#1 空から降る魔女
「本当に、いいんですね?」
「青夢、本当にいいのね?」
「ええ、いいんです!」
かつて、電賛魔法が存在した時。
青夢は全ての元凶たるそれを、終わらせようとした。
そうして、魔法の根源へたどり着いた青夢は。
根源そのものである史実のイスラエル王ソロモン及び、これまた史実のジャンヌダルクにして自機に宿るAIでもあるアンヌに。
「ふん……まあ、精々やればいいじゃないの! 全てを救うとやらを!」
「ええ……やるわ、ペイル!」
自分から生まれたAIであるペイルの立ち合いの元。
「……hccps://emeth.daat.srow/! セレクト……」
根源を表すURLを含む、術句を唱える。
電賛魔法システムを終わらせる、術句を。
「これで……!」
fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> AomuMameki
PASSWORD:> ********
fcp> cd unlocked
fcp> mput reddragon.srow
fcp> close
dnscmd /recordadd meth.daat.srow A
×××1.×××2. ×××3. ×××4
「さあ……hccps://meth.daat.srow/! セレクト、エンド オブ 電賛魔法! エグゼキュート!」
青夢はホスト名たるemethを、methへと書き換える。
すると。
「……さようなら、電賛魔法システム!」
青夢が、そう唱えるや。
自身がいる根源の部屋も、ソロモンもアンヌもペイルも光の粒となって消滅していく。
「……もちろん、私もよね。まあ、いいわ。これで、一応は全てを救うことができるんですから!」
青夢も、自身の姿が光の粒に還元されていく様を見るが。
既に覚悟の上であり、そっと目を閉じる。
さあ、これで――
――はーははは! やっぱりあなたは面白いですよ青夢さん! いいでしょう……出血大サービスです!
――ええ、青夢! あなたはよく頑張った……
――ふんっ、調子に乗らないでよ! 今のところは消えといてやるけど……私は絶対戻ってくるわ!
「……え?」
しかし、
意識を失う前に、青夢はソロモンとアンヌとペイルのそんな言葉を聞き――
◆◇
「青夢、青夢!!」
「魔女木さん!」
「魔女木、起きなさいよ!!」
「ん……あれ? ここは……?」
青夢は真白に黒日、マリアナに法使夏・ミリアの呼びかけにより目を覚ます。
そこは、三段法騎戦艦艦橋内であり。
同艦やギリシアンスフィンクス艦にヘロディアス艦隊は、どこかの洋上に着水していた。
◆◇
「よし……さあ、そろそろ起動実験よ!」
短い髪を靡かせ青夢はエンジン音と共に、胸の鼓動を高鳴らせていた。
そうして電賛魔法のシステムが終わり、数年が経ち。
青夢は大学に通う傍ら立ち上げたベンチャー企業の、製品開発業務をしていた。
この実験――新たな空を駆ける乗り物・空飛ぶ駆竜魔の飛行実験が成功すれば。
今すぐにでも、行ける。
あの空の、向こうに――
「!? す、ストップ! きゃっ!」
と、思ったも束の間。
突如として機体は大きく揺れ、青夢は離陸して早々の墜落を予期し。
「……ごめん、空飛ぶ駆竜魔実験機!」
青夢は勢いよくドアを開け、そのままパラシュートで脱出した。
その刹那、機体はやはり墜落して炎上してしまった。
◆◇
「うーん、やっぱり電賛魔法システムの自動制御がないとキツイかな……」
青夢は炎上する機体を見て、歯軋りする。
電賛魔法システム――かつて魔女社会と言われたこの社会を下支えしていた、魔法を検索し実行する魔法のインターネットと言われるインフラシステムである。
その端末でもあった魔法の飛行機、空飛ぶ法機が少女たちでも制御できていたのは。
今の青夢の弁にもあった通り、電賛魔法システムの恩恵もあってのことであった。
「……でも、私は手を止める訳にはいかないの! 空の向こうに、たどり着くためには……」
青夢はそう言いながら、空を見上げる。
その向こうには、あるのである。
◆◇
「あらあら豆木さん。随分と派手な花火であってね。」
「む!? ま、真仏院マリアナ!」
気を取り直して歩き出した青夢の目に飛び込んで来たのは、長髪の鋭い目つきの女性。
規模縮小したとはいえ未だに大企業である真仏院コンツェルンの令嬢・真仏院マリアナであった。
「そうよ豆木! マリアナ様の前でよくもあんな醜態を」
「! ま、まああんたもいるわよね来馬星夏……」
更にマリアナのイソギンチャクもとい、腰巾着である来馬星夏もであった。
「……まあいいわ、だけど。あんたたちこんな所で油売ってていい訳?」
青夢は嫌味を言われた意趣返しのごとく、マリアナと星夏にそう言う。
「あら、油を売っているとは何ともご挨拶ではなくって?」
「そうよ豆木! マリアナ様はわざわざ、あんたに!」
マリアナらもそう食ってかかるが、その時だった。
「まったく、相変わらずの仲の良さだなお前らは!」
「!? ほ、法玄寺!」
「私たちもいるよー!」
「!? あ、あんたたち!」
青夢が驚いたことに。
「ま、円! いや間違えた真白! そして井島、間違えた黒日!」
「いや、別に苗字と名前間違えただけでそれ以外は特に間違ってないよ?」
サイバーテロリスト集団魔男の元メンバーである法玄寺剣人と、青夢の魔女訓練学校時代の親友である円真白・井島黒日も。
かくしてかつての真仏院――魔法塔華院コンツェルン民間軍事部門たる凸凹飛行隊のメンバーがここに勢揃いしたのである。
「まあしかし豆木さん……あんまり失敗続きですと、出資引き上げさせていただかなくてはならないかもしれなくってよ?」
「むう……そ、そんなことは分かっているわよ!」
マリアナはしかし、駄目押しとばかりにそう言い。
青夢は苦々しく顔を歪める。
そう、今青夢の出資元はこの真仏院コンツェルンであり。
それ故に青夢は、マリアナに強く出られない部分もあるのだ。
「いいえマリアナ様、今豆木は生意気な口を聞きましたし……もう引き上げてもよろしいのでは?」
「あら……それもそうであってね来馬さん。」
「む! ちょっと来馬星夏!」
星夏はそんな青夢の反応を楽しむように、ニヤニヤしながらそう言う。
「ちょっと真仏院さん!」
「また青夢を!」
そんな彼女らを、真白と黒日は責める。
「あら、一度は理由あってとはいえ豆木さんを裏切ったあなた方に今更味方面なさる資格があって?」
「な!?」
「そ、それは……」
が、真白と黒日もそこを突かれると痛い。
何故なら彼女たちも、今マリアナの弁にあったように。
理由があってのこととはいえ、仮想通貨QUBIT SILVERを利用した世界の支配――それを企図した新たな女王の力を得て青夢を陥れるような真似をしていたのだから。
「おほん、真仏院たち! 今日ここに来たのは、豆木たちに嫌味を言うためではないだろう?」
「あら……それもそうでしたわねミスター法玄寺! そう、わたくしたちがここに来ましたのわね豆木さん。最近町を騒がせている、空飛ぶ円盤についてお話したかったからですわ!」
「……へ?」
が、剣人の言葉にマリアナはそう話し始める。
青夢は何やら、釈然としないが。
◆◇
「!? レーダー上に反応あり……未確認飛行物体です!」
「な、何!?」
最近、巷では騒動が起きていた。
その例の一つとして、縦須賀の海上自衛隊基地では今自衛官が告げた通り。
未確認飛行物体が、捕捉されたのである。
「法機……ではない! 自衛隊機スクランブル! 未確認飛行物体を追跡せよ!」
「はっ!」
司令官はかつての電賛魔法の時代を引きずりつつも、的確に指示を出す。
が。
「どうした!? 未確認飛行物体は?」
「は、はいそれが……またどこかに。」
「くっ……逃げられたか!」
以前目撃した通り、空飛ぶ円盤はどこかに消えてしまったのだ。
◆◇
「は? 空飛ぶ円盤? 法機じゃなくて?」
「ええ、そもそも……法機は既に廃止されていてよ豆木さん!」
再び、現在に戻る。
先ほどまでの話に出て来た通り、空飛ぶ円盤それが世界各地で目撃されているという話である。
「そういえばそんな話を聞いたことあったかも……だけど。何で、そんな話を私に?」
青夢はふと、そこを疑問に思い尋ねてみるが。
「ええ、本題はそこであってよ豆木さん! 実は」
マリアナはそこで、身を乗り出す。
が、その時であった。
「ま、マリアナ様! あ、あれは」
「! あら……来てしまいましたわね!」
星夏が指差す空には。
「あれね……あれが!」
空飛ぶ円盤が、光を放っていた。




