第4話
立ったまま手紙を読み終わったモニカは思わずその場に崩れ落ちた。
「そんな、嘘よ。アルフォート達が私を騙していたなんて」
しかし、思い出して見ればおかしな点はいくつもあった。
モニカには婚約解消を勧めるくせに、自分達は解消をしなかった点。
またパーティーでも、
『僕たちは離れて見ているから。君が一人で告発するのが大事なんだ』
と言って、彼が到着すると同時に離れる段取りであったこと。
確かに私を陥れるつもりであったことは確実だ。
けれど、とモニカは持ち直す。
「あの男とお母様が愛し合っていた?なら何故お母様が病気の時、お見舞いに来てくれなかったの?何故最後に看取ってくれなかったの?何故葬儀にも出席しなかったの?」
口にする度に心が冷えていく。病のため、徐々に痩せ細っていく母。最後の方はもう面会すら許されなくなった。
「あの男の所にいけ?それで何が変わるというの?そもそも今さらあの男が私と会おうなんてするのかしら?」
母が死んで、あの男と会うことは無くなった。何度か面会の要請があったが、拒否したら言って来なくなった。
その時だった。部屋のドアがノックされた。
「御嬢様。旦那様が会いたいと仰っておりますが、如何なさいますか?」
セバスの声が聞こえた。
「行きます。案内なさい。」
しばらく迷った後、モニカはそう返事した。
セバスに続いて歩いていると、モニカはふとセバスの服装が気になった。貴族の執事が着る燕尾服ではあるのだが、ネクタイは黒く、ともすれば喪服にしか見えないのである。これはマナー違反であり、普通なら宰相である父はまず許さない格好であろう。
「ねえ、セバス。何故貴方そんな喪服みたいな服装をしているの」
思わず聞いたモニカに微苦笑を浮かべ、セバスは答えた。
「それは勿論、私が奥様の喪に服しているからです。」
「・・・嘘。お母様が無くなったのは十年近く前の事よ?」
「はい、正確には亡くなって8年になります。奥様を看取った者として、ある願いが成就するまで喪に服する事を旦那様から御許しを得ております」
そういわれて思い出した。最後に母の部屋から出てきたのは医師ではなく、セバスだった。
「・・・そうだったわね。あの男の代わりに母を看取ってくれたのね」
「はい。旦那様には本当に申し訳なく思っております」
それはどういう事よ?
そう問いただそうとした時、重厚な扉の前でセバスの足は止まった。
「こちらでございます。詳しくはご自分でお確かめになって下さい」
セバスはモニカに一礼して扉をノックした。