表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、仕事を奪った王宮が先に崩れました  作者: 水城ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/27

第5話 悪役に仕立てられる日

 それは、本当に些細なことだった。


 王宮内の回復魔法に関する手順を、リリアーナが修正した。

 これまで曖昧だった責任範囲を明文化し、承認の流れを整理しただけ。


 混乱を防ぐため。

 事故を避けるため。


 ――いつも通りの仕事だ。


「リリアーナ様」


 廊下で呼び止められ、彼女は足を止めた。

 声の主は、聖女エミリアの側仕えの少女だった。


「聖女様が……少し、お困りで」


「内容は?」


 即座に問うと、少女は言いにくそうに視線を伏せる。


「回復の場に、書類が増えてしまって……。

 聖女様は、人を癒したいだけなのに、形式ばかり重くなったと……」


 リリアーナは、状況を即座に整理する。


 (正式な承認を経ない回復魔法を止めた。

 それを“妨害”と受け取ったか)


「必要な手順です」


 それだけ告げて、歩き出そうとした。


 その瞬間。


「待ってください!」


 少し高い声が、廊下に響いた。


 振り返ると、エミリア本人が立っていた。

 白い衣が、いつもより揺れている。


「私、間違ったことをしていましたか?」


 真っ直ぐな目。

 責める色はない。


 ただ、疑問だけがあった。


「規則を整えただけです。

 聖女の力を否定したわけではありません」


「でも……皆さん、困っているみたいで」


 その言葉に、周囲の視線が集まる。

 文官、侍女、騎士――誰も口は挟まない。


 空気が、決まり始めていた。


「融通が利かない」

「聖女様がやりにくそう」

「前から厳しい方だった」


 誰も声にしない。

 だが、そう“思われている”のは、わかった。


「リリアーナ」


 そこへ、アルベルトの声。


「少し、やりすぎじゃないか?」


 困ったような笑顔。

 責めるつもりはない、という態度。


 ――いつもの逃げ道だ。


「やりすぎ、とは?」


「聖女は特別な存在だ。

 もう少し、配慮があってもいいと思う」


 配慮。

 便利な言葉だ。


 誰の責任も、曖昧にする。


 リリアーナは、ほんの一瞬だけ考えた。


 ここで反論すれば、正論は通る。

 だが、それは“空気”に逆らうことになる。


 彼女は、選ばなかった。


「承知しました」


 そう言って、一礼する。


 それだけで、場の空気が緩んだ。


 ――悪役は、役目を引き受けた。


 エミリアは、ほっとしたように微笑む。


「ありがとうございます。

 きっと、皆さんも安心します」


 その言葉が、決定打だった。


 善意。

 疑いようのない、善意。


 だからこそ、誰も止めなかった。


 リリアーナは、その場を静かに離れる。


 背後で聞こえる、安堵の声。

 小さな囁き。


「やっぱり、あの方は厳しすぎる」

「聖女様が可哀想」


 ――想定内。


 廊下を曲がり、誰もいない場所に出たところで、彼女は足を止めた。


 (これで、“悪役”は完成)


 正しさを保ったまま、嫌われる。

 それが、一番切りやすい。


 リリアーナは表情を変えず、次の予定を思い浮かべた。


 (次は、公の場だ)


 婚約者としての立場が、

 “問題視される”段階に入る。


 それだけのことだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ