてくる。抗いがたい睡魔に意識を持っていかれそして私は夢を見る。現実感の薄い夜にみる夢ではない、どこまで真に迫った夢を。
*
場所は王都の平民街にある大通りだ。平日休日問わず人が多い道だがここまで人で埋め尽くされるのはそれこそ祭典以外はないだろう。だが街を見れば祭典でないことはわかる。祭典なら店や大通り自体が祭典の色に染まる。いつもと違う旗を出し、看板も客を引く為に華やかな装飾品に包まれる。だが今はそんなことはない。店の前では怒号が飛び交い「早くしろ」と店員を急かせる横暴な客が見える、一箇所なら質の悪い客を対応しなければいけない店員さんを不憫に思うだけだが、そこら中のお店で同じような怒号が飛び交う。
普段から見たら余りにも非日常。だがそれもしょうがない。人々が不安を抱え込み過敏になってしまう物が空にはあった。
「要塞?」
空には空中都市を思わせる建物が浮かんでいた。それは王都の周りを周回しているだけだが、ただ佇むだけでも不安を煽る迷惑な代物だ。落ちるのではないか? と不安にもなるだろう。敵の攻撃? と恐怖もするだろう。ただ正体が分からないという未知もまた王都民を過敏にさせていた。
そんな人混みの中、見知った姿が僅かに見える。
「ロスト」
大切な彼がそこにはいた。ロストは思いつめた顔で手に持っている紙を握り潰す。その表情は焦っているというよりは縋っている表情で「急がないと、全部・・・全部・・・」と僅かに聞こえる。
彼の表情を見て今のままではいけないと声を掛けるため人混みをかき分け近づく。その姿を決して目から逸らさずもう少しで手が届くそんな時私は背後から伸びた手に拘束され口を白い布で防がれる。
「〜〜」
声が出ない。意識が朦朧とし始めロストは私に気付かずその場を立ち去っていく。直感でわかった、このまま彼をいかせては良くないことが起きると。呼び止めるため仕事をしない喉で声を挙げ続ける。
彼が完全に立ち去った後、私の拘束は解かれた。今だ力が入らない足、声の出ない喉、体の異常は布に染み込まされ嗅がされた薬品が原因だと予想し、私を拘束していた者をなんとか睨みつける。
「!」
その者は男だった、だが見知らぬ者でもなかった。シリウスにかつて所属していた冒険者でベンさんを除いて最初からロストと仲が良かったタイロン・グロスマンがそこにいた。ロストに書類の改ざんの仕方など悪影響を与えるようなことばかり教えていたが、それでもロストの事は可愛がっていた。私の問いを代弁するかのようにタイロンは口を開く。
「悪いなステラ。ロストは真王に気付かれた。目を付けられてしまった。だから精々祈ってくれあの子が地獄から無事に帰ってこられる事を」
タイロンの言葉に反論すら出来ずそこで私の意識は途絶える。
*
「起きてステラ……起きて」
軽く肩を揺すられ目を覚ます。
「ここは?」
「教室だよ。大丈夫? うなされていたけど」
目の前には眉を下げ心配げに私を見るルーミアがいた。そんな彼女の柔らかく触り心地100点の頬を摘み。
「はい、大丈夫です。心配掛けてごめんねルーミア」
「はにゃして、ならよかった」
彼女は頬を摘む私の手を丁寧に外すと軽く頬を擦っていた。笑顔を見せる私を依然ルーミアは心配そうな表情で見つめる。
「でも本当に大丈夫? 最近のステラは授業中に眠るってより気を失ったっていう感じで机に突っ伏しているから」
「ありがとうルーミア、先生に私の事で相談してくれたのね」
「さすがステラ、私の事よくわかっているわね。でも先生も心配しているよ」
気を付けなければと心や体の調子を確認してみる。意識ははっきりしており体の動きも悪くない。それに目も霞むといった事はない。
「ステラ、次の授業は剣術だから頑張ろうね」
「ということはもう移動ですね」
椅子から立ち上がろうとした瞬間意識に体がついて来なかった。脳からの信号その受け取り方を体が忘れてしまったようだった。
「ステラ大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
座り込んでしまった私にルーミアが駆け寄ってくる。周りの生徒も何事かと心配そうに見つめてくるがルーミアへの受け答えで何事もないと意識を外す。
「本当に大丈夫?」
「はい、ルーミアも次の授業が始まりますから行きましょう」
その後の剣術の授業でルーミアが私に付きっきりだったのは言うまでもないが、ルーミアと模擬戦をした際に彼女は心配のあまり一度も剣を振ってこず私を休ませようとしてくれたが、そのルーミアの行動は先生からしたらサボりに見えたらしく、見つかり怒られるルーミアを見て失礼ながらも少し笑ってしまった。
「本当にいい友達を持てたな私」
そんな意図せず出てしまった呟きを聞き顔を赤くしたルーミアに気付いた私は彼女の記憶を消すために執拗にルーミアの頭を狙い続けた。
*
「では行きましょうか」
授業も終わり、生徒は皆放課後を各々過ごし始める。私達も急がねばならない。全寮制であるカルミラ学園は18:00が門限だ。現在14:00頃、同じ王都が目的地とはいえ人1人探すのは手掛かりがあっても骨が折れる。
「で、まず何処から行くのステラ」
「そうですね。直接渡すにしても情報は先に得ておきましょ。ということで目的地は冒険者ギルドの本部です」
「わかった。まったくパパも住所くらい教えてくれないと届けられないじゃない」
そうなのだ。ルーミアの父からは直接作品を手渡すように指示が出ているのだがロストが住んでいる王都の住所は教えられていない。品評会に正規の手順で参加しているのであれば住所などの情報は必ず送られているはず、それなのに住所すら教えて貰えない。守秘義務を理由にされれば文句を言う事はできないが、まったくいいように使われていると思う。
「ま、パパにも守秘義務があるらしいからね」
「首を突っ込まないのも大事ですしね」
そんな話をしながらギルド本部に向かって歩いているとルーミアが貧民街に続く道で足を止める。
「こっち」
「待って下さいルーミア」
彼女はそのまま貧民街に向け足を進める。ルーミアに着いていく事に異論はない。彼女の勘は鋭くとてもよく当たる。それでもこの迷いのなさに普段の勘とは違う異質さを感じた。
「不思議、剣に引っ張られてる」
そして着いたのは庭が広い民家だった。
「何事だろう」
変哲もない民家だが人が集まり列をなしている。
「面倒な事やらせたがって」
と男な人の声が響くと。
「ごめん、反省はしていない」
と数ヶ月ぶりではあるが懐かしい声が聞こえた。
「ルーミア」
「うん、多分目的地はここだね」
何度か仕事を手伝っているがルーミアが緊張しているのを初めて見る。ルーミアは人との付き合いを得意としており初対面の人相手でも殆ど緊張しない。彼女が最も緊張する姿を見れるのはテスト前だがその緊張とも少し毛色が違う。
「ルーミア、何かやらかす気なら私は助けませんからね」
「酷い、でもステラにはわかっちゃうか。大丈夫何かをやらかす気はないよ。やることはいつもと変わらない。でも私が勝手に緊張しているだけだから」
ルーミアに釘を刺しつつこの列を待っていたら門限を過ぎてしまう。時間との折り合いに頭を悩ませていると後ろから声がかかってきた。
「ねぇ、そっちの金髪のお姉さん。品評会に出した剣を持ってきてくれたの?」
丁寧ながらも不機嫌そうな声が背中から聞こえた。後ろを見ると白いシャツを着た数ヶ月前より一目で身長が伸びたとがわかった彼、ロストが立っていた。
「ロスト久しぶりですね」
「ステラさん、久しぶりだね。王都の学校楽しい?」
先程の不機嫌そうな声と打って変わり、明るく、再会を喜ぶ声が返ってくる。
「はい。楽しいですよ」
「よかった」
「いえ、私も本当に良かったです」
言葉、雰囲気、目それ以外でもわかる、彼は今前を向いて生きている。私がその表情を作って上げる事が出来なかったのは悔しいがそれでも良かったという喜びが一番にくる。
「あの、これを」
「持ってきてくれてありがとうございました」
ルーミアが緊張した面持ちで剣をロストに渡す。不思議と剣が彼に吸い寄せられるように渡った気がした。先程とは違いルーミアへの冷たさのない声色でロストは感謝を述べる。
「金髪のお姉さんもごめんね。さっき冷たく言っちゃって。明日の事を考えたらどうしても憂鬱で」
「明日?」
気になる事を言っていた。興味がてら聞こうと彼に声をかけようとしたが、
「ロスト?」
出来なかった、だって。
「ごめんね。僕が数年間立ち止まったばっかりに、君を日の目に当てることができなかったよ。本当に本当にごめん」
彼は涙を流し必死に自らの剣に謝っていたのだから。その手は慈しむように剣を撫で、剣はその涙を止めたいが止められない。泣かせてしまった己の愚かしさを悔いているように感じてしまう。そしてもう一人。
「さて、これはどう取るべきか」
魔法でロストの泣き顔を写真に納めている友人に少し眉を歪ませながらも今はロストの元に向かい優しく背中を撫でる。声は掛けない、ただ気の済むまま涙を流せるように、彼自身が自らのこ事を表に現せるようにただ背中をさすり続けた。
拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。
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