学年一可愛い令嬢三姉妹は、小テストの結果ひとつで当然みたいに俺の部屋で祝勝会を始める
翌日。
小テストの答案が返ってきた一時間目の終わり、教室の空気が少しだけざわついた。
「うそ……」
前の方の席で、涼花が自分の答案を見つめたまま固まっている。
嫌な予感がした。
いや、正確には、嫌というより面倒な予感だ。
「神谷くん!」
案の定、休み時間になった瞬間、涼花が答案を片手にこっちへ飛んできた。
「待て待て待て、走るな」
「見てこれ!」
勢いのまま突き出された答案を見る。
英語、小テスト。
点数は――八十七点。
「……おお」
「おお、でしょ!? すごくない!?」
「すごいな。お前、この前まで六十点台うろうろしてただろ」
「そうなの! だからすごいの!」
涼花は本気で嬉しそうだった。
目がきらきらしてるし、声も弾んでるし、今にもその場で跳ねそうなくらい機嫌がいい。
「神谷くんのおかげだよ!」
「半分はお前がちゃんと解いたからだろ」
「半分じゃないよ、七割くらい神谷くんのおかげ!」
「割合が雑なんだよ」
そう言いつつも、悪い気はしなかった。
そこへ、教室の後ろから優里が顔を出す。
「涼花、どうでしたか?」
「聞いて聞いて! 八十七点!」
「まあ」
優里が目を丸くして、それからやわらかく笑った。
「すごいですね。頑張りましたね」
「えへへ!」
「龍華にも見せてやれよ」
俺がそう言うと、ちょうど廊下を通りかかった龍華が「何をだ」と入ってきた。
「涼花が小テストで八十七点」
「へえ」
龍華は答案をひったくるみたいに受け取って、少しだけ目を細めた。
「やるじゃん」
「でしょ!?」
「神谷、ちゃんと教えたんだな」
「なんで俺に対する評価なんだよ」
「だって、涼花が一人でここまで上げるのは奇跡に近いだろ」
「龍華お姉ちゃんひどい!」
「事実だ」
でも、龍華も少しだけ嬉しそうだった。
すると、涼花がぱっと俺の方へ向き直る。
「というわけで!」
「どういうわけだよ」
「今日、祝勝会!」
「は?」
「神谷くんの部屋で!」
「なんでだよ!」
反射的に声が大きくなった。
周りの視線が集まる。やめろ。教室でやる話じゃない。
「だって、神谷くんに教えてもらったんだもん! お祝いしたい!」
「普通はその理屈だと俺がお祝いされる側じゃないのか」
「じゃあ両方!」
「雑だな!」
優里が口元を押さえて笑う。
「でも、たしかに少しくらいお祝いしてもいいかもしれませんね」
「乗るんだ」
「成果が出たんですから。いいことです」
「私は別に行ってもいいけど」
「お前はもう“別に”の意味を辞書で引いてこい」
そして当然みたいに話が進んでいく。
最近、本当に俺の同意確認が雑になってきている気がする。
※ ※ ※
放課後。
結局、三姉妹はいつものように俺の部屋へ来ていた。
「おじゃましまーす!」
「もう聞き飽きたな、その台詞」
涼花は上機嫌のまま、コンビニ袋を掲げる。
「今日はちゃんと祝勝会っぽく、お菓子買ってきたよ!」
「量がおかしいだろ」
「だって四人いるし!」
「四人でも多い」
袋の中にはポテチ、チョコ、クッキー、炭酸、アイスまで入っていた。
遠足か。
「でも、今日は主役ですから」
優里が涼花を見る。
「好きなだけ喜んでいいと思いますよ」
「優里お姉ちゃん、やさしい!」
「甘やかすなよ。調子に乗るぞ」
「もう乗ってる」
龍華がラグの上へ座りながら言った。
「入ってきた時からずっと浮かれてるし」
「だって嬉しいもん!」
涼花はそう言って、また答案を取り出した。
何回見るんだそれ。
「神谷くん、もう一回見て!」
「さっき見ただろ」
「いいから!」
仕方なく受け取る。
赤ペンの八十七点が、やたら誇らしげに見えた。
「……まあ、ちゃんとすごいよ」
「へへ」
涼花が満足そうに笑う。
それだけで、なんかもう十分な気もした。
「次もこのくらい取れそうか?」
「うっ」
「現実を突きつけるなよ」
龍華が呆れたように言う。
「せめて今日くらい夢見させろ」
「いや、維持できなきゃ意味ないだろ」
「神谷くん、先生みたい」
優里がくすっと笑う。
「褒めてないですよね、それ」
「半分くらいは褒めてます」
涼花はクッションを抱えながら、じっと俺を見た。
「ねえ神谷くん」
「なんだ」
「ご褒美ちょうだい」
「なんでだよ」
「今日はわたし頑張ったから!」
「祝勝会で十分だろ」
「えー」
「なんだその不満そうな声」
「じゃあ、お願い一個聞いて!」
嫌な予感しかしない。
「内容による」
「また今度も勉強見て!」
「……それだけか?」
「それだけって何!? 大事だよ!?」
いや、もっと変な要求が飛んでくるかと思った。
拍子抜けしたせいで、少し返事が遅れる。
「駄目?」
上目遣いで聞いてくるな。
そういうとこだぞ、本当に。
「……小テスト前ならな」
「やったー!」
涼花が素直に喜ぶ。
その横で、優里が少しだけ目を細めた。
「では、私も分からないところがあれば聞いていいですか?」
「優里まで?」
「駄目ですか?」
「いや、別に駄目じゃないですけど」
「私は古文」
龍華が即座に乗ってくる。
「お前、この流れに乗るの好きだな」
「使えるものは使う主義だ」
「言い方」
でも、三人ともなんだかんだ楽しそうだった。
俺は適当にコップへ飲み物を注いで、テーブル代わりのスペースへ並べる。
六畳一間で、コンビニのお菓子を広げて、小テストの点数で騒ぐ。
冷静に考えると、かなりくだらない。
でも、そのくだらなさが妙に心地いい。
「乾杯しよ!」
涼花が炭酸を持ち上げる。
「何にだよ」
「わたしの八十七点と、神谷くんの教え方のうまさに!」
「後半が恥ずかしいな」
「いいじゃないですか」
優里もコップを持つ。
龍華は「まあ、たまには」と言いながら付き合った。
四人で軽くコップを合わせる。
炭酸の泡がしゅわっと鳴った。
「それで、次は何点目指すんだ?」
俺が聞くと、涼花は少しだけ考えてから、にっと笑う。
「九十点!」
「急に欲が出たな」
「だって、神谷くんがいるし!」
「それ、俺に妙な期待かけてるだろ」
「期待してるよ?」
あっさり言われて、少しだけ黙る。
優里がその様子を見て、やわらかく笑った。
「神谷くん、頼られてますね」
「……重いんですけど」
「でも、嫌ではなさそうです」
「そう見えるか?」
「見えます」
龍華まで口元を上げる。
「実際、断ってないしな」
「お前ら、そういうところだけよく見てるよな」
「見てるよー?」
涼花が当たり前みたいに言う。
「だって神谷くんのことだもん」
その一言が、不意打ちみたいに胸に残った。
「……ほら、食うなら食え。アイス溶けるぞ」
誤魔化すようにそう言うと、涼花が「はーい!」と元気よく返事をする。
優里は少しだけ笑って、龍華は「分かりやす」と呟いた。
聞こえてるんだよ、それ。
でも、まあいいかと思う。
点数一つでこんなに騒げるのも、
それをわざわざ俺の部屋でやるのも、
たぶんこいつららしい。
「神谷くん、次のテストもお願いね!」
「だから範囲持ってこいって」
「私も英語見てもらいたいです」
「私は漢文」
「お前ら、もう少し順番守れ!」
狭い部屋の中に、またいつもの声が広がっていく。
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