#10 第二の作戦
「くっ!? こ、これって」
――総員に告げましてよ……敵地上部隊、本艦飛行甲板上に侵入! 直ちに総員、厳戒態勢に入りなさい!
「魔法塔華院マリアナ!? ……そう、敵が侵入して来たのね!」
「きゃあ! な、何い!?」
突如として揚陸艦を襲う鳴動に、青夢はそれを艦内個室で感じながらも何とか体勢を立て直す。
今のマリアナによる艦内放送で大体の状況は把握した。
どうやら今のは、敵艦が奇襲で接続してきた衝撃であろうこと。
そして。
「(どうやら奴らの狙いは……やっぱりかぐやちゃんみたいね!)」
「え、青夢ちゃんどうしたの?」
「……う、ううん! 何でもないわ。」
青夢はかぐやを見ながら考えていた。
やはりかぐやがこの揚陸艦に乗っていることはバレているようだ。
連中は恐らく、この艦にいるかぐやを捕らえに来たのだろう。
この揚陸艦をただ破壊することが狙いならば、先ほど恐らく敵艦が接続した際にとっくにやっている。
あるいは今自分たちが運んでいる件の新兵器が狙いならば、潜水戦隊の方も積載している可能性が高いためそちらにも部隊を送り込んでいるはずだ。
それらをせずあの地上部隊――何やら触手のようなものが生えた、奇妙な円盤の形をしたあの縦浜で見た奴らだ――を、それも揚陸艦に真っ先に送り込んで来たということは、少なくとも破壊という大振りな行為ではなく人を探しひっ捕えるという繊細な行為をしようとしている。
青夢は、推測を飛び越えて既にそう確信していた。
ならば――
「かぐやちゃん……ここは危険だわ、出ましょう!」
「え!? ど、どこ行くの青夢?」
青夢がかぐやの腕を掴み半ば強制的に連れ出すと、彼女はかなり驚いた顔をして青夢の顔を見返す。
が、青夢も少々強引であることを自覚しつつも仕方なかった。
マリアナの指示を待ってここに止まっていては、ただただ屠殺されるのを待つ家畜も同然であろうからということである。
「さあて……どうしたものかしらね。魔法塔華院マリアナも正直当てにならないし。格納庫の扉も――さっきの推測通り艦底に敵艦が張り付いていれば塞がれているでしょうし。となるとここから出る方法は……」
青夢は考えあぐねる。
◆◇
「ふふ、どうかしら! まさか地上部隊を揚陸する強襲揚陸艦が敵地上部隊に上陸されるなんてお間抜けね!」
一方、作戦の第二段階が成功しつつあるさまを見てターナは再び勝ち誇る。
「何てことだ……早く揚陸艦へ行かねば」
「おおっと! hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「くっ!? この」
それを見てターナとの戦線より離れようとする剣人は法機クロウリーの向きを変えようとするが、そうはさせじと彼女も乗機クトゥルフに命じ海中よりの攻撃でクロウリーを妨害する。
「行かせはしないわ、法機クロウリー! さっきまでの屈辱をそっくりそのままお返ししないことには、ね……!」
ターナは円盤機内より法機クロウリーを睨み、ほくそ笑む。
◆◇
「くっ、私たちの強襲揚陸艦に敵軍が来るなんて!」
一方海中の戦線にて法機ルサールカ入り水陸両用戦車を駆る法使夏も、自分たちの旗艦の現状に驚いていた。
海中から見える揚陸艦艦底には、先述並びに青夢の推測通りに巨大な円筒型宙飛ぶ人工魔法円盤が深海からひっそりと張り付き。
海面よりその発進口を露わにして、部隊を送り出している。
いやが上にも、法使夏からはその光景が真っ先に目に入ってしまうのである。
「私や潜水戦隊の目を盗んで旗艦に……くっ、マリアナ様すみません! 私がもっと気をつけていれば!」
法使夏は歯噛みする。
先ほど円盤クティーラが海中で足を伸ばすような軌道を見せたのは、自分に対する陽動だったのかと。
海中という揚陸艦を守る上で最重要域を担当していながらこの有様とは、自分に腹が立つと。
「あらあら、敵の動きが止まったた! じゃあいくよ……hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
「くっ!? 敵の攻撃ね……きゃああ!」
が、そうして法使夏が自分の未熟さを悔いている時は敵にとり絶好の隙となり。
アイが円盤クティーラから放った波動に包まれた水陸両用戦車の水流は、海中でぐるぐると上下反転させながらめちゃくちゃな軌道を描いてしまう。
「く……この! ……セレクト 儚き泡魚雷霆! エグゼキュート!」
苦し紛れに法使夏は、今めちゃくちゃな軌道を描く水流内水陸両用戦車より泡の魚雷霆を放っていく。
しかし。
「あーっ、ははは! どこ狙ってんのかしらら!」
やはり狙いがつけられない魚雷霆の攻撃は精彩を欠き、放たれたそれらは明後日の方向で炸裂し円盤クティーラを捉えられない。
「さあて……さっきまでのお返しよよ! hccps://cthylla.frs/、セレクト! 秘匿子大転生、胎内動転! hccps://cthylla.frs/GrimoreMark、秘匿子沢山、エグゼキュート!」
「くっ……円盤が分身した!?」
アイはそんな法使夏に慈悲の心など持たない。
弱った獲物は逃さないとばかりにまたも円盤クティーラに命じ、それを受けたクティーラは自らより水でできた分身体の円盤を大量に生み出し、それらが群れとなり法使夏の乗る水陸両用戦車の水流へと迫っていく。
◆◇
「さあ、こっちよ……いや、ダメだわ!」
その頃、再び揚陸艦内部では。
かぐやを連れてひとまず格納庫へと向かう青夢だが、その直前の廊下で物陰に隠れる。
「どうしたの、青夢?」
「しっ! ……奴ら、もう格納庫に……!」
青夢はかぐやを鎮めつつ、物陰より廊下の先にある格納庫扉を睨む。
その扉は内側から破られかけており、その破られかけた隙間からはあの三脚空挺戦車の触手先端と思しきものが覗いていた。
「(飛行甲板からもうあそこに行ったとは考えにくいわ……まさか、艦底の母艦から直に格納庫にも部隊を送り込んだ!? だとしたら、浸水の可能性すらあるわ……)」
「怖い、怖いよお!」
「あ、か、かぐやちゃん! ひとまず落ち着いて」
冷静に状況を分析する青夢だが、かぐやが再び取り乱し始め慌てる。
そして。
「!? く……あいつら、扉を!」
そんな青夢たちの隙を突くかのように、格納庫の扉を破り三脚空挺戦車たちが姿を見せる。
ここは早く、逃げなくては――
そう青夢が思った時だった。
「hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ バンパイア! エグゼキュート!」
「!? 敵の地上部隊が!」
突如として廊下に向かっていた三脚空挺戦車たちは退き。
代わりに見えたのは、水陸両用戦車であった。
「魔法塔華院マリアナ!?」
「魔女木さん、そこにいるのであってね。格納庫に突き刺さった敵母艦の触手のような部位からも、あの足の生えた円盤さん方が侵入して来ていてよしかし! このわたくしの手にかかればハッキングでこの有様であってよ!」
「ハッキング……なるほど、まあ悪くない作戦ね!」
それは法機カーミラを内包した乗る水陸両用戦車であり、マリアナはそこから声を響かせる。
さすがに艦橋からここにすぐには来れないため、そこからの遠隔操作である。
「でもよく、宇宙人の電使計賛機にハッキングなんかできたわね!」
「ふん、わたくしの手にかかればそんなものこの通りであってよ! しかし……後は飛行甲板上の部隊も片付けなくってはよね!」
青夢の質問にもマリアナは意気揚々と答えるが、既に未だ鎮座する艦橋窓より見える飛行甲板上の光景に顔を歪める。
「ひとまず、あの地上部隊を送り込んだ触手の道を通って敵母艦内からあの飛行甲板に……な、あれは!?」
「な、何? どうしたのよ魔法塔華院マリアナ!」
マリアナがそのまま作戦の段取りを整理していると、艦橋窓より厄介な光景が見えたのだった。
それは――
◆◇
「な、あれは!?」
「あ、新手の円盤群!?」
「そんな……」
その光景は、真白や黒日に剣人も見ていた。
今黒日の弁にあった通り、新手の円盤群である。
「やったた! さすがは女教皇様、気が利くう!」
「え、ええそうね……そんな作戦内容じゃなかったはずだけど、女教皇様がやってくださったのかしら?」
ターナとアイも、その光景に喜ぶ。
ターナは疑念を多少は抱くが、すぐにそれを振り払う。
「まあ、きっとそうね……さあ、行くわよアイ! もう奴らに手は残っていない、だから私たちが一気に!」
「一気に! オッケーケー、ターナ!」
ターナとアイはそうして、海中にて今まさに追い詰めているそれぞれの法機の方へと向かっていく。
これで、止めだ――
と、その時であった。
「hccps://circe.wac/」
「hccps://medeia.wac/」
「アセンブリングシザース、エグゼキュート!!」
「な……ぐああ!!」
なんと、その円盤群のうち二機は他の円盤群を支援するどころか。
揚陸艦飛行甲板上の地上部隊を、二機で挟み込むような光線を浴びせて片付けていく。
「な……何なのこれは!?」
「これは!?」
ターナとアイはその光景に思わず、それぞれの乗機を止める。
「ほほう、活きのええ奴らが大量におるやないか! ……hccps://martha.wac/、セレクト! 処女の慈悲、エグゼキュート!」
が、それだけに止まらず。
揚陸艦艦橋部に張り付いていた三脚空挺戦車たちに他の円盤一機が波動を浴びせて無力化し、円盤はたちまち法機の正体を現す。
「な!? あれは……法機マルタ!?」
マリアナは艦橋窓よりそれを見て驚く。
と、いうことは。
「あの二機の円盤は……まさか!」
「情けないねえミリア、あの凸凹飛行隊はこんな奴らにがんじがらめにされちまってよ!」
「ええメアリー姐様、まったくです!」
果たして、マリアナが予想した通りに。
法機マルタに続き現れたのは、魔法により円盤群のうち二機に偽装していたミリアとメアリーの乗る法機キルケ・メーデイアであった。
「あれはキルケ・メーデイア……? ミリア!」
尚も水流で不規則に回されながらも法使夏は、かつての半身の法機の姿をしっかりその目で捉えていたのだった――




