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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
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フィーネの秘密

ーフィーネ視点ー


 手術台に寝かされ両手両足首を鉄のベルトで固定されていた。息を乱しながら手足をジタバタさせるが拘束ぐはびくともしない。返って来るのは拘束具壊れないからこその反発力、そのたびに手術台へと体が跳ね返る。無駄だと知りながら手を動かしつつ両目は一人の男性を捉え続けていた。


「む〜〜」

「なんだ。起きていたのか。さてどうするか? 被験体は多数、2度も同一個体に麻酔を使うのは少々勿体ない」


 真上から照射される光に眉を潜めながらも、懇願するようなに縋った目を男性に向ける。そして大げさなほどに男性の一文一句に相槌をうち続ける。


「さて被検体321号の話は終わったか、さて君との時間は楽しかったがそろそろ始めようか。実験の内容を教えようか? それは他人の頭から技術を奪い我が国の兵士に移植すること。それを成功させるには実体験に基づく経験が重要だという事がわかった。経験を取り出すことは成功した、植え付け使いこなす事も相性次第だが確認。私の今の課題は汎用性を高めること。だから君のような1商人であっても我らの実験に協力できるのだ、ありがたく思え」


 私に笑顔を向けた後黒髪の男は首しか動かせない私からは見えない頭部側へと歩いていく。僅かに聞こえる足音に金属性が擦れる音。首を前に傾け、右肩を体の正面側に捻り右手首を固定するベルトに意識を集中させ、引き抜こうとするが鉄のベルト、その留め具の部分がガタガタと動くだけ。


「さて、まずは静かになってもらおうか。正しい実験は正しい姿勢から。誤作動が起こりやりたいことができなくなっても困るからね」


 右首筋に当たられる冷たい感触、そのここからただ純粋な痛みが送られ全身を強張らせる。


「はぁはぁはぁ」


 最初は10秒、その痛みを全身に送られ終わると体に力が入らずぐったりと全身が伸びる。男がこちらの顔を覗き込みながら頬を触りその手は次第に私の目へ、瞼を強引に2つ指で開かされ私の目をじっくりと覗き込む。


「まだ電流の入りが甘いか。これだと実験中に暴れられる可能性があるな。もう少し電力を上げるか」


 鉄の棒から聞こえるジジジという音が少しずつ耳に近づいてくる。感情などは働かない、体の拒否反応が呼吸を粗めるだけで全意識は先程電流を流された右の首筋に集まる。


 だが次の瞬間私の目に赤い水気が飛びかかる。額から目元にそして口から顎の下に水滴が動くすぐったさを感じる。心臓が早鐘を打ち、ゴト、という音と金属が落ちた音がしたが意識が体の外に向かない。脳が周囲の状況その把握を破棄し思考をすることが出来ない。ただ口呼吸のみを命は私に強要した。


「?」


 追い詰められた意識から抜けられたの新たな変化が起こったからだ。手術台の背中の部分が上に動き体が持ち上がる。突如広くなった視界に驚き拘束されていた事を忘れ右腕を動かすと動いた。右手の平を見つめ、すぐに他の手足を目で追い全ての拘束が解かれていることを確認すると私は転げるように手術台から降り手術室の入口から逃げるように手術台の影に隠れる。


 床を頭をつけ、周りに誰もいないのを確認する、私の目で見た限りは足は見えない。ほっと腰を落とした瞬間手術室に少し冷たい風が手術室を駆け抜ける。


「あれ、誰もいない」


 見知らぬ声だがここの職員か? この施設は軍の施設だ助けなど来るはずがない。幸い手術台が死角を作り私はまだ辛うじて発見されていない。


(逃げる為にも武器が必要ね)


 急ぎ武器になるような物が必要だと足元を捜す、当たりを見回すと入口の反対方向に何かが転がっていた。肌色の物体が赤い液体に塗れ落ちている。急ぎその物体を手に取ろうとした時、その正体がわかり吐きかけた。それは人の手だった。手首から先が器用に斬られており、私は無意識に自分の肌を撫でた。


(この腕はもしかして)


 そして手が持っている棒の先端が鉄製になっている道具を握りしめ、ためしに根本にあるボタンを押してみるとジジジという電流が流れる音が響いた。そうこれは私を実験に利用しようとしていた男の腕だ。そして私は自分の顔に残っている水気を左手で掬い人差し指と親指で摘み軽く擦る。


(今はともかく)


 再び手術台の後ろに戻ると鉄の棒を両手で握って目を瞑り足音に耳をすませる。トントンという軽い足音がこちらに近づく、そして音に合わせて死角から飛び出しで鉄製の棒を両腕で突き出すが、左手首を捕まれそれを防がれる。


「離せ」

「コイツで最後の一人だな」

「え?」


 手の小ささと腕の細さに驚き顔を上げるとそこには少年がいた。眼帯でそして隻腕。口は固く結ばれており全体的に無表情のせいか綺麗な翡翠色の瞳が強調されている。そして彼は私の手首を握りながら背を向け歩き出す。


「よし行くぞ」

「え?」


 彼は私の手を引きながら手術室の扉を開け施設内を進んでいく。廊下の所々に兵士の首が斬られ死体が寝かされるように置かれている。廊下を通り過ぎ施設の入口にたどり着くと大きな荷馬車が3つ並んでおり、その前で手首から手を離され彼は再び私の方に向く。


「これに乗れ」

「え?、え?」


 状況が理解できずその場で立っている私を見かね少年は荷馬車の荷代に乗り込んでいった。そして荷代から彼が出てくるが私の方に来ず荷代に向き直る。すると荷代から一人の少女が顔を出し彼は少女を腕に乗せ荷代から下ろすと共に私の下に戻ってきた。


「お願いね」

「うん」


 そして少年は私の元を離れ少女が乗っていた荷馬車とは別の御者に近づき何かをはなしている。彼から目が離せずにいると足元いる小さな少女が私に抱きついてきた。


「よかったフィーネお姉ちゃん」

「アンリちゃん、これはどういう?」


 私の腰に腕を回すアンリちゃんの頭を右手で撫でながら撫でる。聞きはしたものの本当はわかっていのだが、それほどまでに現実感のない状況、手術台にまで運ばれた事が影響して事実を呑み込めない。


「助かったんだよ私達、ほんとに、本当に」


 アンリちゃんとは一緒の牢に閉じ込められていた中だ。両親と離れ離れに閉じ込められた彼女を慰めながら私は彼女という守る存在を頼りに心を強く持ちこの施設での生活を耐えていた。そんな彼女が泣きながら事実を伝えてくる。


「そっか、よかったね。よかった」


 彼女に微笑みながらも私の心と体は何も表さなかった。アンリちゃんと手を繋ぎ先程彼女が出てきた荷馬車に向かう。私が荷馬車に向かう頃には他2つの馬車はすでに施設を走り去っており、私達が荷馬車に乗り込むと、この馬車も動き出す。


「私が最後の一人だったのか」


 走り出す荷馬車から施設に残る少年の姿が見える。その姿から目が離せず、姿が見えなくなるまで荷馬車の中で立あがりずっと見つめていた。そして彼の姿が見えなくなり座り込むと私は。


「ひっぐ、こんなことってあるんだ」


 そこで私の視界は歪み涙を流す、両手の親指の下、母指球という部位で私は只管に両目から流れる涙を拭きつずけた。



 大きく息を吐き口を潤す為にティーカップを手に持ち一口分だけ喉を通す。


 ルイーズには言わなかったが彼との関係は当初最悪に近かった。彼の下にたどり着き手伝わせてくれと頭を下げたが。


「帰れ、危険から遠ざかる能力も商人には必要な要素だ」


 階段を降りた先にある地下室の入口で眠そうな眉を擦りながら彼に門前払いされた。その後女将さんに頼み込み宿屋で住み込みで働きつつ、彼と少しずつ関係を構築していった。


「はぁ、帰れって。それと飯はありがとう」


 相変わらず地下室入口での門前払いが常だったが、彼はしっかりと私の目を見て話、食事を乗せたお盆も直接受け取ってくれる。私を認識した上で拒絶をしてくれていたのだ、まだやりがいがあった。


 そして住み込みで働いて4日、地下室を見た女将さんがブチギレた。


「アンタせめて書類を纏めなさいよ。ああ、こんな幾らでも有力者を揺すれそうな情報を無作為に捨ててるなんて」

「でも今は必要ないし」


 床に散らばった書類を膝を曲げ左手に集める女将さんとぴんと背筋を伸ばして椅子に座り左から取った書類を読み終わった? ら右に置くロスト。そんな彼らを私は地下室の入口から顔だけ出して覗き込んでいた。


「フィーネも手伝って、コイツすぐ散らかすから」

「は、はい」


 下を向くと扉の敷居が目に入り足が止まる。今まで手が届かなった場所がこの敷居1つ飛び越えるだけで入れる。唾を飲み込み太ももを力強く上げ一歩を踏み出す。両足が地下室に入ると頭の奥がジーンとし目に涙がたまる。


「ふふ」


 顔を上げると女将さんがこちらを笑顔で見ており、頬が赤くなった事を自覚した私は急ぎ顔を女将さんから逸らしながら書類を集めは始めた。


「ロスト、フィーネちゃんにはこれから部屋の掃除を頼むから」

「は?」

「アンタに拒否権はないよ。この地下室も貸して貰っている立場なんだから」


 ロストは書類を一度机の上に置くと背もたれに腕を回し不貞腐れたように口を尖らせこちらをみる。


「そんな服を着てまでここにいるとなると、言っても無駄か。わかったこれからよろしく」


 それだけ言うと再び机に向き直り書類を読み始める。


(やってやろうじゃない)


 おざなりな態度を取られ、私は手元の書類を強く握りしめシワを作る。


「じゃ、私は上に戻るからフィーネちゃんはよろしくね」


 女将さんは立ち上がり私の肩を軽く叩くと親指を立てる。それに頷きかえし、書類を種類別にまとめ始める。


 多分私が彼と共にいることにハマったのはそこからだ。特別な事をしていない筈なのに少しずつ頼られ、毎日関係性が近づいていくと錯覚する。そして少しずつだが彼の表情が柔らかくなり、それは私が一緒にいたから生まれた変化だと夢想した。


 本当は人格の統合が影響だと気付かずに。


(本当に馬鹿みたい)


 これはルイーズには言えない私だけの秘密。私だけの幻想にしてエゴだ。

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