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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
2部ルベリオ王国編
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隻腕の奉公人


 どうしてこんな事になったのだろう。助け出した人々は己の頭に銃を突きつけている。そもそも施設に閉じ込めらていた彼らが何故銃を持っているかなど様々な疑問があるが、皆泣きそうで、でも目元が緩んだ優しい笑顔でこちらを微笑んでいる。


「待って、追手ともかなり離れている、そんな事する意味はないよ。それに言ってたじゃん、娘にもう一度会いたいって」

「すまない、それと君は悪くない、最後に希望を見せてくれてありがとう」


 そして13人は指を震わせながらも一斉に引き金を引く。そして全員が地面に倒れ血を頭から流す。そう自殺したのだ。


「おや、こんな所に居たんですか」


 すぐに切り換える事など出来なかった。追っ手は来ているそれを理解していた筈なのに思考が働かず、ただその場で死体を抱え声を上げて泣くことしか出来なかった。


「さて戻りましょうか、深い穴の奥に」


 そして追っ手に背負われるまま施設に連れ戻される。


 そして意識は現実に戻る。そう今ままでのは全て過去の話だ。でも脳に染み付いてしまった忘れる事が許されない過去だ。


 人混みの隙間を縫いながら、目の前に見え大きな建物を目指す。歩くという単調な作業をしているとどうしても考えてしまう。過去の過ち、その原因を。何がいけなかった? だがそれは自殺した人達の背景を洗ったら答えは出た。


「僕は傲慢だった」


 ただ助けるそれではダメだ。相手がどういう状況なのかきっちりと調べるべきだった。それを怠った僕の責任。その結果子供達から親を奪った。


「きっと責任を感じているのはそれだけじゃない。僕と同じような境遇の人物を生み出してしまったことも」


「ああ、おいガキぶつかったよな、金はーー」


 小遣い稼ぎがしたくてぶつかってきた不良を腹部を殴りつけることで体を曲げさせ、下がった顔面を側面から蹴り飛ばす。悲鳴も上げずに倒れる不良をその場に置き目的に向かう。もう少し不良を丁重に扱うべきなのだろうがそんな気分ではない、拳、いや体の隅々が怒りに燃える。


 許せない、許せる筈がない。だから償うしかないのだ。


「どう償うか、そんな事は決まっている」


 そして城下町を進み足を止める。その先には大きな建物、ルベリオ王国の王城があった。


「僕が救って見せるこの国を」


 償う為に、そして僕を深い穴の中から救ったあの人への恩返しの為に。



 ルベリオ王国、王城、王の間にて。


「ハーヴェスト様、これより西に行ってまいります」

「ああ」


 ヒゲを自慢気に携えた男はそういうと謁見の間、その出入り口に向かっていった。護衛はいるが式典ではないそんな私的の場でありながらも王の顔を直接見て話せる、これだけで謁見の間を出ようとしている男の地位の高さが伺える。そして王と仲の良さそうな雰囲気から王の友人なのではと普通は思うだろう、だが違う。今この城の玉座に座している男に仲の良い人間など誰1人いない。常に冷たい目線を向け他者を威圧する、他者を駒としてしか捉えられないこの男と仲良さそうに話せる関係性は1つ、共犯者だ。


「が、何故私が此処で死なねば」

「貴様何者だ」

「……」


 共犯者が扉を開けたその次の瞬間、外から現れた人物が共犯者の腹部を剣で突き刺す。共犯者は藻掻くように襲撃者の体に手を伸ばし痛みを逃がそうとするがその襲撃者はまだ子供、体格差で掴む事すら出来ず共犯者はその場で息絶える。


「ふん、罪のない人間をよく平然と殺せるな」

「仮面の王、どうせ西の都で物価を高める為の工作をコイツに頼んでいたんだろ?」


 王は座したまま不機嫌そうに鼻を鳴らしこちらを見下ろす。


「生きていたのか」


 冷たい目線で他者を威圧する。だが周囲の衛兵は顔には出さないものの少し驚いていた。仮面の王は誰か個人を意識の中に入れることを今までしなかった。この共犯者でさえも駒という符号でしか見ていない。そんな彼が目の前に現れた子供を直視していた。


「生きていたのは知ってるだろ」

「あの男をどこにやった?」

「何を行っているんだ。お前が確保していただろう?」

「私が言ってる事がお前にわからない筈ないだろう。ロスト・シルヴァフォックス」


 少年は仮面の王に名を呼ばれると不敵な笑みを浮かべる、それと同時に白い玉を地面に叩きつけた。


「ぐ、煙玉か」


 謁見の間故に護衛も勿論いる。先程までは王の行動を遮らないように控えていただけですぐに肉壁になれる位置で待機していた。そして王の間が白煙に包まれたと同時に彼らの間に立ち塞がる。


「いいのか仮面の王、もう間合いだぞ?」


 近衛兵は何事もなく抜かれ、襲撃者は王の眼の前にいる。


「何を言うまだ私がいる」


 この国の王、ハーヴェストは立ち上がると剣を抜き襲撃者を切り捨てようとする。それに対して襲撃者は青く光る石を右腕で持ち王に突き出し、呪文を放つ


「遅い、リリース」


 呪文の後、襲撃者の持つ石は青く輝くだが変化はそれだけ、いや。


「ハーヴェスト様」

「大丈夫だ、襲撃者を捕まえろ」

「は」


 王は青い光に包まれるとその場に立っていられないようで数歩下がり椅子に腰を掛ける。体調が優れない王だったがすぐに近衛兵に指示を出す。だが近衛兵が周囲を探るがあの襲撃者の姿はない。結果子供を取り逃がしたという名目でその場にいた近衛兵数人は処刑された。残酷だと思うかもしれないがそれが今このルベリオ王国を支配する王の方針。


 だが不思議な事に王城の封鎖は数時間で解かれた。


「アイツに数時間の猶予を与えてしまたのなら既にこの王城にはいないだろう。その存在しっかりと刻みつけたぞ、ロスト・シルヴァフォックス」


 この会話を近場で聞いていたメイドは驚いたらしい。あれほど1人の人間に執着する王を見たことがないと。


 そしてそんな彼、ロスト・シルヴァフォックスが何処に隠れたかだが。


「倉庫に隠れているかもしれん、生態探知魔法を使うぞ」

「どうだ、反応は?」

「ない、というか。ネズミがいるだけだ」

「了解、行くぞ」

(はぁ、助かった)


 彼は倉庫に逃げ込んでいた。しかもその荷物を入れておく木箱の中に。その木箱は3日後王城の外に運ばれ、様々な業者を渡り歩きある宿屋の地下に運ばれる。木箱は中からは開けられないよう固定されており、外から開けて貰わねばならない。拳を作り、ゴンゴンと木箱の内側から叩き何度も合図をするが。


(え、どうして? 数日間飲み食いもしてないから声が出ないんだけど)


 それを1時間繰り返すと力尽き、木箱の中で眠っていると外からガサゴソとした音がする。


(へ、何?)


 音は次第に大きくなりそしてついに木箱は開かれた。


「中々大きな荷物ですね」


 金髪を腰まで伸ばした少女がそこにいた。紫色の瞳に長いまつげ、人形のような美しい顔立ちの少女。だが彼女の瞳は半分閉じられ蔑むような感情が乗せられている。だがそんな目とは裏腹に動けない僕を起こし椅子に座らせると水が入ったコップを手渡してくれた。そして一杯の水を体に入れると僕の声も戻り、彼女に感謝を述べる。


「えっとフィーネ、作戦通りだったありがとう」

「なるほど、貴方様の作戦とは事前の説明無しに手紙だけ残して王城に突撃するという、近しい人の事を考えない身勝手な物なのですね。そしてその挙げ句の第一声が作戦通りだったと」

「ごめんなさい」


 大人しく頭を下げるが彼女は僕の様子などお構いなしに一枚の紙を突き出す。


「えっとなになに逮捕手配書、ロスト・シルヴァフォックス、特徴、隻腕、隻眼。容姿は茶髪に翡翠色の目。有名人だな、ま、仮面の王が欲している物の在り処を知っているんだ当然か」

「無茶しないでください。これから反乱軍との交渉もあるのですから」

「わかってるよ。それに今回の事は悪いと思ってる、でも必要なことだったんだ」


 その時机の上に置かれた通信機がノイズのような音を立てる。


「で、首尾はどうだった?」


 若い男性の声、だがこの場にいる者の物ではない。机に置かれた通信器からその声が聞こえてくる。


「ああ、協力者さんのおかげで仮面の王にも開放石の効果があることがわかったよ。ただあの程度では足りない」

「了解だ、効果があるという事がわかれば十分、それでは失礼する」


 そして通信機からの音声が切れる。


「相変わらず必要最低限の事しか喋りませんね」

「まぁ、王城に居ながら僕らに協力してくれてるんだししょうがないよフィーネ。それに今回安全に王城から脱出出来たのは彼のおかげだしね」

「なるほど、今回1人で王城に乗り込んだのは彼の依頼だったからなんですね」


 フィーネの鋭い指摘に体を思わずビクつかせてしまう。


「なんでそう鋭いのフィーネは。ただ協力者を責めないで上げてね、今回の依頼はこの国を救うのに必要なことだから。それよりフィーネは国に帰りなよ。君は所詮余所者、この国の為に戦う理由なんてないだろう?」

「ありますよ、私にも」


 フィーネは僕をじっと見る。それだけで彼女が何を言いたいかわかるがそこを指摘しない。実はフィーネがここに残る理由を僕は知っている、でもこんな沈みかかった船に相乗りさせたくなかった。


「私は自分で決めてここにいます。だから何処までも付き合いますよ」

「はぁ、わかった……でずっと思ってたんだけどなんで給仕服を来てるのさ?」

「それが私の心、それを表しているからです」


 そして数日間の疲れを癒やすためにゆっくりと本を呼んでいたその時、ドアの外から激しい音が聞こえる。


「二人共手伝って、西の住宅街が大火事だって」

「わかった、行こうフィーネ」

「はい、主様」


 その言葉を聞いて僕は一瞬顔を顰めるが、剣を腰に差し外に走り出した。


 

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