第72話:ワールドチャンピオン目指してピッチャーとバッターで先発
vsボストンレッドソックスとのワールドシリーズ6戦目の舞台は、再び
ロサンゼルスのドジャースタジアムに移した。先発はもちろん中5日での橘周だ。DHを解除して、打線の7番でバッターとしても出場する。
2戦目では8回2安打16奪三振無失点と好投した後、敵地フェイウェイパークでは野手として目立った活躍をして、6戦目がワールドチャンピオンになるための総決算になる登板だ。
しかし、初回落とし穴があった。1番バッターがシンカーを狙いすまして左中間へのツーベース。そこからセカンドコロとショートゴロで1安打で1点を献上してしまった。
「さすがレッドソックス、でももう打たせない」橘周は開き直って力が抜け、
さらに腕を振れるようになった。2回は三者三振だ!
2回裏の攻撃。7番でバッターとしても出場した橘周は、1アウト1塁からしぶとく三遊間への内野安打。その後ヒットと犠牲フライで、逆転のホームを踏んだ。
橘周は、3回、4回と1安打無失点と押さえて4回裏の攻撃。2アウトランナー無しで橘周。ライト線を破るヒット。超快速モードで一気に3塁まで到達した。スリーベースだ。次のバッターのセンターへゴロで抜けるヒットでホームイン。3-1とリードした。
その後6回が終わって、ピッチングでは2安打1失点のままで得点も3-1だ。ワールドシリーズ等短期決戦では、異常なプレッシャーにさらされるため、疲労も考慮してピッチャーもだいたい5,6回で交代になる。それと徹底して研究してくるから。慣れられたら打たれる度合いが、いつもより高いのだ。
しかし、橘周は違った。まずスタミナが尋常ではない。大学の陸上時代、1日で1500mと400mのレースに出たり、100m×2回と800mと走り幅跳び全てに出場・・等がざらだった。全力疾走を1日に何度も走ってもケロッとしていた。
体重の軽さも武器だ。だからメジャーリーグでスタミナもトップオブトップなのである。
また、他のピッチャーでは考えられない2種類のライジングボールを含めて、決め玉が沢山有り、慣れられる心配もあまり無かった。
今シーズン最後のスリーイニングとなる7回に、完全にリミッター解除して全力投球を始めた。ここからメジャーに渡って最高のピッチングとなった。
・150キロ超の高めライジングストレート
・30㎝浮き上がるライジングカッター
・スプリットのような真下に20cm沈むツーシーム
・40㎝以上真下に沈むシンカー
・真横に曲がるパワーカーブ
・忘れた頃のチェンジアップ 等
ついに本当の本気を出した橘周に、レッドソックス打線は手も足も出ず、7回~9回で三振7とお手上げ状態。高めも低目もバットでかすることすら難しい投球は、目の肥えたメジャーリーグファンも見慣れない不思議な光景だ。まるでプロとアマチュアの試合を見ているかのような・・・
最後はさすがに疲れ果てたが、一番得意な高めストレートで締めた。
3-1でそのまま勝利し、ワールドチャンピオンを胴上げ投手として飾った!




