表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
131/136

裏切り者


 灰色の天井、背中に弾力、柔らかさは腕を上げた時の反発力と共に伝わる。


「なんでこんな所に? ああ確か吐いて気を失ったのか」


 腕から力を抜き右腕が落ちる、その時の飛び跳ねた感触と右腕の方に視線を向け見えた真っ白なシーツ。それを見て自分がベットに寝かされていた事に初めて知った。


 膝を曲げ体を少し起こすと右腕を背中近くに立て腕の力で上半身を持ち上げる。そして右手でベットの縁を掴み体を右に90度回転させ布団の外側に足を伸ばす。


 少し高さのあるシングルベットだ、足を外側に出しても床につかない。腕とお尻で勢いを生み出し布団から移動、床に足が着く。ベットの横に置かれていた剣を手に取り腰のベルト部分に取り付ける。


 右肘を曲げ背中の半分まで回し、今度は前面の臍近くまで動かし軽く体を解す、そんな時だった、。


「起きましたか。もしよければ紅茶でもいかがですか?」


 この部屋は小さい、シングルベット1つで部屋の縦の長さは埋まり部屋にある家具も机1つに椅子2つ、そして正面にあるドアが1つ。


 ドアに目を向けた時ドアノブが回り男性が二人分のティーカップとポットをお盆を左腕に乗せ部屋に入ってくる。そして彼は目を細めこちらに笑いかけると、机にお盆を置きドアから遠い壁際の椅子に座った。


「ではお言葉に甘えて」


 そして僕は椅子を引き彼の対面の席に座る。そして紅茶を入れて貰う訳なのだが、彼は席から立ち上がると、ティーポットを手に取り紅茶を2つの器に注ぐ。そして僕の眼の前にティーカップを音を出さずに差し出し彼は再び椅子に戻った。


「えっとその子は?」

「この子は相棒のサシャです」


 紅茶をカップの半分程口を付け、男性を見ると彼の首に尻尾を巻くイタチの姿があった。 サシャと呼ばれたイタチは男性以外には興味がないようで、軽く手を振ってみるが「フン」という言葉が聞こえそうな首の振りで僕から視線を外す。


「ロスト君、本当にすまなかった。まさかあれほどの拒否反応を起こすとは。軽く試すつもりなだけだったんだ。他所の君が何処までこの国人の事を考えているかを」


 両手をつき机に頭を擦りつけ男性は謝罪してきた。紅茶を飲む手を止め、口元近くにあるティーカップ、その水面に目が吸い寄せられる。水面に反射する己の目と見つめ合い眉を寄せ覚悟を決めた。


「謝罪を受け入れるに幾つかの条件があります、えっとえっと」

「ああ、俺の名前はジョエルだ」

「ジョエルさん。僕の条件はただ1つ。これか捕まえる反乱軍の裏切り者、その犯人の処遇を僕の決めたように取り仕切って貰えませんか?」


 ジョエルさんは左手を右肘に添え、右手で顎を触る。そして目線を右に寄せ肩に乗っている相棒のサシャに伺いを立てるが、サシャは尻尾でジョエルさんの右頬をはたき、再び首に尻尾を巻きつけると頭を下ろし目を瞑ってしまった。今度はジョエルさんは目を瞑り、10分間考え続け、目を開け笑顔で。


「ダメだ……と言いたいですが、俺がその犯人に行動理由に同情出来たらという条件なら良いでしょう。流石にリーダーに無断で事を納めるのですから、少しは自分を納得させたい」


 背筋を伸ばし、出来るか? と笑みを見せ僕を挑発するジョエルさんだったが、ここまで来てその回答となると本当に知らないのか。


 ティーカップを机に置き、自らの手を見つめる。


 考えるのは抜け道だ。例えばジョエルさんをこの部屋に置いていき秘密裏に裏切り者処理するとしよう、だがそうなるとジョエルさんも裏切り者の名前を要求するはずだ。


(正直裏切り者の名前をジョエルさんの前で明かしたくない)


 右手を握りしめ鋭く息を吐く、そして目をジョエルさんと合わせ。


「裏切り者の名前はミザリー、先程貴方の店で僕が吐いた原因の少女ですよ」


 ジョエルさんの右手からティーカップが滑り床に落ち砕ける。そしてジョエルは目を見開きその場で固まってしまった。


「嘘だ……ミザリーが?」

「理由は言わないとわかりませんか?」


 ジョエルさんは机を押しのけ僕の襟を両腕で摘み体を持ち上げる。彼の瞳孔は揺れ手は震えるている。僕もジョエルさんの顔を見ておれず目線を左に逸らしながら悲しげに笑みを浮かべ首を左右に振るう。


「わかったお前に任せる」


 ジョエルは手から力を抜き襟を離す。僕はお尻から床に落下、右手を支えに立ち上がるとお尻を軽く叩きながら部屋の出口に向かう。


「ありがとうございます。そうだジョエルさん貴方も来ますか? 僕の言う事を聞くなら連れて行って上げますよ」


 ドアノブを右手で触れようとしたが手を止めた。振り返りジョエルさんに一緒にこないかという提案をする。


「遠慮する」


 顔を下に向け握った拳をじっと見つめるジョエルさん。頭をかきつつ彼に近づくと右手で軽く背中を叩いた。


「悪いようにはしないって。それに僕の人柄を見極めるには丁度いい機会だと思わないか?」

「わかった。同行しよう」


 部屋を出る際も顔を下げながら歩くジョエルさんにペースを合わせるため後ろ振り向きながら移動する。その途中で今回のプランをジョエルさんに耳打ちをした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ