転生人語 #034 ―パパになる瞬間―
妊娠したと聞いて、喜ぶ男、戸惑う男、実感の湧かない男、人生設計を考える男といろいろいる。あ、昔はしらを切る男が多かった。さて、僕はどうする?
***
彼女は先ほど産婦人科の中に入っていった。僕は駐車場の車の中で待つことにした。小さな体が不安そうに自動扉の向こうへ吸い込まれていく。
「生理来ないから、市販の検査セットで調べたら、陽性だった」
先週、彼女は申し訳なさそうにそう言った。
「病院行って、ちゃんと確認しようよ」
身に覚えはあったけれど、やっぱり驚いた。こんな時、男はどう振る舞えばいいのだろう。もちろん僕は初めてで、正直戸惑った。でも、彼女に心配をかけちゃいけないし、無責任なことはできないと思った。
高校生の頃、子どもを堕した友人がいる。二人で話し合って決めたらしい。まだ子育ては早すぎると。それぞれの両親にも説明したという。僕たち友人はこっそりカンパして援助した。結局、二人は卒業後に別れた。結果的には堕して正解だったのだろう。でも、あまり良い思い出ではない。
いま、僕たちは結婚して2年。そろそろ子どもが欲しいねと話していたところだった。だから後悔はない。ただ、妊娠なんて半信半疑だったのは確かだ。実感がないのも確かだ。
車の中で一人取り残され、今後のことを考えた。
もし彼女が「赤ちゃんできてた」と言ったら、なんて返そう。
おめでとう?
よかったね?
……なんか他人ごとみたいだ。
大事にするよ、君も赤ちゃんも。
……ちょっと照れくさい。
逆に妊娠じゃなくて、生理が遅れただけだったら?
そっか、また頑張ろうね。
……なんか違う。
残念だったね。
……慰めた方がいいのかな。
ところで彼女は嬉しいのだろうか。嬉しいはずだ。先週、申し訳なさそうに話してくれたとき、彼女の目はずっと僕を冷静に見ていた。僕が「病院で確認しよう」と嬉しそうに言った瞬間、彼女は抱きついてきた。僕も彼女を強く抱きしめた。
もし出来ていたら、考えることは山ほどある。産休、仕事、両親への報告。赤ちゃん?孫?ができたって言うのかな。
30分後、彼女が病院から出てきた。車の僕を見ながら歩いてくる。表情は笑っていない。
助手席のドアが開き、彼女が乗り込んだ。
「どうだった?」
恐る恐る聞く。
「妊娠2カ月だって」
彼女はフロントガラスを見たまま言った。
「ついに僕たち、パパとママになるんだね」
いろいろ考えたのに、とっさに出た言葉はこれだった。
彼女は僕を見た。そして、今までで一番可愛い笑顔で言った。
「そうだよ。パパ、よろしくお願いします」
この時の彼女の顔を、僕はきっと忘れない。
僕はエンジンをかけ、彼女と赤ちゃんを気づかうように、ゆっくりアクセルを踏んで駐車場を出た。
***
これは一番ハッピーなパターンのようだ。どうぞお幸せに。
さて、昔も今も「出来ちゃった婚」という二人をよく見かける。わしの個人的意見だけど、「出来ちゃった婚」が一番自然な流れで、お互い腹がくくれる、諦めがつくと思うのだが、いかがだろうか?きっとあなたもそのパターン?
そもそも「子はかすがい」と言って、子どもの愛情が縁をつなぎ保たせるという。
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