#2 応えぬ乙女
――何でしょうかねえ、これは? 煙を上げていますね……
「う、うーん……」
青夢は、寝床でうなされていた。
目の前に見えるのは、昼間自分が実験に失敗し墜落炎上した時を思わせる地上から上がる火柱と煙。
それに対するコメントをしているのは何やら聞き覚えのある男性の声。
今見える光景は、その男性の視点から見えるものである。
しかし、その声の主を何故だか思い出せない。
――!? な、何ですかあれは!
と、その時。
男性は、更に声を上げた。
何故なら、その地上から上がっている火柱と煙の中から。
鈍い光を放ちながら、"何か"が出て来たからである。
その"何か"の身体から放たれている、光の粒は。
次々と出ては、消えていく。
「何、これ……?」
青夢はこれが夢だと知りつつも。
それが何かを暗示しているようで、空恐ろしさを感じていた――
◆◇
「思い出した……私忘れてたけど、最近はこんな夢を」
「何をなさっていて、豆木さん! さあ、あれを鹵獲しなくてはならなくってよ!」
「!? わ、分かってるわよ真仏院マリアナ……え?」
青夢は夢のことを思い出して一瞬呆けつつも。
マリアナのその言葉に、頭を疑問が翳める。
鹵獲する? 空に浮かぶ円盤を?
「な、何言ってんのよ真仏院マリアナ……そんなの、法機もなしにできる訳が」
「おほほほ! 何をおっしゃって? ……さあ、行かなくってはよ皆さん!」
「応!!!!!」
「え……?」
が、マリアナは事も無げに星夏・剣人・真白・黒日に言い。
そうして。
「hccps://camilla.wac/!」
「hccps://crowley.wac/!」
「hccps://rusalka.wac/!」
「hccps://diana.wac/!」
「hccps://aradia.wac/!」
「サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!!!!!」
「な……み、皆!?」
尚キョトンとする、青夢を尻目に。
皆は忘れもしない、あの術句を唱えたのだった。
◆◇
「それじゃ豆木さん……わたくしたちは、一足お先に空で待っていてよ!」
「そうよ、モタモタすんじゃないわよ豆木!」
「豆木、待っているぞ!」
「青夢、一旦じゃあね!!」
「う、うん……」
そうして久々に――本来は二度と見るはずのなかった凸凹飛行隊の法機がやって来て。
皆はまた、青夢を尻目にそれら自機に乗り込み大空を駆け始める。
「よ、よし私も! さあ来て、ジャンヌダルク…… hccps://jehannedarc.wac/! サーチ コントローリング 空飛ぶ法機ジャンヌダルク! セレクト、ジャンヌダルク リブート エグゼキュート!」
青夢も何とか思考を整理し、先ほどの皆と同じく自機ジャンヌダルクを呼ぼうとする。
が。
「な、何で!? hccps://jehannedarc.wac/! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
自機は来ず、どころか自分の命令が伝わった手ごたえもなく青夢は大慌てし。
再び術句を唱えるが。
「……くっ、来ない!」
結果は、同じであった。
◆◇
「さあて……法機群、散開! 目標、空飛ぶ円盤ですわ!」
「はい、マリアナ様!」
そんな青夢の現状などつゆ知らず。
マリアナたちは戦闘機型の法機カーミラ、ルサールカ、クロウリー、および爆撃機型で両翼に小型機を留まらせているディアナ・アラディアの機体を翻し空飛ぶ円盤へと迫る。
すると。
「ま、マリアナ様! 敵機、こちらに向かって来ます!」
星夏が驚いたことに。
何とこれまではすぐに姿を消していた空飛ぶ円盤は、凸凹飛行隊の法機群めがけて自ら飛来してきたのである。
近づいて来たそれは、見たところカーミラとほぼ同じ大きさと見てとれる。
「ああら、そちらから来てくださるなどありがたくってよ……同時に飛んで火に入る夏の虫でもあってよ! hccps://camilla.wac/! セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」
マリアナも驚きつつ、ならばとばかり空飛ぶ円盤を迎え撃つ。
たちまちカーミラのエネルギー吸収能力により、空飛ぶ円盤の動きは鈍る。
「後で青夢に手柄をあげるためにも頑張らないと……hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「そうね真白……hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音! エグゼキュート!」
その機を逃すまいとばかり。
空飛ぶ円盤に、ディアナ・アラディアからも無数の光矢と動きを止める攻撃が放たれる。
が。
「! あの空飛ぶ円盤、また動き出した!?」
動きの鈍っていた円盤だが、再び縦横無尽の動きを見せて攻撃を回避する。
「安心しろ、真仏院に円・井島! 俺が止めてやる…… hccps://crowley.wac/、サーチ アサルト オブ ウィッチエアクラフト・クロウリー! セレクト、アトランダムデッキ! 月――満干の月、エグゼキュート!」
剣人もまた、自機に命じ。
たちまち法機クロウリーからは重力波が放たれ、空飛ぶ円盤をその力場に捕らえる。
「ふん、あんたにしてはやるわね法玄寺! ……私も、マリアナ様をお助けしないと! hccps://rusalka.wac/、セレクト! ゴーイング ハイドロウェイ、エグゼキュート!」
星夏も、負けじとばかり。
法機ルサールカ周囲に同機を包む水流を生成し、そこに空飛ぶ円盤を取り込む。
本来ならば水流内エアポケットに他の法機を取り込んで共に水中を飛ぶための力だが、エアポケットでない箇所に敵機を取り込めばその力を無力化することもできる技だ。
それを体現するかのように、空飛ぶ円盤は水に捕らえられ。
読んで字の如く溺れた人のように、飛行能力を無力化されてしまった。
「よし……いいわ来馬さん! さあ、わたくしが止めを! hccps://camilla.wac/! セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」
マリアナは、そうして無力化した空飛ぶ円盤のエネルギーを吸収し。
空飛ぶ円盤はそのまま、墜落してしまう。
◆◇
「! 墜落したわあの円盤……もしかしたら!」
その頃、結局自身の法機を呼べずじまいであった青夢だが。
空飛ぶ円盤が落ちていく様を見て、その落下地点目掛け駆け出して行く。
「ここね……うっ!」
青夢はそうして、落下地点にたどり着くが。
そこで円盤が煙を上げている様を見て。
――何でしょうかねえ、これは? 煙を上げていますね……
「(これは……あの夢!?)」
頭痛と共に最近よく見るあの夢の光景が、瞼の裏に浮かぶ。
「まあデジャヴって言えるほど似てる光景だからかもしれないけど……まさか。」
――!? な、何ですかあれは!
そう、夢の中とはこの後。
上がっている火柱と煙の中から。
鈍い光を放ちながら、"何か"が出て来るのである。
その身体から光の粒が次々と出ては、消えていく"何か"が。
「いやまさか……そんな筈ないわよね! そんな所まで夢と同じだなんて……」
青夢は首を横に振りながら、目の前の光景を改めて見る。
が、その時だった。
「ん!? え……う、嘘!?」
果たして、青夢が予想あるいは予知した通りに。
円盤から、"何か"が出て来た。
「え……あ、あなたは!?」
それはなんと、青夢と同じくらいの年頃の痩せた長髪の少女。
何やら白いワンピースを着ているが。
「はあ、はあ……」
「!? ち、ちょっと!」
彼女は徐に、青夢の前で倒れてしまった。