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ウィッチエアクラフト〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜魔法の復活編  作者: 朱坂卿
再・第二翔 新兵器護送任務 
9/50

#9 魔女の蛙

「いっつの間に!? も〜、不意打ちなんて卑怯怯!」


 法使夏が聞いていればお前が言うなと返されそうなセリフを吐き、アイが唇を噛む。


 奇襲を自分たちがかけたつもりが逆に驚かされるとは、不愉快だと。


「さあ、揚陸艦全速前進であってよ! 戦闘海域より離脱!」

「はっ!」


 その間に揚陸艦は、いそいそとこの海中で展開されている戦闘から逃げようとする。


 これはただの臆病という意味でもなく、旗艦がボーっと浮かんでいたら味方であるルサールカが戦いづらいことも懸念してのことである。


「むむ! 逃げるなな!!」

「おっと、行かせないわ! セレクト、デパーチャー オブ 魚雷霆(アクアヴァジュラ) エグゼキュート!」

「くっ!」


 そんな旗艦に相変わらず突撃をかまそうとする円盤クティーラに、法使夏は搭乗する水流内水陸両用戦車ウィッチーズアンフィビアから雷撃を加える。


「おっとと! ふん、さっきは油断したけど……やっぱり私たちの円盤の方が技術は上だもんもん!」

「くっ、うまく回避するわね!」


 だが、相手の円盤クティーラも空中と同じく海中でも縦横無尽な軌道を描き。


 円盤自体も左右上下に反転を繰り返しことごとく法使夏の雷撃を回避していく。


「ちょこまかと五月蝿いわね! なら……hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡バブリングパニッシュメント! hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト 儚き泡魚雷霆バブリングアクアヴァジュラ! エグゼキュート!」


 法使夏はならばと、グリモアマークレットを発動し作り出した技を繰り出す。


 たちまち命令を受けた水陸両用戦車ウィッチーズアンフィビアから、更に雷撃が見舞われる。


「ふんっ! だからそんなの意味ないない……ぐっ!?」


 それを尚も縦横無尽の機動で回避しようとする円盤クティーラだが、ここで異変が生じる。


 なんと、紙一重で回避した魚雷霆(アクアヴァジュラ)は爆発し。


 その爆発は周辺に大小様々な泡を生成したかと思えば、それらを時間差で更に爆発させていく


「ぐっ……きゃあっ!」


 それらの泡は無論近くにいた円盤クティーラに絡みつくように爆発してきたものだから堪らない。


 クティーラの縦横無尽な機動もさすがにこれは回避できず、機体は爆発を至近距離で次々喰らわされていく。


「ほほほ、見たかしら宇宙人さんたち! これぞルサールカと、その使い魔である蛙ちゃんの力よ!」


 法使夏は機内からその様子を見て勇み笑う。


 そう、これぞ法使夏の誇る水陸両用戦車ウィッチーズアンフィビア――魔女の蛙と法機ルサールカの合わせ技だ。


 先ほどまでは後手後手に回っていたが、ようやくその雪辱は果たせそうだと彼女は胸を張る。


「さあマリアナ様、見ていてください! 私こそあなた様に一番貢献できるのだと!」


 法使夏は俄然活気付き、尚も水陸両用戦車ウィッチーズアンフィビアを駆り立てて円盤クティーラを追い立てていく。


 ◆◇


「アイ! くっ……あんな法機共なんかに!」


 法使夏が見ていてくださいと頼んだマリアナよりも先に、この光景を見咎めていたのはターナである。


 双子の片割れが先ほどの余裕から一転し追い詰められていると聞き、ターナは円盤クトゥルフの中で歯軋りする。


 おのれ――


「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 愚者(ザ フール)――愚者の当惑(コンフューズドフール)、エグゼキュート!」

「きゃっ! くっ……周囲が!」


 しかし、ターナが予想外のアイの苦戦に動揺している隙に。

 剣人は法機クロウリーより光を放ち、これが円盤クトゥルフとターナの状況判断を狂わせる。


「どうした!? よそ見をしている暇はないぞ!」

「ったくう……甘く見て手え抜いてやればつけ上がってえ!」


 ターナは屈辱に震える。


 早く制圧できると思ったのに、このザマかと。


 ◆◇


「見て黒日! 海中のあの泡を含んだ爆発!」

「それに方幻術君とあの円盤も! こりゃあ頑張ってるみたいね、方幻術君も雷魔さんも!」


 各方面の善戦はターナの部下円盤群を相手取っている、法機ディアナ・アラディアに乗る真白と黒日にも伝わり。


 二人も俄然活気付く。

 彼らには、負けていられないと。


「よし、私たちも! hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢(マンスボウ)! hccps://diana.wac/GrimoreMark、セレクト 幻月刃矢アクィアスズムーンズアロー エグゼキュート!」

「な!? こ、これは!?」


 そうして真白が、法機ディアナより四方八方に放ったエネルギー矢たちはいつも通りのそれと同じかと思いきやさにあらず。


 それらは皆、三日月のような形のエネルギー刃となり。


 不規則な揺らぎをそれぞれに見せながら展開され、周囲の円盤群はそれを避けたかと思いきやそこへ突如現れた刃に切り裂かれたりして次々と撃墜されていく。


「よし、黒日今よ! 今なら合流できるわ!」

「オッケー、真白!」


 そうして敵円盤群に隙が生まれたことで、今まで行動を半ば分断されていた法機ディアナとアラディアは集結する。


「さあ行くよ、黒日! hccps://diana.wac/ 、セレクト 三界支配(トリコズミクス)!」

「うん、真白! hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術(リベリオンズアーツ)!」

「……/GrimoreMark、セレクト 三界叛逆トリコズミックリベリオン!! エグゼキュート!!」

「ぐ……ぐああ!」


 更に合流した法機ディアナとアラディアに、真白・黒日は共に命じ。


 それを受けた両法機により、全方位に放たれたエネルギー衝撃波が敵円盤群を薙ぎ払っていく。


 ◆◇


「ねえ、外見ちゃダメ?」

「まだダメよ! 外は危険だから、ね?」

「ぶー、つまんないい〜!」


 一方、揚陸艦内の個室にいる青夢とかぐやだが。


 青夢はかぐやを宥めつつ窓から遠ざける一方で、自身は窓に張り付き艦周辺海域での戦いを見守っていた。


「(方幻術も真白も黒日も……雷魔法使夏も頑張っているのね。魔法塔華院マリアナは……まあ、この揚陸艦で座乗して指揮を取っているのかしら。)」


 青夢は外の様子を見れる限り目にした後、そう結論づける。


 今のところは、ひとまず大丈夫そうだ。

 しかし。


「敵は何を目的にしているのかしら……そこが読めなくて怖いわ。」


 青夢は一人、黒い不安に苛まれていた。


 ◆◇


「簡単に打ち負かせると思ったのに……想像以上に厄介ねあんたたちは!」


 法機ディアナ・アラディアにも勢いを盛り返され、味方円盤群が苦戦する様を見て。


 先ほどのアイが法機ルサールカに翻弄される様と合わせ、ターナはすっかり参ってしまう。


「作戦の第二段階など要らない、第一段階で事足りると思っていたけど…‥認める、認めるわ! 私たちは油断していたと!」


 だが、当てが外れてしまったとあっては仕方ない。

 実は、この作戦は多段構えである。


 それならば次の段階に繋げばいい。


 ターナは屈辱を何とか理性で抑える。

 それができるあたりさすがは騎士団長であるがさておき。


「アイ、とにかく逃げ回ってルサールカを引きつけなさい! 悔しいけど、第一段階じゃ奴らを突破するのは無理よ!」

「っ……了解解、ターナ!」


 ターナの通信を受け、アイは円盤クティーラの進路を大きく変更し。


 たちまち泡の爆発に囲まれた戦域より、離脱を試みる。


「逃げるな! 今度こそ身ぐるみ引っぺがして暴かせてもらうんだから……あんたたちの正体を!」


 法使夏はそれを見て、自身の水陸両用戦車の舵を切る。

 たちまち同車を内包する水流も、尚泡の魚雷霆を放ちながらクティーラを追う。


「さあ……鬼さんこちら、手の鳴る方へへ!」


 アイも何とか精神面を立て直し、機内では敵に聞こえない無意味な挑発をしながら機外に対しては円盤クティーラに、敵をおちょくるような奇妙な軌道を描かせる。


「あら……私を挑発するなんて、中々に地球人的発想の宇宙人さんたちねえ!」


 法使夏はその有様に憤慨し、水陸両用戦車を駆り立てる。


「よおっし、食いついたた!」


 それを見たアイは、ほくそ笑む。


「よし、あの敵旗艦から護衛の法機群は離れたわね……さあ、そろそろ!」


 円盤クトゥルフ内でもレーダーを睨みつつターナも、にんまりと微笑む。


 あとは――


 ◆◇


「ふう、まだまだとはいえ凸凹飛行隊法機群は善戦してくださっていてね!」


 その頃、揚陸艦艦橋内では。

 レーダー上の味方法機群と敵円盤群の位置を見ながら、マリアナはひとまず息を吐く。


 敵はどうやら、止められているようだと。


「いかがかしら魔女木さん、わたくしの飛行隊長ぶりは?」


 そうしてやはり口をついて出て来るのは、直接本人に聞かせる気のない前飛行隊長への嫌味である。


 しかし今、こうして首尾は上々に思われる状況では、それも仕方ないのかもしれない。


 何しろ前回縦浜で敵を退けたのは青夢であるというマリアナにとっての屈辱が、ようやく晴れようとしているのだから。


「さあ、皆さんその意気であってよ! 後は早く敵円盤群を退けなくっては……くっ!?」


 と、そこでマリアナが意気揚々と次の指示を出しかけた時であった。


 座乗する揚陸艦が鳴動し、さながら地震のごとく大きく揺れたのである。


「これは何であって!?」

「わ、分かりません!」

「分からないですませてはいけなくってよ、早く状況を……っ!?」


 艦橋の艦員にマリアナは苛立ち混じりの叱責を浴びせるが、途中その艦橋窓より飛行甲板部の様子を見て愕然とする。


 それは。


「あれは……あの縦浜で見た足の生えた円盤たちであって!?」


 水面から次々と躍り出て甲板へと着地していく、三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンクの群れであった。


 この三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンク部隊の母艦となる、巨大な円筒型宙飛ぶ人工魔法円盤スペースフライングリソーサリーが深海からひっそりと揚陸艦艦底に張り付き。


 海面よりその発進口を露わにして、部隊を送り出したのだ。


「ほほほ、驚いたかしら? そう、これぞ作戦の第二段階……三脚空挺戦車トライアドウィッチエアボーンタンクの部隊による奇襲上陸と"目標"の確保よ!」


 ターナはこの様子を自機内で確認し、笑う。

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