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痛みを知るから優しくなれる  作者: 天野マア
3章 アンタレス、中編 
105/136

必然の戦い

クレア視点


「っち何だあのロストとか言うガキはいないのかよ、腰抜けか?」


 その言葉を述べたのはここに集まっている冒険者でもなく闘技者でもない、数合わせにきていた兵士の一人だ。

 

 ただ言葉には苛立ちを覚えるが、彼の言い方は間違っているが事実である。

 コンラートの捕獲の作戦決行の当日冒険者ギルドにロスト・シルヴァフォックスは現れなかった。

 確かに彼は腰抜けだ、だって。


(結局相談してくれなかった)


 例え私にできることがなくても、話くらいは聞きたかった。

 アンタレスでの生活、確かに彼と私は殆ど別行動だったので何か出来たかと言われれば難しい。

 きっと彼の無茶を止める、いらぬ足枷どまりが関の山だ。

 それでも痛みだけは分かち合いたかった。

 

 ロストがエレボスとの戦いから戻っ来てからの数日間、彼が泊まっている部屋は異常な程に生活音がしなかった。

 まだ無人の方が何か感じさせる、そう思わせるほどに、息を潜め生活してた。

 この前みたいに強引に押し入る事も考えたが私も宿屋でゆっくり休めたのは昨日くらい。

 残念ながら時間がそれを許さなかった。

 今朝くらい話せる、そんな淡い期待も抱いていたが目を覚ました時はすでに部屋にはいない。

 破かれたシーツと枕、そして刃が閉まっていない鞘が置かれていた。


 ロストが何処に行って何をしているか、それを知っているのはギルド内ではサイモンさんのみだろう。

 今回のコンラートの捕獲は簡単な話ではない。

 確かに戦力は揃っているだが十分とは言えない。

 今回の主な敵は魔物、現状を詳しく説明するとダンジョンでは魔物の氾濫がおきかけている。

 今まで気付かれなかったのは魔物を隠されてい事、そして魔物そのものをコンラート自身が作りだしていたからだ。

 コンラートの捕獲事態の人員は足りている。

 しかし魔物の討伐まで考えると少々人員が足りない。

 

 兵士も悪気はあっただろうが、それは少しでも戦力が欲しかった現状を憂いての事だ、誰もその発言を責めることはしない、ただし後続は別だ。


「だよな、あんなデカい態度をとっててよ」


 誰も文句を言わない事に叩いていい材料とでも思ったのだろう。

 緊張と不安を吐き出すように周りの兵士たちは続く。

 

「ああ、この前の作戦でナディア様に楯突いて何様だよ」

「それでこの作戦に顔すら出さないとか、どんな腰抜けだよ」


 ただ冒険者達は違った、彼はきっとエレボスとの戦いに挑もうとしている、それは皆感じ取っていた。

 自分たちでは戦う資格すら持っていない、それに不甲斐なさを感じさせながら。

 闘技者達はどう思っているのだろうか?

 顔色を疑う余裕はない、何故なら。


「後から来ただけの人間が、群れないと何も出来ない人が、苦しみながらも戦っているロストを馬鹿にしないで下さい」

「なんだこの女」


 ロストの陰口を大声で話していた一人に平手打ちをしていた。

 いつもなら行動よりも思考が先で、その思考も行動の結果、誰に何を思われるかという消極的なものばかり、ただ今回の平手打ちは完全に頭に血が登った故の行動。

 

 兵士達も仲間が攻撃されたとなれば黙っていられない。

 拳を振るい殴り掛かってくるが、頭に血が登った行動の後にしては私はえらく冷静だった。

 それをステップで躱し兵士の内側に入り込むと、拳を振り抜いた為伸びている兵士の腕を取り、床に叩きつける。

 そして兵士の一人は完全に伸びてしまった。

 兵士の一人が私のような小娘にやられた事でプライドに傷でも付けられたのだろう。

 彼らの仲間の一人が剣を抜く。

 ただそれが終了の合図でもあった。


「おい、それ以上やるならこちらも考えがある」


 一人の闘技者が、そしてその後ろには多くの作戦の参加者達が兵士を睨んでいた。

 その圧に当てられてか、剣を抜いた兵士は焦ったかのように剣を収め、伸びている仲間に指を差す。


「冗談だ、それにあそこの、床にの転がっている奴の面倒を見ないとな、ほら行くぞ」

「は、はい」


 それだけ言うと兵士達は床に叩きつけれられ伸びている男性を、肩に担ぎそのままギルドのロビーその隅っこに小さく集まっていた。


 事態が一応の収拾を見せると、皆の視線は散り、先程までの緊張した空気に戻る。

 そして一旦私も落ち着くために深く呼吸をする。

 らしくない行動をした自覚はある、それでも。

 己の中で答えを出す前に肩を優しく叩かれる、後ろを見ると。

 

「クレア、やるじゃん」

「ありがとう、アリサ」


 最近ギルドに頻繁に来ている闘技者アリサがそこにいた。


「私自身も驚いてるんだ」

「ま、クレアは八方美人だからね。一人の味方をしたのには私も驚いたよ」


 アリサの表情は中々変わらないが最近は少しその変わらない表情の中からでも感情を見分けられるようになってきた。

 現在はからかい半分、そして本気半分と言ったところか。

 言われなくてもわかってます。

 そう心の中で悪態をつきながらも、心の底から同意する。


「だよね」


 今だ手に残る、兵士を掴み投げた感触。

 そして、ロストを馬鹿にされた時の無意識に行動をしてしまった熱。

 どれも初めての体験だった。

 本来私は他人に嫌われるような行動を極端にしない。

 それは恐怖への防衛策であり、それもあって一人の特定の人間と親しくなることはなかった。

 私の生まれから人というものに強い警戒心を持っている。

 理由もわかっているが、それは私自身の体質といってもほぼ変わらない程変えがたいものだ。

 ここまで大げさに言っているが人の第一印象が他の人よりも少し……かなり偏屈なだけなのだ。

 

 だから無意識動いてしまうほどの激しい感情を誰か個人の為に発揮できるとは思っていなかった。

 その変化を私は嬉しく思う。

 彼らと私が変わらない、その証拠は私の生きる意味、それを肯定する事同義であるから。


 私が胸の内の感慨を整理していると、ギルドの正面から大きな声が歓声があがった。


「凄い人が来たね」

「凄い人?」

「うん、勇者と聖女、教会の最高戦力の一つ」


 そこにはピンク色の髪をした女性と緑色の髪を後ろに纏めたミリアムがいた。

 どちらも容姿が恐ろしく整った人物でその二人に注目していると。

 背後を再び叩かれる感触がした。


「サイモンさん」

「お祖父ちゃん、女の子の肩を無言で叩くのは犯罪だよ」

「悪いな、それとクレアお前にだけは言っとこうと思ってな」

「何をでしょうか」


 目に隈を携えた、初老の男性であるサイモンの目は鋭く、力強いものだった。

 責任感もあるが、その眼力はただ目つきが鋭いだけで寝不足なだけだ、それを私はここ数日で十分過ぎるほど知っている。

 彼は隣にいるアリサにも聞こえない小さな声で私に話す。


「今回の作戦、ロストはこない、アイツはもう行ってしまった」

「そうですか。」

「悪いなこれ以上は言えない、というよりは知らない。本人は1度も助けを呼ばず、求めず行っちまったよ。ただアイツは言葉の裏で俺達に任せてくれ、そう言っていたよ」

「馬鹿」

「ああ、本当にな。で、相談なんだけどな俺は多分この作戦が終わったら事後処理もしないで数日間寝る。その間馬鹿の折檻を頼んでもいいか?」


 確かに何度言っても人を頼ろうとしないお馬鹿にはそろそろキツイお灸を据えてもいいかもしれない。

 その大役を譲ってくれるのなら有り難く受け取ろうと思う。

 気持ちよく折檻をするためには最高の結果を。


「ありがとうございます」

「後は頼む」

「はい」


 サイモンさんは私との話を終えると、そのままロビーの作られた壇上に上がっていった。

 アリサの様子が気になり後ろを向くと、彼女は顔を膨らませていた。


「お祖父ちゃんと何を話してたの? ま、聞きはしないけど」

「ごめんね」

「別に〜〜。ただ入れ込みすぎないでね。物事適度に力を抜いたほうがいいから」

「ありがとう、そうする」


 アリサには気遣って貰ったが、入れ込みすぎない、それは到底無理な話しだ。

 ただわかってはいた、わかってはいたけど。

 それを知っている人から事実を聞くと聞かないではやはり違う。

 戦う場所は違ってもロストと一緒に戦っている。

 そう思うとやっぱり負けられないと気合が入る。

 

 壇上に登り話し始めるサイモンさんを目にして、一段と拳を強く握りしめた。

 


「来てしまったか」

「ま、こないっていう選択肢はないから」


 ここにたどり着くのは難しくない。

 そもそもエレボスも自身でこの状態を起こしたかったわけじゃない。

 暴走し力の制御ができない、だから彼はじっとしていただけだ。

 そんなエレボスの元にたどり着く方法は簡単、ただ彼が通った道を追いかければいい。

 亜空間をぶち破りながら移動している関係上、進みは遅い、状況がわかっていれ誰でも答えにたどり着けるだろう。


「それにしても魔物が多いね」

「ああ、コンラートも俺の状況が予想外なんだろうな。魔物をこちらによこし、俺の力の発散を手伝ってくれようとしているが意味はない。あの程度いくら来ても変わらない、それにしてもあの盾使いは……名前は知らないな。教えてくれないか」

「うん、名前はアーネストさん」


 下を見ながらふっと薄く笑いアーネストさんを彼の名前を噛みしめるように教えた。

 深い理由はない、ただこの場に彼がいないことが少し寂しかっただけだ。

 それともう一つ、認めたくはないが。


「そうか、アーネスト。いい名前だ。戦った相手の名前を中々聞く機会なんてないからな。戦場じゃ名乗り合いなんかはよほど泥沼な戦況に嫌気をさした両陣営が出した苦肉の解決策か、馬鹿な騎士ごっこをしている貴族坊っちゃん以外やらないからな、後お前の名前は」

「僕、僕はロスト・シルヴァフォックス」


 そう認めたくはないが僕はエレボスと戦う、その恐怖感さえなければ彼との会話に安らぎを覚えている。

 よくも悪くも近しい種族らしいし、今まで他の人達から感じていた疎外感が端から存在していないから話しやすい。


「それにしてもいいタイミングだな」

「どういうこと?」

「見ろよ」


 そういうとエレボスは魔物達に指を刺す。

 魔物達は今までこちらの周囲を囲むだけで攻撃はしてこなかった。

 だが突如牙を向けこちらに飛びかかってくる。

 それをエレオスは腕を軽く振るだけで蹴散らす。

 闇により壁に叩き、押しつぶされ周囲の魔物達は全滅した。


「どうやら上の作戦が開始したらしいぜ」


 つまりコンラートは魔物を操れるが命令は全体にしか出来ない。

 いや必要ないのか、アンタレスの街を襲うだけなら足並みを揃えるだけで十分。


「最後だ、逃げろ」


 今までの和やかな雰囲気とは別にエレボスはそういった。


「答えは決めたからここにいる。逃げないって、それに明日を生きるって」

「そうかお前は闇を感じ取れるんだったな……これ以上野暮か」


 出来る手は最初から全て打つ。

 オーラの結界術に修羅を使った強化、探知魔法による高位探知、そして最後マナによる。


「それは無駄だと思うがな」


 体に注射器の中身を打ち込んだ後にエレボスはそういった。

 ただ体もエレボスの言葉に同意するように変化を起こさない。

 普段体にマナを注入した時は全身の血が沸騰したように感じる。

 だが今回は体の中を巡る熱さを感じない、マナによる肉体の活性化が出来ていない事を意味していた。

 いったい何故?

 答えは目の前にいるエレボスが知っていた。


「そもそもお前はマナよりも闇の方が肉体的にあっている、だからマナと闇、同じ物体が近くにあるのならお前は闇の影響をもろに受ける」

「確かにそうかもしれない……でも」


 体が軽い、力が溢れてくる、肌感覚が鋭くなるなどの変化は一切ない。

 闇の方が体の相性がいいのなら何故体に変化が起こらない。

 

「体の活性化、今まで疑問に思わなかったか? どんな物でも次第になれる、それが劇物であればあるほど。お前が先程使おうとしたのはマナだがな、体の活性化を継続して引き起こせるよう特別配合されたマナだ。それに闇ってのは個体差が酷い。お前が自分の体を闇で強化したいなら闇をお前が使いやすいように体の中で変換しなければいけない。ただ闇を扱う器官である核がなければそれは出来ない。残念だがそれが道理だ」


 エレボスは突如走り出し、間合いを詰めると闇を纏った剣をこちらに向かって振り下ろす。

 己の剣でエレボスの振り下ろしを受け止めるがそのあまりの威力に吹き飛ばされ先程の魔物と同じくダンジョンの壁に叩き付けられる。


「なぁに安心しろ、ここには魔素がない。俺が結界を張っているからな。普段の息苦しさはないからゆっくり楽しめるぞ」


 壁に叩き付けられた時に頭を打ち視界が僅かに揺れる。

 一瞬の怯み、今までとは違いそれをエレボスは待ってくれない。

 威力こそ低いが連続で闇を纏った斬撃を飛ばしてくる。

 回避が間に合わず剣でその斬撃を受け止めるが斬撃1つ1つを剣で抑える度に壁に体が押し付けられ、防御が崩れる。

 エレボスが手を止める5分間闇の斬撃を浴び続けた。


「やっぱりだ。お前の闇の耐性は少し強すぎるな。なにもんだ?」


 5分間の斬撃を浴び続けたその筈なのに体はピンピンしていた。

 確かに闇は僕には効きにくいらしい。

 だが遠距離攻撃を無抵抗に受け続ける事に危機感を覚える。

 まずは距離を詰めなくては、そう思いまず1歩踏み出す。

 

「え」


 確かに強めに地面を踏み込みはしたが、まさか1歩でエレボスの正面までたどり着くのは予想外だった。

 エレボスは目を見開き、恐らく僕も似たような表情をしているのだろう。

 僕は己が弱者だと知っているから勝つためには少々汚い手も使う。

 例えば戦闘中背を向ける事によって相手を誘い込み罠に掛ける。

 そんな技術を磨いて来たからだろうか、相手が明確な隙を晒すと無意識に手が出てしまう事がある。

 本来互いに動けぬその一瞬を剣で切り裂いた。


「おいおい、まじかよ。核はないくせに闇を扱えてるだーー。いやこんな時代だ、闇の能力を捨てる代わりに独自の進化をしたのか? 個体差のある闇を変換せずに身体能力強化だけでも使えるように。俺の常識からするとびっくり人間だなこれは」


 ただエレボスも相変わらず笑みを浮かべている。

 腹を横に切り裂いた筈だが、傷口からは以前と同じように黒い煙が出ているだけ。

 作戦は変わらず、近距離で戦う事でエレボスに闇を溜めた高威力の一撃を使わせないこと。

 今回はアーネストさんがいないから、1人分の労力を生み出さなければいけない。

 

 エレボスと剣を重ね鍔迫り合いになる。

 普段なら鍔迫り合いをしても一瞬で力負けをし吹き飛ばされてしまう。

 今回も押し負ける事には変わらないが10秒近くその場で粘る事ができた。

 確かに今だ実力差は歴然、ただこの戦い僕の中で少し意味合いが変わってきた。

 普段のマナよりも身体能力が高いこの現状でどこまでやれるか。

 

 それでも鍔迫り合いに負け、僅かに後方に吹き飛ばされるその瞬間に煙玉を落とす。

 視界が白煙に染まり、エレボスの視界から姿を消す。


「そういうのも嫌いじゃない」


 エレボスは右に体を捻り闇を溜める。

 視界を煙などに防がれた際に起こすシズカさんも行なっていた行動。

 やはりエレボスは技術的には未熟な部分が多い。

 シズカさんは面倒臭がって煙を晴らそうとしたが、元々彼女は煙の動き方から相手の動きを読み、相手の場所を正確に把握することができる人だ。

 それにエレボスは現在結界術を使っている。

 普通結界術を使える者は、結界内、言うならば自分の領域内なら相手を見ずに場所を把握することくらいは出来るはずだ。

 もし突くとしたエレボスの技術的な未熟さからくる対応能力の低さ。

 今までならそれも力任せで何度か出来たのだろうが……ここは山を張るか。


 数秒後エレボスは全身を使い365°を一振りで薙ぎ払った。

 威力は絶大、アーネストさんが最後に耐えた一撃を大きく上回る。

 近場の壁を全てぶち抜いた結果、ダンジョンが悲鳴を上げるように地面を揺らす。

 

「クッソ」


 しかし不満げな声を上げたのはエレボスだった。

 彼の背中は大きく切り裂かれ、黒いモヤが漏れ出す。

 エレボスの背後には深く腰を落とし剣を振り切った僕がいた。

 

 山を張る、その意味はエレボスの薙ぎ払いを天井に張り付く事で躱し、音もなく死角に着地、そして攻撃する。

 この煙玉戦法を使うと何故か上への警戒が皆薄くなる。

 技術とは知識でもある。

 だがこれも小細工のようなものだ。

 エレボスへの勝ちのビジョンは見えない。

 どうすれば、暴走は止まるのか? どこがエレボスの急所なのか? あまりにわからない事が多すぎる。

 

「なんだ、1人でやれるじゃないか」

「なんとかだよ、なんとか」


 一歩エレボスから距離を取りそう答えた。

 確かに身体能力は上がったが緊張感がやばい。

 一撃当たれば終わり、そこからは脱出したが、以前終わらぬマラソンをしているようなもの。

 ゴールが見えればまだ体の消耗を抑えられるが。

 


「安心しろ、これを使うのは肉体を失ってから初だ」


 体が震える、もう慣れた筈だった。

 エレボスは底なしの力を持った化け物だ、そう僕は前もって定義づけてここにきている。

 今までのエレボスの変化はあくまで1度に使う闇の量その増減だけだった。

 ただ今回はエレボスが纏っている闇、そのものの質が変化した。


 今まで合わなかったピースが当てはまった気分だ。

 確かにエレボスは僕にとって恐ろしかった。

 だが今までの戦いでどうにか抵抗出来てしまった。

 それが頭の中でずっと疑問だった。

 抵抗できる、その程度の相手で僕が怯むか?

 これでも死ぬ覚悟はいつでも出来ていた、そんな僕が無理だと諦める程の恐怖。

 その答えが目の前に現れた。

 

 あの闇はより深く、より重く、深海とはこんなところなのかと母なる海を連想させる。

 油断はしていない、ビビっただけだ。 

 しかしその僅かな動きの遅れが今回の結果を招いた。

 

 エレボスが剣を横に振るその直後僕は壁の中に埋まっていた。

 ダンジョンの壁の修復力が早いとかはどうでもいい。


「がっは」


 今まで何事もなかった闇の攻撃が体にダメージを与える。

 腹部を強く殴られたような体の反応、突然の事でまだ状況が飲み込めない。


「俺の闇の能力はこの世のあらとあらゆる部質に強い干渉能力を持つことだ。元々闇や光は直接殴る事には向いていない。魔法に使う際魔力の代わりに使うことで恐ろしい威力になったり、あくまでエネルギーであり戦う技術でない。ただ俺の闇、その固有能力と併用すると闇の質が高ければ高いほど威力が増す、絶対の一撃になる、さて質の上がった闇はお前に次どんな変化を表すかな?」


 そしてエレボスは軽く剣を振るう。

 1度は剣を前に斬撃を受けようと思ったが、目に見えぬ程早く先程のよりも数倍思い、とても受けきれないと思い、斬撃を逸らす。

 ただその斬撃も1つではない、エレボスは次々に斬撃を飛ばし始めた。

 横に回転し斬撃の射線から逃げ、足元飛んできた斬撃は飛び上がる事で回避、そして空中に飛び上がった所にエレボスはトドメの斬撃を放つ、それは空中を蹴り移動、ただ咄嗟のことだ満足な着地点が選べず顔の方から床に着地をしてしまう。


「期待外れだな」


 立ち上がろうとしたそのタイミングでエレボスの斬撃は僕に命中した。


「もういい、寝ていろ」


 背中を向け、こちらにはもう興味はないと。

 どちらにしても死ぬことはないとエレボスは変わらず言っている。


「正直さ、期待外れだとかそういう言葉にはもう慣れているんだよね」


 帰ってこないはずの返答にエレボスはこちらに向き直り信じられないよう目で僕を見た。

 全力ではない、エレボスからしたら戦う気になっただけのこの状態で何を驚いているんだか。

 驚くなら全力の一撃を受け止められてからにして欲しい。


(そもそも狡くない? ちょこちょこ小出しに実力出してさ。おかげで毎回始めての技を見ている気分でやりにくい)


 ただエレボスの闇の質が変わって僕自身明確な変化が起きた。

 わかるのだ、エレボスの闇の動きが直感的に。

 必要なのはそれに身を委ねること。

 鈴を、腰の道具袋、上着をのジャケットを脱ぎ地面に置く。

 今は探知魔法による情報よりも、エレボスの闇を直感的に把握できる感覚を信じたかった。

 他の装備も地面に置いたのは、少しでも身軽になるため。

 

 そして一呼吸おいてから今度は僕から距離を詰める。

 やっぱりわかる、エレボスの闇の動き、そこから導かれる斬撃の飛んで切る場所が。

 問題点は中距離、遠距離はまだ飛んでくるまでに僅かだが間隔が開く、当然だが距離を詰めれば詰めるほど斬撃の間隔は短くなる。

 ただそれを埋める手段はいくらでもある。

 例えば奥義である修羅、実は先生から修羅には弱点があることを伝えられている。

 それは体の動きが直線的になってしまうこと。

 鍛錬次第でなんとかなる、というかそれも又ファトゥス流において重要な修行らしいが、今回重要なのはその直線の動きの速さ。

 

 後はその時待つだけだ。

 斬撃を中距離で捌き続けエレボスが焦れるのを待つ。

 そしてエレボスは1度僕を後方に押し出すために今までの軽い斬撃よりも強めの闇を剣に纏わせ前面広範囲に薙ぎ払う。

 先程剣での防御が成立しなかった理由は斬撃そのものに対応出来なかった事、そしてもう一つそもそも受けられる攻撃ではなかった事。

 たから受けなければいい。

 最近付けた剣を振らぬ時はすぐ納刀する癖。

 それがここで生きてくる。

 確かに僅かな間しか納刀出来てはいないが、闇を感じ取る直感があれば出来るだろう。

 そしてエレボスが放った広範囲の斬撃を僕は斬り落とす。

 だが今回苦心するのはそこではない、己の本能を抑え、二の太刀を考え抜刀術を行うこと。

 

 エレボスの斬撃を斬り正面が開かれた直後、修羅を使い距離を詰める。

 身体能力の上昇に加え、今日始めて活きる修羅のスピード。

 武器には無作法ではあるが、正面に着地と同時に剣は振り終え、エレボスの首を深々と切り裂いた。

 

「勝負はこれからだろ」

 

 出来れば連れて行ってくれ。

 君たち闇を使う物の天敵がどこまでやれるかその可能性の先まで。


 


拙い文ですが読んで頂きありがとうございました。


また読みに来てくだされば大変うれしいです。


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