第74話 神託の範囲
神殿の会議の翌日。
修道士たちはいつも通り祈りを捧げていたが、どこか落ち着かなかった。
理由は明白だった。
カルド・ヴァルグリスの言葉。
――神託国家。
その響きは、あまりに大きい。
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神殿の回廊で、若い修道士たちが小声で話している。
「国家って……」
「王国のことだろう?」
「神託で王国を動かすのか?」
誰もはっきり理解していない。
だが一つだけ分かる。
それは、今までの星導教とは違うということだ。
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神殿の奥の書庫。
カルドは古い記録を広げていた。
星導教の歴史。
神託の記録。
数百年分の羊皮紙。
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「……すべて小さい」
彼は呟く。
疫病。
水路。
農地。
村。
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「神託が扱うには小さすぎる」
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その時、背後から声がした。
「司祭」
ルシアだった。
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「何か御用ですか」
カルドは振り向かない。
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「昨日の話です」
ルシアは言う。
「神託国家」
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カルドはようやく彼女を見る。
「何か問題か」
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「神託は」
ルシアは静かに言う。
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「人の生活のためにあります」
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カルドは軽く笑った。
「違う」
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「神託は」
彼は言う。
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「世界の秩序のためにある」
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ルシアは眉をわずかに動かす。
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「秩序?」
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「そうだ」
カルドは書庫の窓の外を見る。
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「戦争」
「飢饉」
「政治」
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「それらはすべて」
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「人の迷いから生まれる」
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ルシアは静かに言う。
「迷いは人です」
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カルドは頷く。
「その通り」
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「だから神が導く」
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沈黙。
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「例えば」
カルドは続ける。
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「税」
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「神託で決めれば」
「誰も争わない」
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「軍」
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「神託で動けば」
「戦争は起きない」
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「外交」
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「神託で選べば」
「間違わない」
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ルシアはゆっくり言う。
「それは」
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「王国です」
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「そうだ」
カルドは答える。
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「神による王国」
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書庫の空気が静まり返る。
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「それを」
ルシアは聞く。
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「星導教が行うのですか」
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カルドは迷わない。
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「当然だ」
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「神託を読むのは我々だ」
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窓の外で風が吹く。
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星導教はこれまで、
人の暮らしを助ける存在だった。
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だが今、
その役割を超えようとしている。
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ルシアはゆっくり言う。
「人は」
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「それを望むでしょうか」
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カルドは少し笑った。
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「人は」
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「迷う」
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「だから」
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「導かれる」
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その言葉は穏やかだった。
だがその中に、
**世界を動かそうとする意志**が確かにあった。
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書庫の外では夕日が沈み、
星がゆっくり空に現れ始めていた。
だが今、
その星を見上げる人間の数は、
確実に増えようとしていた。
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