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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
132/136

真実の一欠片

すいません、前話のタイトル、ある裏切り者に出てくるミランダという名前は誤植でありミザリーという人物がそれに当ります。一応前話分の手直しをしたので大丈夫だと思います。


 本当に申し訳ありませんでした。


 それと皆さん風邪を引かないように気をつけて下さい。僕のようにはなってはいけませんよ。


 時間は深夜の2時、場所はルベリオ王国の王城直通の大通り。通りを囲むように店が並んでいるが誰もいない。木枯らしがその場に捨てられていたゴミを飛ばし、その一部が足にぶつかる。


 店と店の間にある小道からゆっくりと歩き大通り横切る途中、ちょうど大通り真ん中辺りで物陰から現れた7人の人影に囲まれる。足を数回踏み探知魔法を発動させる。波紋が広がり、対象物を通り過ぎると頭に情報の波を叩き込まれる周囲を把握する。


 それによると鎧を着た騎士が3人に酒の匂いがする傭兵が4人。そして僕の背後にいる傭兵のさらに奥、体を背後に目を向けると白衣を着た男性と見慣れた少し見慣れた給仕服に身を包んだミザリーがそこにいた。


「ようやくアンタを殺せる、お父さんの仇」


 ミザリーは左右の手を胸近くで組み憎しみを込めた目でこちらを訴える。


「だからって味方を売っちゃいかんでしょ。特に僕以外のをさ」

「っぐ……アンタが……アンタが言うな」


 睨みつけるとミザリーは左足を一歩下がり体が後退する、だがそれに気付いた彼女は下がった左足を前に踏み出し両腕を勢いよく後ろに下げる事で言い返す力を得た。


「まぁ、まぁミザリー。父の仇はこれで取れるのですからいいでしょう?」

「は、はい」

「ではロスト・シルヴァフォックス。貴方我らから奪ったものを返して貰いましょうか」


 ミザリーの肩を軽く叩きながら前に歩いてくる白衣の男性、彼の足裏の着地点が安定しない足運びを見て戦闘が出来るタイプの科学者ではないと予測する。そして科学者は前方を守る傭兵の後ろで立ち止まり彼らの肩を一人ずつ叩いていった。傭兵は肩を叩かれると右腕を後ろに差し出し博士がその手の中に何かを握り込ませる。


「無視か……いやお前が持っているのは確実そうだ」


 傭兵は手の中には注射器があった、かなり大きな物で傭兵の手の中から溢れている姿を確認できる。


 そして左右から2番目の傭兵がいる場所に注射器を渡し終えた科学者は戻ってき再び僕と向き合う、互いに向き合う中で僕は目線を一瞬左に動かした。そして科学者は両腕を握りしめ背中を丸めると「よし!!よし!!」と小さく2回ガッツポーズをした。


「さて始めよう、騎士の諸君も手伝ってくれたまえ。傭兵諸君投薬だ」

「ヤー」


 科学が背を伸ばす、それと同時だ僕は左端の傭兵に向かって走り出した。右腰にある剣の持ち手を掴み、少し下方向に押し出すと鞘が上に持ち上がり、そして膝を曲げ小さく体を丸める。全身の反発力を頼りに右足で飛び上がると鞘から剣を抜き斬り上げを放った。左端の傭兵、その右腕を斬り落とすと右足で宙を蹴り左回りで方向転換、その際に斬り飛ばした右腕を弾き、そのまま回り込むように中央左側の傭兵に向かって走り出す。


 中央左側の傭兵を左目で捉え、右足で切り返し、体を低くし膝を深く曲げ左足で強く地面を踏みしめ加速、そして3歩目の踏み込みで傭兵の懐に入り込み、手首の部分を上段から振り落とし切断する。そして返す刃で切り離した手首を弾き飛ばし右足で宙を踏み飛び上がるように後退、元の位置に戻り一度剣を鞘に戻し、体の手前で右手を置く。手を斬り落とされた痛みで蹲る傭兵を見つめ待っていると先程弾き飛ばした右腕と右手が置いてある手の中に落ちてくる。


「こっちは終わったよジョエルさん」


 そして右側の傭兵に目を向けると、大男が傭兵二人の右手首を掴まれ片手で体を持ち上げていた。二人の傭兵は手首をキツく握られ歯を食いしばっているが、より強く握られ「ぐ」という悲鳴と共に持っていた注射器をその場に落とす。ジョエルさんは急ぎ傭兵の手を離し、地面に落ちる前に注射器を回収した。


「こちらも今終わりました」

「じゃ、こっちのもお願い」


 モグに土魔法で台座を用意してもらい切り落とした腕を置き電流を流す。すると握られていた筈の手が自然に開いたので注射器を2つを中指を中心に人差し指と薬指で挟みジョエルさんに手渡した。


「ジョ、ジョエルさん」

「ミザリー」


 ジョエルさんが悲しい顔をしつつ目を逸らす。それを見たミザリーは歯を食いしばるような顔をした後左側にある裏路地目掛けて走り去った。思わず手を伸ばしたジョエルさんだが、すぐに引っ込め、持っていた注射器を腰の袋に入れる。


「じゃ、約束通りよろしく」

「いいのですか? 本当に」


 ジョエルさんは首を回し辺りを見渡す、眼の前には腕を斬り落とされたとはいえ傭兵が4人、後ろで動けないよう状況に縛られていた騎士が3人いる。


「話した通りだよ。僕の言葉をミザリーに伝えてくれるなら別に構わない。それにこの程度なんともないさ」


 そして右目の眼帯を取り僕も周りを見渡す。傭兵は震え、騎士は過去を見るようにこちらを呆然と眺める。


「わりました行ってきます」


 このタイミングしか離脱が出来ないと考えたジョエルはそのまま傭兵の横を通り抜けミザリーが通り過ぎた左側の裏路地を駆け抜ける。


「頼むよ」


 そしてジョエルさんの姿が裏路地に消えるま微笑みながらじっと見つめる。

 

 背後を見る前に深く息を吸い緊張を吐き出す。そして腰で固定していた鞘を取り出し騎士に向かってゆっくりと足を運ぶ。


「モグ、準備を頼む。さて騎士達よ稽古の時間だ。腕は鈍っていない?」


 聞く気はないが同意の意識を込めた笑みを向けると「ひ」と騎士の背中が跳ね上がった。真ん中の騎士が剣を上段に構えこちらに向かって飛び上がる。手は震え足の力は前にではなく斜め上に向かっている。そして2歩目である右足での踏み込みも先程と同じように飛び上がろうとしたその時に、予備動作を全て排除した修羅で近づき鞘に入った剣で騎士の力を込めた右足を鞘で払いのけた。



ーーミザリー視点ーー


「終わりだ終わりだ」


 裏路地を走り抜けながミザリーはそんな事を考えていた。スカートの裾を上げ足に散らばるゴミを蹴り飛ばしながらも裏路地を抜け、先程の中央通りほどとはいかないが大きな通りに出た。


 所詮は平民の、しかも小さなバーが用意した給仕服だ、生地はそれほど良いものではないがミザリーは色が気に入っていた。家で着ていたような汚れが目立たず気軽に着れるから選んでいる地味めの色の服より、この真っ白な給仕服の方が好きだった。


「違う、多分だけど薄暗い所に落ちそうな自分を否定したかっただけだ」


 大通りに入ると月明かりがミザリーを照らす、すると彼女の真っ白なはずの給仕服はゴミがぶつかった影響で色鮮やかに汚れていた。


「どっちにしても戻れない。ジョエルさんがあの場にいたのだから……やるべきではなかった。でも……明日からどうしようか?」


 歩くのをやめ月を見上げる。


 父の仇を討ちたかった。

 母が早くに亡くなり無条件に頼っていい大人は父だけ。


 拳を固く握りしめ今だ消えぬ黒い思いを体の外に出さないため歯を食いしばる。


「お父さん、まだかな帰ってこないかな?」


 笑顔で机に向かい、土を焼いて作った貯金箱に硬貨を入れる。その時目を瞑り耳を澄ませる、お金と土器がぶつかる時に鳴るチリンという音それが渡しは大好きだった。そして毎日貯金箱専用の名前が書かれた布で貯金箱を拭く。


「お父さんが帰ってきたらこの貯金箱からお金を取り出して何か買って上げよう……お父さんが早く帰ってきたらどうしよう?……こっそり私の財布から足すか?」


 ポケットに手を入れ縦型の財布を半分覗かせる。


 「だけど貯金箱に入ったお金は父を殺した男を捜すために使い果たした」


 薄暗い裏道で白い白衣を着た男に金を払うと白い封筒が渡された。私は封筒を家に持ち帰り机の上に置いてから3日間触れもしなかった。


「相手を憎む事が怖いんじゃない。ただ白い封筒に触りたくなかった。父が死んだことを知らせた時の封筒が白い封筒だったから」


 自室に戻ると床は土器の破片が散らばっている。父が死んだと伝える報告書が来た日に怒りのまま地面に叩き付けた。床に膝を付け、1つ1つ丁寧に破片を拾う。すると体の中から黒い感情が登ってくる。気付くと右手の上の乗せていた破片を全て握りつぶしていた。だが心に宿った黒い意思はその程度では止まってくれない。


 床を踏みしめながら階段を降り1階のリビングに置いていた父を殺した人物の名と当時の状況が書かれていた封筒の上下確認せず破いて開ける。封筒を左手の中指と薬指にに挟みつつ、両手で情報屋の報告書を掴み食い入るように目を動かす。


「ロスト・シルヴァフォックスが脱走の際、警備していた軍人13人を殺害」


 報告書を読み終えると目を血走らせながら左右の手にそれぞれ反対に紙を捻じり縦に引きちぎった。


「殺す、殺す、苦しめて殺す、あいつの大事な物を全て奪って殺す」


 手の中に残った封筒を左手に押し付け右手で押し潰した時、左手が封筒の中にまだ紙が入っている感触を感じ取った。そこには銀行の貸金庫の番号が書いてある紙が入っていた。


 翌日仕事前に銀行に立ち寄り貸金庫にいくと箱の中には通信機が入っていた。外に出てからカフェに入り、一番奥の薄暗い席に座ると通信機を手に取る。触っていく中で1件だけ連絡先が登録されている事を知り、怪しみながらもボタンを押し電話を掛けると。


「おやおや、気付いてくれましたか」

「貴方は情報屋の」

「はい、提案なのですが、お父上の復讐したくないですか?」


 思わず通信機を耳に強く押し当てる。そして情報屋が言った「お父上の復讐」その言葉だけには逆らえない。通信器を両手で握みなおし名前だけ知っている父を殺した犯人を頭の中で睨みつけながら。


「はい、何でもしますのでさせて下さい」


 トントンという革靴の足音が私が通った裏道から聞こえる。月が私を曝け出し辱める。抵抗しないことを現すために地面に座り込み暗闇から現れた無表情のジョエルさんが私の下に来るまで待つ。


「ミザリー、どうして? などとは言いませんよ。それはわかっていますから。私は伝言を伝えにきただけです」


 彼の足元を見つめジョエルさんが下す裏切り者の罰を持っていた。だが伝言?、その言葉に頭を上げる彼を見る。ジョエルさんの私を見下ろしす目は、眉を下げる優しい憐れんだ目をしている。それを見て「はっ」と伝言の主に気付きジョエルに明確な敵意を持って睨みつけた。


「伝言? 誰の? まさかあいつの伝言じゃないですよね。そもそもジョエルは何故あいつの味方をしているんですか? 私とどっこいの悪党ですよ」


 立ち上がりジョエルの襟を掴み掛かる。それでも私を優しげに見つめ首を振り犯罪者の肩を持つジョエルに失望し私は右拳を握りしめると彼のお腹に向かってアッパー気味に拳を放つ。だがジョエルは一歩たりとも引くことはない、むしろ拳を痛めたのは私の方だ。


 3歩後ろに下がり右拳に軽く息を掛ける。まるで鉄を殴ったようだった。音、硬さ共に目の前の男性が人間だとは私には思えない。地面に座り込み私は顔を下げると涙を流し始めた。


「どうして? 同じ犯罪者の味方をするなら私の味方をしてよ」

「私は貴方の味方です。ただ彼の味方でもあるのです。どちらも犯罪者ではないのですから」

「え?」


 ジョエルさんが言った言葉を理解できずに頭を上げ首を傾げ、そして固く握った両手の拳は思わず解かれた。


「嘘だ、例え貴方があいつに洗脳されているとしても私は仲間を売って被害を出したんです」

「出てませんよ。というか私ですら気付かない内に対処されていたので」

「対処? 誰に」

「貴方が恨んでいる相手ロスト・シルヴァフォックスにですよ」

「え? 嘘だ、嘘だ。どうしてそんな事を?」

「貴方がハイドの娘だから」

 

 肩を落とし、目の奥が重くのしかかり視界ぼやける。そして意識がぷつんと切れ前のめりに倒れる所を大きな人影が割り込む。そして次の瞬間、鼻に感じる強烈な悪臭で意識を強制的に戻される。


「聞けミザリー、お前の父はあいつが脱走する翌日に処刑される予定だった」

「え?」


 ジョエルさんから言われた衝撃の一言に私の心を完全に砕け散った。


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