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嘘吐き寓話  作者: 葉月羽音
第三幕
11/25

11:気分屋な魔女の無意識の行動

 魔女はあれから少女を所謂お姫様だっこの状態で家へと運びました。丁度少女が倒れたその場所から程遠くない場所にありましたので、魔力を使うこと無く歩いて向かいます。

 その道中、魔女は少女の身体が軽すぎる事に気付きました。そしてその原因が空腹であるという事も。

 姿を見せずに見守るだけの魔女でしたから、少女の為に食事を用意することなどできません。また、食べられる果物や草花のある場所へとそれとなく誘導しても、少女自身がその知識を持ち合わせていないので、どれだけ空腹にお腹を鳴らそうとも手を伸ばす事はありませんでした。

 歯噛みしたい気持ちになるのはお門違いというもので、実際に抱え上げて少女の身体の軽さを実感してしまうとすぐに姿を現さなかった事を魔女は後悔します。

「――とりあえず、この後悔を償う為にもまずは家に運ばないと」

 そう言うや否や魔女は歩く速度を上げて森の奥に建てられた小さな家へと向かうのでした。

――数分後、辿りついた家の玄関前に魔女は立ちました。すると扉が自然と魔女を歓迎するように勝手に開かれたのです。

 流石は魔女の家と言ったところでしょうか。部屋の中に一歩足を踏み入れれば自動的に部屋全体が明るくなり、暖炉に火が灯されるのですから。

 まず魔女は少女を自分の部屋へと連れていきます。そして普段使っているベットの上へと寝かせました。

 改めて真上から少女の姿を確認した魔女は、中指と親指を擦り合わせるようにしてパチン、と音を鳴らします。

 すると、一瞬にして少女の身体から汚れや先程転んで出来た傷、これまで負ってきた古傷等、全てが見事に無くなってしまったのです。

「身体の組織の事を考えれば自然と治すのが一番いいんだろうけど、まぁ、今回は眼をつむってもらおうか。対価として古傷も頂いたわけだし」

 少女にとってはいいこと尽くめだ、と魔女の観点から勝手に古傷を対価に魔力を行使した結果でした。

 次に魔女は少女の服を脱がせ、身体に巻かれている今となっては不必要な包帯を外し、魔女が持っている服へと着替えさせてやります。

 しかし少女と魔女とでは体格が違いすぎるのか、上着一つだけで少女の体はすっぽり綺麗に納まってしまいました。

「この辺はやっぱり性別の違い(…)かね?」

 小さく零した呟きになにやら不穏な言葉が混ざっていたように思いますが、この場所は魔女の家の中。生きている人間は少女と魔女のたった二人でしたので(少女に関しては現在眠っております)誰にも突っ込まれること無く流されてしまうのでした。

 魔女は少女の身体が冷えないようにと掛け布団を身体の上に掛けてやってから傍を離れます。

 離れる瞬間にポンポン、と軽く少女の頭を撫でる仕草を取ったのは無意識のようです。

 それに気付いた魔女は己の手をまじまじと見つめた後、苦笑いを零しました。

「やれやれ、私は一体何をしたいんだろうね」

 ぼやいた言葉は実に魔女らしくない行動だと自分を責めているようです。

 これがただの気紛れだと言うのであれば、それこそ気分屋な魔女としてのいつもの行動だと感じられるでしょう。

 けれど、今回の行動は別でした。少女に絆された部分があるとはいえ、対価を勝手に貰って怪我や汚れを魔力で綺麗さっぱり消し去ったり、性別の違う年頃の異性の服を脱がせて着替えさせたり(しかも自分の服を、です)更には今から少女の為の食事を用意しようというのですから。

 魔女をよく知る神様や、願いを叶えてくれと縋ってきた多くの人間、そして愚かな王様が見たら眼を引ん剥いて驚く事でしょう。

「お前は一体誰だ!?」

 そう言われても可笑しくない、寧ろ、魔女本人がそう言ってやりたいくらいにあり得ない現状です。

 魔女は眠る少女を見つめました。その寝顔に涙の痛々しい痕は無く――怪我を治した時に一緒にその痕も治してしまったようです――静かな寝息を立てています。

 穏やかな様子に安堵する魔女の心。絆されるとはこういうことなのか、と魔女は不思議な感覚に戸惑いながらも、少女が目覚めてすぐ食べられるように、とキッチンへと足を向けました。

「何にも飲まず食わずだったから、すぐに固形のものと言うよりはスープとかの飲みこみやすい物のほうがいいかな?」

 ブツブツ呟きながら向かうその背中を、微睡みから意識を浮上させた少女の瞳が捕らえていた事に、気分屋の魔女は気付く事はありませんでした。

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