監視者は邪魔しない
「ゴゴ!」
「ゴゴっち!」
目を開けると、白い照明を背に、ゼンゾーとスティーブが並んでオレの顔を覗き込んでいた。
「オレは……生きているのか」
思わずそう呟いた。
オレは学校に行っていないが、それでもわかる。本能で知っている。心臓を串刺しにされたのだ。生きているわけがない。
「ボクのお金の力ですよ」
スティーブがサングラスの奥で泣きながら言う。
「ここはボクのお父さん──スーパーライトグループの経営する病院です。最新の医療機器を駆使してアナタを蘇生させました」
そんなわけはない。
本能で知っている。
オレは、死んでいた──
「おまえを串刺しにするなんて──」
ゼンゾーが真剣な顔でオレに聞く。
「兄貴か? アーミティアスが来たのか?」
オレは素直にうなずいた。
そして部屋の中にそいつの姿を探そうとした。
探すまでもなかった。アーミティアスはとても心配そうな顔をして、ゼンゾーの隣でオレを見ていた。
「あぁ……」
オレはできるだけアーミのほうを見ないようにしながら、ゼンゾーに答えた。
「アーミティアスが外から来て、ミアをさらっていった」
「あの野郎……! 何が目的だ」
アーミティアスがここにいることは、ゼンゾーにもスティーブにも見えていない。
オレがそれを教えたら二人とも殺される。
そして気づいた。
オレを蘇生させたのはアーミティアスだ。ユニコーンの力ならそういうこともできるのだろう。
「アーミティアスめ……! おれのいるこの町で好き勝手は許さんぞ……爺ちゃんの名にかけて!」
拳を握りしめてそう言うゼンゾーを、横からアーミティアスが楽しそうに見つめる。
同じユニコーンと人間のハーフなのに、この兄弟はなぜこうも違うのか──
アーミは姿を消すことができ、動きが素速く、額のツノで獲物を仕留め、仕留めた獲物を蘇生させることもできる。ゼンゾーは……犬並みに鼻が利くというだけだ。しかもその得意の鼻で、アーミティアスがすぐ隣にいることすら嗅ぎつけられない。
だが、オレが好きなのはゼンゾーのほうだ。こう見えて優しい。
アーミは……何を考えているのかわからない。
「病院食じゃゴゴっち、全然足りないでしょう?」
スティーブが涙を拭きながら言う。
「職員に言って、ステーキ用の肉5キロ用意させますから」
「頼む、スティーブ」
オレは笑ってみせた。
「今も腹が減って死にそうだ」
「死にかけてたんだよ、おまえは」
ゼンゾーが叱るように言う。
「さらわれたミアちゃんのことはおれに任せて、おまえは休んどけ。いいな?」
「頼む、ゼンゾー」
彼にも笑ってみせた。
「オレは当分、動けん」
「しかし病院のベッドにライオンが寝てるのを見るのは新鮮ですね」
スティーブが言う。
「大丈夫、時々いるお相撲さんの患者さんのための特注ベッドですから。壊れないよ。だから安心して休んでね」
二人は手を振り、病室を出ていった。
アーミティアスは残った。
オレの質問をニコニコしながら待っている。
仕方なく、オレは質問してやった。
「なぜ、殺した獲物を生き返させる……」
「キミが私の物語を壊さないでくれるからだよ」
傍にあったリンゴを手に取り、がぶりと噛みつくと、アーミは言った。
「あの二人に私の存在を教えないキミに感謝してるんだ」
オレはベッドから身を起こした。
アーミのツノがオレのほうを向いた。
「オレはミアを取り戻す」
構わず、言ってやった。
「邪魔はさせんぞ」
「邪魔?」
何がおかしいのか、アーミが笑う。
「するわけがないだろう? それどころかあの子どもがさらわれていった場所も教えて差し上げるよ」
「何がしたいのだ」
睨みつけてやった。
「一体、何がしたいのだ、キサマは──」
「まだわかっていないのか」
口からリンゴの果汁を垂らしながら、アーミティアスがオレを馬鹿にするように笑った。
「私は物語が見たいだけだ。ここでオマエが負けて終わる物語など何が面白い? 一度死にかけたライオンが再び立ち上がり、少女を取り戻しに敵地へ一匹で乗り込む──そんなありきたりだがワクワクするような物語が私は見たいだけだよ」
「邪魔しないのか」
「邪魔はせんよ」
碧い瞳を冷たくきらめかせて、アーミティアスは言った。
「つまらなそうな展開にならない限りはな」




