弁論
なんとか好機に転じたと思ったが、校長は、いきなり質問の猛威をふるってきた。
「金銭の面はどうするのか。
会場はどこを抑えるのか。
その時他の生徒から苦情が出たらどう対処するのか。」
本当に用意されきったような質問に、俺は黙り込んでしまった。
確かにそうだ。
金銭の面は考えていなかったし、会場も考えていなかった。
苦情なんかは、どうにでもなると思っていた。
そういったあまりに乱雑な考えを突き刺される。
聡明を黙って見つめた。
聡明も悩んでいた。
「会場は多目的室、及び体育館、それぞれの教室、もしくは使わない教室を、三年生のB棟の中で借りられたら幸いだと思います。」
高嶋が口を開いた。
俺と聡明はつい目を点にして、高嶋を見つめる。
「金銭は自責で、そこまでお金をかけずにやるつもりです。苦情については、処理を先生方にもお願いしたいところですがB棟でしか開催しない事や、開催が決まったら、参加の是非を問う書類を全クラスに出させて頂きますが、その中に、同学年の生徒同士及び保護者のみに情報伝達をすること、とします。」
「そんなことは言っても。今のご時世では、SNSがあるじゃないか。そこで、この学校はこんなことをしている、などといった発言があり、拡散されたら。君たちの立場は無くなるよ。」
「あの、!」
やっと俺が食いつこうとする。
しかし高嶋程まともな回答は俺には思い浮かばなくて黙り込む。
「そういったものは防ぎかねます。ですが、なるべく圧力などを出せるよう、書類には、そういった拡散行為は見つけ次第、主催者との当人同士としての責任になり、黙秘の同意を破ったとして、法律を持って対処させて頂きます、と言ったものを書かせて頂きます。」
「つまり、同意書に学校側は関与していないと、そう書くのか?」
「学校に開催の旨を許可して頂く以上はそのような事は出来ないと思います。ですが、法的措置などは、個人として取らせていただくといったふうに書面にすることで、圧力はかなり違うと思いますし、私たちに分があると思います。」
「確かにな。」
「そして、その書類には保護者の同意のサインもしくは、印鑑を必要とします。」
「ほう。」
俺の手は震えていた。
右に立っている聡明も同じなのだろう。
後ろにいる高嶋が、俺らよりもしっかり発言していること、俺は何も言えない事。
企画者なのに、一番考えて居たはずなのに。
衝動だけで企画したことが露呈した事。
情けなさと不甲斐なさがまた起き上がる。
でも、俺はそれでも動けなくて、手が震えるばかりだった。




