第82話 怒りの行き先
「分かった」
その一言で、空気が揺れた。
広場にいた全員が、レオンハルトを見ている。
神託ではない。
祈りでもない。
人の言葉だった。
---
「まず、働ける場所を作る」
レオンハルトは周囲を見渡す。
「倉庫の再編だ。余っている場所を集約しろ」
「荷の流れを一度止める。再配分する」
---
兵が即座に動く。
命令は短い。
だが、迷いがない。
---
アルノーは思わず息を吐いた。
「……早い」
---
「ええ」
リリアーナは答える。
---
神託と似ている。
だが違う。
---
責任の所在が、目の前にある。
---
「あなたが決めるんですね」
アルノーが小さく言う。
---
レオンハルトは振り向かない。
「当然だ」
---
「ここにいるのは、神じゃない」
---
その言葉は強かった。
---
群衆の中で、先ほどの男が拳を握る。
「……助かるのか」
---
「助ける」
レオンハルトは即答する。
---
その言葉に、ざわめきが広がる。
---
安心。
---
だが同時に――
---
どこか不安も混じる。
---
誰かが決める。
それは、楽だ。
---
だがそれは、
神託と同じ構造だった。
---
倉庫ではすぐに作業が始まった。
使われていなかった区画を開け、
荷を集める。
兵と労働者が混ざって動く。
---
「ここに積め!」
「通路を開けろ!」
---
声が飛び交う。
久しぶりの活気だった。
---
アルノーはその様子を見ていた。
「……動きました」
---
「ええ」
---
リリアーナは静かに言う。
---
「ですが」
---
その先を言わない。
---
その時、別の声が上がった。
---
「なんで軍が決めるんだ」
---
小さな声。
だが確かに響いた。
---
振り向くと、年配の商人が立っている。
---
「ここは都市だ」
---
「軍の支配じゃない」
---
周囲がざわつく。
---
だが、誰も強くは言えない。
---
状況が悪すぎるからだ。
---
レオンハルトはゆっくり振り向く。
---
「支配ではない」
---
「整理だ」
---
その言葉に、アルノーの目が揺れる。
---
整理。
---
それは本来、リリアーナの役割だった。
---
「誰も決めなければ、崩れる」
レオンハルトは続ける。
---
「だから決める」
---
正論だった。
---
誰も反論できない。
---
だがその時、
---
別の声が重なった。
---
「それも、神託と同じだ」
---
広場の空気が止まる。
---
言ったのは、さっきの若い男だった。
---
「神が決めるか」
---
「軍が決めるか」
---
「違いは何だ」
---
その言葉は、静かだった。
だが鋭かった。
---
レオンハルトは少しだけ目を細める。
---
答えはすぐには出ない。
---
その間に、別の声が上がる。
---
「じゃあお前が決めるのか!」
---
「できるならやってみろ!」
---
怒りがぶつかる。
---
抑えられていた感情が、溢れ始める。
---
「神託のせいだ!」
---
「違う!都市のせいだ!」
---
「リュミアが奪ったんだ!」
---
矛先が、変わる。
---
神ではない。
軍でもない。
---
**人へ向き始める**
---
アルノーは息を呑む。
---
「……来ます」
---
「ええ」
リリアーナは答える。
---
「ここからが、本番です」
---
怒りは、行き場を見つけた。
---
それは、必ずぶつかる。
---
広場の空気が、一気に荒れる。
---
その時、
遠くで鐘が鳴った。
---
星導教の鐘。
---
神託の時間。
---
群衆の動きが一瞬止まる。
---
誰かが呟く。
---
「……神託だ」
---
その言葉が、空気を裂く。
---
人か。
神か。
それとも力か。
---
三つの選択が、
同時にこの都市に存在していた。
---
そして次の瞬間、
---
そのどれもが、
ぶつかろうとしていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




