#11 コンビネーション
「法機マルタに法機キルケ・メーデイア……元女男の騎士団とかいう奴らね! くう、外から戦いに水差すなんて無粋な!」
ターナは戦況を突如現れた元女男の騎士団に覆されたことに苛立ち、円盤クトゥルフ内で地団駄を踏む。
あとは止めを刺すだけだったのに、まったく余計なことをしてくれる。
「……とはいえ、仕方ないわ! アイ、あんたは揚陸艦に向かって! 私はこの戦線を突破次第合流するわ!」
「オッケーケー、ターナ!」
ターナはしかし、思う様暴れたのちすぐさまクールダウンし。
アイに命令を出す。
たちまちアイは、先ほどまで止めを刺そうとしていた法使夏の水陸両用戦車の直前で乗機たる円盤クティーラを転回させ。
そのまま全速力で、揚陸艦艦底へと突き進む。
「くっ……待ちなさい!」
「おおっとメアリーさんにミリア、海中から敵が進んでるでえ! ここはほな、こうしてやらなな!」
「な……あれは!?」
「ええっ!?」
動けない法使夏に代わり、これに気付いた法機マルタに乗る赤音が念じれば。
何と揚陸艦艦底に張り付いていた、敵の円筒型宙飛ぶ人工魔法円盤は揚陸艦艦底に突き刺していた触手一本を切り離して離脱し。
何と味方であるはずの円盤クティーラの前に、立ちはだかる。
「う、裏切ったた!? いやこれって……法機マルタ!」
その光景に驚きつつ、アイは現状を正確に捉えつつあった。
法機マルタ。
そのデータは既に閲覧済みであるが、その一方で他の法機と同じく過去の戦闘データを分析し操られないようにプロテクトを施した筈でもあった。
まさか。
「くっ……奴ら、ハッキングのパターンを変えてきた!?」
ターナは察する。
信じられないが、一方で目の前の状況が何より物語っていた。
「こちらも手の内を読めば、向こうも然りということね……面白いわ!」
ターナはしかし、この状況にむしろ心踊る。
なるほど確かに、敵も学んでいるということはデータ通りには動かないということである。
だが、それが何だと言うのか。
むしろ先ほどまでの、作戦の第一段階で仕留められるという当てが外れた時と合わせて予想外の事態こそ面白いというもの。
ターナはそう考えるほどには、ある程度戦士気質であった。
「アイ、やはり私たちまず合流するわよ! 何にせよマルタでは海の中までは追って来られない、だから私たちは相変わらずそこから仕掛け続けるの!」
「り、了解解!」
ターナは通信でアイにそう告げ、アイもそれを了承し。
たちまちアイは円盤クティーラを反転させ、揚陸艦の方とは逆方向に向かう。
「おっと、千載一遇のチャンスね! ……hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト 儚き泡魚雷霆! エグゼキュート!」
「む!? 法機ルサールカカ!」
が、その隙を見逃さず。
法使夏は水流内の法機ルサールカ搭載水陸両用戦車より泡の魚雷霆の弾幕を放ち。
それにより生成された無数の泡の爆発により、円盤クティーラは阻まれてしまう。
「くう……こんなところでは負けないもんもん! ……hccps://cthylla.frs/GrimoreMark、秘匿子沢山、エグゼキュート!」
「くっ……また円盤の分身とは、小賢しいわ!」
アイもしかし、ここでやられっぱなしではない。
またも円盤クティーラに命じ、それを受けたクティーラは自らより水でできた分身体の円盤を大量に生み出して法使夏の水陸両用戦車へと向かわせる。
「いまさらそんな子供騙し、もう見切ってんのよ! ……セレクト 儚き泡魚雷霆! エグゼキュート!」
「馬鹿の一つ覚えみたいに泡の魚雷霆ばっか、もうそんなの効かないもん! hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
二人は尚も、互いに即応し。
それにより放たれた法使夏の泡魚雷霆とアイの分身円盤たちからの波動がぶつかり合い。
それらは泡魚雷霆の方が打ち勝ち分身円盤を仕留めたり、他方では波動の方が打ち勝ち泡魚雷霆が明後日の方向に軌道を逸らされたりした。
「中々やるわね!!」
法使夏とアイは、互いの顔も声も分からぬ中こうしてぶつかり合う。
◆◇
「アイ、待ってて! 言い出しっぺの私が遅れちゃダメよね!」
「……セレクト、教皇――釜茹で刑執行! エグゼキュート!」
「きゃっ!? く……海を沸騰させる気!?」
ターナも剣人との戦線を突破せんと、円盤クトゥルフを急がせるが。
それではいそうですかと行かせる剣人では無論なく、クロウリーの能力により周辺海域を煮沸し始める。
「さあ円盤の奴、さっさと出て来い! それとも、この海で茹蛸になるか!?」
「く……このお!」
どちらにせよこのままでは埒が明かぬと、ターナは敢えて挑発に乗る形で水から飛び出す。
「隙ありやあ、円盤さん!」
「ふん、法機マルタ!」
そこを逃すまいと、法機マルタが円盤クトゥルフを襲う。
「さあさあ、これで終いやあ! hccps://martha.wac/、セレクト! 処女の慈悲、エグゼキュート!」
「ふん、同じ手には引っかからないわよ! hccps://cthulhu.frs/、セレクト 復活の呼び声! エグゼキュート!」
「くっ! 何や、意外にしぶといなあ!」
「くうっ!」
が、赤音が法機マルタに命じて波動を放つと同時に。
ターナが円盤クトゥルフに命じて周囲全方位に放たれた衝撃波が、それを阻む。
それにより手近に迫りつつあった法機マルタと法機クロウリー、両法機搭乗の赤音と剣人は怯まされる。
「隙ありはそちらのようね! さあ、行くわアイ!」
「ターナ!」
ターナは俄然勢い付き。
勇んで円盤クトゥルフを全速力にて、アイの待つ戦域へと向かわせる。
「くっ、待て!」
「あーあ、すまんわ突破されてもうたメアリーさんにミリア! 頼むでえ!」
それを見て追い縋ろうと法機クロウリーを進める剣人に対し、赤音は追跡を諦め元女男二人に指令を下す。
◆◇
「あいよっ、騎士団長! しっかし情けないねえ、団員に尻拭いさせるなんて!」
「ええ、まったくです姐さん! でもここは私たちがフォローしましょう!」
「ああ、もちろんだってんだ!」
その指令を受けた法機キルケ・メーデイアも、動き出す。
「しっかしねえミリア……このキルケ・メーデイアのまんまじゃ鈍臭い! だから、あんたはちと離れな!」
「はい! ……え?」
が、ふとメアリーはミリアにそう告げ。
法機キルケとメーデイアの接続を、解除する。
「きゃっ!? ね、姐様?」
「ほら、ぼやぼやするんじゃないよミリア! あの娘――法使夏に力貸したいんだろ?」
「!? な……わ、私は別に」
「いいんだよ、ここでは素直になりな! じゃないとあんた、そのまま墜落しちまうよ?」
「きゃっ! で、でも……」
いきなり単機で法機メーデイア諸共切り離され法使夏は戸惑うが、メアリーはそんな彼女をこうして叱咤する。
法使夏はメアリーのそんな言葉を否定できず、忸怩たる想いであった。
このまま私が、法使夏を――
「おっと、敵機がまた来たね! じゃ、あたしは忙しいから……hccps://circe.wac/edrn/fs/grendel.fs?gluttony_on=true――セレクト、ワイルドグラットニー! エグゼキュート!」
「ち、ちょ、姐様!」
メアリーはしかし、尚も法使夏の胸中などお構いなしとばかりに。
法機キルケーに搭載された幻獣機グレンデルの能力を発動し、その力で敵の円盤群を薙ぎ倒すように進軍していく。
「姐様ってば強引なんだから! でも、そうね……こうなったらやるしかないか!」
ミリアは自身を尻目に進軍する現相棒の法機を見やりつつ、自身の法機も体勢を立て直させて進軍させる。
が、行く先はその現相棒の法機のいる道ではない。
そう、それは――
◆◇
「爆発で向こうが何も見えない……これは、ちょっと失策かしらね!」
法使夏とアイの戦域では。
先ほどからの法使夏の泡魚雷霆とアイの分身円盤たちからの波動のぶつかり合いが音と視界の防壁となり、それは図らずも法使夏にとって敵の奇襲を恐れさせるものともなっていた。
「いや、落ち着きなさい私! 私がそうということは、相手もそうだと言うこと。そう、すなわち……」
法使夏はしかし、自身を鼓舞する。
そうだ、自身が奇襲を恐れるということは相手もまた然り。
ならば、自身が先手を打って奇襲を仕掛ければいい。
「これはむしろ千載一遇のチャンス……ならば、活かしてあげないとねえ! ……hccps://rusalka.wac/GrimoreMark、セレクト ゴーイングトルネード、エグゼキュート!」
法使夏は自機ルサールカに命じる。
たちまち自機搭載水陸両用戦車が纏う水流はそのうねりを急加速させ、さながら海中の竜巻となり。
先述の防壁となっている波動と泡が爆発する戦域へと突っ込んで行く。
それは一見すれば自殺行為ではあるが。
沸き立つ爆発は水陸両用戦車の纏う逆巻く竜巻により、その周囲のもののみ吹き飛ばされ。
法使夏はそのまま突っ切るようにして爆発範囲の中の自機を駆り、外へと迫る。
「よし……さあ、これで奇襲を!」
「hccps://cthulhu.frs……セレクト、クトゥルフの呼び声! エグゼキュート!」
「hccps://cthylla.frs/、セレクト! 胎内動転、エグゼキュート!」
「きゃっ!? く……ぐっ!」
が、そんな法使夏を待ち受けていたのは。
「ははは、私たちを奇襲したつもりなんでしょうけど残念だったわね!」
「わね!」
「また私たちは一つになったわ!」
「なったわ!」
法使夏には聞こえないながらも、高笑いするターナとアイが座乗する、再び一つとなった宙飛ぶ人工魔法円盤クトゥルフとクティーラであった。
「あれは……まさか、あの二つの円盤がまた一つに!?」
法使夏はそれを、二人の円盤を目撃して気づく。
円盤クトゥルフとクティーラは最初に分裂した時とは違い、上下に連結した、明らかに二つが一つになったと分かる様相を呈していたのである。
「ふふ……アイをよくもかわいがってくれたわね! たっぷりとお礼をさせてもらうわ!」
「もらうわ!」
「くっ……きゃあ!」
その二つが一つとなった円盤の合体攻撃により、法使夏は乗る水陸両用戦車の水流諸共に海中でぐるぐると上下反転させながら、めちゃくちゃな軌道を描かされた挙句衝撃波を浴びせられているのだからたまらない。
このままでは――
「hccps://medeia.wac/、セレクト! アセンブリングシザース、エグゼキュート!」
「くっ!? 何よ!」
「何よ!」
「っ!? 攻撃が止んだ?」
が、その時であった。
突如として空中より海中に二つの火線が発射されて円盤クトゥルフとクティーラに当たり、それに怯んだターナとアイにより、攻撃は止む。
訝しむ法使夏だが、海中より空中を見てその攻撃の主を見つける。
「ミリア!」
「まったく……相変わらずの体たらくね、法使夏!」
それは法機メーデイアを駆り駆けつけた、ミリアであった。




