その出会いは吉兆か? それとも
こちらでは伝えていませんでしたがこれからの投稿ペースは2日に1度を目指して行こうと思います。
王都での修行の日々だが休養日がないわけではない。
激しい修行だからこそ休養日が必要、そういってレグルス師匠は僕に休みを与えた。
本当はレグルス師匠が認めるレベルでの修羅の習得が終わったから休みが与えられたのが正確な所なのだが。
目標を達成したから休める、区切りを作る事で次の長く辛い修行のモチベーションを作ろうとしているのだろうが僕自身は時間という危機感があるから必要ない、といっても休みは休みで嬉しいわけで。
「おい、起きろ。もう昼だぞ」
誰かに体を擦られる感触で目を覚ます。
目を開けると同居人のロベルトが目を細め冷たい眼差しを向けていた。
「今何時?」
「13時だ」
「お昼じゃん」
「だからお昼だと言ったろ」
頭に軽く触れる程度の拳骨。
手加減をされてはいたとはいえ拳は固く握られている。
寝起きの頭にガツンとくる衝撃が眠い頭に響き渡る。
「確か今日の予定はデメテルに行って定期検査をするんだったけ」
「ああ、俺はお前を起こしに戻ってきただけだ、お前の従魔のモグは鉱山に行ったぞ」
モグはいつも透り鉱山へ、これは僕がお願いしている事だ。
最近新技の練習で投げナイフをすぐ駄目にしてしまう。
質が良いものではなくていいから鉱石を出来るだけ多く取ってきてくれとモグには頼んでおり、最近はほぼ毎日鉱山に行って貰っている。
確かに今日は寝過ぎだがそれにも理由はある。
1つは修行による連日の疲れ、そしてもう1つは毎日のようにデメテルへポーションを貰いに行っているのが原因だ……レグルス師匠との修行とは別に。
これもまた新技の練習が影響している。
僕の新技、命の危険はない代物だがよく指の間に火傷を負ってしまう。
怪我を防ぐ手段はあるがそれをすると実戦向きではなくなってしまうというジレンマ。
だから戦闘中に痛みを感じても動きが鈍らぬように体にその痛みを覚えさせている。
ただこの技は僕の精神的には禁じ手に近い、出来れば使いたくないが、使い方によっては相手の意識を乱せる有効的な技だ、もしものために練習しておいて損はない。
話は少しそれたがルシアさんが王都にいない現状、僕の定期検査はスカーレットさんがやる手筈になっている。
そして昨日、スカーレットさんの手でエクスポーションを使われた際に言われた事だが。
「明日説教な。お前にはポーションの欠陥を教えてやる」
説教をするそんな宣言を聞かされては中々行く気には慣れない。
これが昼間まで寝ていた理由。
スカーレットさんも僕の事を考えて申し出てくれた事、流石にさぼろうとは思っていない。
「しょうがない、怒られに行くか」
「自業自得だろ」
冷たい言葉に背中を押されながら僕は外に行くために服を着替える。
身支度を整える僅か10分足らずの時間にすでにロベルトは家を出でいた。
最後に家を出る以上、戸締まりなどをしてから追加で10分。
そして鍵を掛けてからデメテルに向かって僕も歩いた……出来るだけゆっくりと。
*
「お、早かったな」
デメテルに入ると赤髪の男性、アガレスさんが出迎えてくれた。
白衣を来て椅子に座りながら昼食を食べている。
ただ早かった、それは聞き捨てならない。
「早いって?」
少し青筋を立てながらそう聞き返すとアガレスさんは笑いながら来るのが早いその理由を教えてくれた。
「だってよオプシディア先生は、ごほん。「説教と言ったからななどうせ夜にくるだろ」って言ってたんだぜ。そりゃ、来るのが早かった、だろ」
時間こそ早くきたが、見透かされた心境に何も言えずになっていた僕は話題を変える事にした。
「で、そのスカーレットさんは?」
「ああ、どうせ夜までこないと思ってたからな。教会に行ってるよ」
「教会!!」
失礼だがダークエルフが教会でお祈り。
そこで頭に過るのが邪神の存在、まさかと思いつつ恐る恐るアガレスさんに聞いてみる。
「あの、その教会って邪神とか祀ってない?」
「お前本当にそれ本人の前で言うなよ。ブチギレるだけじゃない。1週間徹夜覚悟のグローリア教の歴史、オプシディア先生実録バージョンをテスト付きをでやらされるからな」
食べていた弁当を吐き出し、体を震えさせながらアガレスさんは言った。
これを見るにこの人も過去同じことを言ったらしい。
吐き出した弁当を片付けているアガレスさんを見ながら思う。
そういえばダークエルフって何?と
その答えはアガレスさんが教えてくれた、というか昔同じ疑問を持ったようで僕が考え込んでいる姿を見て独りでに語り出した。
「ダークエルフ、本人たちはエルフと同一しされるのが嫌がるが実際は出身地が違うだけのエルフだとは聞く。人間と同じ、肌の色が違う程度の差しかないって先生は言ってた」
「なるほど、確かに僕が無遠慮だった。ありがとう、アガレスさんおかげで無礼を働かなくて良さそうだよ」
「ああ、あんな地獄を味わうのは俺一人で十分だ」
目から光が消え、遠くを見つめているアガレスさんだが、その顔は先程よりも窶れている。
休憩時中にむしろ疲れさせてしまった事を考えると申し訳ない。
ただ夜までスカーレットさんが帰ってこないとなると。
「困ったな」
「別に先生はロストが来たら呼びに来させろと言ってたから、大丈夫だぞ」
「本当に?」
「ああ、教会の場所もここ近くだしな」
これはありがたい。
流石に楽しみではないものを今か今かと待つのは心労的にキツイ。
ここ貧民街にある教会は1つ、ならすぐに向かってスカーレットさんを呼びに行こう。
「ありがとう、アガレスさん、本当に」
「ああ、俺はお前の説教を酒のツマミにするから気にしなくて良いぞ」
デメテルに出ようとする足が突然凍りつく。
今から教会に呼びに行って、何事もなければ15時にデメテルに戻ってくる。
そこからアガレスさんの酒のツマミなるまでって……何時間説教されるのだろうか?
「怒ってる?」
「大変怒ってるよ。というか説教するのを今朝楽しみにしてた」
今までの気楽だった気持ちが重く下がり、ドアを力なく開ける。
そして元気のないどんよりとした声で。
「行ってきます」
「まぁ頑張れ」
スカーレットさんがいる教会に進んでいく。
気分はさながら、処刑場に向かう死刑囚の気分だった。
*
旧市街にある教会は大きいとは言えずされど村の中にあるような小屋の一室にある訳では無い。
正確に言うなら寂れた一軒家、これがこの教会を表すのには相応しい。
ただし家の仕切りなどは全てぶち抜かれており中に入れば一軒家とは思えぬ程広く感じるだろう。
年季を感じさせる扉を開けると、中は昼間であるはずなのに薄暗かった。
窓は全て締め切られており中の光源はロウソクのみ。
それにも理由がありこれは後に聞いた話だ。
あの場に居た僕を除いた4人はグローリア教の崇める女神に関係する人物であり、その中の1人の役職を明かすのであれば教皇様だった。
そんな厄介極まりない場所に無遠慮に僕は乗り込んだわけだ。
「げ」
扉を開いた僕を見てそんな声を出したのはスカーレットさんだった。
なんて場の悪い時に来たのか、口に出さずともそう顔が行っていた。
中には茶髪に翡翠色の目の優しそうな女性に豪華な服に金髪の若い男性こちらは碧眼だ。
そして最後は誰にも気付かれぬよう息を潜めている白髪の男性だ。
ただこの白髪の男性は妙な魔法でも使っているのか僕の探知魔法でも情報を獲得しきれない、魔法は彼の体重が0キロと一切重さのない存在だと伝えてくる。
あの肉体のないエレボスでさえ5キロはあったのだ。
偽装の線を疑うのが普通であろうが、少々偽装するにしても嘘だとわかり易すぎるのが気になる。
ここまでが職業病見たいなものだ。
正直気まずい雰囲気に耐えられず。
「失礼しました」
教会の扉を締めその場から立ち去ろうとするが。
「待て、入ってもらえ」
金髪の男性が待ったを掛ける。
その直後背中を押され教会の中に放り込まれた。
背中を押した犯人それは先程金髪の男性その後方に控えていた茶髪の女性だった。
そのまま教会の中に入れればよかったが、背中を押され教会の敷地内に足を踏み入れたと同時に肩を押され今度は教会の外に弾き飛ばされる。
弾き飛ばした人物が倒れぬように補助をしてくれたから助かったが、それでも体を揺さぶられ続け少々頭が混乱する。
「ほら、帰るぞ。何こいつらに付き合う事はない」
そのままスカーレットさんに連れられるまま教会を後にする。
「おい、ちょっと。知り合いなら紹介してくれよ」
そう金髪の男性が後ろから声を掛けるがスカーレットさんはそれを無視して僕の手を掴みどんどん教会から離れていく。
人との縁を大事にする普段の僕ならその場に強引にでも留まろうとするが、今回はスカーレットさんの行動に従う。
「やけに素直だな?」
それをスカーレットさんも不審に思ったのだろう。
ただ僕にも理由がある、1つは白髪の男の存在。
あれはやばい、エレボスに似た印象を覚えた事。
そして問題はあの茶髪の女性だ。
金髪の男性の従者、いや彼の服装からみて護衛と言ったほうが正確か。
「あのお姉さん僕のことを殺そうとしたよね」
「ああ、お前の勘は間違っていない」
あの時茶髪の女性は転移で僕の背後に回り込むと明確な敵意を持って刺し殺そうとした。
金髪の男性の一声で攻撃を取りやめたが、そのような行動を取られた理由は思い当たらない。
彼女とは初対面だし、無礼な登場の仕方はしたかも知れないが主である金髪男性の命令を待たず殺そうとする必要はないと思う。
世の中は狂信者というやばい奴らが多いことも事実。
狂信者? そこで気付いたのだが。
「あのスカーレットさん僕って臭う?」
「ああ、プンプンするぜ。闇の匂いがな」
僕はアンタレスでのエレボスとの戦いで深く闇を浴び、そしてその闇を操りエレボスと戦った。
その残り香が茶髪の女性が僕を殺そうとした理由。
仮にも女神グローリアは光の神。
だが女神グローリアは僕以外には優しい。
彼女が与える加護の範囲はそれこそ魔獣、魔神、さらには邪神にまで及ぶ。
流石にそれを狂信者たる茶髪の女性が知らない筈ないが?
考えれば考えるほど彼女が攻撃の意思を持つ理由がわからなくなる。
「まぁノエルの事は許してやってくれ、今頃アドラに絞られているはずだからな」
「アドラって」
「ああ、今のグローリア教の教皇様だ」
「じゃぁ、あの白髪の男性も」
「待て」
僕の言葉をスカーレットさんが途中で遮る。
その顔は今までとは違いに血の気が引き青み掛かっていた。
何か不味いことでもあるのか? そう聞こうとした時にはもう遅い。
先程の教会に向かってスカーレットさんは走り出していた。
そして僕もその背中を追う。
「なぁロスト、本当に白髪の男がまだ教会内に居たんだな」
「うん、息を潜めて隠れていたって感じだったけど」
「アイツまだ帰ってなかったか。流石にアドラと一緒には出来ない」
「あの茶髪……ノエルさんじゃなくて?」
「ああ、アドラにさっきアイツは言ってはいけない禁句を言ったんだ」
禁句、人は外見に寄らない性格をしていることがある。
先程の僕のように無遠慮に他人を傷つける事は多々ある。
ただ教皇、それほどの地位にいる人物が禁句の1つや2つその場で聞き流せないものか?
ダメ元でだが禁句、その内容をスカーレットさんに聞いて見るしかない。
「あの、その禁句って?」
「女神グローリアの事をな、贄の女神って言ったんだ」
「贄の女神?」
贄?、贄か、にえ。
色々な文献を見てきたがそのような記述が女神グローリアにはなかった筈だ。
宗教感の違いから女神を叩いている邪神教の書物はいくつか見てきたがそれでも贄の女神、その記述はなかった。
さらに詳しくスカーレットさんに聞こうとした時先程までいた教会が目の前で爆散した。
焼け焦げた訳では無い。
ただ目の前で跡形もなく内側から弾けたのだ。
それを見たと同時に僕は探知魔法を起動する。
木片が飛び周りの人に被害が及ぶ可能性を危惧したのだ。
そしてその危惧は当たってしまう。
50メートル程離れた場所にいる子供に向かって大きめの木片が飛んでいく。
普通に走っては間に合わない、だから奥義である修羅を使う。
奥義である修羅をまるで強化術のようにアンタレスで使っていたがそれは間違いだ。
というか本来の修羅はそんな長時間使えるものじゃない。
連続使用は5秒しか持たず、今まで以上に体の制御は難しい。
だがその分その効果は絶大、木片が子供に迫るまで約2秒、助走を考えれば普通は追いつける距離ではない。
ただ次の瞬間僕は子供の前に立ちふさがり、木片を拳で弾き飛ばす。
「大丈夫?」
「う、うんありがとう」
そういってこの場から逃げ去る賢い子供を見て間に合ってよかったと心が暖かくなる。
そして教会の方を睨みつける、周りの迷惑を考えろという意思を宿しながら。
教会から煙が張れるとそこから教皇アドラとノエルという女性が何事もなかったかのように現れた。
そして。
「オプシディア怪我したから治してくれ」
そう何事もなかったかのように言い放った。
*
そこで場面はデメテルに移る。
先程の教会の爆散、そこから現れた教皇アドラ。
彼から申立は断れるものじゃない、それをスカーレットさんは。
「ふざけるな、さっさと帰れ」
そう言ってその場に置いてきた。
そして本来の予定通りに定期検診を開始したわけだが、先程の教皇アドラと白髪の男性の関係性それが気になって仕方がない。
少しソワソワしているとスカーレットさんは不機嫌そうに。
「さっきの話しを聞かれてもアタシは答えんからな、それより」
「何かあった?」
スカーレットさんは顔を顰め計測器を見ている。
今僕が繋がれている装置は体の中にマナを注入する機械。
といってもルシアさんが作ってくれたドーピング剤とは違う、あくまで体を激しく活性化させるものではない、体にマナを馴染ませ反応を見るものだ。
体内にマナを入れ、取り出す、その繰り返し。
マナと体内にある魔素、これらを干渉させる事でどれだけ僕の体が魔素適応障害の段階が進んでいるかを判断する。
そして結果はスカーレットさんの顔を見る限りよろしくはなさそうだ。
「駄目だ、悪化してる」
「そうですか……理由は」
口元に手をやり考え込むスカーレットさん。
計測器と再度睨み合い、頭を上げる。
お手上げ、そう傍から見てもわかる態度に少し肩を起こす。
だが次の瞬間何か思いついたようにこちらを向くとそのまま僕の方に詰め寄ってくる。
「お前確か闇を使ったって言ったな」
「はい、アンタレスで」
そしてようやく合点が言ったような清々しさを顔に浮かばせた。
そして彼女は僕に闇の危険性を教え始める。
「ロスト、もう闇を使うな」
「使えないですよ。僕は」
「そうじゃなくてだな」
話の腰を折られ頭を抱えるスカーレットさん。
そう言われても僕は本当の事を言っただけだし。
「これは1からの説明がいるか、ロスト闇はお前には毒だ」
「と言うと?」
エレボスとの戦いで闇その心強さは知っている。
マナと同じ肉体の強化やそれ以上の恩恵もかなりあった。
マナによる体の活性化で魔素に対する抵抗力を得る、今の治療法その代用として使えないかと思っていたのだが。
それにエレボスの闇、今後は暴走させぬようにその発散にはこれからも付き合わねばならない。
せめて闇がどう体に悪いか詳細を教えてももらわないと納得できない。
「闇とはマナより古い時代の力だ。つまるところマナより闇は魔素と相性が悪い。お前の体が闇とより深く関係を持つ毎に魔素適応障害は進行する。大体の説明はこれで大丈夫なはずだ」
そこまで聞いてある疑問が浮かび上がる。
エレボスは闇の塊みたいな男だ、その彼が今も生きている理由は闇による結界を張り魔素の自身への干渉を防いでいるからだ。
その方法を使えれば魔素適応障害はなんとかならないか?
そうスカーレットさんに提案してみる。
「駄目だ、というよりお前は闇を生み出せないだろう。それに闇の結界たって普通は常時作り続けるのは無理だしな……光は加護を闇には試練をか」
「何その言葉?」
「ああ、昔から言われていることわざ見たいな物さ。それぞれ力の与え方を表したものでな、光は加護とい形で力を授けるが闇は試練を突破することで力を与える。ロストお前に足りないものが核である以上無駄な話でもあるか」
その後かなり強めにスカーレットさんには闇に関わるなと絞られたが、エレボスとの関係を断つ気はない。
彼は言っていた僕が最後に残った同胞だと。
その言葉を聞いてしまえばもう無関係では居られない。
誰も近くに居ない寂しさを僕は知っているから。