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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
133/136

恩赦の剣

ージョエル視点ー


「嘘だ、父は軍人として施設の警備をしていたはず」

「それが嘘なんだ。彼は牢に捕らえられ書類上は志願という形で実験に参加させられた。逃げれば君たち家族に危害を加えると言い聞かされて」


 しゃがみ込んだミザリーは頭を両手で抑えながら首を左右に振っていた。だが私はそれを見下ろすだけ。


「そして何故君の父が死んだか? それは自殺したからだ」

「自殺?」

「そう、脱走しようとしたロストに着いていった13人の軍人は施設の長から持たされていた拳銃で己の頭を撃ち抜き死亡した」

「やっぱりアイツが脱走協力させたのが原因じゃないか!!」


 目を見開きこちらを睨みつけるミザリーに首を振りそれを否定する。


「そもそも脱走すれば家族に危害を加えられると言われていた彼らがどうしてロストに着いていったかわかるかい?」

「いえ」

「簡単さ、明日処刑される彼らは家族に危害を加えられると知りながらもう一度家族に会いたくてついて行ってしまったんだ。そうハイドは君達は君たち家族のせいで自殺せざる終えなかったんだよミザリー」

「え、私達が?」


 ミザリーは唾を飲み込み目の焦点がブレがっくりと項垂れる。私はしゃがんでいるミザリーに合わせ左膝を着き彼女の肩を掴み揺らす。


「ミザリー私が彼から頼まれた伝言を伝えます。僕はお前を殺さない、だから何度でも殺しに来い。反乱軍の仲間を売るのではなく僕だけを殺しに、たたこの命はお前の復讐心を満たす程度ではくれてやれない。だそうですよ」

「……」


 立ち上がりピクリとも動かないミザリーに背を向け私は立ち上がる。そして首を僅かに動かしミザリーを意識しながら結論を言う。


「ミザリー、戻ってきませんか? 貴方は誰も傷つけていない。そして彼から言われましたミザリー貴方の対処は私に任せると。許されないかも知れないが私は貴方に同情した。救って上げたいと思った。そして貴方を罰しない事を誰も止めてはくれなかった。なら心のままに私は生きようと思う、手を取りなさいミザリー、貴方はまだ引き返せる」


 ミザリーは最初は動かなかった、だが待っている間に少しずつ動かし私の伸ばした手を両手で掴み泣いた。


「おかえりなさい、ミザリー」

「ありがとうございます、ジョエルさん」


 手を引き泣いているミザリーを抱きしめ軽く背中を擦る、するとミザリーはより強く抱きついた。


(ロスト、すいませんが私は一度これで帰ります。約束通り敵から奪った薬品は預かって置きますので)



 騎士の重心が偏った右足を払い体を宙に浮かせる。勢いを殺さぬよう回転、前傾で倒れる騎士の額を剣の柄で押上げ、騎士は仰向けで地面に倒れる。


「モグ、やれ」


 合図と共に仰向けで寝転がっている騎士の頭上に大きな岩が生まれ、そして騎士の腹部に重しとしてのしかかる。鎧に仰向け、騎士はひっくり返された亀のように手足をバタつかせている。


「ルイ、合わせろ」

「はい、ジール先輩」


 男女の騎士は剣を持ちこちらに突撃をしてくる。少女のルイという子は知らないが、ジール彼のことはよく理解している。


「く、」

「相変わらず右の突きのタイミングが早い」


 体の重心移動が間に合っていない右腕の突き、手首を鞘で叩き、手に持つ剣を地面に落とさせる。


「ジール先輩」

「大丈夫だ、今だル」


 剣を諦めこちらの腰に飛びついて来るが、顎に右膝を合わせ強引に引かせる。そして曲がった右膝に合わせ左足で飛び上がり両足で宙を蹴り加速、ジールと呼ばれた騎士の腹部を勢いそのままに押し仰向けに倒れさせる。そして再び生まれる岩の重し。


「ジール先輩をよくも」


 顔を赤くし剣を上段に構え飛び上がる女性騎士、僕は彼女に急接近し今だ空中にいる彼女の腹部を柄で撃ち抜く。


「がは」


 通しと呼ばれる障害物の内側に衝撃を送り込む技術を使った。唾を吐き出し宙で背中を少し丸めた彼女の鎧、その後ろ襟部分を掴み地面に叩きつける。そして再び仰向けに倒れた所で大岩を腹部に置く。


「寝てろ、騎士たちよ」


 彼らに背を向け今度は傭兵に目を向ける。彼らを見る僕の目は主に2つ。左側の二人は斬られた右腕を抑えながらこちらを睨みつけているが、重心は後ろにあり腰が引けている。逆に右側の2人は剣を持ち、脇を大きく開き笑っている。


「おいおい、人間を殺す覚悟が出来ていない、ガキが戦いの場に出てくるんじゃないよ」


 右側の傭兵2人がこちらに走ってくる。剣を上段から振り左側から迫る傭兵に向かって鞘を飛ばす。


「っち」


 鞘が顔に直撃し足が止まる傭兵、、だがもう一人は僕の右上から大きく肩を開き上段から剣を振り下ろそうとしていた。


「死ね半端もん、っち運がいいだけか?」


 傭兵の背後に移動し、そして軽く剣を振るい血を払う。


「え?」


 背後を振り向けない身体に疑問を持った傭兵は数秒後体の腹部が上下に分かれそのまま上半身が地面に倒れる。そして白目を開け、悲鳴を上げることなく息を引き取った。


「なんで、お前は命を奪えないアマちゃんの筈だろ? なんで騎士は殺さなかった?」


 鞘を当てられ足を止めた傭兵は足を下がらせながらそう言った。溜息を吐き傭兵を見ると彼はバランスを取れずにお尻から地面にぶつかり座りながらも手を使い後ろに下がる。


「簡単だ。お前らはこの国の者じゃないだろう。この国を救うと決めているのにこの国人を殺してどうする? この国が今後も存続し続いていく為に、安心して民が生きられる為の剣が今の僕だ」


 そして尻もちを付いている傭兵に向かって歩き出す。傭兵は剣を置き両手を間に出した、そして首を出来るだけ僕から遠ざける。


「やめてくれ、俺はまだ殺しちゃいない」

「でもいずれ殺すだろ。どっちにしても僕が守る対象にお前はいない」

「うるせぇ、俺は死にたくないんだよ」


 地面に置いた剣を掴み傭兵は体を起こそうとするが、立ち上がろうと右足で踏ん張り左足で起き上がる、その時意識をしなければ人間は下を向く。一気に距離を詰め、まずは剣を持つ右腕を上段から切り落とし、そのまま両足を凪ぐ、体の態勢が崩れる前に傭兵の首を落とした。


「ま」


 涙を流しながら落ちる首を目が焼き付けてしまいながら残りの2人に目を向ける。


「行け、傭兵達よ。あのガキを捉え、そして先王の秘宝の在り処を掴むのだ」

(先王の秘宝ね、良い隠れ蓑だね)


 手を伸ばし科学者は僕に指を刺す。傭兵の様子もおかしい、体を曲げ獣が直立したような姿勢、目は血走り、呼吸は荒い。よく見ると彼らの右首筋には注射痕があった。


「打ったか」

「経験剤にプラスして寿命を縮めるタイプの身体強化剤だ、こいつらは強いぞ。さて死んでくれるなよ」


 強化された傭兵は頭が地面に着きそうなるほどの前傾姿勢で強く地面を踏みしめる。ドンという爆発音と土煙を科学者に掛けながらこちらに突っ込んきた。


「モグ、やれ」


 魔法によって生み出された土の柱が1人の傭兵の腹部に直撃し運ぶ。ただ何事もなかったのように土の柱を右手に持った剣で切り落とし、すぐにこちらに向かって走る。


 もう一人の傭兵はすでに眼の前にいる。その時僕は左脇に剣を挟み道具袋から煙玉を取り出し地面に落とす。広がる白煙、近くにいても輪郭すらわからないほどの濃度を持つ煙に強化傭兵は煙に包まれる前の情報をだよりに剣を横に凪ぐ。軽い牽制のつもりの横薙ぎ、だがその剣線の下を通り抜け僕は傭兵の足下にいた。そして左足を通り過ぎ、股下から剣を斬り上げる。そのさい確かに傭兵と目があった。


 縦に斬られ傭兵の遺体、その切り傷に思わず目を向けたその時彼の遺体が砕け散った。


(薬を使った影響で自我が薄れたか)


 もう1人の傭兵は煙の中に突っ込むと人影目掛けて剣を振ったのだろう。その結果が味方の死体を剣で壊す。


(経験剤、僕らから抜き取った経験を分析、量産した液体、だが他人の経験が紛れ込むということは自我が薄くなること同義、多分仲間だと一瞬把握出来なかったんだろうな)


 傭兵は目を見開き体を止めた、全身に浴びる仲間の死体を掴み膝を着く。そして次の瞬間首に向かって剣を振り抜いた。


 剣を振り血を払う、その時思わず自分の右手を見てしまった。だがすぐに前に向き科学者に向かって走り出す。


「ふふ、流石にあのガキも終わりだ……何故貴様が生きている……強化されていない貴様が」

「質が違うんだよ、質が」


 風を掴み魔法で強化し突撃、科学者を突き刺した時に周囲の煙が余波で晴れる。足で科学者を蹴り剣を抜く。地面に倒れる科学者に目を向けた時、彼は僕の右目に手を伸ばした。


「先王の秘宝、それを私に渡せ」

「秘宝なんてものはない。これを秘宝と言うなら皆それぞれの秘宝を持っている」


 科学者から背を向け鞘を拾いに広場の端に歩いていく。そして周囲に散らばった傭兵の死体を纏め、腰袋から出したマッチの火で遺体を焼いた。そして骨を集め、腰袋に入れていた袋に詰めこの場から離れようとした時騎士たちが声を掛けてきた。


「俺達は殺さないのか?」


 彼らに背を向け溜息を吐く。そして岩にお腹を押さえつけられ動けない彼らに見つめながら。


「殺さないさ、民は宝ではない、民は国の手であり足である。民が潤えば手や足はより力強く地面を蹴れる。民が貧困に仰げば腐り、手足は細ぼる。お前たちはただ待てばいい。耐えればいい、自分と仲間の命を守りながら。僕が建てて見せる、君たちが集まれる旗をそれまで死なないように生きてくれ」


 軽く息を吐き、回し蹴りで3人の騎士、そのリーダー格の岩を腹部から落とす。ドンとなる音を振動を背中で感じつつ広場から左の裏路地に入ろうとした時、眼の前に王宮が目に入る。


「待っていろハーヴェスト」


 それだけ言い、裏路地の中に今度こそ入っていった。





 

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