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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
135/136

内通者の処遇

ーマルコス視点ー


「ここまでですよ、マルコス・ブレイザー殿」

「正直この場所がよくわかったと関心しているよ」


 日も入らない薄暗い部屋、王城にある数多の隠し部屋その一角でこの会話は行われている。


「それにしても知将と名高い第4騎士団長でもなく、老いぼれと有名な第2騎士団長ファドラ様が一番最初に俺の居場所を見つけるとは以外だったよ」


 甲冑を来た白髪の老騎士ファドラだが、その身長は190を超える大柄に類する。

 そして横幅もかなり広く最近の新人騎士がこの体格を見て教育係の老いぼれと侮れるのはむしろ才能だと顔を青ざめながら関心してしまったものだ。


 証拠を消す準備もなかった。

 まぁ裏切りの証拠になる書類はないが、仮面の王なら隠し部屋で通信器を使っている所を報告されるだけでも極刑でだろう。


(今は戦時ではないんだけどな)


 しかもファドラは1人で来た訳では無い。

 その先端は青く輝き、柄は白く、さらにそこには一本の金色の線が入っている槍を持った感情のない瞳を俺に向ける青年。


「第2騎士団の副騎士団長のクラトス様まで来てるとは」


 首筋に突き立てられている槍を前に俺に出来るのは口での攻撃くらいか。


「抵抗は無駄だ、マルコス・ブレイザー。国家反逆罪で捕らえる」

「国家反逆罪? はは、お前の所の騎士団長は俺を今すぐ突き出すとは考えていないぞ」

「何を言って?」

「いい、クラトス」

「ファドラさん、しかし!!」


 引かぬクラトスの槍を横から入ってきたファドラが柄の部分を上から手で押し下げさせる。

 それを見て俺はクラトスに笑みを見せると、彼は体を震わせながらも一歩その場で下がった。


「まぁ座ろうかマルコス殿」

「ではこちらに椅子があるので、クラトス殿もいかがでしょうか?」


 壁に立てかけて置いた折りたたみ式の椅子を2人分開いて置く、クラトスは座らず壁に背を掛け槍を肩に乗せているがファドラは「よっこいしょ」と声を出し椅子に座る。


「さて君が王城の秘密を持ち出していた裏切り者なのは事実だな」

「ええ、そうですよ。どこに話しかけていたかお教えしましょうか?」


 語彙を強め圧を掛けるファドラだが俺が簡単に吐いたことに眉を潜め警戒心を顕にする。


「貴様、仲間を売るのか!!」


 クラトスはこちらに寄ってくると俺に再び槍を向ける、


「やめろクラトス……いや、そのまま押さえつけとけ」

「は」


 ファドラは両手を股近くで組み、少し体を前に傾ける。

 そして息を長く吐き出す。


「マルコス殿、私は今の王が嫌いだ。そして何かあったのは貴方が裏切り行為に興じている事で確信が持てた。ハーヴェスト王の一番の忠臣と言われた貴方が彼の治世を壊そうとしている輩と手を組む、王城に古くからいるものなら誰でも理解出来る事だ」


 俺はファドラの顔を見て目を閉じニッコリと笑うと。


「私は裏切り行為などしていないし、彼の治世を壊そうとしている輩と手を組んでいませんよ。今も昔も彼を王として立たせる事しか私は興味がありません。ですのでお教えしますよ。反逆者ロスト・シルヴァフォックスの居場所を。ただ今回の件は見逃して頂けるとありがたいです」

「わかったもういい。クラトス、マルコス殿から情報を聞いておけ。後、王には報告するなよ」

「了解しました」


 それだけいうとファドラは椅子から立ち上がり隠し部屋から出ようと出口に歩いていく。


「そうそうファドラ、1つ忠告がある」

「忠告?」


 裏切りは好まないと顰めた顔に書いてあるファドラの下に近づき、彼の肩に手を乗せる。

 当然ながらクラトスの槍は背後にピタリと着いてくる。


「ロスト・シルヴァフォックスの捕獲作戦を行うなら、貴方は行かない方が良い。寝返るにしてはタイミングがまだ早いからな」


 その一言で背後から伸びた手が俺の頭部を掴み床へと顔面から叩き着けられた。


 垂れる水気、床に目を向けると赤い雫が俺の顔から地面に落ちる、鼻血がでたのだろう。

 だが笑みをやめる気はない。


「貴様ファドラさんを侮辱するか!!」

「してないさ、するわけない。そしてファドラを認めているからこその忠告だ。真剣に検討していただけるとありがたい」

「クラトス、もういいやめろ。悪いですがね貴方を軟禁させて貰いますマルコス殿。貴方の命を守るために。おい通信器も一緒に持っていくぞ」


 そして俺は第2騎士団の詰め所に連れられるままその場を去る。

 わかっていたさ、後数日遅ければハウンドという仮面の王が雇った特殊警察のような連中がここを嗅ぎつけると。


(だから売ったのさロスト。お前なら大丈夫だという確信が持てるからな」


 暗い部屋を出てまず俺は眉を潜め光と戦った。


「腹減ったな、フィーネまだかな?」


 いつものように冷たい石で囲まれた地下にいるが季節はそろそろ夏に入る。

 だが地下にいるおかげか窓を締め切っている筈の部屋だが暑さを感じない。

 むしろ幸運くらいに思っておこう。


「本当に珍しいなフィーネが10時過ぎても地下に来ないなんて」


 僕はこれでも指名手配されている人間だ。

 そして上はミランダさんが経営している宿屋、お客さんと鉢合わせ内ように午後に入るまでは基本地下から出ないようにしている。

 だからフィーネに朝ご飯を届けて貰わないと朝食抜きになってしまう。


「それなら、それでいいんだけどね。市販で売っている解放石じゃ駄目だな。この前使ったのがすでに王都で買える最高級品だったし」


 ミランダさんの部下が容易してくれたカタログを机に置きページを右手で捲っていると地下の扉が勢いよく開いた。


「ロスト、アンタフィーネの部屋行って彼女を起こして来なさい」

「……何、アイツ今日サボり?」


 体をビクリと飛び上がらせ背後を振り返るとミランダさんがお盆片手に立っていた。

 彼女はこちらに近づき乱雑にお盆を机の上に置く。

 乱雑とはいえ流石は宿屋の店主だ、スープが溢れたりはしない。


「そんなわけないでしょ。すでに一度呼びに言ったけど、風邪を引いて今日は部屋を出られないって嘘ついてたわ。何か事情があるみたいね」

「で、なんで僕? どうせ生理とかじゃないの? こういうデリケイトな話は女性同士に限るでしょ」


 右手で己に指を差し確認すると、ミランダは僕の手を払い除け襟を両手で掴み椅子から立たせる。


「はぁ、あんたフィーネちゃんの相棒でしょ。それにもしアンタがあの子と揉めたとしても、フィーネちゃんの性格上仕事に逃げるしかないから宿屋は困らないのよ」

「ひで」

「地下を貸してるんだからこの程度は仕事の範疇よ。いいから朝食を食べたらフィーネちゃんの部屋にいくこと。いいわね?」

「はい」


 了承を得たミランダは僕の襟を離しそのまま上に戻っていった。

 一度溜息を吐いた後パンとスープ、そしてべーコンエッグを口にいれ、早の隅に掛けてあったフードを着きの上着を被り3階にある従業員用の貸部屋がある区画に進む。


 階段を登り2階部分を過ぎた時に30代前半位の男性とすれ違った位でこの時間殆どお客さんはいなかった。

 そもそもこの時勢だ、子供を連れて王都に旅行に来る人間はいないだろう。

 そういう意味ではフィーネのような美少女が呼子をするのは宿屋の売上に大きく影響する。

 だからミランダさんは僕にこの厄介事を強引にでもやらせるのだろう。


「よいしょっと」


 3階の最後の段差を剣を杖代わりにして乗り越えるとフィーネの部屋はすぐそこだ。

 5メートルほど右に進み、左手の部屋が彼女が間借りりている場所だ。


「フィーネいるか?」

「……」

「中から生活音は聞こえるけど、僕の声には気付いていないと」


 扉に右耳を着け聞き耳を立てていると部屋の中からガサゴソという音と喋り声が。


「入るぞ〜〜」


 ここで聞かれ拒絶されれば僕は諦めざる終えない。

 だから最後の許可を求める声だけ囁くように喋り女将さんから貰った合鍵で部屋の鍵を開け侵入する。


 そして音を立てずに部屋の中に入ると掛け布団が盛り上がった小山が見える。

 さらにこっそりと近づき掛け布団の端を掴み一気にめくり上げた。


「フィーネ起き……ろ……、どちら様?」

「ば……か」


 眼の前には20才前後の絶世の美女がいた……だがここはフィーネの部屋だ、彼女はどこに? 

 美女は手元にあった時計を掴むと僕の頭部めがけて投げた。

 それを首を動かすだけの最小限の動きで躱すと、少女はお尻を着けてへたりこんだ。


 そして一度落ち着いた彼女に目を向けた。

 金髪に抜群のプロポーション、いわゆる出る所は出ているという奴だが、潤んだ紫色の瞳がどこか見覚えがある。


 というか呼吸のタイミングと魔力の質がフィーネの物だと僕に告げていた。


「まさか、フィーネなの?」

「はい。少々特異体質で体の背が伸び縮みするんです」


 首を軽く掻きながら10秒考えた僕の答えは。


「取り敢えず、下着類とか、上に着る服とか女将さんに相談しようか」

「はい、お願いします」


 フィーネは観念したように項垂れ僕は一度女将さんに報告するため1階に降りていった。



「それで……今日の予定は?」

「いや、そんな緊急事態なら無理して来なくても]

「行きます」

「さいですか」


 屋根や裏路地を頼りに目的に向かう。

 フィーネの表通りに向ける視線を目の動きと、一瞬ピタリと止まる体の動きを探知魔法で理解しながらも。


「そうだフィーネ、1つ言っておくことがあるんだ」

「なんですか?」


 屋根を降り裏路地に入る。

 ここから目標地点にいくには大通りを通らないといけない。

 右手で首後ろにあるフードに手を掛け頭に被り前に進む。


 裏路地を出て表通りに行こうとしたタイミングであることを思い出す。

 無表情の微笑みを携えながら3歩後ろに付いてくるフィーネに振り返り。


「今回会うのはドルリッチという女将さんの部下なんだけど、彼とは僕がいない時以外は会わないこと、そして決して奴の使う情報を信じるな」

「どうしてですか?」

「いずれわかる」


 それだけ言うと前を向く。

 背後からの刺すような威圧感を感じるが色々あるのだ。

 信用ならない情報屋を使うのも含めてマルコスとすでに話し合って決めたこと。


「行くぞ、大通りを抜けたらすぐだからな」


 そしてフィーネより少し駆け足気味で人混みに入る。


 大通りを抜け、裏路地に入ると急ぎ屋根の上に登り状況を確認する。

 下を見ると人の流れが歪み大きく人のたまり場が出来ていた。


 その中心人物はもちろんフィーネだ。

 背が小さい時からすでに人の目を引く容姿をしていた。

 だから大通りなど人通りが多い場所を通り過ぎる時は別行動し、彼女に注目を集めて貰っている内に僕がその場を安全に抜ける。


 あと今こっそり彼女を見ているのはフィーネが大通りに目線を向ける理由を探る事。

 迷惑掛けている自覚もあるし、隠し事をしている事に引け目はある。

 だが記憶を直接脳から読み取るすべを持つ奴らが敵だ。

 それを防ぐ手段がないフィーネに教えられる情報は限られている。。


 フィーネの視線が動く先、それは色々だ。

 お菓子やだったり、おしゃれなカフェだったり、そして出店で売っている髪留めだったり。

 時々友人などの2人一組の組み合わせにも目を送っているようだが。


「フィーネも連中の記憶を抜き出す技術を覚えてくれたら話せるのに」


 屋根を降り裏路地からもう一度大通りへ、そして先程フィーネが見ていた髪留めを売っていた屋台に足を運ぶ。

 そして金銭を払い屋台のおばあさんがお金を掴もうと顔が近くなったタイミングで話しかける。


「それにしても凄い人混みですね」

「なんでだろうね? 私は目が悪くて……」


 右手でおばあさんの頭に触り電流を流す。

 動かなくなったおばあさんを確認するとすぐにその場を離れた。


 そして数秒が振り返るとおばあさんは首を傾げ、手元に置きっぱなしだったお金を片付け始めた。


(引け目もあるけどね)


 今おばあさんの記憶を消した。

 これも練習済みの技能で直近の記憶であるのならなんの後遺症も残らない。

 

 そしてこの技術を利用すれば記憶の抽出を防げる。

 これがスヴェンに僕が重宝されていた理由だ。


 裏路地に戻るとフィーネがそこにいた。

 現れた僕に頭を下げるが目は不満げに半分開かれるのみ。

 そんな彼女のお腹の部分に先程勝った髪留めの入った袋を押し付け僕は前に進む。


「素直じゃないですね。私も貴方も」


 何かを愛でるような優しい声が背後から聞こえるが、眼の前に現れた3つの人影が気を許すことをさせてくれない。


(ドルリッチは基本1人の筈だ)


 誰だ、目を細めながらもそれは顔や体の態度に出さない。それに態度に出してしまえばフィーネの純粋な喜びに水を刺すことになりかねない。


 僅か数秒であるが親しい人には幸せであって欲しいと思うことは果たして欺瞞だろうか?

 


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