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ファンタジーな村に引っ越したら、「初恋です」と吸血鬼の王がやってきた  作者: 藤原ライカ


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38 ブーム到来

 


 8月が過ぎても、まだまだ暑い9月のはじめ。



 夏まつりの興奮冷めやらず、というか熱気そのままに打ち上げの夜から、きっかい村には大ブームが到来した。きっかけは、シルヴィーと羅漢刹が着用していたオリジナルTシャツである。



 打ち上げの夜のこと、恋々ストラップをファンタジーフォンに取り付け、ハルカからプレゼントされた『天下無双』&『キング・オブ・ヴァンパイア』のオリジナルTシャツをさっそく着ていたシルヴィー。



 そしてその夜、羅漢刹もまた「わたしも頼もうかな」とアカネが発注したオリジナルTシャツを着ていた。



 こちらは白地に墨字で、正面に縦書きの『極楽浄土』、背面には『鬼頭組』と殴り書き風の社名がプリントされたデザインで、良好なビジネス関係を継続するため、女社長が抜け目なくプレゼントしたものだった。



 結果は上々で、



「超、カッコイイじゃねえかっ!」



 惚れた女子からのプレゼントに浮かれた羅漢刹が、ハルカとシルヴィーに見せびらかしにきて、「どうだ、イケてんだろ」とやったので、「黒の方がカッコいい」とトップモデルばりの華麗なポーズを決めた金の魔性。



 筋肉質な羅漢刹とスタイル抜群のシルヴィーの着こなしはさすがで、黒と白のオリジナルTシャツを目にした村民たちは一同に「……欲しい」となった。



 欲望に目を光らせ、ハルカとアカネに詰め寄ってくる面々。



「あの……お頭だけですか? ワシらのは?」



「姉川の姐さん、オラたちも鬼頭組……」



 しまった……と冷や汗をかいたアカネ。用意してないとは云えなかった。



「いま、注文中なのよ! ほら、小鬼さんサイズは特注しないとね! 待っててね」



 ハルカも同様に、ピエールやウォーレンをはじめ、魔界から応援でやってきた吸血鬼やゾロ目殿下たちの無言の抗議に焦りに焦った。



「あっ、みんなには、好きな色とか聞いてからにしようと思って! ほら見て、何色にする~? 魔王一家は仲良くおそろいにしよっか~」



 なんとかその場を取り繕った翌日、アカネは取引業者に注文書を持って駆け込んだ。



「最短で納品をお願いします!」



 そうして届けられたオリジナルTシャツは、村民たちを大いに喜ばせた。着用率は驚異の9割。



 これを受けて、ハルカは懇意にしているアパレルブランド『スノーウーマン』のオーナー兼デザイナーの白雪(しらゆき)雪子(ゆきこ)が経営するショップに、数十枚のTシャツを持ち込んで販売してもらったところ、即日完売のうえ予約が殺到した。



 紛れもないブーム到来を受け、ハルカとアカネは緊急ミーティングをひらく。



「正直なところ、Tシャツの需要がここまであるとは思わなかった。アカネがデザインした『鬼頭組』の社名入りTシャツだけど、あんな感じで『きっかい酒造』も作って欲しいって」



「ねえ、ハルカ、これはビジネスチャンスかもしれない。10月からはじまる通販会社で、Tシャツを商品化するべきよ。魔王や殿下たちに広告塔になってもらえば、きっかい村につづいて魔界でも、爆発的ヒットの可能性があるよ」



「それ、わたしも思っていたところ! よし、さっそく明日、雪さんに相談してこよう。きっかい村で量産、直販できれば大儲けできる!」



 ここから一気に、ハルカとアカネの目つきが変わった。



「サンプルができたら、魔界で商品プロモーションしてきなよ。ついでにサイトに掲載する写真を撮影してくればいい。魔界ロケとか絶対映えるって」



「そうだね! デザインだけど、魔界でウケる四字熟語って何かな? シルヴィーは『天下無双』がお気に入りだから『唯我独尊』とかも人気ありそうじゃない?」



「好きだと思う。意味は分からなくても強そうな感じがいいはず。あとはちょっと変わり種で『悪役登場』とか『魔界生活』なんてのもいいんじゃない」



「それ、面白いね。ちょっと待ってメモしておこう」



 金儲けに目をギラつかせた女ふたりは、深夜まで『四字熟語』を云い合った。



「悪戦苦闘、七転八倒、虎視眈々」



「弱肉強食、百戦錬磨、酒池肉林」




 ◇  ◇  ◇  




 うろこ雲が空に浮かぶ翌日――



 役場近くの一等地に住居兼アトリエを構え、敷地内でアイスクリーム屋さんとブティックを経営する女友だちを、ハルカは訊ねていた。



 アパレルブランド『スノーウーマン』のオーナー白雪(しらゆき)雪子(ゆきこ)は、クール&ビューティーな雪女である。



「暑いったらないわ~」



 氷団扇でパタパタと真っ白い顔を扇ぎながら、フローズン・ラテを飲んでいる。



「雪さん、こんにちは~」



「いらっしゃ~い」



『氷の城』をモチーフにした永久凍土素材の邸宅は、常時マイナス温度を保っているので、人族のハルカにとっては非常に寒い。



 玄関で渡された防寒具を身につけ、エスキモースタイルで登場したハルカは、アイスブルーに輝くアトリエで、氷の妖精ジャックスパローが運んできてくれたホットコーヒーを飲んで身体を温めた。



 雪女の雪子とハルカの付き合いは、もう20年になる。



 タツ子を訊ねてやってきた「きっかい村」で、ハルカが最初に仲良くなったのが雪子である。



 夏のはじめ、うっかり日傘を差さずに出かけた雪子が、道端でフラフラしているのを見つけたハルカは、「だいじょうぶ?」と冷却シートを額に貼ってやり、水筒の氷水を飲ませてやった。それが縁で、今では大の仲良し。



 いつものように世間話をして、ホットコーヒーをおかわりしたところで、ハルカはTシャツ商品化について話した。



 流行に敏感な『スノーウーマン』のヤリ手経営者は、即座に「ウチで縫製、生産させて」と前のめりで契約が成立。



 前日にアカネと相談していた『四字熟語』を見せながら、デザイナーの雪子と字体やカラー、ラインナップするサイズについて話し合いを重ね、それから2週間後。



「おまたせ、できたわよ!」



 吹雪とともに古民家にやってきた雪女から、ハルカは待望の魔界用サンプルを受取った。



さあ、いよいよ。


魔界への進出だ。




【 きっかい村 編・完】






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