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メモリーブラッド0  作者: sibatamei
第1章
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心配事

 店が終わる時、ミーティングが始まる。


 店長が今日もっとも売り上げに貢献したのは五月さんだった。


 そんな五月さんに金一封が送られ、拍手が送られる。


 今日のところはトラブルがなかったことに、店長はほっとした表情で語っていた。


 そして私の自己紹介と言うことで私はみんなの前にたたされ自己紹介をする。


 まあ、自己紹介って言っても、ただ名前を言うだけで、これからもよろしくと言う感じで、緊張は少ししたが、別に周りに気を使うことはなく、それなりにやり過ごした。


 ミーティングが終わり、私は日給を貰った。


 中身を見てみると、二万五千円入っていた。


 セクハラはやめて欲しいけど、帳尻を合わせてやり過ごしていればこのままやっていけるかも。


 でもこの事がエイちゃんにばれたら大変な事になるだろう。


 この事は黙って、このお金は、って私はお金を稼げたのは良いけど、どうやってこのお金をエイちゃんに渡して事情を説明するまでは考えていなかった。


 いきなりこんな大金エイちゃんに渡したら驚くし不振に思うだろう。


 とにかくそれも少しずつ考えていこうと思う。


 着替えが済んで、五月さんに施されたお化粧を洗面所の水で落として、なかなか落とすのに時間がかかるが、この妖艶な化粧のままで帰ったら、私は不振に思われる。


 とりあえず先ほど知り合った明日香さんと明菜さんに、とりあえず「お疲れさま」と挨拶をしたが、ふんぞり返ってシカトされてしまった。


 それはそれで何かショックを受けるが、そんな時にエイちゃんの為だという気持ちを思いだし、あまり気にすることがなかった。


 時計を見ると午前四時を回ったところだ。


 そろそろ帰らないと、日が上がってしまう。


 急いで帰ろうとしたが、とりあえず、五月さんには何かとお世話になっているので、五月さんに一言挨拶をして帰ろうと、控え室に行くと。


 同じ職場のキャバ嬢達が着替えながらしゃべっていて、その中に五月さんは孤立した感じだった。


 何だろう。五月さんに話をかけてはいけないオーラを感じたが、とにかく一言だけ礼儀として挨拶をして帰りたいので、


「五月さん。お疲れさまです」


 私が五月さんにそう挨拶すると、周りにいる女性達が何か空気を変えたように、とにかく何か分からないけど、何となく空気が変わったと言っておくべきだろう。


 五月さんは私の目を見て妖艶に微笑み、


「おつかれ」


 と挨拶をくれた。


 これでよし。


 部屋を出る際にひそひそと声が聞こえてくる。


「あの五月さんが挨拶するなんて」


「いったい何なんだ?」


 何て聞こえてきたが気にしたって仕方がないので、私は店を出て、帰り道走って、自宅に戻り、眠っているエイちゃんの顔を見つめた。


 私のエイちゃんに対する思いは変わらなかった。


 いつものようにテレビをつけ、ニュースを見た。相変わらず政治家の汚職や、犯罪を犯す少年などの悲しいニュースが流れている。



 夜目覚めると、私が眠るベットの横に聡美ちゃんと里音が立っていた。


「おはよう」


 と二人の目を見ると何か訝しげな視線で私を見ている。


 そこで私はもしかしたら、何らかの理由でキャバクラで働いている事がばれてしまったんじゃないかと思って二人を見ると。里音が、


「メグ、聡美から聞いたよ。あんたのスマホの通話履歴を調べたところ、隣町のキャバクラに連絡したみたいだね。

 それで昨日不振に思ってそこのキャバクラに行ったところあんたを見たって」


 私は何を言って良いのかしどろもどろとなり、黙るしか他なかった。


「メグ、事情を説明してくれ。いったいどうしてキャバクラなんかに行くんだ」


「・・・」


 言葉に迷いに迷って、本当に私は何て言って良いのか分からない。


 メモリーブラッドの事は秘密にしておきたいし、血液の事も。エイちゃんが血液を医者のどら息子から弱みを握って、大量に血液を貰っていることも。


「黙ってないではっきり言いなよ」


 威圧的な口調で言われて泣きそうになる。


 思えば里音は私のお姉さん的な存在だったから、何かあったら、真っ先に私のところに来て問題を解決してくれた。


 そんないつもお世話になっている里音には悪いが私は黙っている。


「メグ」


 私に一喝する里音。そこで聡美ちゃんがそんな里音をなだめる。


「まあまあ、落ち着いて里音」


「落ち着いていられないよ。メグが死んだと聞かされた時、私は・・・」


 言葉をなくす里音。


 そうだ。私は一度死んでいるのだ。そんな私が死んでどれだけ里音に心配かけたかは考えれば分かる。


 でも・・・でも・・・。


 私はどうして良いか分からず里音を抱きしめた。


「何よメグ。今はこんな事・・・」


「お願い。何も言わないで、事情は説明できないけど、私を信用して」


「何を言っているんだメグ。そんな事をして人生踏み外したら」


「お願い。私を信じて。私はエイちゃんや里音達に貰ってばかりの私は嫌なの」


「メグ」


 里音に私の気持ちが通じた感じだ。


 しばらく私たちの間に沈黙が生じた。


 そして里音は私の抱擁を外して私の目をじっと見つめた。 


 その目は私の心を探るときの目だと分かって、その目をじっと見つめた。


 里音は私の目を見て何かを確かめている。


 何を確かめているのかは分からないが、その目をそらしてはいけない気がして、じっと見つめた。


 そして里音はその瞳をおもむろに閉じて、


「分かったメグ。私はあんたの事を信じるよ」


「ありがとう里音」


「それと、これだけは肝に銘じて欲しい」


「何?」


「あんたの命はあんただけの物じゃない。だから無茶なことはしないでくれよ」


 と言って部屋を出ようとしたところ、聡美ちゃんに、


「聡美、あたしはメグを信じることにしたよ」


「里音」


 聡美ちゃんからの口調からして、聡美ちゃん的には半信半疑と言った感じだ。


 聡美ちゃんは私を一瞥して、そして里音の後に付いていくように部屋から出ていった。


 私は目を閉じ人知れずに呟いた。


「ありがとう里音」



 里音は私を信じて黙っていてくれるかもしれないけど、問題は聡美ちゃんだな。


 聡美ちゃんのあの感じだとエイちゃんにちくりそうで怖い。


 もしエイちゃんが知ったら、私を本気で止めるだろう。


 それで私の気持ちを伝えたら、きっと分かってくれるが、私は何もしないでいいと言われて、また以前のエイちゃんの人形のような関係になってしまうのは嫌だ。


 それにエイちゃんは私を延命させるためなら、悪魔にも魂を売りそうで怖い。


 だから私はそれを阻止したい。


 エイちゃんが私に命を懸けるほど必要なら、私もその気持ちに全力で答えたい。


 それはそうと私はお腹がすいてきた。


 とりあえずエイちゃんはまだ帰ってきていないが、医者の御曹司から強奪した輸血バンクがあるはず、一つ取り出して私は飲み干した。


 本当に最高にうまい。


 心なしか、日に日にその地の美味が上がっているような気がする。


 そう思うと私は本当にやばい存在になりかけているんじゃないかと不安になってくる。



 ベットに横たわりながら、先ほど里音と聡美ちゃんに言われた事を思いながらエイちゃんが帰ってくるのを待っていた。


 今日も夜中にキャバクラに行かなくてはいけない。


 それにキャバクラで働いているからと言って別に私はやましいことは何もしていない。


 確かにいかがわしいかもしれないが、お客の疲れた心をいやして上げる存在なのだ。


 それにあの里音が私を信じてくれた。


 私を妹と慕い、本気で私の事を思ってくれる里音。


 だから里音が信じてくれたことに自信を持って良いのかもしれない。


 私の瞳をのぞき込んだのも、その為だろう。


 色々と一人で思いにふけり、時間は二十一時を過ぎたところだ。


「遅いなエイちゃん。どうしたんだろう。きっと勉強やバイトで忙しいんだろうな」


 エイちゃんを待ちながら、思いにふけっていると私のスマホに着信が入った。


 誰からだろうと思って着信画面を見てみると、エイちゃんからだった。


「もしもし」


「メグか?」


「あっ、エイちゃん」


 エイちゃんの声を聞いて私はテンションが上がる。


「悪いけど、今日は友達のところに泊まりがてら勉強するから、今日は帰れない」


「そう」


 話を聞いて少し残念な気持ちになる。


「そう気を落とすなよ。とにかく今日は適当に血を吸って、マンガでもテレビでも見てやり過ごしてくれ」


「分かった」


「じゃあ、また何か会ったら連絡するから」


 通話がとぎれて私はため息が漏れた。


 エイちゃん。きっと分からないけど、私のために無理をしているような気がしている。


 もしかしたら、友達の家で勉強がてら泊まるって言うのは口実なんじゃないかって。


 私はそんなエイちゃんに貰ってばかりではいたくない。


 それに私は以前の弱虫な女じゃない。


 何か気持ちがそわそわしてしまい、マンガでもテレビでも見ていようかと思ったが、そんな気分にはなれず、私は恐る恐る、豊川先生が経営している一階の塾に足を運ぶ。


 勉強室には相変わらず東大を目指している型破りな高齢者の徳川さんの後ろ姿があった。


 久しぶりにお話でもしたいと思ったが、勉強の邪魔になるので、そっとしてパソコン室の方に目を向けると、パソコンで作業をしている豊川先生の姿が合った。


 何か分からないけど、何か気持ちがそわそわとしていて、誰かと話してないといられない状態なのだ。


「失礼します」


 中にはいると、豊川先生は、振り向いて笑顔で、


「メグちゃん。いらっしゃい。どうしたの?優れない顔をしているけど」


 私ってそんな顔をしていたの?気がつかなかった。それはともかく、


「エイちゃん。無理していないかな?」


 そうだ。私のこのそわそわの原因はエイちゃんがただ単純に心配なんだ。


「大丈夫だよ。英治なら」


 息子を信頼している豊川先生の言葉を聞いて安心してしまう。でも、


「エイちゃん。私の事で何か無理しているような気がする」


「確かにメグちゃんの事に関して無理をしているかもしれないけど、僕はそんな英治と言う息子を僕は誇りに思っているし、信じているからね」


 そう言われると私もその彼女で誇りに思う。でも、


「・・・」


 何を言おうか迷っていると豊川先生は、


「メグちゃんはメグちゃんでいつも通りで良いと思うよ」


「いつも通りって言うと?」


「その言葉通りの意味だよ」


 と豊川先生は笑顔で言う。



 部屋に戻り、二十二時を回ったところだ。


「私は私でいつも通りで良い」


 先ほど豊川先生に言われたことを人知れずに呟き、とにかく今日もまたキャバクラで働いてエイちゃんの為にちゃんと勤められるようにと気持ちを鼓舞した。


 キャバクラに到着して、勤務時間より一時間早く来てしまった。


 昨日ほどの緊張はなく、とにかくすれ違う働く人に、「おはようございます」と挨拶する。


 挨拶を返してくれない人もいたが、それはそれで良いとして、私はネガティブな自分を捨て、ポジティブな気持ちを持って接する。


 控え室に入ると、五月さんがいつものようにソファーに足を組んで黙って座り込んでいた。


「おはようございます」


 と私は活気の良い挨拶がした。


「おはよう。元気良いね。何か良いことでもあったの?」


「いや別に」


 私はロッカーを開いて、際どい白いデニムのパンツを吐いて、ヘソ出しルックと言われる、お腹の部分の裾がないキャミソールを着る。


 そして五月さんに教わったお化粧を施して、準備完了だ。


「気合い入っているわね」


 私の手際の良い行動を見てそう思ったのだろう。


「そうですか?」


「時間あるんだし、差し支えなければ、あなたの事情でも聞かせてよ」


「・・・」


 それはしゃべりたくないと言わんばかりに黙っていた。


 そんな時である。外線放送から私が指名された。


 一昨日と昨日相手した、坂下と三田が私に興味を持って、指名したのだろうか。


 まあセクハラはやめて欲しいけど、ここは男の社会人達の癒しの場だ。


 こんな私でもただ相手になるだけで、その日頃の仕事や生活でのストレスとか、その他にも色々とあるが、それらを私は癒すことが出来る。


 そう思って働ければ何か社会に役に立っている感じで、いかがわしいけどキャバクラで働く事に誇りを持つ事が出来る。


 そう思いながら、フロアーに行き、指定された三番テーブルへと向かう。


 とそこには思いも寄らぬ人物がいた。


 私はその人物と目があって、その名前を呼ぶ。


「エイちゃん!?」


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