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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
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夢の実現

 明日最終話です。

 その後活動報告で上げていたように1章の書き直しに入ります。

 

 エレボス視点


 期待をしていた。

 まだ同族が残っているのではないかと。

 純粋な闇人はもう居ない。

 かつて世界のエネルギーが魔素に移り変わった時にはすでに種族そのものが世界に適応するため形を変えていた。

 なんせ神と自分たちを自称していた連中もその世界の変化に適応出来なかったのだから。

 いや、ある意味我々より生き意地は汚かったが。

 

 この世界で信仰されている女神は彼らの中で下級の存在だ。

 ただ他の神達よりも一番最後に生まれ、それゆえに多少の魔素への耐性を有していた。

 この世の本質を説いた話しだ、生き残ったものが最終的な勝者であると。


 俺の結末も変わらない、肉体が滅びたこの魂ではそれほど長くは世界に居続けられない。

 老後、死ぬ前の余興のつもりで世界を旅していた。

 だが結局封印から時放たれ旅をし続けても孤独感は埋めれない。

 同族への憧憬、それにしたがい影を追うようにここ数年は動いていた。

 確かにこの世界に存在したという証拠を見つけても、すでに種族はすでに形を変えている。

 それを自覚してからある強い欲求が俺の中で生まれた。

 そう、生きた証を残したいと。

 例え遥か先の未来にまで残らなくても、俺が死んでも残り続いていく、そんな生きた証が欲しくなった。

 最初に考えたのは子供だが、肉体がないこの体では子供を作る事はできない。

 だから邪神教のコンラートと協力関係を結んだ。

 アイツは言っていた、昔1人の教団員が肉体を持たない存在が子供を作る方法を生み出したと。

 クローンでもなく、魂を分割した同一存在ではない、自分から派生した存在であるが、自分とは違う存在、子供を。

 

 だが引け目がなかったわけじゃない。

 元々俺は戦士じゃない、ひょんな事から決断し不相応な力を得てしまった一般人。

 大人がよく使う犠牲を許容しろ、そんな事はクソ喰らえとずっと思っていた。

 それでもこの心に宿った欲求と孤独感には耐えられなかった。

 

 ロストには冷たい言葉を掛けたが本当は嬉しかった。

 彼に闇を当て続ける毎に目の前にはかつて滅びた我が種族が蘇る。


 目の前の少年が、核を持たぬ、闇人のできそこないであることは理解している。

 それでも俺の孤独を埋めるのには十分だった。

 だが今はもうやめて欲しくもある。

 これ以上の夢は過ぎたるものだ、何故なら別れが寂しくなってしまうから。


「終わらせよう」


 体に力を溜める。

 ロストは闇の耐性が強い、であるのなら能力を切れば死ぬことはないだろう。

 ここまで来て俺はようやく目の前の彼を信頼し始めた。

 全力で闇を吐き出していいい相手だと。


 それにしても厄介だ。

 彼と出会ったせいで、胸の中の生きた証を残したいという欲求は強くなる。

 別に嫌ってはいないが俺とアイツは似たもの同士だったというわけか。

 俺の封印を解いたあの女、まさか同じ道筋を歩く事になとはな。

 確実性が増したと喜ぶべきか。


 そして先程と同じように剣を薙ぐ。

 今までと違う所は闇の量と出力、斬撃の速度は2倍、破壊力は5倍。


 ただその一撃をロストは斬り伏せ突撃をしてくる。

 さっきもそうだ、感知能力が異常なレベルで上がっている。

 いや、感知というよりは。


「さっきから考え事? 余裕だね」


 そこでようやく気付いた。

 闇を溜め込み、身体能力を向上させるだけ、それは大きな勘違いだった。

 本人も気付いてはいない確かに闇を纏始めていた。


「どこだ」


 驚愕による思考の乱れ、ロスト自身の速さ、そして一番の要素として彼の体の小ささ。

 どちらにしても近距離での戦闘から意識を遠ざけるのはようなかった。

 

 ロストシルヴァフォックスは確かに非力な存在だ。

 闇を纏っているといってもそれはエレボスが吐き出した闇を吸収利用しているだけ。

 だかそれ故に磨かれてきた感覚が存在する。

 現在彼は奥義である修羅を切って戦っている。

 その理由は闇による身体能力の向上でこの戦いに付いていける最低限の力がある事を理解しているからだ。

 代わりにオーラの結界術で足場を確保し、足運びでエレボスを翻弄する選択をし、さらには足音も消している。

 まったくロストのいる位置をエレボスは把握することが出来ない。

 背後を向いてもそこには姿がなく、上を向こうとそれは変わらない。

 ピッタリと背中に張り付かれる嫌で、苦しい、束縛感。

 だからそれは誘い込まれた必然の行動だ。


「オラ」


 地面に剣を突き立て周囲全てに闇を飛ばす。

 確かにこの攻撃は斬撃より威力は落ちるが元々全ての攻撃が高威力なエレボスだ、ロストが例外であっても確実に壁までは吹き飛ばせる、エレボスからしたらあくまで仕切り直しのつもりだった。


 予想外だった事は2つ。

 衝撃波を飛ばす前に背中を深く切り裂かれたこと。


 そしてもう一つはロストが闇の攻撃を正面から受けても一切吹き飛ばなかった事だ。

 首だけ後ろを見た時の彼の表情は目を大きく見開いているだけで変化はない。

 ただ体は違った、全身に俺と遜色ない闇を纏い闇を耐えていた。


 俺は今大きな隙を晒している。

 だから今後の結果も理解している。

 ロストは剣を俺の背中に突き立ててくるだろう、それを受け入れる僅かな時間に暴走をしていない制御できている部分の闇を溜め、振り払う。

 何痛みはないその筈だった。


「っく」


 体を貫く剣、それには明確な痛みがあった。

 肉体を失ってから痛みを感じるのは始めてだ。

 それと同時にようやく確信を持てた、この子は核がなくても闇を操っている。

 闇を纏っていたのは器に吸収できる闇の総量を大きく超えたため体から排出している事が原因だと思った。

 先程の闇の防御も体内の闇を過剰に放出することで行なっていると、勝手に解釈していた。


「はは、やめてくれよ。これ以上俺に過去の幻影を見せるのはやめてくれよ」


 俺がそう呟く一方でロストも追撃をしない。

 剣を俺の背中から引き抜くと、そのまま両手や体を見ながら数歩後退する。


「なにこれ」


 戦闘中に見せた珍しい人間らしい表情。

 確かに困惑が表情から漏れ出ているが、その口元には笑みが潜んでいる。


「闇だよ、同胞。どうやらお前はお目覚めが遅いだけだったらしい、なぁ受け止めてくれるか? 俺の孤独を」


 そして俺はようやく己の中に隠していた暴走状態の闇を解き放った。



「わかった受け止めるよ、その孤独を」


 この戦いの意味は変わった。

 やるこは勿論変わらない。

 でも、隠れる必要も怯える必要もない、ましてや卑怯にも背後をとって攻撃する必要も。

 気付いてはいたんだ。

 エレボスを剣で斬り裂いても殺すことはできない、いくら斬っても闇が漏れ出すたけ。

 もっともエレボスを消耗させたのは闇の斬撃を大量に使わったタイミング。

 エレボスと真正面から戦い合う、それができる存在がどれほどいるだろうか?

 

 毒をもって毒を制す。

 エレボスが吐き出し、結界によりこの空間に充満した闇を僕は使うことができる。

 事実として空間内にある闇を使う事でエレボスと真正面から戦う事ができるだろう。

 それを意識した途端一瞬泣きそうになった。

 恐怖じゃない、色々過去の思いが溢れ出したから。


 シリウスで冒険者を始めてリーザさんい出会うまで僕はあるスタイルに固執していた。

 真正面から相手を叩き潰す、幼馴染のレティシアのような戦闘スタイルに。

 ただその固執も現実を見続ける事で捨てた。

 アンタレスの闘技場で戦っていた時だって実は回避中心に立ち回ったり、普段より理想に近かっただけだで、足を止めて真正面から戦うとは程遠い。


「ありがとう、行くぞ」


 エレボスはそういうと、体の力を抜いた。

 目は真っ赤に染まり、闇を周囲に放出し始める。

 ここに来てようやく条件が全て揃った、アンタレスを救うための条件が。


 暴走状態に入ったエレボスは獣ような唸り声を上げ、こちらに突っ込み剣を振るう。

 それを真正面から受け止め鍔迫り合いに。

 今回鍔迫り合いを制したのは僕だ。

 数歩下がるエレボスを見てついつい口角が上がる。

 

 憧れの実現、それは夢のような感覚だ。

 だが油断はない、いやできない。

 心の内側がさっきからおかしい、感情が芽生えるのは一瞬。

 体が震える恐怖、負けられないという意地、死にたくないという執着心。

 それらは確かに一瞬心の中を強く打つが、安心感が全ての感情を包み込み心の奥深くに鎮める。

 

 何も心配することはない。

 普段どれだけ肩に力を入れていたかが今はわかる。

 自分で望み、どれだけ胸を張ろうとしていたかがわかる。

 できると盲目的に思い込み、己を脅迫し続けていたか。

 確かに普段はそれでいい。

 準備とは脅迫感があったほうが進む、でも本番にその脅迫感は余計だ。

 学び、憧れそれを全てくれた彼に感謝を述べる。

 

「こちらこそありがとう」


 静かな心持ちでそう呟くがエレボスの返答は攻撃だった。

 剣をデタラメに振り斬撃を飛ばし始める。

 そのどれも今で一番の威力があるが、今までで一番無駄が多かった。

 

「牙比べと行こう」


 剣に闇を纏わせ一閃。

 僕の放った斬撃は一撃でエレボスの攻撃を打ち破り、ダンジョンの壁に彼を叩きつける。

 力がなかった僕は技術を磨くしかなかった。

 でも技術を活かすにもまた力がいる、それを知った時僕がどれほど打ちのめされたか。


 壁に叩き付けられたエレボスはすぐに立ち上がる。

 エレボスに対して物理攻撃がどれほど意味があるかは知らないが有効打になるとは思っていない。

 やはり狙いは闇を吐き出させ続けること。


 そこからは特に変わったことはない。

 エレボス自身、今は意識なく暴れまわる獣ようなものだ。

 その程度ならいくらでも対処できる。

 消耗を抑えできるだけ真正面から自分の憧れを堪能しながら闇を発散させる。

 心配な事はダンジョンの崩落くらいだが、元々ダンジョンの強度が高い場所を選んで戦っている、そこは

ダンジョンを信じるとしよう。


 どれくらい時間が経ったか。

 確実に6時間は付き合った筈だ。

 

「このまま続けてもいいけど、そろそろ終わらせない」


 今だ意識がないはずのエレボスにそう話しかける。


「ああ、この時間が終わるのは寂しいが同感だ」 


 予想通りエレボスから意志ある返答が返ってきた。

 先程から動きと闇の使い方に理性が混じり始めていた、そこから実は意識が戻り始めていると予想していた。


「最後に俺からいいか、ロスト・シルヴァフォックス。お前母親にかんしゃしとけよ」

「……わかったよ」


 腰に手を付けながら言ったエレボスの言葉。

 その意味は理解している。

 確かに僕は力が欲しかった、ないことに嘆いた。

 シリウスにいた時の精神的に未熟な僕ならきっと今のような体験をしたら母親を恨んだだろう。

 どうして僕から力を奪って生んだのかと。

 エレボスの闇は強大だ、例え操るだけだとしても、闇に対する高い素養がなければ肉体が持たない。

 もし僕が闇を生み出し、扱う核を持て生まれていれば少なくとも力で悩む事はなかっただろう。

 エレボスのいる母親に感謝しろとは僕が生まれて来る際に母親がしたであろう細工の事だ。

 それは闇を生み出す核を持たずに生むこと。

 闇と魔素の相性は悪い、もし僕が核を持って生まれてきたら2歳ごろには魔素適応障害で死んでいただろう。

 そういう意味での母親に感謝しろ、という話しだ。

 互いに寂しさを別の意味で覚えているが、これで戦いも幕。

 戦いの最後に何かカッコいい事を言おうと思いはしたが……結局これに集約される。


「「ありがとう」」


 エレボスは不思議に思ったかもしれないが、僕にはこれが必然に思える。

 伝って来るのだエレボスが吐き出した闇を通じて、彼の孤独や寂しさ、この戦いがどれだけその思いを埋めたか。

 学びの多い戦いでした。

 事前準備から何もかも、心が何度も折れそうになりました。

 背負う物の重さに押しつぶされそうになりました。

 人の思いの温かみとその熱さを知れました。

 そして最後に憧れから見る景色を見ることが出来ました。


 互いに剣を上段に構え闇を溜め込む。

 僕はこの空間内にある闇を全て呑み込み、エレボスは己の中の闇を全て剣先に集約する。

 競い合っていないからか、不思議と剣を振り下ろすべきタイミンがわかる。

 無駄な掛け合いもない、そのままこの戦いの締めくくりとして互いの溜め込んだ闇を斬撃として解き放った。


 闇がぶつかり合うがその結果を僕は見ることは出来ない。

 最後の最後に力を使い果たしその場に倒れる。

 エレボスも同様であり腰を地面に落とす。

 そして僕らは崩壊するダンジョンの音を聞きながら静かに目を閉じ、崩落に巻き込まれていった。


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