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家庭教師、手探りする

令和時代初日です。

奇しくも天皇のお話になりました。


「大姫様は、古今和歌集がいつ頃できたか、ご存知ですか」


「ずぅっと昔よね」


うん、そうだね、問題は、50年前か200年前かってことなんだけどね!


「最近読んで、面白かった物語などございますか。もしくは、都で流行っている物など……」


「わたくし、物語はあまり読まないの。出てくる女君がみんなうじうじしているのですもの。そんな時間があったら、烏毛虫を探しに行くわ」


「はあ、さようですか……」


さてここで、唐突ですが。

タイムトラベラーあるある~~!


タイムリープして、いちばん困ることは?


答え。

「今」が何年なのか何時代なのか、分からない!!!


あなたがどこか昔の時代にタイムリープしたとしよう。オススメしないけど、周りの人に「今って何年ですか?」と質問したとする。

意外なことに、答えられる人は、ほとんど存在しない。


つい最近まで、洋の東西を問わず、ほとんどの人間は、共通の暦や元号なんか、認識していなかったのだ。

 西洋でも、西暦なぞ、教会と国家の上層部にしか使われていなかった。フランスやスイスなどは、第一次大戦のころでも独自のカレンダーを使っていたのである。

 日本でも、戦国時代までは、各大名がバラバラに暦を作っていた。江戸時代になってやっと、一般庶民のもとまで共通の暦と元号が知れ渡るようになったのだ。それでも、各藩の農村では、各自の暦を併用していた。


 そら、そーだ。日常生活に必要ないもんね。

 むしろ、いつ種まきするかとか、今日は休日だとか分かるほうが、よほど重要である。


 それなら、誰もが元号を知っている新しい時代とか、知ってそうな権力者に聞けばいいのかというと、甘い! どえらく甘いのだ。

 以前、明治時代の初期にタイムリープしたとき。

 町の様子や人々の服装から、明治以降だろうと推測して、元号を尋ねたことがある。現代に戻って検索すれば、西暦が分かって一発楽ちん! と思ったのだ。

 結果、ものすごい勢いでドン引きされて、お脳のおかしい人か外国のスパイ扱いを受けた。

 その時は必死でごまかして逃げてきたけれど、それ以来、直接年号を質問するのは避けている。


 し・か・も!

 今回は、平安時代(仮)である。よりにもよって。


 都の様子、規模、下水処理施設がないこと、通りの名前などから、ここは平安京で間違いないだろう。が、平安時代かどうかは分からない。


 平安時代に、公家の生活様式の基本が固まった。

 そして政権が移り、時代が変わっても、京都の貴族の生活は、ほとんど変化しなかったのだ。

 将軍の正室が公家のお姫様と決められていた江戸時代でも、やってきたお嫁さんは平安時代とほとんど変わらない正装で、武士とは言葉も通じなかった、という記録がある。


 さらに平安時代末期、政治の実権が離れていくなか、公家達は、今までの生活を変えず、悪い情報をシャットアウトするようになった。

 元寇があっても、国内で大規模な反乱があっても、そんなニュースは、上層部のほんのひと握りで止められた。出仕している公卿達にすら、伝わらなかった。実際、宮中の女房達はなにも知らずに平和な日常生活を送っていたことが、当時の日記などから分かっている。


「今上は、どのようなご趣味の方なのでしょう。それによって、都に新しい流行ができますよね」


「お父様に聞いたことがあるわ。とても横笛がお上手なのですって。昨年は、催馬楽さいばらを舞われたそうよ。素晴らしかったと仰っていたけれど……、斎迩の君、これってご指導なの。横笛も催馬楽も、女性がするものじゃないわよ」


 だめだ、全然参考にならない。横笛は公家の男性の一般的な嗜みだし、催馬楽は、平安から室町時代まで、長く流行した舞楽である。


 帝の名前が分かればいいのだけれど、前にも言ったように、彼らは本名を呼び合わない。

 帝なんてその筆頭である。本名(いみな)は誰にも知られていないし、唯一無二の存在なのだから、「うえ」「今上きんじょう」「当今とうぎん」で充分なのだ。先代どころか、三代前の帝でも「さきの先々帝」とか呼ぶのである。

 試しに「一条天皇ってご存知ですか」とか聞いてみて、もしも先帝だったら、下手したら、不敬罪で死罪モノだ。「○○天皇」という呼び名は死後に与えられるものなので、現在や未来の帝だったら、誰の事かはバレない。けれど、存在しない帝をねつ造するなんて、危険人物確定である。そんな恐ろしい賭けはできない。


 ――はふ~。

 今回のタイムリープ先は、政治の中枢から外れている公家の、平安様式のお邸。

 今が何時代なのか、推理するための情報が、べらぼうに少ないのである。

 『堤中納言物語』が本当に13世紀にできたのなら、12世紀末平安時代あたりまでかな、とは思う。それにしても範囲が広すぎるし、あの物語はあくまでもフィクションだ。頼りすぎるのは、危険である。

 結局は、いつものように、手探りで進むしかないのだけど、ある程度は目星をつけておきたい。


 古今和歌集だって、時代によって人気の歌が違う。教える側としては、きちんと準備してあげたいと思う。

 それに、大きな事件にでも巻き込まれて、うっかり歴史を変えてしまったらマズイからね!


「ああ、まだご指導ではありません。まずは大姫様と、楽しくお話ししたいと思いまして」


「わたくしは虫の話をする方がずぅっと楽しいわ。――ああ、そういえば、わたくし、畏れ多くも今上より1歳お姉さんなのよ。機会があればお目通りさせたいが、と以前お父様が残念そうに仰っていたわ」


 10歳の帝かぁ。平安中期以降、ごろごろいるからなあ。摂関政治とか院政とか、わざと幼な子を帝位に就けていたくらいだから。


 映画でも小説でもドラ○もんでも、タイムマシンで移動先の西暦を指定できちゃうなんて、ホント、羨ましいよ。それか、わざとらしく新聞とかカレンダーとか落ちてきたりしてさ。

 きっと、こういう便利な演出を考えた人は、タイムトラベラーだね。

 苦労したんだろうなぁ、わたしみたいに。




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