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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
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外の様子


「久しぶりっすね、ロストさん」

「そいつ等は誰だ、ドルリッチ」


 集合場所の裏路地に着くとそこには予定にない二人組の男女がいた。

 1人は黒髪の明るい雰囲気の女性だ。

 もう1人も黒髪であるが、目を常に半分しか開かず、肩を下げた気怠げな人物だ。


「この2人はすっね。連邦捜査員の方っすよ」


 僕の冷たい目線を受けるがドルリッチは一切気にした様子がなくその場でくるくる周りながらそう言った。


 ドルリッチの容姿は白髪にサングラスを着けた人物だ。

 サングラスの奥の所謂糸目で、本人曰くこの糸目を隠すためにサングラスを掛けているらしい。


「で、どうして僕達にこの2人に引き合わせたんだ?」


 溜息を吐きながら聞くとドルリッチは右手の指を鳴らし笑みを浮かべながら連邦捜査員の方達を右手で指し示す。


「だって聞きたいでしょ? ハーヴェスト王が今後どういった体外制作を取ろうとしているか?」

「知りたいと言えば知りたいけど」


 ハーヴェスト王、その言葉に反応し思わず眉を寄せる。


 出来ればルベリオ王国の人間以外の力を借りたくはない。

 借りてしまえばこの事件を解決した後、何らかの制限をこの国が受けるかもしれないからだ。


 そして鋭い目付きを彼らに向けた。


「お話してもよろしいですか?」


 女性の捜査員が胸を張りドルリッチの横に立つ。

 ドルリッチは大げさな動きで捜査員から離れ僕の後ろに周り隠れるように肩を掴む。


 間違って剣を抜きそうになったが、それを呑み込み女性に目を向けた。


「お願いします」

「はい。現在ルベリオ王国は鎖国状態にあります。どの国の話も聞かず、何も要求もしない。今の所は何事もないですがいずれは連合国が話合いの場を作ると私は考えます」


 連合国。

 色々な国の集合体。

 このベルディア大陸で3番目に力を持つ勢力だ。


 ルベリオ王国は小国だ。

 小国相手に大国が話し合おうと言っても脅しにしか見えないだろう。


 そういう訳で国同士の集まりで出来ている連合国が話し合いの席を作った方が要らぬ軋轢を起こさずにすむという判断だろう。


「それで外の様子は?」

「はい、といっても私達もここに来て2週間、状況もだいぶ変わっていますけどね。孤立した状況では中々動けないので協力者が欲しいんです」

「それが僕らに接触した理由か?」

「はい」

「ね、いい話っすよね」


 敬礼し一歩後ろに下がった女性捜査官。

 そして俺の肩を大げさに叩くドルリッチ。


「モグ」


 そして相棒に指示を出す。

 モグは背中を駈け上がり、僕の右肩を掴んでいるドルリッチの手目掛け土魔法で作った槍で突き始めた。


「痛い、痛いっす」


 ドルリッチの相手は従魔のモグに任せ僕は女性捜査官を見つめた。

 

 何故か彼女は喉を鳴らし1歩後ろに下がる。

 僕の出した答えは簡単だ。


「断る」

「えっと、どうしてですか? 私達と協力すれば……」

「あんたらに何が出来るの? 本国のバックアップの無いあんたらに?」

「それは……」


 下を向き目を左右に動かし必死になって理由を探す女捜査員。

 そんな彼女を庇うように手が伸ばされた。


 今までは様子を伺い無言だった男性捜査員は女性捜査員の前に出ると口だけ笑みを作り立ちふさがる。


「そういうアンタは何が出来るんだ? ガキで片腕がない。それじゃ筋力も何もかも足りないから戦闘では役に立たないだろう。俺達ももっと役に立つ人物と話したいね」


 その言葉を掛けられ目を瞑った。

 

 ずっと己に問いかけていた事だ。

 記憶を失い、手を失い、関われば事態を悪化させる害悪であるお前に何が出来るのかと。


 答えは心の奥底にずっとあった。

 答えにはなっていない、だが変わることのない答えが。


 目を見開き、男性捜査官の目を見つめる。

 己の存在を見落とさせないように、心構えとしては彼の目に僕を写し込むように。


「この国為に命を掛けられる」


 男性は唾を呑み込み、こめかみから一筋の汗が流れる。


 手を広げ男性捜査官と距離を詰めながら。


「それに何が出来るか? それを確かめる為に命はある。どこまでいけるか、それを決めきる程僕は年老いていないよ」


 男性捜査官はゆっくりと息を吐き出すと手で頭を抱え、空を見上げた。


「はぁ、眩しいやおじさんには。わかった、協力関係は要らない。逆にさせてくれ」

「手伝うってこと? 僕は分前なんて出さないけど」

「嘘つけ。お前さんは真面目そうだからな。出来高払いで払ってくれんだろ」


 そして男性捜査員が手を伸ばす。

 僕自身この国の市民ではない。

 最悪それを盾にコイツラの要求全て払いのければいいかと考え、握手をした。


「それに耳寄りの情報があるんだ。明日、国中の貴族を集めたパーティーを王宮でやるらしい。でだ、たまたま貴族様一行に紛れられそうでな来ないか?」


 変わらずやる気のなさそうな半分しか開いていない目でこちらを見る男性捜査官。

 彼から目を切り僕はフィーネの方を見た。


 彼女は潜入という可能性を聞いた途端、目元が少し寄った。

 また置いていかれる、そう思ったんだろう。

 だから僕は彼女に問う。


「フィーネが行かない?」

「私ですか?」

「そう。王宮程度の警備なら僕はいつでも目を掻い潜って侵入できるし」

「なんで出来るんだよ」


 男性捜査員の呆れた声が背中から聞こえる。

 僕は彼に振り返ると。


「薄汚いガキと綺麗なメイドさん、どちらが好みですか?」

「綺麗なメイドさんだけど」


 男性捜査員は困ったように瞼を寄せつつも、最後は握手をしてない方の手を強く握りしめ力説。


「じゃ、そちらからしても異論はないということで」

「ああ、へ?」


 男性捜査員嵌められたと大げさに驚いていた。

 

 僕は再びフィーネの方に向き。


「決めるのはお前だフィーネ。女将さんの所で待つか、それとも一緒に来るか?」


 フィーネは悩むように目を動かす。

 だが一呼吸置いて僕をまっすぐ見つめる。

 そして拳を握り力を溜め込むと同時に強く言葉を放つ。


「私も行きます!!」

「そういう事でお願いします」

「ああ任せてくれっと、いい加減離そうか」


 今までタイミングがなかったから僕と男性捜査員の方はずっと手を繋いでだままだった。

 

 ほんの少し頬を染める男性捜査員、その後ろにいた女性捜査員の方は顎に手を置き頷いている。


 何か余計な誤解が生まれた気がするが。


「ではここらへんで自己紹介をしませんか?」


 フィーネは両手を合せ、そう提案してきた。

 彼女を見て大きく頷く。

 そして男性捜査員の方が一番最初にスタートを切った。


「俺はバァイト。こっちはハナ、よろしくな」

「ちょっと、先輩私の分の自己紹介を取らないでくださいよ」


 バァイトはハナという女性に背中を叩かれていたが、気にした様子もなくこちらに手を向ける。


 次はそちらだと。

 

 僕の横にフィーネが近づき彼女は深々と2人に頭を下げる。

 その時従魔のモブが僕の右肩を踏んだ。

 

 その合図により背後にいたはずのドルリッチがこの場から音を立てずに去った事を理解した。


  

「さて怪しい地点は2つ。王の書斎地下か、離れの屋敷だな」


 王都の地下通路の一角、何もない筈の壁に王城への隠し通路がある。

 扉を開け、階段を登ると王城内の倉庫に繋がっている。


「できれば地下通路は使いたくないんだけど」


 扉をずらし倉庫に入る。

 倉庫ではあるが床は磨かれ木箱1つとっても埃が被っていない程丁寧に掃除がされていた。

 

 確認の為に軽く人差し指で木箱に触れるが埃は指に付いていない。


「流石ライだ。サボり場所の掃除はバッチリだな」


 才能もある、勇気も、人望もある。

 だが家柄とやる気だけがない男それがライだ。


 ライは軽度の喘息持ちだ。

 だからサボり場所の掃除を怠らない。

 週に1回は箒を変え、雑巾に至っては一度使えば取り替える徹底ぶり。

 

 そして今回王城への侵入口をここに選んだのは綺麗さが理由だ。


 王城内の秘密の通路が使われる場合は主に2つ。

 子供の遊びか、それか緊急時の脱出。


 そして現在王宮にやんちゃをするような年齢の者は住んでいない。

 長男のハーヴェストは勿論その妹ですら14歳で分別が着く年頃。


 メイドが王宮内を掃除しているとは言え、隠し通路の隙間には少しずつ埃は溜まっていく。

 問題なのは長い間使われていない筈の隠し通路を使えば、埃の動き方で侵入経路がバレてしまう事だ。


 今回の潜入で仮面の王との決着をつける訳ではないのだ。

 切り札となる謁見の間直通の隠し通路は勿論、罠を貼られぬように隠し通路で行き来しているとは気付かれたくない。

 その為前回の王城へは門を飛び越えて侵入したのだから。


 今回はライが管理している隠し通路を選んだ。

 彼はこの隠し通路の事を知っている。

 そして僅かな埃を許さない彼は日常的に隠し通路の扉を開け通路もある程度先まで掃除をしている。

 

 つまりこの隠し通路だけは痕跡を残さず使用出来るというわけだ。


「さて行くか」


 倉庫の扉を開けそのまま王宮内を歩く。


 赤いカーペットを堂々と進みながら王宮の左側に目を向けた。

 現在王宮では貴族たちを集めたパーティーが行なわれている。


 殆どの警備がそこにおり現在僕のいる右側には最低限の巡回しかない。

 

 捜査官一同とフィーネは現在向こう側でパーティーに参加しているはずだ。

 そこで情報収集と王宮の状況を肌で感じてもらっている。


「こっちか」


 足音を媒介に探知魔法を使用し王宮内を歩く。

 カーペットはいい。

 目では見えないが足跡がわかりやすく残っている。


 それに建物内故に波が反射し探知魔法の効果範囲が広がる。

 現在半径10メートル内の廊下にいる巡回騎士の位置とそのルートを把握出来ている。

 これだけ分かれば騎士に出会わず目的である王の書斎にある地下空間に到達することが出来るだろう。


 王の書斎近くの壁、そこには2本の傷があった。

 探知魔法でその存在はわかっていた、だがその場に近付くと不思議と手が伸びる。


 その傷を手で触ると眼の前にいるはずのない2人の子供が現れた。


「お父さんこっち」


 彼らは兄弟なのだろう青い髪に琥珀色の瞳、どちらも似た特徴だった。

 2人は僕の周りを笑いながら走り回る。


 自然と僕も笑みが溢れ、兄である男の子には剣を渡し女の子と手を繋ぐ。

 そして一緒に歩いていくのだ。


 歩きながらも交互に2人を見つめる。


 背面歩行をしてる男の子には「危ないから前を見ろ」と言い、女の子の方には手の振りを合せリズムを取りながら一緒に腕を振るう。


「お父さんいつ僕に剣を教えてくれるの?」


 男の子がそう述べた。

 少女から手を話し男のから剣を受け取ると剣を抜き、壁に2つの傷跡を付けた。


 1つは男の子の身長に合せてもう1つはそれより上。


「これくらい大きくなったら教えてやる」

「約束だよ」

「ああ」


 微笑みながら男の子の頭を撫でる。

 気持ちよさそうに目を瞑る男の子を見て女の子は僕の服を引き。


「私も、私も」


 女の子の目は僕が撫でている男の子の頭に向かっていた。

 剣を習いたいのではないと理解している、

 きっと羨ましいのだ。

 

 男の子から手を離すと「あ」という言葉が漏れる。

 そして女の子を睨みつける男子のに対して。


「お兄ちゃんだろハーヴェスト」


 そう言った。

 

 少女の頭から手を離し、壁に手を置く。

 そして勢いをつけ頭を壁に叩きつけた。


「はぁはぁ。今のは?」


 吐き気を押さえながら右側の壁を見ると先程と変わらぬ2本の傷が壁にあった。


「スヴェンの記憶か?」


 膝を曲げ下の方にある傷を人差し指で擦り、触った指を見つめた。 

 

「まさか王城に入るとこんな事が起こるとはな」


 前入った時はこんな事はなかった、それに。

 右目の眼帯を手で触れる。


 スヴェンと分かれてそろそろ1ヶ月。

 眼帯を外す事で彼の技術を引き出し足りない戦闘能力を補っていた。

 

 ロザリーの件にクライム、フィーネ、後マルコスと初めてあった時にも使ったか。

 いやそれだけしか使っていない筈なのに過去の幻影を見るほど馴染み始めた。

 

 だがやることは変わらない。

 マルコスの集めた情報から仮面の男がハーヴェストの体を奪っている仕組みはおおよそ予測がついている。


 そこから考えるに、僕がこれを守れば状況次第では一発逆転すら狙える。


「ともかく今は」


 そして王の書斎がある通路までやってきた。

 

 足を立てつま先で軽く床を突き死角から探知魔法で周囲の情報を探る。

 

 わかった事は書斎の前に立っている騎士の数と所属だけ。

 扉が締め切られているため波が届かず書斎の中の状況はわからないが恐らく王はいないと考えられる。


 元々王の書斎には必ず2人は警備に着く。

 そして王や重要人物が中に入る場合は警備の所属が変わるのだ。


 王なら近衛兵数人、大臣なら一般騎士4人といった所か。

 そして今王の書斎の前にいる騎士は2人、尚且つ一般騎士だ。


 鞘に入った剣を抱え目を瞑る。

 そして意識を集中させ突入のタイミングを測った。


「知ってるか? 第2騎士団のゾアが結婚するってよ」

「う」


 そして騎士達の会話が成立したと同時に足音を立てずに走り出す。

 

 通路の合流地点を出来るだけ小さく曲がり修羅を使って一気に距離を詰める。

 

 正面から騎士の前に滑り込むと右手に持った剣で足を払いのける。

 後ろ向きに倒れ仰向けになった騎士の顔面に鞘を突き立たて床に頭を叩きつけた。


「な、しんー」


 両膝を曲げ、前傾姿勢を作ると一気に飛び上がる。

 そして一息で騎士の懐に潜り込むと柄から鞘の部分に持ち場所を変え、両足から腰に、そして体を捻り騎士の腹部に柄を突き立てた。


「がは」


 鎧通し。

 衝撃を鎧の中の肉体に通す技術。

 

 吹き飛ばされた騎士の体は衝撃を逸らそうと無意識に海老反りになり、吹き飛ぶ速度は減速。

 

 剣を手放し、修羅を使って減速した騎士の背後に回り込み、(うなじ)を右手で掴み電流を流すと騎士は泡を吹いて気絶した。

 

 すぐさま右手を騎士の首から離し、手は騎士の背中へ。

 足捌きと体の柔軟さを使って吹き飛ぶ騎士の勢いをその場で殺し、音もなく優しく着地させた。


 彼らを廊下の端に寝かし、戦いの際に手放した剣を拾うと書斎に入る。


 王個人の書斎と言っていたがそこは会議室だった。

 正面には大きな机の端と端がくっけられその上には地図が置かれている。

 そして部屋の最奥には一際豪盛な机と椅子のワンセットがある。


「あれが王の椅子か」


 指を鳴らし探知魔法で周囲を確認する。

 周囲の本棚は小説に、学術書、それに地図など様々な物が並んでいた。

 それとはまた毛色の違う物、表紙が違う本の中には裏帳簿とエロ本が眠っている。


 それを手に取り「スヴェン何やってるんだ」と彼の若かりし頃の行動に溜息をつく。


「ここか」


 書斎の最奥にある王の椅子、その背後の本棚の一番右上を押すと書斎の中央に並べられていた机が真ん中から左右に移動し階段が現れた。


「なんか黒っぽいな」


 階段を降りようとした時、階段を囲む通路の壁が黒いように感じた。

 記憶では灰色、石造りの筈だった。

 

 右手で軽く触ってみたがひんやり冷たい。

 そして触った手を確認したが黒い汚れなどは付いていなかった。

 埃や煤、塗り物が原因で黒くなったという訳ではなさそうだ。

 

「まぁ、光の加減か」


 そう己を納得させ階段の奥を進むが、壁どころか空気に少し黒っぽい霧が混じり始めた。

 黒い霧りが混じった空気を吸ってみるが不快ではない、むしろ懐かしい気がする。

 

 そして階段を降りるとそこには檻があり、中には黒尽くめの男がベットの上で寝転がりながら本を読んでいた。


「お前は?」


 声に反応して男は振り返る。

 容姿は黒髪に赤い目。

 そして僕の姿を男は見ると檻に近づき、鉄の柵に掴みかかった。


「ロストじゃないか。無事だったか!!」

「えっとどちら様で? と取り敢えず下がって」


 男はがっくりと肩を下げ、それに申し訳無さを覚えつつ指示を出す。

 男はこちらの指示を聞き一歩下がると、僕は剣を鞘から抜き檻に向かって振るった。

 

 目では檻になんの変化もないように見えるが、檻を蹴飛ばすと僕の目から足首付近の高さまでの檻が外れ穴が開く。


 黒い服の男性はくぐり抜ける形で檻の外に出ると僕の両肩を掴んだ。


「エレボスだ。一緒にこのルベリオ王国に来た!!」


 両肩を掴み上下に振るいアピールする彼に対して申し訳なく思いながら目を逸らし。


「僕、記憶喪失みたいな物になっているから覚えてない」

「そうか、なら思い出させてやる」


 エレボスという男性はその一言を吐いた後、体か黒い霧を出す。

 黒い霧は次第に部屋を埋め尽くし始めた。


 その光景に危機感を覚え、僕の肩を掴むエレボスの腕を剣で切り落としたが、血は出ずむしろ斬られた腕からも煙が放出される。


 そして30秒後完全に部屋は霧に包まれた。

 息を止め霧の影響を逃れていたがそれも限界。

 僕は息を吐き出し思いっきり黒い霧を吸い込んでしまった。


 すると酷い頭痛に襲われた。

 立っておれず、頭を抱えたまま地面に転がる。

 

 目が赤く染まり体の中の血が沸騰する。

 だがそれも一瞬だ。

 次第に頭の中で途切れていた何かが繋ぎ合わさる。


 この感覚は経験を奪われた時と似ていた。

 違う点はあれが喪失ならこちらは摺り合わせからの再構築。

 制度の高い再現。


 「もういいエレボスやめろ。数時間息苦しくなるのはいやだ」

 

 息を止めつつ煙を右手で振り払う。


 受け入れさえすればむしろ心地良い位だが、これ以上闇を吸うと数時間魔素適応障害が悪化する。


「思い出したか?」

「エレボスのことくらいは確実に」

「そうか」


 エレボスは闇を己の体に納める。

 その際には切り落とした腕はその場で闇に還元され、腕は闇を収めた後傷口から生えてきた。


「それにしても……今度はなんだ」


 エレボスに右手を差し出し再開の握手をしようとすると、突如王宮内が揺れた。

 事態を把握するため急ぎ地下から飛び出し書斎を抜け通路に出る。

 

 そして窓を右手で触りつつ、呆然としながら僕は言った。


「何があったんだ?}


 窓から見える状況は2つ。


 1つはフィーネ達がいるであろう左側の建物から人が散るように逃げていること。

 外に出た貴族たちは庭で4人の傭兵に襲われている。

 そしてその傭兵達に向かってフィーネが剣を片手に立ち向かっていた。

 少し離れた所では捜査員のバァイトとハナが人々を誘導、1人でも多くの人を逃がそうとしている。


 もう1つは王都の光景、貧民街の方が燃えている事だ。

 赤い炎が夜故によく目立ち、王城からでもその惨状が伺える。

 

 西の住宅街でも同じような大火事が起きた。

 そこから考えるにあの火事も誰かが仕組んだことが確定した。


「で、どうする。ロスト」

「決まっている」


 僕は通路にある窓を鞘の切っ先で割ると、今いる現在地である三階から飛び降りた。

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