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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
4章 英雄の卵
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馬鹿騒ぎの結果


 最近は医務室にお世話になることも減ったと思っていたのだがよくよく考えると傷を治す手段が増えたので行く必要がなくなっただけだ。怪我は昔よりしていることを考えるとデメテルの人達には頭が上がらない。白い天井に柔らかいベット、時計を見ると時間は17時、本部での大立ち回りから2時間たった位か。


 医務室から出ると本部に来た時とはは全く違う光景が広がっていた。ロビーには大きな机に王都の地図が置かれ皆が忙しく動いている。先程まで腐っていた連中とは思えない変貌。ただこれが己の功績だとは思ってはいない。意識を失う直前の事は覚えている。ギルドのトップ2のパーティーがが戻ってきた。 そのおかげでギルドの人々は希望を見出し立ち上がった。


「僕のやったことは意味がなかったか」


 手を見ながら少し寂しそうに呟く。出来る事はしたつもりだ。それにどうして僕があの様な荒っぽい真似をしたかそれは僕が特殊ランク冒険者だからだ。見習い以下の犯罪に手を染めた半端者。ギルドの連中もただ僕が言葉で訴えた所で何も聞きはしない。「ああ、見習い以下が何か言ってる」 そこで終わっただろう。今回程己につけた経歴の傷が足枷になった事はない。だから挑発をし発破を掛け冒険者達が自分達で立ち上がる事に賭けるしかなかった。


「結局……いや次は」


 相手を殴り飛ばした所で何かをなさなければ意味はない。暴力は過程でなければいけないのだから。


「よし、暗い考えはここまででいいだろう」


 あそこまでギルドの人達を挑発したのだ、今回の作戦に僕が加わるのは無理だろう。なら個人で動くとするか……でもどうしよう。ほんの数時間前まで僕は王都にはいなかった。情報という点であまりに出遅れている。王城に話しを聞きに行った所で門前払いが関の山。


「あ、起きたんですね」


 悩みながらもギルドを出ようとした時誰かに声を掛けられた。声の人物はクリーム色の髪を肩あたりで切り揃えた獣人の少女、背丈は年相応、まぁ体の一部が著しく発達しているが今気にするべきなのは彼女の武器、魔力を弾丸として放つ狙撃銃。その武器はかなり使い込まれているが手入れはしっかりされている。僕は銃を獲物としている人間に苦手意識を持っているがそれも初対面の印象としてマイナス程度のものだ。


「えっと、どちら様で?」


 残念ながら僕は彼女の姿に見覚えはないのだ。いや彼女の匂いには少し覚えがある。しかもつい最近。


「おいそれは失礼じゃないか。お前がここで倒れた時床に頭をぶつけなかったのはコイツのおかげだぞ」


 今度現れたのは2メートル近くある褐色肌の男性だ。だがこんな目立ちそうな人達は今まで本部では見たことない。つまり彼らの正体は本部に今までいなかったトップ2のパーティーの人達という事になる。普段ならはしゃいだかも知れないが残念ながらそんな余裕はいまはない。


「えっと、ごめんね」


 獣人の少女は狙撃銃を両手で持つと左側から僕に鈍器のように振ってきた。それを片腕で受け止めると獣人の少女は意外そうな顔をしながら謝ってくる。彼らの狙いはわかっていた。現に狙撃銃はそれほど強く振られていない。


「な、アスタルテ防いだだろ。()()()()()()()()()()()()()


 大柄の男性は痛い所をついてくる。そう僕は今左目が殆ど見えていない。本部で冒険者達の腐った根性を叩き直していた最中少しずつだが左目が見えなくなっていた。そして医務室で目を覚ました頃には完全に情報を受け取れなくなってしまっていたのだ。


「元々目からの情報はそれほど頼ってないので」

「もう少し目をしゃっきり開けてから言って欲しいな、ロスト君」


 この大柄の男性はやけに突っかかってくるな。彼は目を細め含みのある笑みでこちらを見ている。さらに顔をわざわざ近づけて来る所が因縁を吹っ掛けられているようで気に入らない。


「なんてな、冗談だ冗談。グレアムの奴から気に掛けてやってくれって頼まれたんだ」


 先程が嘘のように明るい声で男性は笑い出した。流石に肩の力が抜け呆れ気味に大柄の男性を見つめる。それにしもグレアムさんか懐かしい名前を聞いた気がする。といってもシリウスの事件からそろそろ半年くらいなのでそれほど時間は経ってないのだが。


「そうだ自己紹介がまだだったな。俺の名前はダリオだ、こっちは」

「はい、私の名前はアスタルテです。よろしくお願いします」


 そういって大柄の男性ことダリオと獣人の少女であるアスタルテは挨拶をした。


「僕の名前は大丈夫ですよね」

「はい、そこは前もって知っていますよ」

「ったく、でも聞いていたよりは生意気なガキだな、言葉の節々に棘がありやがる」


 言葉ではそう言いつつダリオさんは怒った様子はない。僕も普通の体調なら丁寧な喋り方を徹底するが、体を押して動いてる中では言葉は選んでいられない。で、先程からずっと気になっていた事を聞く。何故僕に声を掛けてきたかだ。心配してっという事は……まさかあるのか? 今までの本部での生活の影響でその可能性は完全に頭から消していた。


「アスタルテは心配してだな」

「はは」


 アスタルテさんは恥ずかしそうに頬をかいていた。だが今の言い方だとダリオさんは違うらしい。


「俺はテストも兼ねてだな。今のお前がギルドの作戦に参加できる力があるかを」

「というと?」

「お前もわかってるだろう。自分の身体の状態を。本部の冒険者達相手にあれだけの大立ち回りをしたんだ。体はボロボロだろう」

「……」


 本当は魔素中毒のせいで体がボロボロなのはここでは黙っておこう。ただ話の流れ的に。


「で、結果は?」

「合格だ、というよりお前を作戦に参加させるのは元々賛成だ。ただアスタルテのパーティーの奴らが反対していてな、それを納得させるための試験だ」


 この話を聞いて1つ疑問がある。先程の試験というのはアスタルテさんが行った狙撃銃を鈍器のように使った攻撃のことで間違いないだろう。でもあの程度の事が試験になるのか? そこが疑問だった。


「でもあれで納得するの?」

「するさ、なんせ俺の方がギルドでの地位は高いからな。どんな試験でも合格すれば押し切れる」


 この人体に見合わずしたたかな人だなと関心した。だがどうしてそこまでして僕を作戦に参加させたいのだろうか? 


「なんでって決まってるだろう。現状かなり分が悪い。敵の正体どころか魔物が無限に現れるその仕組さえわからない。そういう時突破口を開くのはな気持ちの強さだからだ」


 するとアスタルテさんが僕を後ろから抱きしめ頭を撫で始めた。相変わらず話が見えない。その気持ちの強さを何処でダリオさんは感じ取ったのだろう? 疑問符が頭の中に増え続ける中ダリオさんは言葉を続ける。


「ギルドの馬鹿共がこんなに機敏に動くのはなお前に尻を蹴られたからだ。俺達が来ただけではここまで機敏に動かない。どこか縋ったような、今より個人感の判断能力も悪かっただろう。だけど今は個々人できることを最大限やろうとしている。コイツラを目覚めさせた功労者をいつまでも休ませておくほど今の家は暇じゃないんだ」


 そういってダリオさんは僕の頭を撫でる。


「頼むぜ、ロストシルヴァフォックス。俺はお前に期待しているからよ」


 期待されるのを少し前までは重いとか、うざったいとか思っていた。でも流石にアトラディア王国の最高位の冒険者にそう言われると、嬉しいし、燃える。


「はい」


 唯一不満があるとすれば、背が低いからと言って頭を皆撫でるのはやめて欲しい。僕は11歳だ。そろそろ大人として見てくれてもいいだろう。


 *


 そしてギルドの魔獣への対策は決まった。まずは何人かのメンバーに分かれ地区ごとに人員を配置、魔獣を掃討するという話に落ち着いた。いくら倒しても切りがないとはいえ街中に魔獣を放置していいわけがない。そして僕が割り当てられた組の中には先程から一緒にいるアスタルテさんがいた。僕らが組んだらやることは1つだ。


「2時の方向、オレンジ色の屋根の民家、その隣から3秒後出てくるよ」

「了解」


 宣言通り3秒後民家の横道から魔獣が現れた。200メートル近く離れている魔獣をアスタルテさんの狙撃銃は撃ち抜く。弾丸の着弾位置も魔獣の眉間にピタリと。


「やる」

「いえいえ、腕のいいスポッターのおかげです」


 僕らの組、その魔獣の掃討方法は簡単だ。僕が索敵をしアスタルテさんが離れた場所から狙撃銃で確実に魔獣を仕留める。これだけで安全且つ一方的に魔獣を倒せる。僕自身レガリアのレベルの件があるためできるだけ魔獣を倒したくない。だからアスタルテさんが魔物を倒してくれるのならありがたい。


「どうしました?」


 僕が少し暗い顔をしたことにアスタルテさんは気付いたようだ。黙っておく事でもない、それにパーティを組む際は信頼が重要、何か気がかりがあるのなら話しておくべきだろう。


「実は知り合いの冒険者が行方不明なんですよ」

「行方不明? そういえばそんな話し会議にも出てましたね」

「はい、マックスっていう男性が率いるパーティーなんですけど」

「ああ、マックス達ですか。確かに逃げるような人達ではない……心配ですね」

「はい」


 そうなのだ。マックスは王都貧民街の出身だ。本部にいる冒険者の中でも王都に住む人達への思い入れは強い。そんな彼らが王都の人達を見捨て逃げるとは思えない。何か大変な事に巻き込まれていないか心配になった。


「次は4時の方向」


 思わず拳を強く握りしめる。彼らには僕もお世話になっているだから出来るだけ早く王都にいる魔獣を片付け探したいのだが。


「?」


 探知魔法を使い出来るだけ魔獣の情報を集めているとあることに気付く。王都に現れた魔獣は命を散らすと肉体を残さずに霧散する。その時の魔素に統一性がある気がした。例えば鳥の特徴が色濃く出ているものは緑色の魔素、狼系の特徴が出ているものは青い魔素。統一性は普段戦っている魔獣からも見て取れるが王都に現れた魔獣が放出する魔素には個体差がない気がする。そこで思い出されるのは避難所にいた住人達の様子だ。老人と子供、体力が少ない彼らの多くが寝込んでいた。


「まさか、この魔獣達は」


 僕の推測が当たっていればこの魔物達は別の場所から連れてこられた魔獣ではない。今ここで生まれた魔獣だ。


「アスタルテさん」

「はい、何でしょうか」

「多分この魔獣、王都の人達の生命力を吸って作られてる」

「どういう事ですか?」

「ずっと疑問だったんです。何故あの魔獣がキメラのような外見でありながらあまりに生物的なバランスが悪いことに」


 鳥型の胴体をしているのに足は狼のような4本足、短足なのに首は長い。キメラを作るのには意外にもコストが掛かる。王都全体にキメラを放つ、それだけのキメラの数を培養し育てるには大国が傾く程の金が掛かる。では何故魔獣を生み出しているという発想になったか? 制作コストが高いキメラを利にもならない特徴で組み合わせる意味がないからだ。


「何故生み出されている魔獣がキメラになっているか、それはバラバラの人間の生命力から作らているからです」


 生き物の生命力の色は千差万別。もし効率よく魔獣を生み出すなら規格を作らずに吸った生命力そのままに魔獣を生み出した方が捨てる生命力もないため生産効率は上がる。そして霧散する魔素に個体差がないという話に繋がる。生まれたばかりの生物に個体差が薄いのは当たり前だろう。


 この話しをまとめると僕らにはタイムリミットがあるという事が浮き彫りになった。先程から少しずつ魔獣の出現速度が上がっている。つまり王都の住人から吸っている生命力の量が少しずつ上がっている事を表していた。


「魔獣の討伐よりも敵の本拠地を見つける事を重視しないと、王都中の人達は死ぬ」

「といっても、本部の場所はわからないんですよね」


 アスタルテさんの言う通り王都にある敵の居場所がわからないのであれば対処のしようはない。ならば見つければいい。相手が王都の人達その生命力を吸って魔物を作っているのならその吸われた生命力を追えばいい。


「こっちだ」

「ちょっと持ち場がって、そんな事言っている場合じゃないか」


 生命力を追って行くとそこは平民街の地下水路の入口に流れ着く。そしてその入口には見覚えのあるナイフが落ちていた。ミスリル製のナイフ、東の都市ミシェーラに行く前にマックスが自慢していた物だ。


「ほれ、見ろよロスト。このナイフ高かったんだぜ」

「……ナイフよりミスリルの剣を買うほうが先じゃない?」

「うっせい、高くて買えなかったんだよ。だからまずナイフで我慢したんだ。次の目標はミスリルの剣を買えるくらい稼ぐ!!」

「でも後一月もすればそのミスリルナイフが買えた値段でミスリル剣が買えそうだけど」

「へ」


 一瞬間抜け顔を晒したマックスだがすぐにこちらに詰め寄り、僕の胸ぐらを掴み激しく揺らす。


「どういう事だ頼む教えてくれ」

「鉱山の鉱石を横流ししていた貴族の家に王家がついに踏み込むらしくてね。正常に鉱石も市場に流れ始めるから値上がっていた素材が適正価格に下がるんだよ。だからそのね」


 そして僕はマックスさんが持つミスリルナイフを見た。彼もその意図に気付いてのだろう。


「そ、そんな」


 膝を落としうなだれた。


(今度ミスリルが手に入ったら剣でも作ってやろうかな?)


 言葉には出さなかったがそんな事を僕は考えていた。彼にはお世話になったしそれくらいの事ならしてもいいかなと。


 ミスリルナイフを手に取ると血が滲む程強く拳を握りしめる。


「ロスト君、落ち着いて」


 そんな僕に声を掛けたのはアスタルテさんだった。僕が固く握る拳を彼女の手が包み、指一本一本丁寧に解いていった。 


「ありがとうございます」

「いえ、敵を貴方自身じゃない見誤らないように」

「はい」


 アスタルテさんは僕が落ち着いたのを確認するとすぐさま通信器を使い他の冒険者達に報告し始めた。僕らがこれから地下水路に突入するのは決定事項だが別に僕らだけで突入するわけではない。


 そこで今まで実力を見ていたアスタルテさんの事を考えた。彼女はクレアさんと武器が近いがその性質は全く異なる。クレアさんは動く大砲、予知の魔眼を使うことによって命中率を高め相手を仕留める戦略兵器だとするとアスタルテさんは全てが高水準に整っている指揮官と言った所だ。仲間と共に戦場を駆けながらも所々で単独行動し戦況の有利をその狙撃銃の攻撃範囲で作り出す。


「彼らに近づく存在になるには」


 僕は彼らほど高位ランクの冒険者になれる気がしない。せいぜいDランクなどの侮られない適当な役職を与えられ裏の工作で重宝されるのが関の山。もし僕が彼らのような高位ランクの冒険者に並ぶ評価を得るには圧倒的な功績がいるだろう。それこそ単独で国を救ったと言えるレベルの。


「功績欲しさに暴走する気はないさ」


 今のも少し真剣に考えただけだ。身近にいる凄い人達に追いつくにはどうしたらいいかを。でも第一は自分らしく生きること。


「お、悪いな。回せる戦力は俺だけだ」

「ダリオさん心強いです」

「アスタルテお前さんのとこのアストレアと取り合いになったが勝ってきた」


 ダリオさんの左手はチョキを作っており、勝負の方法はじゃんけんだろうか?


「それにしてもアストレアがお前さんの所の令嬢、そのお守りをやめて立候補したのは予想外だったな」

「そうなんですか?」

「あのアストレアって?」


 今までの内容がわからなかった僕は質問した。知らない人物名と関係性あえてツッコむ気はなかったが流石に気になり会話に割って入る。そんな僕に二人は嫌な顔をせず説明してれた。


「ああ、アストレアってのはアスタルテの所属するパーティーの一人で、軍の将軍だ」

「なんでそんな人が冒険者に?」


 将軍といえば軍のトップに近しい高官だ。令嬢一人のお守りをするために冒険者をしていることは本来有りえない。その答えは隣にいるアスタルテさんが教えてくれる。


「ヘルタ、私達のリーダーである令嬢の実家リーゼンハイト家は軍の中でも大きな力を持っているの。アストレアはヘルタの父にスカウトされ傭兵から軍人になった。そして後ろ盾にもなって貰ってるからその恩義を返すためにヘルタの我儘である冒険者を付き合っているの。将軍の仕事は……部下に押し付けてるけど」

「な、なるほど」


 事情はわかったがあまり深く踏み込まないでおこうと僕は決めた。絶対面倒くさそうだ……和やかな空気はそこで終わりこの場にいる全員は武器を抜いた。


「おっとやるじゃないか、まダリオが相手なら当然か」


 僕ら3人の上空に突如人影が現れる。人影は着地をすると剣を抜きこちらへ斬り掛かってくがダリオさんは盾を使い襲撃者の攻撃を受け止めると僕らに指示を出した。


「先に行け、コイツを倒し次第俺も後を追う」

「はい」

「わかりました」


 ダリオさんの指示通り僕とアスタルテさんはそのまま地下水路の入口に向かって走り出す。背後から聞こえる戦闘音、間違いなく敵はこの先にも待ち構えているだろう。剣を鞘に戻し意識を研ぎ澄ませながら奥に向かった。



ダリオ視点


「まさか、今回の事件ガラディオル帝国も絡んでいるとはな」


 ガラディオル帝国、大陸随一の国力を持つ大国。そして眼の前の襲撃者はその大国の中でも特別な地位を持っている。


 12神忠というガラディオル帝国内で皇帝に次ぐ権力を持つとされる特別な強者。


「ラハード・ストロガノフ、剣鬼がこんな所にいていいのか?」

「はぁ、互いに有名人は辛いな」


 そういってラハードは黒いフードを脱ぐ。青髪の優男に見えるが本人の性別は女性である。年齢は24歳、ここまではガラディオル帝国を警戒しているアトラディア王国の人間なら誰でも知っている事だ。


「それにしても神忠の10位様がこんな所に、皇帝様の指示か?」

「いや、3位の付き添いだ」

「は? 金剛が来ているのか」

「隙ありだ」


 さらなる強者が控えていると聞き一瞬先に向かった二人に意識が向けてしまう。だが目の前の相手はそれを見逃す甘い相手ではない。一瞬の内に距離を詰め嵐のような斬撃を押し付けてくる。だが所詮は連撃、タイミングを見計らい盾を使いながら斬撃の嵐の中を一気に突き進む。ラハードとはいえ間合いを潰されれば剣を振るうスペースはない。


(それに奴が遊んでいる内に勝負を決めないとな)


 ラハードに盾をぶつけ吹き飛ばす。ラハードが態勢を崩している僅かな間に盾をフリスビーのように上空に投げた。姿勢を整えるラハード、その間にダリオは短槍を取り出し投擲の姿勢を取る。役2メートルの巨体から投げられる槍、その一撃をラハードはいとも簡単に躱す。


「詰めが甘くないか?」

「そうでもないさ」


 ダリオはライターを取り出し葉巻に火を付ける。何かするのではないかとラハードはダリオへと意識を向けすぎてしまった。


「っぐ」


 突如ラハードの体が何かに抑えつけられる。不意の事でラハードは立っておれずそのまま膝を着いた。その時勝負は決まった。ダリオはラハードの周囲に重力魔法を掛けていた。普段我々に掛かっている10倍以上の重力。そんな重力の中で上から何かが落ちてきたら命の危機に関わるだろう。そう例えば先程ダリオが投げた盾など落ちてきたら堪ったものではない。


「っち逃げたか」


 ほぼ必中の一撃だったが盾の下にはラハードの姿はない。一度きりという制限があるが長距離転移を可能とした魔道具、それでラハードはこの危機から脱した。だが数週間はアトラディア王国の敷地に戻って来ることはないだろう。


「なら今はそれでいい、そう言えばラハードは言っていたな3位の金剛が来ていると」


 次の瞬間ダリオの背後から一撃が叩き込まれる。何とか盾を滑り込ませ直撃こそ防いだが。


「やるな」

「どうも」


 ダリオの顔色は悪い。それもその筈ダリオの盾は現れた男の拳一発で破壊されていた。盾の中心部には穴が空いており、どれだけ労って攻撃を受け止めたとしてもあと数発で盾は粉々になるだろう。


「アンタは仁義に厚いって話しだったんだけどな金剛」

「悪いな、戦いここでしまいだ」


 金剛、そう呼ばれた人物が戦いの終わりを宣言すると同時にダリオの足元が青白く光る。次の瞬間ダリオの姿はその場から消えていた。


「終わったぞグレゴリ、今そっちに戻ってネズミ2匹を仕留める」


 そうして金剛と呼ばれるアンドレアス・ローゼンタールはその場から姿を消した。

4章は後2話を予定しています。

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