第75話 届いた報せ
都市連盟からの使者が来たのは、その日の夕方だった。馬は汗をかき、鞍の下まで湿っている。神殿の前に馬を止め、息を整える間もなく中へ入る。
「星導教の神殿に、報告を」
声は緊張していた。星導教領へ都市連盟の使者が入ること自体、そう何度もあることではない。回廊にいた修道士が対応する。
「どのような件ですか」
「北方都市リュミアで、動きがあります」
その言葉に、空気が変わる。リュミアは都市連盟の中でも要所だ。
交易の中心。水運の要。荷の量でも、動く金でも、連盟の中では上から数えたほうが早い。
「何が起きた」
低い声が割って入る。カルドだった。使者は一瞬たじろぐが、すぐに言う。
「税制の見直しが行われました」
「通常の話だな」
カルドは興味を示さない。税の話なら、どの都市でも毎年やっている。
「ですが」
使者は続ける。
「その決定に、星導教の神託が使われています」
沈黙。都市の税に神託が使われた、という一行が、その場の全員の速度を落とした。アルノーが思わず顔を上げる。
「……神託が?」
「はい」
使者は頷く。言いにくそうにではなく、報告として、順に並べていく。
「都市の一部で、神託による優先配分が行われています」
「港の使用順」
「税の軽減対象」
「輸送の優先権」
それはつまり、
「都市の運営に」
アルノーが呟く。
「神託が入り始めている」
カルドの口元がわずかに上がる。待っていた報せが、思ったより早く届いた顔だった。
「始まったか」
その言葉は静かだった。だが確信を含んでいた。
「司祭」
ルシアが言う。
「それは」
「自然な流れだ」
カルドは遮る。
「人は迷う」
「だからより大きな決断を神に委ねる」
使者は続ける。歓迎する都市と、反発する都市の名を、片方ずつ挙げていった。
「都市連盟は対応を協議中です」
「一部の都市は歓迎」
「一部は反発」
分裂が始まっている。村の水路をどう分けるかの話が、都市の税と港の順序に変わっている。アルノーはリリアーナを見る。これは、今までの村の問題ではない。
都市。そしてその先。ここまでの道筋を、彼女は口に出さずに数え直していた。リリアーナは静かに言う。
「広がりましたね」
カルドは頷く。
「当然だ」
「神託は」
「世界を導くものだからな」
その言葉に、もはや疑いはなかった。星導教の思想は、村を超え、
都市へ入り始めている。そしてそれはやがて、国家へ届く。夕暮れの空に星が一つ浮かぶ。村から見ても、都市から見ても、位置の変わらない星だった。
それはいつもと同じ星だった。だが今、その意味は確実に変わり始めていた。
村の話が、都市の話に変わる回です。
神託が交易都市の税と港の順序に入りました。ここまでは水路と畑の話でした。ここで規模が一段上がります。
歓迎する都市と反発する都市に分かれるところまで書いて、決着はつけていません。分裂の始まりだけを置きました。
広がりましたね、というリリアーナの一言に、感情を乗せていません。彼女はまだ何も打っていない。打てる立場にもいない。
次回、王国がこの動きに気づきます。




