8・おっさん、新兵器の性能を実証する
「さて、試験の第一段階は終了だ。次からは出力を下げるからな」
そう言うと、三人も意図を理解してくれたようだ。
トロルは群で行動している。一体見たら最低でも三体は居るというのが常識だ。つまり、後の闘いは後衛に回ると伝えた。
「来た」
金香の一言を受けて戦闘態勢に入る三人。俺も銃を構えて待つ。
のっそのっそと穴から顔を出したソイツに狙いを定めてしばらく待つ。いくら巨体とは言え、頭を狙うよりも体を狙った方が当てやすい。現に今、奴は頭をユラユラ大きく揺らしながら登って来ており、タイミングを外せば当たるもんも当たらん。
少し待つと体が地上へと出現した。そこで胴を狙って引き金を引く。発射音は先ほどと大して変わらないが、弾速は半分程度まで下がっているため威力自体が低く、大穴をあけるほどでは無かった。
「やっぱ銃の威力じゃないよ、ソレ」
呆れたように声を上げる水次。すでに金香はトロルの足元へと走り込んでアキレス腱に当たる部分を斬りつけている。
直後、足首の自由を失ったトロルが膝をつき、怒り狂ったように辺りを見回して腕を振るう。それを真正面から受けに行く犬渕。
いや、受けずに流してトロルの姿勢を崩した。そこへすかさず斬り込んでいく水次。
三人の連携は見事で、後衛なんか居なくても十分戦えてるじゃないか。水次がわき腹を切り裂いたことで膝立ちすら維持できなくなったトロルが屈みこみ、すかさず金香が飛び込んで首筋を狙う。
俺は銃を構えてその影から現れた三体目の顔面目掛けて引き金を引いた。
「チッ、外したか」
三体目のトロルは顎こそ吹き飛ばせたが致命傷にはならなかった。声にならない叫び声を放ちながら二体目に群がった三人へと襲い掛かろうとしている。
素早くハンドガードを操作し最終弾を装填、がら空きの肩へと撃ち込んだ。
振り上げた右腕がガクッと垂れ下がり、効果があったことを知らせてくれるが、コイツ等に利き腕という概念は無く、左腕も威力は変わらない。
俺はすぐさま銃剣を取り付け走り出す。
「犬渕!」
二体目の側を走り抜けながら声を掛けると、犬渕がすぐさま三体目へと走り盾を構えた。そこへトロルの左ストレートが飛んでくる。
真正面から受け止める犬渕。が、俺は知っている、アレは受け止めた訳じゃない。スキル魔法の反射を行使するために敢えて真正面から向かって行っただけだ。
視界の隅で犬渕の行動を捉えながらトロルへと駆け寄る俺。その時、トロルの腕が砕け散るのが見えた。
見事に反射が決まり、トロルは振りぬいた自分の拳のパワーを自らへと叩き込むことになった。下手をしたら自動車すら吹き飛ばし、装甲車を凹ませる様なパワーを叩きこまれた左腕が無事な訳がない。
顎が正常であれば、相当な雄たけびを上げたのだろうが、顎が無いので不気味な悲鳴しか上げられない。
俺はその隙に足元へと接近し、先ほど金香がやったようにアキレス腱へとヒヒイロカネ製銃剣を突き立てる。
立っていられなくなったトロルは腕すら失い、支える物もなく豪快に転倒した。
止めを刺そうと思ったが、すでに金香が駆け寄っているのを視認し、思いとどまり見届ける、その間にシリンダーへと弾を装填し、穴への警戒へと意識を向けた。
「三体だけっぽいねぇ」
止めを刺してすぐに俺の近くへやって来た金香が呟いた。幸運な事に、登ってきたのは三体だけ。ま、群れで登って来られても困るが。
「ん?」
西の方から何かが飛び跳ねてやって来るのが見え、そちらを警戒する。
「知り合いだよ」
という金香の言葉を受けてよくよく見ていると、飛び跳ねているのは甲冑の武者だった。どんどん近づき、相手が分かる。
「お、千疋じゃないか。それに‥‥‥何だハーレムか。心配して損したな」
額当ての上に白髪をたたえた老人。しかし、今の日本じゃまだまだ現役の70代だ。ジョブは戦士だが、盾役もこなせる鎧武者がこの世代の流行り。しかも、「歳だから」と、甲冑は強化外骨格仕様だ。手に持つのは長槍。ゴブリンの群れを一振りで刈り取って「草刈り」と言い切る強者。
「徳善さん、お久しぶりです。もしかして、常駐ですか?」
バスに居なかったから、きっと専属の常駐班なんだろう。こうした事態に対応できるメンツが居ないと後が大変だからな。
冒険者は30代で育休に入り、50代で復帰。その後70代にもなれば、こうしてセンター専属の冒険者になるか、新人指導に当たるのが今のトレンドである。育休してない俺が普通ではないんだ。
「ああ、ついでに見つけた大阪からの遠征連中のお守してたよ。で、お前、ホムラは?」
手に持っている得物がホムラでは無いと気付いて聞いてくるので、斯く斯く云々手短に説明した。
「おいワンコ、こんな浪費野郎を養うのか?お前」
なぜか犬渕に飛び火していく。犬渕の話は有名なので、こうして時折揶揄れているが、それに動じないの、なんで?
「はい、私以外には無理だと思います」
普通に答えんな。
「だとよ」
徳善さんがそう言って笑いかけてくる。その頃、ようやく追いついてきたのはセンターで見た若者たちだった。
「お、来たか。ちなみに、コイツが言ってたホムラ狂の千疋だ」
という紹介をされる。俺を見た若者たちはドン引きである。
「ん?知り合いか?」
不思議そうな徳善さんにセンターでの話をすると大笑いしている。
「怖いもの知らずだよな。千疋に絡んでよくピンピンしてたな」
ここで、俺に絡んで来たら犬渕がどうなるかが語られた。
「蛮勇はそんくらいにして、コレの片づけやるぞぉ」
金香の掛け声で会話を終えた俺たちはトロルを片付け、警戒へと戻る。
俺の考えた魔動レールガンは実用可能だと立証出来たが、普及できるようなシロモノではない。ヒヒイロカネを産するのは、この穴と大阪か奈良の山に空いた穴だけ。黒硬鉄鉱石でも代用可能な事は分かっているが、如何せん重すぎる。その上、雷結晶の製作自体も難易度が高く、オヤジをしても歩留まりが悪い。更には雷魔法と相性が悪い黒硬鉄鉱石では、最大出力でしか使えない。異界銀?アレは雷の熱に耐えられないよ。日本じゃ産しない異界金剛については不明だが、それは俺たちが試せる素材じゃないので知らん。
トロルを片付け、情報交換も兼ねて少々談笑した別れ際
「ようこそ、俺たちの世界へ!」
徳善さんがそんな事を言って来た。
日本で重婚は認められないが、徳善さんの様な剛の者は形式上の離婚を重ねて複数の家庭を持っている。事実上の重婚者が冒険者には複数存在する。
「この二人なら構いませんよ?」
と言ってくる犬渕。いや、そういう話じゃないからね?
今の日本にゃいくつもハーレムパーティが存在してるわけで、俺がコイツ等と組むってそう見られるのかも知れんが、そういうのはもっとゆっくり考えていきたい。今はまず、魔動レールガンの戦力化だよ。