転生人語 #032 ―知ったふりの代償―
知らないことは恥だと思う人は多い。
あたしも、その一人だ。
学校では「分からない」と言うのが、なぜか悪いことみたいな空気がある。
本当は、素直にそう言えたらどれだけ楽だろう。
***
あたしには、嫌な癖がある。
「知ってる? あの新しいアイドル」
「知ってる。あの子かわいいよね」
本当は知らないのに、知ったふりをしてしまう。
話の流れを止めたくないのか、仲間外れが怖いのか、自分でもよく分からない。
言ったあと、いつも後悔する。
「駅前の新しいお店知ってる? ドーナッツが美味しいみたい」
「あー、知ってる」
また知ったかぶり。
後でスマホで調べよう。
知らなかったことがバレませんように。
“知らない”と言えない自分が、少し嫌になる。
「知ってる? あの子、彼氏できたんだって」
「うん、知ってる」
また、やってしまった。
自分だけ浮いてると思われたくない。
そんな気持ちが、口を勝手に動かす。
そのあと必ず自己嫌悪が追いかけてくる。
「ごめん、好きな子できたんだ。別れよ」
「うん」
「知ってたよ」なんて言えなかった。
本当は何も知らなかったから。
それでも、声が震えなかったことだけが、唯一の救いだった。
まるで分かっていたみたいな顔で。
バカヤロー。
誰か、「知ったかぶり」を治すクスリ下さい。
***
人は、知ったつもりになると、大事なものを見落とす。
彼のことも、そうだったのかもしれん。
そもそも知ったかぶりは、相手の信頼を損ねる。
知らないことは恥ではなく、知るチャンスだ。
楽しめばいい。
彼に聞いてみたらいい。
「あたしより好きになった子って、どんな子?」
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