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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
134/136

信頼する勇気

 ジョエルさんが経営する バー、その地下で今後の話しをするために人が集まった。

 メンバーは僕に、フィーネにジョエルさん、ルイーズと最後にドワイトさんだ。


「で、ロスト君、君たちはこれからどうするんだ?」


 大きな机に王都の地図を置きドワイトさんはそう言った。


「まず僕らの狙いとしては仮面の王からハーヴェストを取り戻すことですね」

「待て、仮面の王? ハーヴェストを取り戻す。なにそれ?」


 机を叩きルイーズは話に割り込む。

 僕は思わずドワイトさんに目を向け。


「ドワイトさん、どこまでルイーズさんに話しましたか?」

「ジョエル以外誰にも言ってない」


 彼は顔を上げ手で覆る。


 それに溜息を吐きつつどこから説明しようか考える。

 何も説明していないとなると現在の反乱軍の状況から話さなければいけない。

 机を叩き、顔を上げているドワイトさんをこちらに向かせる。

 何事かと皆の注意がこちらに向くが、僕は以前ドワイトさんを見つめ続ける。

 彼もそれでわかったのだろう、頭を頷かせ了承を表した。


「ルイーズとフィーネは知らないだろうけど、反乱軍はスヴェン、先代国王の指示で作られた」


 何故かその事を言うと横にいるフィーネは頬を膨らませていたが今は無視だ。


「此処で問題なのは何故先代国王が何故代替わりをしたかだ。悪いが考えさせずに答えを言うが、理由は王太子に国王の座を降ろされたから」

「降ろされた?」


 頭を傾げるフィーネとルイーズに目線を向ける。この説明は彼女らにしている面が大きいから、話の進行は彼女らに合わせる。


「ルイーズ知ってましたか?」

「私は知らない。というか王が降ろされた理由が残ったら後世の恥、確定だから普通は言論統制する」


 顔を合わせ話している2人の内容を聞き、付いてこれている確認をすると、僕は軽い咳払いの後話し始める。


「といっても譲ったというのが正確かもしれない。王太子が何者かに乗っ取られた、それを察知した先代国王だったが、彼はお世辞にも冷徹になれない男だった。だからあえて王の座を降りることに抵抗せず様子をみるつもりだった、だがそれが間違いだった」


 協力者いるとはいえ王と引退した王では出来ることに差がありすぎた。そして気付けば自分の周りの協力者が排除され先王は姿を隠すしかなくなっていた。


「結果が現状だ。そして僕はある人物の指示の下、精神を乗っ取られた現国王ハーヴェストを開放しようと動いている」

「ある人物?」

「そう」


 そして僕はルイーズを見つめた。その視線に合わせ皆もルイーズを見るが彼女は分けもわからず、両腕を前に出し手を振るう。


「え、私は知らない、なんのこと?」

「ある人物とは君の婚約者マルコスの事だよルイーズ・グラナダ」


 ルイーズは頭に着けている髪飾りを右手に乗せると優しく左手で擦った。


「そう、マルコスがそんな所に。あの馬鹿、まだ王城にいたのか」


 髪飾りを見つめながら小さく呟くルイーズだが、この場は地下且つ密室。

 よく音が響き、そして皆ルイーズの反応1つ1つに注力していた。

 そんな状況で小さく呟いたとしても声は皆の耳に聞こえていた。


「ごほん、ともかくそれもあって僕らは反乱軍の皆さんに近づいた、というわけだ」


 咳をし、場を仕切り直そうとしたが、それがかえってルイーゼに話を聞いていたという事を感づかせてしまった。

 彼女は顔を赤くし頭を俯かせている。


「質問なんだがどうやってハーヴェスト王を開放するんだ?」


 ジョエルが手を上げそう質問する。


「簡単さ、開放石を使う。というか効果はあることは実証済みだ」

「ああ、確かに。どっかのお馬鹿さんが先日王城に侵入してましたね。誰のことでしょうか御主人様」


 手のひらを叩き納得を現すドワイトさん、そして目を細めこちらを微笑むフィーネから顔を逸らしながら再び視線をルイーズに向ける。


「解放石は効果があった、でも王都で手に入れる物では効果が足りない。だからグラナダ辺境伯からより効果の強い最高級の解放石を手に入れる必要がある」

「なるほど、だから私が必要だと」


 髪飾りから目を離しルイーズは僕を睨見つける。


 ある意味これは賭けだ。

 ルイーズは貴族令嬢、そして彼らの中には利用されるのを好まない人間が多くいる。

 特にこの流れだと今までの全ての善意がルイーズに口利きをして貰い、解放石を手に入れるための布石に見えてしまっても不思議ではない。


 僕の本心はどうだろうか? 打算がないことは嘘じゃない。

 でもスヴェンと2人きりで活動していた時に人手がないことの歯がゆさは十分感じていた。

 ルイーズに掛けた言葉は全て本心、でもそれを信じさせる言葉は僕にはない。


「ルイーズ、ちょっといいしょうか?」

「なんですかフィーネ」


 鋭い目付きをフィーネにルイーズは向ける。

 彼女は僕の仲間だ、ルイーズの目付きから僕に有利な都合の良いことを言うんじゃないかと身構えているのだろう。

 

 そんな視線を受けるがフィーネは無表情を崩さず語りかける。

 

「ルイーズ、彼が貴方に掛けた言葉は全て真実ですよ」

「どうしてそうだと言い切れるの?」

「だって、ルイーズが手伝ってくれれば楽できる位にしかこの人考えていませんよ」


 フィーネはこちらを横目で睨みつけながらそう言う。

 そして僕はその目を受け「ハハ」と笑いながら右手を振るう。


 むしろ一番いい反応をしたのはルイーズだ。

 僕とフィーネの顔を交互に見るために忙しく首を振っていた。


「多分ルイーズが協力してくれないならこの男は自力で貴方の父に会いに行きます、面会に時間がかかるなら寝込みを遅いに行きます、それで心象が悪くなったとしても今度は盗みに入るだけです。私を見て下さい、この男に散々振り回されていたのはルイーズも知っているでしょ?」

「確かに、王城に単独で乗り込んだ事を知らされていなかったから1日中ご飯も食べずに探し回ったって言ってたっけ」


 次の瞬間今までルイーズに向いていた目が僕に向く。

 そのどれもがレイピアのような鋭すぎる切れ味を持つ視線で。


「だからねルイーズ、大丈夫だよ。貴方は貴方の道を選べば良い」

「ありがあとうフィーネ」


 そう言って2人の少女を強く握手をした。

 発言権がなくなり小さくなった僕の扱いは酷いものだった。



 その後ルイーズは少し考えてから答えを出すといい、その場は解散となった。

 フィーネは何も言わずにルイーズに付き添いその場を離れた。

 その事を少し寂しく思いながら1人屋上のベランダで夜風に吹かれていると誰かが声を掛けてきた。


「はは、会議で随分面白いことになってたねアンタ」

「ミランダさん、笑い事じゃないですよ」

「でもアンタが望んだことだろう?」

「そうですね、間違っていないですよ」


 僕の横に来たミランダさんは鉄の手すりに肘を掛け大通りの方に顔を向けている。


「ねぇ、少しはフィーネの事信用してもいいんじゃない?」

「信用してますよ。でも僕が抱えている物は漏れれば命取りな物が多い。特にスヴェンに関しては」

「秘密はともかく思い出とかもダメなのかい? 相手の事を知れるだけで安心出来るものだよ」


 星を見上げミランダさんの先程言った事を考えてみる。


 フィーネがこの国に残り僕を手伝ってくれる理由は知っている。

 それに対して僕は彼女に殆どの事情を隠している。

 過去……は少し教えたが、それでも火事を乗り越えた後だけだ。

 どうして彼女に教えないか? その答えは簡単だ、フィーネにこれ以上この国の内情に踏み込んで欲しくないからだ。

 彼女が宿屋に来た時からその考えは一切変わっていない。


 (言えるなら言うさ。でもリスクを考えると)


 足が竦む。

 近寄ろうと、寄り添おうと、分かち会おうとすると足が止まるのだ。

 特にミザリーとは別の裏切り者を買っている僕らの組織からすると。


 なら試して見ればいいじゃないか、この眼の前の女と後ろで隠れている男に。

 心の憶測で捻くれたいたずら心がそう顔を出す。


 ベランダの入口がある背後に向け、扉の影で耳を澄ませているドワイトさんに声を掛ける。


「ドワイトさんもこっちに来なよ」

「はは、すまんバレてたか」

「ドワイト本当に鈍臭いわね」

「すまんな、ミランダ」


 頭に手を乗せながらドワイトさんがこ歩いて来るとミランダさんは彼に近づきお尻に蹴りを入れる。

 だが何事もなかったようにドワイトさんは頭を下げミランダさんの横に並ぶ。

 ミランダさんも再び街中に目を戻すがその際には先程なかった笑みが作られていた。

 それで何となく2人の関係性を感づいてしまった。


 この時覚えた感情が親心に近い時点で後何回右目から技術を引き出せるかと考え右手がかすかに震える。


「2人揃ったし、さっき言った僕が知っているスヴェンの秘密を明かすのはどう? それを聞けば僕の持つ情報がどの程度の物なのか図れる良い実例でしょ」

「いや、さすがに仲間同士で揉めるのは」

「いいわ、やりましょう」


 対象的な2人を横目に揃え何を言おうか頭を悩ませる。

 肩を右手で揉みながら考える。

 できればこの2人が冷静になれないもの……ちょうどあったか。


「スヴェンが王宮に捕らえられているとか」

「「は?」」


 2人は表情を目を見開き僕の方にゆっくり顔を向ける。

 さらにミランダさんは僕に詰めより肩を掴むと前後に振るう。


「スヴェン様が王宮に捕まっているってどういうこと? 私今まで聞いていなかったんだけど」

「流石に知っていると思って」

「悪いが今回は深入りさせて貰う、何故そんな事になっているんだ?」

「ミランダさんを先に抑えて!!」

「ああ、わかった」

 

 歪む視界、喉から来る吐き気に口を膨らませ耐えていると、ドワイトさんがミランダさんを羽交い締めにすることでそれは終わりを告げる。

 ふらつく頭を右手で抑えつつ、手すりに背中で寄り掛かる。


「いや、答えるとは言ってないけどね」

「「ああ!!」」


 ミランダさんを抑えていたドワイトさんは彼女の肩から手を離し僕に指差す。

 一瞬肘を掛けている手すりを見た後溜息を吐きながらミランダさん彼らに近づく。

 抵抗せずミランダさんに地面へと押し倒されるが、彼女の僕の肩を掴もうとする右手は剣で抑える。


「ほら、ミランダさん言ったでしょ。僕が秘密を話せないのはこうなるからだよ」


 その一言で彼女は僕の上から降り立ち上がり、そしてドワイトさんが立っている場所に戻っていった。

 僕は上半身を起こし胡座をかいて2人を見上げる。


「別に隠したい訳じゃないんだ。ただ僕の話は不安を煽り人を暴走させるほどの劇薬なのを理解しているから出来るだけ話したくないんだ」

「どうするミランダ?」


 ドワイトさんはミランダさんを見る。

 彼女は僕を10秒間睨みつけ、地団駄を踏んだ後息を大きく吸った。


「流石に私の負けね。秘密をしゃべれと言った本人が取り乱しているようじゃ。で、他に知っている人物はいるの?」

「ルイーズの婚約者、マルコス・ブレイザーが知ってる」


 そう彼だけが知っている、なぜなら。


「誰だ!! スヴェン様は」


 スヴェンが捕らえられ、彼と共に向かう筈の集合場所である洞窟には金髪の男性がいた。

 剣を抜き僕に向けているが、剣先は揺れ、足を横に大きく開いている。

 これがまだ上段ならいいが、剣を前に相手を突こうとしている構えでその姿勢は戦闘が苦手ですと自分の口から言っているようなものだ。


「王に捕まった」

「お前だけ生き延びここにノコノコやってきたのか? ふざけるなよ」


 剣を捨てマルコスは僕の襟を掴みそのまま地面に叩きつける。

 頭が地面にぶつかった衝撃で体が痺れるが僕はそれを無抵抗で受け入れる。


「あの方はこの国の最後の希望だ、それを余所者の部外者の為に捨てるだと……ふざけるな。この国の未来が終わってしまう、ハーヴェストが傀儡として罪科を積み続ける事になる」


 そしてマルコスは立ち上がり僕から離れると道具を纏め、馬車に積み始めた。


「何処にいく?」

「お前には関係ない、そして俺もお前を助ける義理はない。いっその事悪の国王に仕え歴史に名を残すか?」


 木箱に剣を投げ入れる。

 歩く際も両手両足をだらしなく揺らす、まるで寄って街中を周回する男のようだ。


「まだ希望はある」

「希望? はっ、責めて悪かったな。ガキ、お前は悪くない。あの先代国王は結局優しさを強さと勘違いしていた愚か者だ。確かに優しさは力だけどな、どんな力も場を選ばないといけない。騎士のクライムが言っていた事を思い出したよ。あの王は駄目だと、ただ優しいだけ、人に対して冷徹になれないと」

「まだ希望はある」


 壁に手を置き全体重を乗せながら立ち上がる。

 だがお腹に力が入らない、体中の体幹を支える中心部に力が入らないのだ、顔を上げ正面を見た時には肩で息をしていた。

 そして左瞼を手で塞ぎ、右目に力を集中させると、僕の右目は薄っすらと青色に光り始めた。


「何だ、その右目は、何故光っている」

「ぐぅ」

 

 地面を踏みしめ僕はマルコス目掛け走り出す。

 足は地面の出っ張りに引っかかり、後方に行った左足が大げさに開かれる。

 それに走ったとは言えない速さだったが、最後に右足に力を込めマルコスの額目掛け己の右目をぶつけた。


 僕はその場で倒れマルコスは後退する。

 マルコスは額を抑えながらもそのまま腰を落として座り込む。


「なんだこれは? そうかこれがお前の覚悟か」


 視界が薄れ、意識がぼーっとする。

 目を瞑り掛けると誰かが優しく僕の肩を擦った。

 そして右肩が持ち上がり、右脇に誰かが入り込む。


「くっそ、コイツ思ったよりも小さいな」


 そんな声を聞き、首にかけさせてもらってい首から腕を離す。

 足が踏ん張れず、そのまま倒れそうになったが歯を噛み締め、中腰の状態から自力で体を起こし、目の前にある馬車に向かう。


 その横を誰か? が僕の歩幅に合せて歩いてくれる。

 いやここには僕とマルコスしかいないから、彼なことは確定だ。

 だが顔を上げ、隣の人物が誰かという事を確認する余裕はない。

 首を丸めて、やけに小さくなった視界の中意地を通しているだけだ。


「わかった、お前が最後の希望だ。俺達の目標を合わせよう、それは……」


 瞑っていた目を開け、空を見る。

 そして床から立ち上がりドワイトとミランダを目にする。


「僕が教えられることは1つ。マルコスと僕の目標だけだ、でもそれを教えるのは少し待って貰えますか?」

「いいけど、いつまでかしら」

「明日の夜まで」

「わかったは、ドワイト行きましょう」

「いいのかミランダ?」

「ええ、どうせ……」


 そしてミランダさんは僕から背を向けるとベランダの出口に向かう。

 その際背後から数回手を振った後、最後にサムズアップをした。


 そして翌日、僕は宿屋の地下でフィーネを待っていた。

 待ち合わせなどしていない。

 どうせ今日も来てくれるだろうという甘え。

 そしてフィーネはお盆に食事を持って地下室にやってきた。


「フィーネ話したい事があるんだ」

「話ですか?」


 いつもの無表情ではなく、眉が少し寄った不完全な表情で来たフィーネは頭を傾げる。

 そして僕は椅子から立ち上がり彼女に向き合う。


「僕の目標、というよりこの国をどうしたいか、という話しだ」

「はい」


 フィーネは机に朝食を置くと僕を見つめ返す。

 深呼吸をし唾を呑み込んだ後最後の決心をした。


「僕の目標は王座の交代じゃない。現国ハーヴェストを仮面の王の支配から解き放ち、この国を変わらず統治させることだ」


 少し目を上に、地下故に空は見えないけど、見ている気分でそう言った。

 だからフィーネの顔は見えていない。

 垂直に顔を戻し、ほぼ同背丈である彼女を見ると目を閉じ微笑みながら頭を深く下げた。


「わかりました、御主人様。お供します」


 頭を下げている時、フィーネの髪の間から雫が一滴落ちた。

 フィーネが涙を流したのを僕は初めて見た。

 ここまで苦しめていたのかと見ておれず、背を向け、彼女が机に置いた食事を無言で手をつける。


 いつもは僕の後ろをじっと見つめているフィーネだが、今日は地下室を出て30分ほど帰ってこなかった。

 その時何をしていたかはわからないが改めて思う、信頼するというのは。


「勇気がいるな」


 胸に手を置きじっくり息を吐き出し、再び食事に手を戻した。

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