模擬戦
昨日、べル姉が誰かにさらわれたと聞いた。
俺は、早くベル姉を助けに行こうとしたが、親に止められた。
俺なら何とかできるのに。
そう思った。
敵の一人や二人なら、敵ではない。
簡単に倒せる自信がある。
何せ、物心ついたときからベル姉と一緒に、王国軍第二師団師団長のパパに直々に指導を受けたのだ。
その指導のおかげで、確かな技術が身についた自身がある。
でも、まだベル姉には遠く及ばないけど...
だが、いつかは追いついて見せる!
そんな俺だが、今までに負けた相手は、たった二人だけなのだ。
ベル姉とパパだけである。
指導の過程で、多くの人と戦った。
自分と同い年の子が多かったが、それだけでなく、大人とも戦った。
大人は力も強く、多くの経験を積み重ねているようで、一筋縄ではいかなかった。
しかし、今まで磨いてきた技術で圧倒し、勝利をつかみ取る事が出来た。
そして今は、それを上回る技術を手にする事が出た。
でも、ベル姉を助けられなかった。
パパが指揮する、王国軍第二師団が先に助けだしてしまった。
しかし、ベル姉が言うには、王国軍が助けたのではなく、王子様に助けられたと言っているではないか。
でも、そんなのはどうせ嘘だ。
ベル姉を助けられるのは、パパと俺だけだ。
他のやつらは、俺よりも弱いじゃないか。
確かに捕まったのは、俺よりも強いベル姉だ。
でも、油断をしていたり、不意打ちを食らっただけだ。
本当に強いのなら、そんな事をせず、堂々とさらっていくだろう。
さらに、王子様とやらに、実際に会う事が出来た。
だが、ただの少女ではないか。
それが、ベル姉を助けられるはずがない。
もし、たすけられるとしても、かなり弱い事になる。
なら、ベル姉は、簡単に脱出できるはずだ。
きっとベル姉は、騙されているんだ。
こんな奴早く倒して、目を覚まさせてやる。
最初の模擬戦で、攻撃をすべてさばききり、相手の実力がわかった。
後は、本番の訓練でたたきつぶすだけである。
本当の強さを見せてあげよう。
良い経験になる事を祈っておこう。
「さっきは引き分けになったが、次は俺が圧勝してやる。まあ、さっきの模擬戦でも、おれに手も足も出てなかったから、簡単だろうがな。調子に乗った事を後悔させてやる。」
先生が、今日の訓練はひたすら戦えとのことだった。
なら、この授業の時間全部使って、圧勝してやる。
先生は、気になったところを言うのにとどめて、生徒主体の授業にするつもりのようだ。
だから、始めの合図は、自分達でやらなければならない。
なんか言われたりしたら面倒くさいので、ダンテに合図を出してもらう。
「行くぞ。スタートだ!」
形だけだろうが、一応の確認をしてきてから始めてきた。
不意打ちをしてこようとしていないのは、ただたんに良い奴なのか、それとも、それだけこちらがなめられているという事なのだろうか?
ならば、すぐに思い知らせてやらねば。
ダンテは、先ほどの模擬戦の時と同じで、開始早々切りかかってきた。
しかし、先ほどと真同じの動きである。
俺のスキル、万物適性により、俺の学習能力と記憶力はケタはずれである。
たぶん、一瞬だけ絵を見せてもらえれば、真同じの絵を描ける自信がある。
そして、そんな俺が、五分間ずっとダンテの動きを見ていた。
そのおかげで、かなりの精度で先読みができるようになっている。
だから、俺は、この最初の一撃の後の動きは、わかっている。
そのため、防御どころか、避けるのも簡単である。
もちろんカウンターを入れることもだ。
とりあえず俺は、最初の一撃に対してカウンターで対抗する事にした。
攻撃された時の反応を見て、情報を集めてみようと思ったのだ。
もしかしたら、攻撃はいまいちだけど、防御はぴか一なのかもしれない。
そうでなくては困る。
ダンテの木刀が上段から振り落とされた。
俺は、それを軽く受け流しながら、カウンターを入れる。
かなりゆっくり、そして甘くやったので、きっと簡単に防いでくれるだろう。
そう期待したが、最初に受け流した時に、勢い余って耐性を崩してしまっていた。
そんな状態で反応できるはずなく、木刀の一撃を、簡単に決まってしまった。
完全に予想外である。
思わずポカーンとしてしまった。
それを見たダンテは、また勘違いをして、
「どうせまぐれだ!さっきまで、手も足も出なかった奴が、こんなことできるわけない!しょうがない。本気で相手してやる。もう一回勝負だ!」
途中から黙っていたが、それは、怒りを抑える為である。
とにかくうるさい。
ダンテは俺を怒らせる天才だろうか?
確かにこの怒りは、些細なものである。
しかし、そんな些細なものであっても、なぜかものすごいイライラする。
本気でたたきつぶしたい衝動にかられるが、我慢する。
そんなことしたら、ベルに迷惑がかかってしまうかもしれない。
それはダメである。
しょうがない。
実力差がはっきりと理解できる事をすれば良いのだ。
ダンテの流派のまねをして戦って、圧勝すれば文句ないだろう。
それでも駄目だったら、全力を出せばいいか。
それが以外の良い案など浮かばなかった。
二回戦目も、先ほどと同じようにスタートする。
またまた、ダンテは、最初の一撃は、真同じの攻撃をしてくる。
まるで、馬鹿の一つ覚えである。
良くこんなので自分は強いと思えていられるな。
ある意味ほめてやりたい。
さあ、ここからだ。
俺は、ダンテの踏み込みや、剣の軌道、足の運び方等をすべて真似する。
しかし、ただ真似するだけではない。
踏み込みを鋭くしたり、剣の軌道を多少ずらしたりして、すぐにものにして見せた。
後ろの方では、ベルが驚愕の表情を浮かべている事がわかった。
「えっ!?」
っと声が漏れている。
そんなに驚く事だろうか?
俺にとっては、もう当たり前の話なのだが...
そうか、万物適性を持っているのは知らないのか。
教える必要もないがな。
ダンテは、一番最初の一撃は簡単にいなす事が出来ていたが、万物適性によって二回目の攻撃からものにする事が出来たからか、いなすのに手いっぱいになっている。
俺はだんだん、元の自分の戦い方に組み込んでいき、最適化する。
ダンテは、俺とは違い、本当に手も足も出ない。
俺はそのまま攻撃をどんどん激しくしていき、剣をはじく事に成功する。
「こんなのありえない。嘘だ!俺は負けたことなんてないのに...」
「いい加減静かにして。今までがどんなんだったかは知らないけど、今回は負けたの。」
「俺は強くなんなきゃいけないんだ!強くなって約束を守るんだ!お前なんかに負けてる場合じゃないんだ!」
「うるさい!負けは負けなの!どんな約束をしていても、勝てないものは勝てないの。納得できないなら、すごいのを見せてあげる。」
何を見せるかはもう決まっている。
すごい物、それは剣技ではない。
魔法である。
それも、極大魔法である。
まあ、こんなところで極大魔法を打ってら、様々なものを破壊してしまう。
しかし、これも魔法で解決させる事が出来る。
最上級の防御結界を張るのだ。
しかしそれだけではつまらない。
何か的でも作ろう。
その時
「そこ、何をしている!」
おっ、先生が来た。
ちょうど良い。
利用させてもらおう。
「先生、ちょっとお願いがあります。」




