表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線の街  作者: ヒビキ
PR
22/22

覚醒

色素の薄い瞳が、重い瞼の向こうから緩やかに覗く。

ぼんやりとした思考。

隣には、衣服越しに感じる人間の温度。

睡魔を強く引きずるその頭を、アイビーはごく軽く隣の温もりへ預ける。



「……」



隣の温もりは何も言わない。

ただ静かに重みを受け止める。

嗅ぎなれた煙草の香りは、アイビー自身のものではない。

……それなのに、妙に自分を落ち着かせるこの香りの、主は。



「…………ナデ……」

「……ああ、目が覚めたか」

「……、っ!?」



隣から穏やかに返ってくる声。

瞬間、急浮上する意識。

反射で身を離す。

目いっぱい開かれた瞳が向けるその眼差しは、信じられないものを見る目つき。

カナデはそんなアイビーを見て、笑うでもなく淡々と告げる。



「……三時間、といったところか。珍しいな、お前が俺の部屋で寝落ちるなんて」

「は……?三……寝落ち……?」



まだ回りきらない頭で現状を把握しようと、アイビーはカナデの言葉を拾う。

対するカナデは吸い込んだ紫煙を吐き出してから、空いた手の指先でローテーブルに放置されたアイビーのスマートフォンを軽く叩く。



「嘘だと思うなら見てみるといい。……寝落ち前の記憶があれば、だが」

「……」



促す声に、アイビーの手がスマートフォンを取る。

液晶に触れると表示される時間は、自分が最後に見たものから数時間経過していることを示していた。



「……嘘だろ」

「……、嘘に見えるか?」

「いや、……いや待て、じゃあ俺がさっきまで借りてたのは……」

「俺の肩だな。……随分と寝心地よさそうだったが」



……心なしか重い沈黙。

少ししてアイビーが深いため息を零し、片手で白銀の髪を雑に掻き乱す。

隣のカナデはそれを一瞥する。

それ以上のことはしない。



「…………カナデ、お前ちょっと記憶吹っ飛ばせ」

「断る。お前が寝てる間に組んだプロットが吹っ飛ぶだろ」

「……じゃあせめて見なかったことに」

「別に今更、……いいんじゃないか」



じり、と煙草が燃える音を挟んで、吐く息とともに素っ気なく呟くカナデ。



「……俺の部屋でお前が気を抜いたところで、見てるのは俺だけだ。……だから、いいんじゃないか」

「…………」



その言葉に前髪の影からカナデの横顔を見遣るアイビー。

無関心なようで、少しだけ……本当に少しだけ、感情の窺える、その表情。

……やがて荒っぽい舌打ちがアイビーの口から零れた。

スマートフォンを放り、代わりに煙草の箱を取って一本引き出し咥えて引き抜く。



「……ん」

「……火ならそこにあるだろ」

「いいから寄越せ」

「……変な奴だな」



少し短くなった煙草の先端を、アイビーの煙草に触れ合わせるカナデ。

互いの間で束の間強く燃える、ひとつの赤。

その火が移ったところでそっと離す。



「……アイビー」

「……んだよ」

「……、いいや」



何でもない、と返すカナデの口元。

僅かな笑みを湛えたそこを横目に見たアイビーが、どこか捻くれたように紫煙を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ