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その日、俺はとてつもなく酔っ払っていた。こうやってその日のことを思い出そうにも曖昧で、不鮮明な記憶しか残っていないのも昨日は酒に溺れていたからに違いない。
大量に飲んだ酒からくる頭の痛みがじわじわと襲うも、後悔は全くもってない。あくまで酔ったことと、そこからくる頭痛に関してはだが。
問題は机の上に置かれた赤色の卵。みてくれは鶏の卵に着色しただけで普通の卵、だが驚くべきはその値段。なんとこれ1個で俺の3ヶ月分の給料が飛んだ。こんな卵1個にだ。
「馬鹿なのか俺は」
どうしてこんなに高かったのか、その理由を商人が説明していた気がするのだがどうしても値段以外を思い出せない。商人の姿すら曖昧で、黒いローブで全身を隠した如何にもブツ売ってますよ、な商人だったような。
まあ、商人の事はどうでもいい。値段を聞いた上で買ったのはその時の俺で、ナマモノを返品なんて迷惑を通り越す。
「もう辞めだ辞め。過去は振り返らないと決めていただろ。それよりも仕事の準備……って卵をどうするかな」
食べる。それも1つの選択肢だと思う。超高級な卵料理を食えると思えばそれも悪くない。問題は俺にそんな料理の腕はないところか。普段から外食ばかりして、自炊したのはいつのことだっただろうか。
なら、飯屋に持ち込んでみるのはどうか。駄目だ。こんな卵1個持ち込むのは気が引ける。見た目はただの鶏の卵だし。捨てる、のも勿体無いとなれば残る選択肢はひとつしかない。
「育てるか。雌ならまた卵産んでくれるし、雄なら……寂しいひとり暮らしの相方になってくれるだろ」
一晩そのまま放置していたことに若干の不安を抱きつつも、俺は卵をハンカチで優しく包み、上着のポケットへしまった。仕事場に持っていくのは少し気が引けるが、あいつなら許してくれるはず。いや、許してもらおう。
さっと準備を整えて、まだ静かな街へと飛び出した。




