65話 失礼な奴だなあ
それぞれの階層にゴブリン隊、更にはテツカミバチの女王、オーク隊の半分を置きながら俺達は40階層に足を踏み入れた。
遠藤からの事前調査の結果から【NO9】は案外短い50階層までの作りとなっているらしく、その分階層ごとのモンスターの強さに結構な差があるらしい。
だから自信満々なコボ率いるコボルト隊は温存しているという状況だ。
因みにマグちゃんも分裂する事でかなりの数の戦力になるからマグちゃんにもどこか階層の占拠の主軸として頑張ってもらいたいと思ってる。
まぁ無難にこの階層を任せちゃおうか――
「誰かここまで来たと思ったら、交代の時間じゃなくて侵入者か……全く上はどうなっているのかねえ」
奥の方から首をパキパキと鳴らしながら気だるそうに1人の男が歩いてきた。
がたいはかなりいい。
「『橘フーズ』の人ですね。さしずめ侵入者対策としてここを守ってる探索者ってとこですか」
「侵入者は殆ど来ないからドラゴンをたまーに殺すだけでガッポガッポ稼げる楽な仕事って聞いたのにさ、めちゃくちゃいるじゃん侵入者」
男は質問した小鳥遊君と目を合わせもせず、独り言を呟きながら辺りを見回した。
俺は1度スマホで時間を確認して、そんな男に殴りかかる。
ここまで来るのに想像以上に時間を費やしてしまった。
手荒で悪いが、暫く気絶しててくれ!
「いきなり襲ってくるとかヤンキーかよ。ってお前見た事あるな」
「……もしかして坂本?」
「お前は……宮下か? お前随分見ないうちにおっさんになったな!お前に探索者なんか無理だと思ってたけど真坂こんなところで会うなんて。もしかしてヘボだったお前を雇ってくれたところがあったのか?」
「ああ。坂本は『橘フーズ』っていうデカい会社に養われてたらふく飯食ってるんだろ?その腹ちょっとヤバイぞ」
「ははははははははははっ! 太い腹は勝ち組の証! 細っちいお前と俺とじゃ生活のレベルが違うんだよ!」
坂本信也。大学の同級生で俺と同様に探索者を目指す学生だった。
その戦闘センスは大学内でも有名で、大学時代から既にレベルがトップクラス。
大手から勧誘の声も多く、大学としても自慢の生徒の1人だったらしい。
たまたま同じゼミだった俺は坂本とその友人によく馬鹿にされたもんだ。
「そんでお前はここに何しに来たんだ? ドラゴン狩りなら上でやんな。ここが侵入禁止なのは知ってるだろ?」
「分かった上で押し入ってる。俺達はこのダンジョンを占拠して、ここを俺達の根城にしてやるつもりだ。悪いけどそこ、退いてもらうえないか。退かないって言うなら痛い目見るかもだぞ」
「ああ?お前が俺にそんな事出来るはずがないだろ?馬鹿な事言うのは大学の時から変わってないみたいだな。俺達も30過ぎてるんだからよお、夢見がちな青春生活はやめた方がいいぜ」
「生憎、俺はこの歳でようやく夢が叶えられるところまで来てるんだ。全力のおっさんを見てドン引く若い子達もいるかもしれないけど……俺はここを進むぞ」
「宮下の癖に生意気言うじゃねえか。分かった。やれるもんならやってみろよ。11レベルの底辺探索者、宮下くんよお!」
坂本は人間相手だっていうのに露骨に殺気を放ちながら剣を抜いた。
そしてその剛脚で地面を蹴飛ばすと、一瞬で俺との間合いを詰めた。
速い、それに迷いがない。
――キィン
剣を受け止めようとした時、金属がぶつかって生まれるあの高い音が響いた。
「お前みたいな失礼な奴、俺で十分」
「コボルト? それもかなりレベルの高い個体だ。これだけの個体をテイム? ……もしかしてお前、あっちの道にいた奴か?」
割り込んで坂本の剣を爪で受け止めたコボ。
それを見た坂本は気になる事を口にした。
もしや坂本かあそこに立て看板を?
「そういや最近コボルトの焼肉屋が流行ってるって聞いておかしいとは思ってたんだよな。野生のコボルトなんてあそこで放置した奴くらいしかろくなのいなかったからさ」
「お前、あんな危険な個体をあそこに放置してたのか。あれのせいで怪我をした人もいるだぞ」
「俺は1番ちょろくて、1番社員に効果のある副社長にその字をそれとなーく書いてもらった看板を立てておいてやったんだぞ。それだけで十分だろ。恨むなら入社試験で新入社員にあそこの探索を命じようとした『橘フーズ』の上の連中を恨め。多分あれ、あいつらがそれように用意した個体だぞ」
「『橘フーズ』……そこまで過激だったなんて」
「会社の方針が弱肉強食の世で最強が集う食品会社だからな。強い探索者を手に入れる為に過度な選別も暴力も厭わないさ。俺はそんな社風はどうでもいいが――」
自分を無視して喋り続ける坂本に苛立ったのか、コボが剣を爪で弾いた。
「神様、時間がありません。早く先に」
「分かった。殺されるなよ」
「こんな奴に殺されはしませんよ」
「……こんな奴? それは俺の事か? コボルトごときがよお」
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