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学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について   作者: 沢田美


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学年一可愛い令嬢三姉妹は、校舎の中でも外でも俺の逃げ場をきっちり見つけてくる

 小テストの祝勝会から一日経っただけなのに、俺の学校での立場はまた少しだけ妙な方向へ進んでいた。


 朝のホームルーム前から、教室の空気は妙に落ち着かない。露骨に話しかけてくるやつは多くないものの、視線だけはやたらと集まる。ここ最近ずっとそんな感じではあったが、昨日の祝勝会の余波なのか、今日は一段とひどかった。静かに席へ着いて、静かに授業を受けて、静かに一日を終える。そんな高校生活の理想形は、もうだいぶ前に崩れている。


 昼休みの終わり際、学級委員が俺の席まで来て、図書室へ行ってほしいとだけ伝えてきた。理由を聞いても、「二年の西園寺先輩たち……じゃなくて、西園寺さんたちが呼んでる」と曖昧な返答しか返ってこない。そこで俺は小さくため息をつきながら席を立った。


 二年の廊下は、一年のそれとは空気が少し違った。落ち着いているというより、完成している。クラスごとの人間関係も、誰が中心なのかも、すでに出来上がっている感じがある。その廊下の窓際に、並んで立っている二人組がいた。


 龍華と優里だった。


 二人は同じ二年で、並んでいても不思議はない。むしろ、同じ学年の中でも目立ち方が揃いすぎていて、並んでいると余計に周囲の視線をさらう。龍華は相変わらず無遠慮に手を振り、優里はいつものようにやわらかく微笑んだ。


 そのまま図書室へ連れていかれて、ようやく事情が分かった。


 来週から校内で読書週間が始まるらしい。各学年ごとにおすすめの本を紹介する手書きのポップを作って、図書室前へ展示する企画があり、その手伝い要員としてなぜか俺に白羽の矢が立ったのだ。原因は涼花だった。英語の小テストで浮かれた勢いのまま、「神谷くんは本屋でバイトしてるし、本めっちゃ詳しいし、絶対こういうの得意!」と図書委員に言ったらしい。


 余計なことしかしないな、あいつは。


 ただ、実際に図書室の長机へ座ってみると、そこには色画用紙とサインペン、貸し出し候補の本が何冊も積まれていて、想像していたよりずっとまともな作業だった。ふざけ半分の呼び出しなら断るつもりだったが、本当に学校の企画の一環ならそうもいかない。


「神谷くん、お願いできますか」


 そう言われて、断れるほど俺も冷たくなれなかった。


 図書室の午後は静かだった。窓の外からグラウンドの掛け声が遠くに聞こえるだけで、校舎のざわめきもここまで上がってはこない。そんな場所で本の表紙を眺め、帯の文句を見て、裏表紙のあらすじを短く削っていく作業は、意外なくらい性に合っていた。


 最初は渋々だったのに、一本目のポップを書き終えたあたりから、少しだけ集中している自分がいた。誰かに読ませるための短い言葉を選ぶのは難しい。長く語れば伝わるわけでもなく、短すぎても何も残らない。その間を探る感覚は、妙に神経を使うくせに、嫌ではなかった。


 優里は字が綺麗で、配置のバランスを見るのが上手かった。俺が書いた文を、余白ごときちんと整えて画用紙へ落とし込んでいく。龍華はそういう細かい飾りつけを面倒くさがるかと思っていたが、いざやらせると意外とセンスがよかった。色の置き方がはっきりしていて、遠くからでも目につく。性格は雑なのに、そういうところだけ妙に器用で腹が立つ。


 しばらくして、部活帰りらしい涼花が図書室へ飛び込んできた。汗を拭いたあとらしく、前髪だけ少し乱れている。


「うわ、ほんとにやってる!」


 その第一声だけで、図書室の空気に似合わない存在だと分かる。


 けれど、机の上へ並んだポップを見た瞬間、涼花は素直に目を丸くした。そこから先は珍しく大きな声も出さず、長机の横へ回り込んで一枚一枚を見ていく。自分が原因で始まったことだからか、妙に真面目だった。


「神谷くん、これ書いたの?」


 俺が頷くと、涼花は本気で感心したような顔をした。


 その顔を見ていると、少しだけ居心地が悪い。褒められること自体に慣れていないのもあるが、それ以上に、自分が当たり前にやっていることをそんなふうに見られることに慣れていなかった。


 放課後の図書室は、閉館時間が近づくにつれて人が減っていった。窓から差し込む光も少しずつ傾き、長机の上へ細い影が伸びる。けれど、ポップはまだ半分も終わっていなかった。学校にある本だけでは紹介文も考えづらく、途中から案が詰まり始めたのもよくなかった。


 そこで龍華が、駅前の本屋へ行けば陳列の見せ方や販促用のコピーが参考になるんじゃないかと言い出した。俺のバイト先まで巻き込む気かと思ったが、たしかにそれは正論だった。優里も涼花も納得してしまい、結局、四人でそのまま駅前へ向かうことになった。


 放課後の商店街は、学校帰りの制服姿と買い物袋を提げた大人たちが混ざり合っていて、校内とは違うざわつきがあった。焼き鳥の匂い、パン屋の甘い匂い、自転車のベル、信号待ちの雑談。そういう街の音の中を、西園寺三姉妹と並んで歩いている状況はやっぱり現実感が薄い。


 龍華と優里が同じ歩幅で前を行き、その少し後ろを俺と涼花が歩く形になった。姉二人は同じ学年なだけあって、並んだ時の空気に妙な安定感がある。雰囲気はかなり違うのに、街の景色の中へ置いた時の目立ち方はよく似ていた。その後ろで涼花は、図書室で見たポップのことを何度も口にしかけて、でも今度はちゃんと声量を抑えていた。昨日までの反省が、少しは残っているらしい。


 店へ着くと、俺は軽く事情を説明して、棚の見せ方を少しだけ見せてもらった。売れ筋の置き方、手書きポップの強弱、どの言葉が目に止まりやすいか。普段は何となく見ていたものも、作る側の目線で見返すと印象が変わる。優里はそういう違いを丁寧に拾い、龍華は必要な要素だけを抜き出して覚える。涼花は相変わらず感想が全部そのまま顔に出ていて分かりやすかった。


 ただ、店内で全部を終わらせるわけにはいかなかった。結局、参考になる本を何冊かメモしただけで時間が過ぎ、完成までは届かない。図書室はもう閉まっているし、ファストフード店で広げるには材料が多すぎる。となれば、もう行き先は一つしかなかった。


 またか、と思いながら鍵を開けた時には、抵抗する気力もあまり残っていなかった。


 俺の部屋へ入るなり、三姉妹は驚くほど自然にそれぞれの定位置へ収まった。龍華はベッド脇、優里はローテーブルの横、涼花はラグの上。もう何度も来ているせいで、迷いがない。その様子を見ていると、ここが本当に俺の部屋だけの場所なのか、少しだけ分からなくなる。


 作業を再開すると、空気はまた静かに締まった。学校でもなく、本屋でもなく、六畳一間で四人が本の紹介文を考えている。客観的に見ればかなり妙な光景だが、不思議と手は止まらなかった。


 俺が文章を短く整え、優里が見やすく配置し、龍華が色を入れて、涼花が仕上がったものを並べていく。その流れが、途中から妙に噛み合い始めた。誰かが強く引っ張るわけでもないのに、自然と役割が決まっていく感じがある。たぶん、こういうのを相性がいいと言うんだろう。


 作業の合間、優里が俺の書いた一文を見ながら、ふと少しだけ目を細めた。


 その視線に、嫌な予感がした。


 何も言うなと念じたが、こういう時に限って勘は当たらない。


「神谷くん、やっぱり文章を書くの、上手ですね」


 その一言だけで、涼花がぴたりと手を止め、龍華が面白そうに視線を上げた。


 終わった、と思った。


 ただ、前みたいにあからさまに取り乱すのも違う気がして、俺はあえて何も言い返さなかった。その沈黙が、逆に肯定みたいなものだと自分でも分かっていた。


 涼花は何か言いたそうにしていたが、今回は空気を読んだのか、そこで変に踏み込んではこなかった。龍華も珍しく追及せず、代わりに完成したポップを壁へ立てかけて、遠目に見た印象を確かめている。


 その優しさがありがたいのか、余計に落ち着かないのか、自分でもよく分からなかった。


 すべてのポップが完成した頃には、外はもうすっかり夜になっていた。テーブルの上には使い終わったペンと切れ端が散らばり、部屋には紙とインクの匂いが少しだけ残っている。学校の課題を片づけたというより、小さな文化祭の準備を終えたような疲労感だった。


 けれど、嫌な疲れではなかった。


 完成した紙を順番に重ねながら、俺はぼんやり思う。教室だけで終わっていたら、この企画はきっとただの雑務だった。図書室へ行って、本屋を見て、街を歩いて、最後は俺の部屋で仕上げる。そうやって場面が変わったからこそ、少しだけちゃんとした思い出みたいになったのかもしれない。


 そして、その中心にいつもの三姉妹がいる。


 これはたぶん、俺が思っているよりずっと大きな変化だった。


「神谷くん、これ、すごくいいです」


 最後に優里がそう言って、出来上がった一枚を大事そうに持ち上げた。


 龍華も珍しく素直に頷き、涼花は自分のことみたいに胸を張っていた。


 どうやら俺の六畳一間は、ついに学校の読書週間の作業場にまで昇格したらしい。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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