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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
107/136

事件の後

「さて良い話と喜ばしい話と悪い話と君にとって面倒くさい話の4つがあるがどうする」

「じゃ悪い話から」


 

 僕は目を覚ましギルド2階の会議室に来ていた。

 エレボスの戦闘後ダンジョンの崩落に僕とエレボスは巻き込まれた。

 互いに手足が動かぬほどに消耗していたため此処で終わりかそう思っていたのだが、その時エレボスが博打をした。

 エレボスは自らの身体を闇に変換すると僕の体に取り付いた。

 支配権を奪われる事はなかったがおかげで体が動く状態まで回復でき、崩壊するダンジョンから逃げ出したというわけだ。

 ただ他人に取り憑かれるという行動は僕にとっても新種の恐怖であり、二度としないようにエレボスには言い聞かせた。

 

「もうアンタレスの危機もなくなったし、エレボスを入れられる牢屋もないからどっかいってよ」


 そう手を払いながらエレボスに言った、言ったのだがエレボスの次の言葉を聞き僕は愕然とした。


「いやな。暴走は確かにしたけど、別にダンジョンにいたから闇が暴走したわけじゃないんだ。原因は闇の溜めすぎ、だから発散できる相手が欲しいなって」


 錆びた歯車みたいな音を立てながらエレボスに顔を向ける。

 目をパチクリとしてから数秒後僕は全力でその場から逃走した。

 これからも定期的にエレボスの面倒など見ていられない。

 それにこれは絶対厄介事匂いがする、少しは自分の為に生きようと決めた直後にこれだやってられない。

 

 残念ながらエレボスと僕では身体能力歴然の差、すぐに首根っこを捕まれアンタレスのギルドに連れて行かれる。


(ああ、よくわかってらっしゃる。言う事聞かせたきゃそれが一番正しい選択だよ)


 そしてギルド支部にて敵の最強戦力が一人の冒険者の首根っこを掴んで自首しに現れるというカオスな状況が生まれたわけだ。


「おい、アンタレス支部の諸君、自首しにきたぞ」


 誰もが口を開け状況を飲み込めていない。

 皆を見てエレボスは口を歪め。


「条件は俺の監視役にこのガキ、ロスト・シルヴァフォックスをつける事だ」


 これが一応ことの顛末。


 そしていま会議室にいる親しいメンバーはサイモンさんのみ、他のメンバーは皆帰宅し休んでいる。

 それほどの激戦だったらしい。

 現在はコンラートの捕獲作戦から3日たった日のお昼すぎ、実は昨日までは体調不良で僕は布団の中に籠もっていた。

 そもそも今日来たのはギルドの医務室にいるガモ先生に体調不良の原因を明らかにして貰うためだ。

 無料で見てくれる医者がいるならそっちの方がいいじゃない、その程度の物。

 ただガモ先生の話だと体の節々が弱っているだけで外傷はない、また顔や手足の状態、心音なども確認されての発言。


「風邪みたいなもんだ」


 と言れてしまった。

 エレボスとの戦闘時、かなりの重症を受けていたことの自覚はあった。

 闇の耐性も戦闘中に高まっていっただけで、戦闘の最初の頃はそれほど高くない。

 その時受けた傷は戦っている内に気付くと痛みがなかった。

 始めてマナをルシアさんに体に打ち込まれた際は体のあらとあらゆる箇所から血が出たと聞いている、しかしその直後何事もなかったかのように動き出した。

 その時と同じ超回復でも起こったのだと僕は考えていた。


 ただガモさんには伝えなかったが、少し体が重い。

 今回全身に巡っていた物が魔素より起源が振るい闇だ、一応王都に戻ったらルシアさんに見てもらおう……後が怖いが。


 ギルド2階の会議室の長机、二人で使うには広すぎるこの場で僕はサイモンさんの隣に座り話し出す。


「悪い話だがな、エルディオには完全に逃げられた。もうアンタレスにもいない」

「だろうね、というか作戦前にはすでに逃げてたんじゃないの?」

「いや、その時はまだアンタレスにいた。ダンジョンの作戦の最中領主様が先祖代々アンタレスの地下で守ってきたある物を破壊してから逃げ去ったらしい」

「その物って?」

「機密らしい」

「そうなるよね」


 肘を立てサイモンさんは左手で顔を隠し、大きな溜息を吐いた。

 彼がここまで人前で心配事を体を使って曝け出すとは珍しい。

 信用されているか、それも勿論あるだろう。

 ただ僕の見立てでは問題はすでに解決されているという事案において上の物がしなければいけない義務、説明責任というのがサイモンさんを悩ませている問題だからと考える。

 その証拠に目元には大きな隈があり意識を呆然とさせながら宙を見上げているがどこか顔の表情が柔らかいように見える。

 この柔らかさは戦闘が控えている時にはサイモンさんは絶対に出さない。

 そして後に残る厄介事を話しだした。


「領主様にな一緒に王都に来てもらうかもしれないって言われた。俺やだよ、絶対王の御前で今回の事件の一部の説明をさせられる」

「はは、それはまぁ」

 

 サイモンさんは泣き上戸のような少し高めの声を出そう言った、目に涙を堪えてもいるか。

 僕はそんなサイモンさんに何か強くはいえない、ただ苦笑いを浮かべ、ごまかしその場を乗り切る。

 どう慰めればいいかわからないので諦めてくれ。

 それにしても王城への召喚になるほどの物、エルディオが壊したものが王都での事後報告の焦点となるだろう、少々気になるがサイモンさんもそれがどのようなものかは知らない。

 サイモンさんが知る事ができるタイミングがあったとしたら王城に召喚された時誰か口を漏らしたときくらいだろう。

 

 未来を直視しないようにしていたサイモンさんだが突然手を叩き妙案を思いついたように目に光が戻る。

 

「あのさロスト、アンタレスのギルド長にならない? 俺が本部長に推薦書くから」


 あ、駄目だ。

 この禄でもない考えが通ると本気で思っている以上気絶させてでも布団にこの人を押し込まないと行けない。

 その考えを諭すように。


「僕はそもそも特殊ランク冒険者だよ。それにもし僕がアンタレスのギルド長になっても説明責任はその当時のギルド長に準じたサイモンさんが王城に召喚さあれると思うけど」

「だよな。言っただけだ」

「どれくらい本気」


 一応だ、一応どれくらい本気かは最後に確かめよう。

 口では「言っただけ」そうごまかしていたが、最後の理性が働いただけだ。

 僕が先程サイモンさんの発言を本気だと受け取った理由は、あの馬鹿げだ方法を思いついたサイモンさんの目がまるで子供が欲しかったおもちゃを与えられた時ように輝いていたからだ。


「えっと10割本気」


 サイモンさんは机にゴンという音をたて頭を強くぶつける。


「だって生きたくないんだもん。あんないつ爆発するかわからない地雷原に」

 

 その光景を僕はどこかで見たことがあった。

 そうあれはシリウスで冒険者をしていた時の月末。

 配分依頼を計画的にやらず、結果3轍しながら外を駆け巡った冒険者と似た不安定さだった。


(この話は切ったほうがいいかな)


 これ以上この話はサイモンさんの心を傷つけると考え、僕は決心し話題を変えることにした。


「えっと良い話は?」

「あ、ああ、といってもさして変わらん。行方不明者の確保と昔の悲劇を起こさずに済んだ、それだけだ。後は負傷者は出たが死人は出なかった。助っ人のおかげで本当に助かった、勇者と聖女様がいなかったらコンラートの確保は出来たとしても被害は大きかった」


 サイモンさんは椅子に重心を深く掛けそういった。

 達成感の喜びよりも安堵を、彼の瞳が優しく緩む様子から僕はそう受け取った。


「ふ、つまらないだろ」

「つまらないのがいいんじゃない」


 多くの人の何事もない明日を続ける為に僕らは今回命を掛けた。

 ならつまらなくていい、ドラマチックな悲劇など誰も望んでいないのだから。


「こら若者、もう少し刹那的且つ挑戦的に生きんか」

「そうしなくても首根っこ摘まれて渦中の中に本部長に今後も放り投げられるし、それにトラブルは向こうからのやってくるから今はいいや」

「たしかにな、本部長ならやりかねん」

「でしょ、今回の初仕事でこの規模、正直次が怖いよ」

「ま、そこは頑張ってくれ」


 この話が始まってから今度は僕の気が重くなる。

 机に上半身を腹ばいに付けながら腕を組み、その腕の上に顎を乗せる。

 攻守が交代したこのように、ただどちらも気分が落ち込むだけというのがこの話し合いの厄介な所だ。

 

「最後の面倒くさい話だが……ロスト、お前さんがエレボスを王都に連れ帰ってくれ」

「……あの人、家に住むとか言わないよね。そこら辺はギルドが面倒見てくれるんだよね」


 その面倒事は予想出来ていた。

 目だけサイモンさんに向ける.その時の目は恐らく睨みつけるような目だったと思う。

 

 最後の同胞、こだわられるは理由は理解できる。

 ま、問題は起こさないと言っていたし大丈夫か。

 少々希望的な考えだと思うが止められる人間はいないので上層部も話しを呑むしかないだろう。

 

「多分大丈夫だ。ちなみに今はエルディオと入れ替わりにで牢屋にいる」

「どうしてまた?」


 サイモンさんの顔つきが鋭いものに変わる。

 

「借りにもアンタレスの冒険者支部を機能停止にまで追いこんだ男だぞ、上に置いておけるか」

「確かに」

「条件のすり合わせもあるしな、まそこは王都の人間に丸投げするかな」


 そういったサイモンさんは僕を一瞬だけ目に入れた。

 あくまで顔を動かさず、不自然なまでに目だけが泳いだ。

 交渉事は恐らく僕が関係しているのだろう、ただそれを今言うわけにはいかない。

 恐らく僕から拒否権を奪うために。

 全ての話が纏まった後に本部長からエレボスとの条件を告げられる。

 そして本部長は僕にこう言うわけだ、「アトラディア王国の人間を救うためだ、もちろんやってくれるな」と、サイモンさんの目が泳いだのは騙すような真似をする罪悪感か?


「嘘だね」

「まぁな、交渉を任されたの俺だ。ここだけの話ロストにはいずれ伝えなければいけないからな」

「で、内容は?」


 面倒くさそうな話だ。

 面倒事を押し付けられるのだ横暴な態度も許されると思い、本来上の人間であるサイモンさんに首を動かし話しを続けるように促す。

 ただサイモンさんの表情は柔らかい、恐らく僕が不貞腐れているからあのような態度を取ったそう思っているのだろう。

 本当はエレボスの事に興味を持っているその事に気付かれないようにしているだけなのだ。


(だって照れくさいし)


「そうだな、週一回、ロストととの面談が大人しくしている条件だ、誓約もロストとなら結んでいいと、好かれたな」

「ま、そうだろうね。例えば、目を覚ましたら自分が今までいた世界と全く違う場所にいました。世界中を回っても自分達が生きていたその痕跡すら見えません。そんな中で自分と少なくとも半分同種の人間が目の前に現れました。ってなったら大事にもするし、離れないでしょ」

「執着はするだろうな」

「そういう事、サイモンさん僕お茶を入れてくるね」


 僕は椅子から立ち上がり、会議室の入り口に向かう。

 扉のドアノブを掴み部屋を出る直前に、


「頼む」


 とサイモンさんの声が背中から聞こえた。

 扉を締め、そのまま1階の医務室へ、ガモ先生に相談し睡眠薬を貰う。

 その後ギルド職員が入る奥のキッチンに行き、紅茶を入れる。

 2階の会議室に入る前に睡眠薬を混ぜ魔法で紅茶を冷やした後サイモンさんに出した。

 だが書類に目を通しているため中々紅茶を飲もうとしない。

 そこで僕がしたのは机にある書類全てを纒め取り上げること。

 最後にサイモンさんへと手を伸ばし彼が今持っている書類を要求する。

 

「なんだよ」

「はい、どうぞ、あとこれは飲み終わるまで没収。休憩しないと」


 一瞬サイモンさんは眉を潜めるが僕の気遣いの一部に気付いたのだろう。

 呆れた目をしつつ、抵抗することなく手に持っている書類を僕に渡す。


「わぁったよ、それとありがとーー」

「おっと危ない」


 サイモンさんは一口紅茶を飲むとそのまま机の上に力なく倒れる。

 急ぎ彼の体を支える、ただ紅茶は手元からこぼれ床に溢れた。

 冷やしておいたからサイモンさんには怪我はないし、書類は僕が確保しているから汚れてはいない。

 後で掃除しておけばいいとお考え、サイモンさんを担ぎ医務室に連れて行く。

 

 ガモ先生の話からサイモンさんは何日も徹夜で作業をしている。

 ただそんな頑張り方ではいつか倒れてしまう。


「流石に頑張り過ぎだよ、みんなサイモンさんを頼りにしているんだから」


 僕がサイモンさんを背負い医務室に戻って行く中通り過ぎたギルド職員が僕に向かって、手を上げサムズアップをしてきた。

 その他以外にも冒険者にも色々な人とすれ違ったが皆顔にはよくやったと書いてある。

 そうサイモンさんの代わりはこのギルドにいない、だから倒れられては困るのだ。



 そして時は立ち、僕とクレアさんがアンタレスを経つ日、駅の前で見知った顔があった。

 

「お〜〜いロスト見送りに来たぞ」

「2人とも忘れ物はないわね」


 一組目は勿論リーザさんとグラントさんの二人だ。

 いつもの冒険者として活動する時の服装で二人は見送りに来てくれた。

 恐らく仕事の合間だろうがありがたい。


「ありがとうございますリーザさん」

「クレアとは随分一緒にいたけど、またアンタレスに来たら一緒に組みましょうね」

「はい」


 リーザさんとクレアさんが互いに手を取り合っている中で、グラントさんが僕の肩に手を乗せ、小声で話しかけてくる。


「で、その例の奴は」

「もう乗っている」


 僕は視線を後ろの駅に向ける。

 グラントさんが言っているのはエレボスの事だ。

 王都に連行するとは言え、その気になられては誰にも止められないため自由にするしかない。


「ま、大丈夫だよきっと」

「俺はお前の楽観的なところが羨ましい」


 自身の両肩を左右反対の手で掴み体を震わせるグラントさん。

 僕は目線を駅に向けたまま答える。

 彼の本質は僕とそう変わらない、寂しがりやなだけだ。


「そんな事しないさ」

「ま、お前だから言えることだな、俺は信じるよ」

「ありがと、でなんで4人も?」


 グラントさんのさらに右へと視線を向けると4人の女性がいた。

 そのうち3人はニコニコと僕に手を振っていた。


「師匠、私達は大陸中部に向かうために電車に乗って、西のベリルに行きます」

「ま、剣の手入れだけは忘れないようにね」

「はい」

「で、そのほか二人は理解できるけどなぜアリサさんが?」


 体を前のめりに元気よく答えるミリアムさんから目を外しアリサさんへと目を向ける。

 彼女は右腕を前に出し、ピースサインを突き出しながら。


「雇用先ゲット」

「なるほどの、ミリアムさんのパーティーに入ったと」

「そう、元々マスターランクに上がったらアンタレスから出ようと思ってた、そこにちょうどよく幅広く移動する仕事先が見つかった、本当に運がいい」

「多分ミリアムさんはお金の管理とか苦手だからよろしくね」

「任せて私の給料も掛かってるから」

「ちょっと酷くないですか!!」

「当然の処置」


 ミリアムさんに対して胸を張り、その抗議を軽く聞き流し僕は最後の一組へと目線を動かす。


「で、もういいんですか、クラリスさん」

「ま、もう休憩はいいと思うんだ。だからもう一度頑張ろうと決めた」

「それはよかった」


 サイモンさんから彼女の活躍を聞いている。

 無限に溢れ出ると錯覚させるほどのゴーレムの波を一人で割り、一番先にコンラートの元にたどり着いたと。

 そして彼女は目線を下げ優しげにを目ウィ瞑る。

 クラリスさんは何かを抱きしめるように。


「それに、もう大丈夫だから、それより君が無茶しないかの方が心配かな」

「はは、無茶はするかもしれないけど。まぁやり切ることが僕の取り柄だから」


 僕も彼女につられて、目尻を下げながら口角を上げる。

 そしてクラリスさんに寄り添うようにいるターニャさんに深々と頭を下げ。


「ターニャさんもクラリスさんの事お願いします」

「はい、私の役目ですから」


 力強く胸を叩きながらターニャさんはこの場で一番嬉しそうに笑った。

 それはそうだ、クラリスさんが折れてしまったのをずっと間近で見てきたのだ。

 だが今は立ち上がり、これから一歩前に進もうとしている、これほど嬉しい事もないだろう。 

 全員に挨拶を告げ、僕とクレアさんはその場を離れる。

 彼らは時間に余裕があるようで僕等が駅の中に入っても手を振っていた。

 そして列車の左側の席に座り、少しするとついに王都への列車が動き出す。


「いつまで振ってるんだよ」


 たまたま列車が発車した直後、先程別れを告げた面々の姿が見えた。

 同じ場所で今もクラリスさんを除いて手を振り続けている。

 その光景を窓枠に肘を付け僕は頬笑みながら眺め、アンタレスを後にした。 


明日からお休みとなります。

本来4章は、東にある小さな村での出来毎と、王都での事件を中心に行おうと考えていました。

でも投稿を開始して色々準備不足もわかってきたのでそこを埋めたいと考えたのが理由です。

又一からやり直して見ようと思います。


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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