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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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14/17

学年一可愛い令嬢三姉妹は、校内展示が始まると当然みたいに俺を人前へ引っ張り出して、そのまま俺の部屋で反省会まで始める

 翌日、読書週間の展示は朝から校舎のあちこちで話題になっていた。


 一階の図書室前には、各学年ごとに分けられた手書きのポップがずらりと並び、登校してきた生徒たちが足を止めていた。色紙の切り方や文字の配置で目を引くものもあれば、紹介文の勢いで思わず本へ手を伸ばしたくなるものもある。その中で、俺たちが昨日の放課後に仕上げた一角は、明らかに人だかりの密度が違っていた。


 遠くから見ても目を引く。

 近づけば、ちゃんと読ませる。

 しかも、紹介されている本の系統に少し幅があるから、誰かしら一冊は気になるものが見つかる。


 ……自分で分析しておいてなんだが、出来はかなり良かった。


 けれど、それを素直に認めるのは妙に気恥ずかしい。

 俺は混み始める前にさっと横を通り過ぎるつもりだったのに、図書室前へ差しかかった瞬間、図書委員の女子に見つかった。


「神谷くん!」


 呼び止められた時点で嫌な予感しかしない。

 しかも、その声で近くにいた生徒数人までこっちを見る。やめろ。作品だけ見てくれ。作者の気配は消しておきたいタイプなんだ俺は。


「昨日、手伝ってくれたやつですよね? すごいです、朝からめちゃくちゃ評判よくて」


「……それは、どうも」


「特にこの紹介文、誰が書いたんですかって結構聞かれてるんですけど」


 その一言に、俺は反射的に視線を逸らした。

 ああ、やっぱりそういう流れになるのか。面倒だ。ものすごく面倒だ。


 すると、背後から妙に聞き慣れた声がした。


「神谷くん、おはよっ!」


 涼花だった。

 人混みをすいすい抜けてきて、そのまま展示の前でぴたりと止まる。朝からこいつは本当に元気だ。いや、元気なのは知っているが、今日はそれ以上に誇らしげだった。たぶん、昨日の作業にちゃんと自分も参加したという意識があるのだろう。


 そして嫌な予感は、だいたい当たる。


「これ、神谷くんが――」


 言い切る前に、俺は軽く肘で制した。

 涼花は「んぐ」と小さく変な声を漏らして止まる。危なかった。


「なに?」


「なにも」


「いや、絶対なにかあったよね?」


「なかった」


 涼花は納得していない顔だったが、その横で図書委員の女子が「え、もしかして」と察し始めている。終わった。完全に終わった。俺の平穏な匿名生活がまた一歩遠ざかった。


 そこへ、二年の教室へ向かう途中らしい龍華と優里まで現れた。

 同じ学年の二人が並んで歩いてくると、相変わらず目立つ。華やかさの質が違うくせに、並んだ時の圧だけは妙に揃っているから厄介だ。


 優里は展示を見るなり小さく微笑み、龍華は腕を組んだまま少しだけ顎を上げた。まるで、自分たちの仕事を確認しに来たプロジェクトメンバーみたいな顔をしている。いや、実際そうなのかもしれないが。


「思ったより人がいますね」


 優里が静かに言う。


「だな。遠目でも見つけやすい」


 龍華が素直に頷いた。

 この長女、他人の前では無駄に格好つけるくせに、こういう結果が出た時だけは意外と隠さない。


 涼花はもう我慢できなくなったのか、俺の袖を軽く引いた。


「ねえねえ、今の見た? みんな結構見てたよ!」


「見た」


「すごいよね!」


「そうだな」


「え、ちょっと待って、今ちゃんと褒めた?」


「事実を言っただけだ」


「でも否定しなかった!」


 そういうところだけ妙に拾うんだよな。


 結局、その朝は展示の前で想定以上に足止めを食らった。

 図書委員に簡単な説明を求められ、通りがかった先生に「面白い文だな」と言われ、涼花はそのたびに嬉しそうな顔をするし、龍華は面倒そうにしながらも逃げずに付き合い、優里は絶妙に場を整えていた。


 校舎の中で、クラスという狭い単位を離れて誰かに何かを見られる。

 それは少しだけ居心地が悪くて、でもほんの少しだけ、悪くないとも思った。


 昼休みになると、展示前の人だかりはさらに増えていた。

 一年生、二年生、三年生が混じって足を止め、近くの貸し出し棚から本を抜いていく。自分が選んだ本も、自分が短く言葉を乗せた本も、誰かの手に取られていく。その光景は思っていた以上に変な感覚だった。


 俺が少し離れた場所から様子を見ていると、隣に優里が並んだ。

 涼花は友達に捕まっていて、龍華は図書室前の壁にもたれて人の流れを見ている。学年は同じでも、龍華と優里はやっぱり立ち位置が違う。龍華は場を睨み、優里は場を観察する。そういう差が、並んだ時に不思議とちょうどよく噛み合っていた。


「貸し出し、かなり増えてるみたいです」


 優里が小声で言う。


「そうみたいですね」


「神谷くん、嬉しいですか?」


 聞き方が少しだけ不意打ちだった。

 嬉しいかどうかなんて、あまり考えていなかった。ただ、出来上がったものが人に届いている事実を、ぼんやり眺めていただけだ。


「……たぶん、少し」


 正直に答えると、優里はやわらかく笑った。


「そういうの、もっと顔に出してもいいと思います」


「出てないですか」


「ほとんど出てません」


「自覚はあります」


「でも、少しだけ分かります」


 その少しだけで十分だと言わんばかりに、優里はそれ以上深くは言わなかった。

 そういう距離感が、この人は本当にうまい。


 放課後になっても、読書週間の話題は続いた。

 図書室から「追加でおすすめ札を書けないか」と頼まれた時には、さすがに断ろうかと思った。だが、試しに一本だけ書いたところ、それを見た図書委員が目の色を変えた。結果として、俺は閉館ぎりぎりまで付き合わされる羽目になり、涼花は「やっぱり神谷くんってこういうの向いてる!」と無邪気に火へ油を注ぎ、龍華は「もういっそ業者だな」と訳の分からない評価をし、優里は「すみません、でも助かります」と静かに頭を下げた。


 断れなくなる流れが出来上がりすぎている。


 ようやく校舎を出た頃には、四人とも少しだけ疲れていた。

 六月の夕方はまだ明るいが、熱気だけは昼の名残を引きずっていて、歩いているとじんわり汗がにじむ。駅へ向かうかと思いきや、龍華が当然みたいにこちらを見た。


「で、今日はどうする」


「なにが」


「反省会だろ」


「なんのだよ」


「展示一日目の」


「いつの間にそんな会が成立した」


「今」


 即答だった。

 その場にいた三人のうち、優里は「それもいいですね」と頷き、涼花は「お菓子買ってこ!」とすでに乗り気である。


 俺だけが置いていかれていた。


 けれど、図書室前で何度も足を止められて、そのたびに三人と視線を交わして、何となく通じる空気があったのも事実だった。そういう一日の終わりに、一人で部屋へ戻る想像をした時、妙に静かすぎる気がしてしまったのも事実だった。


 それが腹立たしい。


 結局、いつものように駅前のコンビニで適当に飲み物とスナックを買い込み、俺の部屋へ向かう流れになった。もうここまで来ると、三姉妹の足取りに迷いがない。誰がどのタイミングで靴を脱いで、どこへ座るのかまで自然に決まっている。俺の六畳一間は、着実に三人の生活動線へ組み込まれつつあった。


 反省会と言っても、大した議題があるわけじゃなかった。

 どのポップがよく見られていたとか、図書委員がどのくらい慌てていたとか、龍華の配色が意外と評判だったとか、涼花が危うくまた余計なことを言いかけたとか、そういう話をだらだら続けるだけだ。


 それなのに、気づけば時間はあっという間に過ぎていた。


 優里は展示を見ていた三年生の反応を細かく覚えていて、龍華は遠目から人の流れを見た印象を言語化するのがうまく、涼花は貸し出し棚から本がなくなるたびに自分のことみたいに喜んでいた。俺はそんな三人の話を聞きながら、時々言葉を足したり、足りないところを繋いだりしていた。


 ふと、気づく。


 最近の俺は、こういう場で黙っているだけじゃなくなっていた。

 前なら、三人が騒いでいる横で適当に相槌を打って終わりだったはずだ。けれど今は、三人が持ち込んだ話題へちゃんと参加している。意見を出して、感想を言って、時々笑ってまでいる。


 それを自覚した瞬間、少しだけ落ち着かなくなった。


「神谷くん、今日ちょっと機嫌よくない?」


 涼花が炭酸の缶を持ったまま言う。


「普通だ」


「いや、ちょっと違う」


「分かります」


 優里まで頷く。


「今日はいつもより、ちゃんと楽しかった顔をしてます」


「それ、ほとんどしてないって意味になるだろ」


「ゼロではない、です」


「微妙なフォローだな」


 龍華が缶のプルタブを鳴らしながら笑った。


「でもまあ、分かる。今日はお前、学校でも逃げなかったしな」


「逃げようとはした」


「でも最後までいた」


 それを言われると弱い。

 たしかに、朝の時点で本当は関わらずに通り過ぎたかった。昼休みだって、遠くから見て終わりにするつもりだった。放課後の追加作業も、途中で切り上げようと思えば出来た。


 けれど、結局全部そこにいた。


「……お前らがいたからだろ」


 ぽつりとそう言うと、三人の空気が一瞬だけ止まった。


 しまった、と思った時には遅い。


 涼花は露骨に嬉しそうな顔をしたし、優里は少し目を丸くしたあとでやわらかく微笑み、龍華は一度だけ視線を逸らしてから、わずかに口元を上げた。


「それ、かなり大きい一言ですよね」


 優里が静かに言う。


「大きく取るな」


「取ります」


「即答かよ」


「だって、神谷くんが自分からそういうこと言うの、珍しいから」


 涼花が身を乗り出してくる。

 だから近いんだって、お前は。


「別に、深い意味はない」


「でも、意味はある」


 龍華が珍しくきっぱり言った。


「お前がそう思ってるなら、それで十分だろ」


 その返しが妙にまっすぐで、少しだけ言葉に詰まる。


 結局、その日の反省会はだいぶ長引いた。

 展示が予想以上に好評だったこと、明日以降は図書委員から余計な仕事を押しつけられないように距離感を考えること、涼花は校内で説明しようとして余計な情報を足さないこと。そんな結論とも呼べない結論をいくつか確認して、三姉妹はようやく帰り支度を始めた。


 玄関で靴を履きながら、優里がふと振り返る。


「神谷くん、今日はありがとうございました」


「なにがですか」


「図書室でも、本屋でも、ここでもです」


「……別に」


「その『別に』、今日はあんまり説得力ないな」


 龍華が横から言う。


「お前、結構楽しんでたし」


「お前は人の顔見すぎなんだよ」


「見てるから分かるんだろ」


 涼花は最後に、いつものように明るく手を振った。


「明日も展示見に行こ!」


「俺は遠くからでいい」


「だめだよ、作者が現場確認しなきゃ!」


「いつから俺が作者になったんだよ」


「最初からそんな感じだった!」


 こいつの中ではそうらしい。

 否定しきれないのが、なんとも言えず悔しかった。


 三人が帰ったあとの部屋には、飲み終わった缶と、開けっぱなしのお菓子袋と、まだ少しだけ残る笑い声の気配があった。


 読書週間の展示は学校のための企画だったはずなのに、気づけばそれはまた俺の部屋へ繋がっていた。

 学年一可愛い令嬢三姉妹は、どうやら校舎の中だけで満足するつもりはないらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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