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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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学年一可愛い令嬢三姉妹は、俺の本が屋敷にあるだけで次の口実を作ってくる

 西園寺家の書斎に俺の本が置かれた翌日。


 朝起きて最初に見たスマホには、三姉妹からそれぞれ違う温度のメッセージが届いていた。


 涼花からは、


『昨日の本、続き気になる!』

『主人公が思ったより神谷くんっぽい!』

『今日ちょっとだけ読みに行っていい!?』


 優里からは、


『おはようございます』

『昨日の本、少し読み進めました』

『神谷くんの好きな理由が、少し分かってきた気がします』


 龍華からは、


『半分読んだ』

『今日続きを読む』

『来るなら来い』


「……俺の本なのに、呼び出されるのかよ」


 そう呟いたものの、不思議と悪い気はしなかった。


 自分の好きな一冊が、あの三人の中でちゃんと動き始めている。

 それが妙にくすぐったい。


 ただ、さすがに連日で西園寺家へ行くのは少し気が引ける。

 そう思っていた矢先、今度はグループチャットに涼花がメッセージを投げてきた。


『神谷くんの部屋で感想会しよ!』


 いや、なぜそうなる。


 優里がすぐに返信する。


『本は屋敷にありますよ?』


 涼花。


『じゃあ持っていけばいいじゃん!』


 龍華。


『本が往復するのか』


 涼花。


『神谷くんの本だし、里帰り!』


「里帰りって何だよ……」


 俺は思わず笑ってしまった。


 その数時間後。

 俺のアパートの前には、西園寺三姉妹が立っていた。


 そして、優里の手には、昨日俺が屋敷の書斎に置いた本が丁寧に抱えられていた。


「……持ってきたのか」


「はい」


 優里が微笑む。


「今日は、少しだけ里帰りです」


「優里までその言い方をするな」


「涼花が気に入っていたので」


 涼花は胸を張った。


「いいでしょ、里帰り!」


「本に対して使う言葉じゃないだろ」


「でも、神谷くんの部屋に帰ってきた感じあるじゃん!」


 龍華は壁にもたれながら、少しだけ口元を上げた。


「まあ、間違ってはないな」


「お前まで乗るな」


「だって元はここにあったんだろ」


 それはそうだ。


 結局、俺はまた三人を部屋へ上げた。


 涼花のクッション。

 優里の紅茶缶。

 龍華のパーカー。

 机の写真立て。

 棚のアルバム。

 そして、いったん屋敷へ行った俺の本。


 部屋の中にあるものの関係性が、どんどんややこしくなっている。


 ※ ※ ※


 ローテーブルの上に本が置かれると、三人の表情が少し真面目になった。


 涼花はラグの上に正座して、昨日読んだところにしおりを挟んでいる。

 優里はノートまで持ってきていた。感想をまとめるつもりらしい。

 龍華はすでに半分読んだというだけあって、余裕のある顔でページを開いていた。


「……なんで本気なんだよ」


「だって神谷くんが大事にしてる本だもん!」


 涼花が即答した。


「ちゃんと読みたいじゃん」


 その言い方がまっすぐすぎて、茶化せない。


 優里も静かに頷いた。


「好きなものを教えてもらったなら、ちゃんと向き合いたいです」


「読書会というより、面接みたいになってるぞ」


「それくらい大事です」


 重い。

 でも、その重さが少し嬉しい。


 龍華はページをめくりながら言った。


「私は普通に面白いから読んでる」


「それはそれでありがたいな」


「主人公、思ったより面倒くさいな」


「いきなり感想が辛口だな」


「でも、悪くない」


 龍華の“悪くない”は、だいぶ褒めている方だ。


 しばらく、四人で本を読んだ。


 俺の部屋で、三姉妹が同じ本を読んでいる。

 しかもその本は、俺が選んで屋敷に置いた一冊だ。


 涼花は時々「ここ好き!」と声を上げ、優里は印象的な台詞に小さく頷き、龍華は無言でどんどん先へ進む。

 その様子を見ているだけで、なんだか自分の本が少し違って見えた。


 同じページでも、読む人が変わると反応が違う。

 それが面白かった。


「ねえ、神谷くん」


 涼花が本から顔を上げた。


「このヒロイン、ちょっと優里お姉ちゃんっぽくない?」


「どの辺が」


「静かに見守ってるようで、たまにすごいこと言うとこ!」


「……否定しづらいな」


 優里が少し困ったように笑う。


「そうでしょうか」


「そうだよ!」


「じゃあ、こっちの強引な先輩は龍華だな」


 俺が何気なく言うと、龍華が顔を上げた。


「誰が強引だ」


「お前」


「即答かよ」


「心当たりしかないだろ」


 涼花が笑い出した。


「分かる! 龍華お姉ちゃんっぽい!」


「うるさい」


「じゃあ、わたしは?」


 涼花が期待するように身を乗り出してくる。


 俺は少しだけ考えてから言った。


「元気に引っ掻き回す妹キャラ」


「そのままじゃん!」


「そのままだな」


「でも、可愛い?」


「……まあ」


 答えた瞬間、涼花の顔がぱっと明るくなった。


「やった!」


「そこで喜ぶのか」


「可愛いって言われたし!」


 しまった。

 完全に拾われた。


 優里がくすっと笑う。


「神谷くん、最近そういうことを自然に言うようになりましたね」


「お前らに鍛えられてるだけだ」


「いい傾向だな」


 龍華が淡々と言った。


「お前ももっと言え」


「命令するな」


「じゃあ希望だ」


「どっちにしても圧がある」


 三人が笑う。


 こんな会話を、自分の好きな本を囲んでしている。

 少し前なら考えられない光景だった。


 ※ ※ ※


 読書会がひと段落した頃、優里が持ってきたノートを開いた。


「感想を少しまとめてもいいですか?」


「本当にやるのか」


「はい」


 優里は真剣だった。

 涼花も「わたしも言う!」と手を挙げる。

 龍華は面倒そうに見えて、ちゃんと本を閉じてこちらを向いた。


「じゃあ涼花から」


 俺が言うと、涼花は少し考えてから、まっすぐ答えた。


「主人公が最初はすごく一人で平気そうにしてるのに、ほんとは誰かに来てほしかったんだなって思った」


「……」


「神谷くんも、最初そうだった?」


 不意打ちだった。


 涼花の目は、真っ直ぐだった。

 からかっているわけじゃない。

 本当にそう感じたから聞いている。


「……まあ、そうかもな」


 俺が答えると、涼花は少しだけ嬉しそうに笑った。


「そっか」


 それ以上は言わない。

 でも、言わなくても伝わるものがあった。


 次に優里が静かに口を開く。


「私は、主人公の居場所が増えていくところが好きでした」


「昨日も話したな」


「はい。でも読んでみて、少し意味が変わりました」


 優里はノートに視線を落とす。


「居場所って、場所そのものだけではなくて、そこに自分を覚えてくれる人がいることなんですね」


 その言葉に、少し胸が詰まった。


 俺の部屋に三姉妹のものがある。

 西園寺家に俺の本がある。

 それは、ただ物が置いてあるだけじゃない。


 互いを覚えている場所が増えた、ということなのかもしれない。


「……お前、やっぱり感想が綺麗だな」


「綺麗ですか?」


「うん」


 優里は少しだけ頬を染めた。


「ありがとうございます」


 最後に龍華が、本の背表紙を軽く叩いた。


「私は、主人公が逃げ切れないところがいい」


「そこかよ」


「だって、逃げようとしても周りが勝手に入ってくるだろ」


「……」


「でも、それで変わっていく。嫌々みたいな顔して、結局ちゃんと受け入れる」


 龍華が俺を見る。


「お前みたいだな」


「全員それ言うな」


「本当だからな」


 否定できないのが腹立たしい。


 涼花が楽しそうに笑った。


「じゃあ、わたしたちは主人公を変えるヒロインたちだ!」


「自分で言うな」


「でも、間違ってませんね」


 優里まで静かに乗る。


「私たちが神谷くんの世界を少し広げたなら、嬉しいです」


 龍華が短く言った。


「少しどころじゃないだろ」


 それも、否定できなかった。


 俺はローテーブルの上の本を見た。


 自分の部屋から西園寺家へ行き、またこうして戻ってきた一冊。

 ただの本だったはずなのに、いつの間にか俺たちの関係を映すものになっている。


「……持ってきてよかったな」


 ぽつりと言うと、三人が同時にこっちを見た。


「ほんと?」


 涼花が聞く。


「ほんと」


 優里がやわらかく笑う。


「嬉しいです」


 龍華は満足げに頷いた。


「じゃあ二冊目だな」


「早い」


「次は私のおすすめも置く」


「いや、なんでお前の本まで」


「交換だろ」


「交換?」


 優里が目を細める。


「それはいいですね。神谷くんの本が屋敷にあるなら、私たちの本も神谷くんのお部屋に置く」


「待て」


 涼花がぱっと顔を明るくした。


「え、いいじゃん! わたしも置く!」


「お前、本読むのか?」


「漫画でもいいでしょ!」


「そこは急に現実的だな」


 龍華はすでに本棚を見ていた。


「この辺、空けられるな」


「空けるな」


「でも、お前の本がうちにあるなら、うちの本がここにあっても公平だろ」


「公平をそう使うな」


 優里は静かに言う。


「でも、少し素敵だと思います」


 その言い方がずるい。


「お互いの好きなものが、それぞれの場所にあるんです」


 また、距離が一つ縮む音がした気がした。


 俺の部屋に三姉妹の私物がある。

 西園寺家に俺の本がある。

 そして今度は、三姉妹の本が俺の本棚に来るかもしれない。


「……本棚、一段だけな」


 気づけば、俺はそう言っていた。


 涼花が歓声を上げる。


「やった!」


 優里が嬉しそうに目を細める。


「ありがとうございます」


 龍華は口元を上げた。


「言ったな」


「言ったけど、増やしすぎるなよ」


「最初は一段だ」


「また“最初”って言ったな」


 三人が笑う。


 どうやら令嬢三姉妹は、俺の一冊を屋敷に迎え入れただけでは満足せず、今度は自分たちの好きな本まで俺の部屋へ送り込むつもりらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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