痛みを知るから優しくなれる

　努力という時間が奪われれば皆はどうする？　城塞都市シリウスに住む少年ロスト・シルヴァフォックスには才能がなかった。魔法も話術も、剣は年齢にしては秀でてはいるがそれは一日の長、いずれは才能で追い抜かれるだろう。それでも諦めなかったのは幼馴染との約束があったからだ。例えそれが嘘で固められ逃げるための口実であっても彼にとっては守らなければいけない約束だった。
　
　才能の差は努力で埋めればいい。それが唯一の道だと彼は信じて疑わない。だがその唯一平等に与えられる筈の時間も他の人より短かったら彼はどうするだろうか？　そこで彼の心はようやく折れた。

　ただ数年後一人の少女との出会いを機にもう一度問われる。本当にそれで良いのかと。