諦める事も大事だけど、その前に
ここからちょっとグロいシーンが含まれています。苦手な方は読むことをおすすめしません。
『来ないで』『私の事はほおって置いて』
目的地に向かう度に、頭が壊れそうな程の声が響く。
まるで私を拒んでいるような気がしたが、私は行かなくてはいけない。
エイちゃんと聡美ちゃんに渡された地図を元に豊川先生がいるもう一つの書籍へと向かう。
場所は国道の脇にもうけられた空き地の建物だ。
地図によるともう少しだ。
そしてその途中で、人影が見えた。
一キロぐらい先の国道の歩道に、倒れたみゆきちゃんとそれを見守るアスターの二人の姿が見える。
『私に構わないで』『来ないで』『私の事なんてほおっておいて』
行き先を遮るように、頭が壊れそうな声が響く。
もはや私の心は疲弊している。
でもこの先に倒れたみゆきちゃんとアスターの姿がある。
それを目前にして、引き返す事なんて百パーセントあり得ない。
とにかく目の前の三人の元へ。
『いやー』
何なんだよこの声は。
倒れそうな体を起こして、三人の元へ。
そして、
「おい。おまえ達」
みゆきちゃんは気絶しているが、アスターの二人は意識があり私の声が聞こえているはずだ。
「メグさん」「どうして」
私は三人の元へと走り寄り、アスターの二人に思わず叩いてしまった。
「おまえ等どれだけ心配したと思っているんだよ」
言葉をなくす二人。
私は倒れたみゆきちゃんを抱き寄せて、アスターの二人を見て、
「おまえ等みゆきちゃんに予言させたのか?」
「みゆきが言いだしたんだ」「僕たちはそれに乗って」
とにかくみゆきちゃんは意識を失っているだけだ。このまま豊川先生の書籍へと向かいたいが、今は三人の保護が最優先だ。
ここで引き返そうと思った。
「メグちゃん」
と聞き覚えのある声がして、その声の発信源の方に目を向けると、豊川先生の姿が合った。
「「豊川先生」」
アスターの二人はハモる。
私は豊川先生の約束を破ってしまった事に申し訳ない気持ちで顔向け出来ずに、まともに豊川先生の目を見れなかった。
「顔を上げなよ。メグちゃん」
そういわれても私は顔を上げることすら出来ずにいた。
「里音ちゃんの事だけど・・・」
その名前を聞いてそのうつむいた顔を上げて豊川先生の目を見た。
「もう僕の力ではどうにもならない」
「どういう事ですか?」
「この先に僕の書籍があると知っているね。多分みゆきちゃんの予言で来たと思うけど」
それは違うが、豊川先生の話に耳を傾ける。
「里音ちゃんは呪われているんだよ」
「呪われている?」
「里音ちゃんには双子の妹がいたんだ」
「双子の妹?」
里音の話で聞いたことがない話だ。
いや里音の事を知っているのは、豊川先生だけみたいだ。
里音の双子の妹の事を豊川先生から聞く。
里音には双子の妹である紫音と言う妹がいた。
里音も家庭に問題があり、紫音と共に施設に預けられていた。
それは姉妹が七歳の頃の時だった。
その施設では職員の陰湿な暴力が絶えず、いつも里音の紫音の身代わりになり、暴力を代わりに受けていたと言う。
「安心して紫音、お姉ちゃんが紫音の事を一生守ってあげるから」
紫音は双子の姉である里音に守られ、そして里音はそんな紫音を守るために残酷な現状に立たされながらも強く生きようとする意欲を保ち続けていた。
里音は紫音を守れるから生きていられるのだ。
そして四年の月日が流れて、二人が十一歳の誕生日を共に迎えた晩だった。
二人を祝ってくれる者などいない。
だから二人でお互いの誕生日を毎年祝って、幸せを感じていた。
そしてプレゼントも交換していた。
その時、里音が欲しかったのは、神社に売っている安い五角鉛筆だった。そういえば里音は縁起物の品物が好きだった事を聞いたことがある。
そして、紫音も姉である里音に気を使い、安い物をねだるのだった。その時に紫音が要求したプレゼントは、イルカのキーホルダーだった。
だが里音は紫音が本当に欲しい物は、ウエディングドレスだと言う事を知っていた。
それは紫音は毎日暇さえあれば、デパートのウインドウに飾られてあるウエディングドレスを見ていたのだ。
それで紫音は姉である里音に叶わぬ願いを漏らしたのだ。
「一度で良いからこんな素敵なドレスを着たい」
と。
そんな紫音の願いを叶えてあげたいと切に思った里音は、ネットでウエディングドレスが着用出来る何かはあるか調べたところ、ネットオークションにただでウエディングドレスを提供してくれるサイトがあり、すぐにそれに食いついて、アクセスして、次の日にそのウエディングドレスが届いた。
紫音にサプライズのプレゼントをあげる事に喜ぶ紫音の顔を想像して気分を高揚させながら、紫音にそのウエディングドレスをプレゼントして、紫音は里音が想像していた通り、大いに喜んでくれた。
そのウエディングドレスを着用した紫音はサイズはブカブカだが、本当に嬉しそうに、その誕生日の晩に姉の里音を相手に社交ダンスを踊った。
だが次の日の朝、ウエディングドレスをまとったまま眠った紫音がいなくなっていた。
施設の職員や共に暮らす子供にも聞いてみたが、誰も知らないと言って手がかりはなかった。
里音は紫音以外の心を通わせる友達など、施設にはいなかった。
施設では職員の暴力におびえながら暮らす子供ばかりで、互いに友達になることを許されない、そんな施設だったみたいだ。
教育には厳しく、そこの中から、一流大学を経て、大企業に行った人ばかりで、そうでない、それに付いていけない子供は男性であれば、奴隷のように体を酷使され、死ぬ程の労働する所に派遣され、女性であれば体を売る闇組織に売られると里音は気が付いていた。
そう。見た目は里音がいる施設は優秀な人材を育てる施設で評判は良いが、裏ではとんでもない事をしている所だ。
職員は人を人とは思わない鬼のような人で、その施設にいる子供達は夢を見られないかわいそうな奴隷のような存在だ。
そんな中で里音と紫音は陰で支え合いながら生きていたのだ。
里音は双子の妹を守るために必死で勉強して、すごく優秀だった。
それで妹の紫音にも勉強を教えて、何とか闇組織に売られる事はなかったみたいだ。
それはともかく、行方が分からなくなった紫音を探したがどこにもいなかった。
もしかしたら職員が紫音を闇組織に売ったのだとも疑ったが、それはなかった。
じゃあ何が原因なのかと独りぼっちになった里音に、妹の声が響いたみたいだ。
『里音お姉ちゃんもおいでよ』
と。
最初は気のせいだと思っていた。
しかし頻繁に紫音の声が頭に響き、里音はその声に導かれるように、夜中に出て、紫音の元へ。
里音は思ったんだ。紫音がいればどうでも良いと。紫音と一緒ならどこでも行ってあげると。
そして導かれたのが、今豊川先生の第二の書籍とされている書庫の中だ。
当時の里音は導かれて、中に入ろうとした所、豊川先生に止められたみたいだ。
「この中に入ったら死んでしまう」
と。
それでも中に入ろうとしたが、豊川先生に頬を叩かれ止められたみたいだ。
そこで里音は豊川先生に叱られて、本当の優しさにふれ、豊川先生に身元を引き取られて、豊川先生と友に過ごしているうちに、本当に信頼できる人に初めて出会ったことを気づかされた。
そう。豊川先生が第二の書庫とされている建物は誰も入った事がないのだ。
その中に紫音はいるのだ。
もう七年も豊川先生が第二の書庫として扱われている建物の中にいるのだ。
中に入ろうとすれば豊川先生も命の危険にさらされる。
だから七年前に和解した豊川先生と一緒に紫音を助ける救い出す方法を考えようと、里音は豊川先生の生徒として、受け入れられた。
原因は豊川先生も里音も気が付いていると思うが、里音が紫音にサプライズにプレゼントしたウエディングドレスだろうと私も話を聞いているうちに何となく分かった。
それにそのウエディングドレスをメビウスが狙っているとも考えられる。
詳しくは分からないが、みゆきちゃんの予言では、今回の件はメビウスも関係してくると予言していた。
多分ウエディングドレスに何か邪悪な者がとりついている。
そのウエディングドレスにメビウスにとって何かしらのメリットがあるのだろうか?それとも何か別の何かかもしれない。
それと一つ謎なのがある。
どうして豊川先生はこの中に入ったら、死ぬって分かったのか?
とにかく手遅れになる前に、行かなくてはいけない。
この国道の先の脇の空き地が紫音のいる豊川先生の第二の書庫とされている建物。
普通の人間の肉眼では見えないが、吸血鬼である私は、夜行性でとても目がよくて、はっきりと見える。
だが、
『。・、;@p;:;p@』
近づこうとする私に、頭に激しいノイズのような衝撃的な音が響き、近づけない。
里音の居場所が分かったと言うのにこんな事って。
そこで豊川先生が意外な事を口にする。
「メグちゃん。もう里音ちゃんを諦めるしかないんだよ」
私は耳を疑った。どうして豊川先生がそんな事を言うのか?
「里音ちゃんを助けようとする者が近づけば、建物から発せられるサイコキネシスによって妨害される。
きっと里音ちゃんの妹の紫音ちゃんが発している物だ。原因はきっと説明して分かったと思うけど、里音ちゃんがプレゼントしたウエディングドレスだ。
メグちゃんが以前から幻聴的な心が壊れそうな声が聞こえたのは、ドレスがメグちゃんが里音を助ける者だと判断したのだと思う。
僕も必死で里音ちゃんを助けようとした。
でも・・・」
豊川先生もそのドレスが発しているサイコキネシスに妨害させられたのだろう。
そこで私は考える。
世の中にはどうしようもない事がある。
その為に諦める事も大切だと。私はいつしか先人である豊川先生や徳川さんに教えられた事がある。
豊川先生もこの七年間里音に対して、身も心を削って試行錯誤を重ねてきたのだろう。
でも里音を誘うドレスを止める事はもう出来ない。
このまま里音が紫音がまとっているドレスの元にいったら、もう戻ってこれなくなることは確実だろう。
私は里音に死んで欲しくない。
私には里音は必要だよ。
これからもずっと。
でも諦める事も大切。
私はそれを受け入れ大人にならなくてはいけない。
私は里音にもらってばかりでその借りも返さなくてはいけない。
そうしないと私の気が済まない。
もし私のお姉的存在の里音が永遠の闇に飲まれたら、私はその事で一生悔やむだろう。
でも諦める事も大事。
世の中にはどうしようもない事はある。
大人になれメグ。
諦めろ。
私の頭の中に様々な声が響き、私は激しく葛藤している。
複雑そうに見えるその葛藤は単純だ。
ただ諦めるか・・・それとも・・・。
・・・それとも
「ああああああああああああああああああああ」
気が付けば、サイコキネシスの中叫びながら、里音がいる建物へと走っていた。
目の前が歪んでいる。
脳がつぶされそうな程の衝撃だ。
そして国道に設置されている電信柱の電線が火花を散らしている。
体がバラバラに砕けそうだ。
でも一歩。それでも一歩先へ。
進む毎に国道の電信柱が次々と倒れて、夜の暗闇を照らす街頭の天球が火花を散らし、破裂する。
私の目から何か流れている。
涙を流しているのだと思ったら、それは血だった。
私は目から血を流している。
頭が壊れそうだ。
もう心が折れていた。
やっぱり諦めるしかないの?
「・・・助けて・・・エイちゃん」
「「メグさん」」
意識がおぼつかない中、アスターの声が響いた。
何だろう?ぼっきりと折れていた心が再び修復するように、力がみなぎっていた。
上空を見ると、アスターの能力であるセイレーンが私の頭上を飛んでいた。
そして背後を見ると、アスターの二人は手を繋いで私の所に歩みながら歌っていた。
しかも意識を失っていたみゆきちゃんもいる。
「メグさんは一人じゃないよ」「諦めちゃダメだよ」
アスターの二人は歌っている。
「みゆきも力になるんだから」
そうだよ。私は一人じゃない。
諦める前に私は相談するべきだったんだ。
ここで私は過ちを犯した事を知る。
私が何度も身を持って知っているのに、一人で解決させようとした事。
私は一人じゃない。三人とも私に力を貸して・・・。




