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婚約破棄された悪役令嬢ですが、仕事を奪った王宮が先に崩れました  作者: 水城ルナ


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第21話 戻れない判断

 王宮の会議室には、慎重な空気が流れていた。


「……この条件で、進めるべきでしょうか」


 机上に広げられた書類は、

隣国との交易協定に関するものだった。


 数字だけを見れば、悪くない。

 表向きの利益は、確かに出ている。


「問題は、ありません」


 文官の一人がそう言い切る。


「短期的には、です」


 別の者が、控えめに付け加えた。


 短期。

 その言葉に、誰も反応しなかった。


 会議は、時間が限られている。

 判断を先送りにする余裕はない。


 ――いや、

 先送りできる人間が、もういない。


「聖女様の行事も控えています」


 誰かが言った。


「これ以上、調整に時間を割くのは難しいでしょう」


 アルベルトは、書類に目を落としたまま、しばらく考えていた。


 以前なら、

 この段階で“止める声”が入っていた。


 利益だけでなく、

 反発、摩擦、将来的な信用。


 それらを並べ、

 「今決めるべきではない」と言う声が。


 だが、今はない。


「……進めよう」


 アルベルトは、そう結論づけた。


 反対意見は出なかった。


 出せなかった、と言う方が正しい。


 数日後。


 協定は、滞りなく締結された。


 表向きは、成功だ。


 王都では、

「判断が早くなった」

「無駄な調整が減った」

という声すら出ていた。


 だが、

 静かに、別の動きが始まっていた。


「……契約更新は、見送ります」


 地方商会の代表が、淡々と告げる。


「理由は?」


「御国が、今回の協定で示した姿勢です」


 言葉は丁寧だが、距離がある。


「長期的な取引を考えるなら、

 少し……不安が残りました」


 数字に出ない損失。


 信用の、目に見えない目減り。


 外交担当の文官が、報告書を持って会議室に駆け込む。


「反発は、想定より少ないです」


 それは、安心材料のはずだった。


 だが、続く言葉が空気を変える。


「ただ……

 協力姿勢だった数国が、様子見に入りました」


「様子見?」


「はい。

 判断が読めない、と」


 アルベルトは、無意識に拳を握った。


 判断が、読めない。


 それは以前、

 決して向けられなかった評価だ。


 夜。


 アルベルトは一人、執務室で報告書を見返していた。


 数字は、まだ崩れていない。

 表向きの成果も、保たれている。


 だが、

 信頼が、確実に減っている。


「……防げた、か」


 そう呟いてから、

 自分でその言葉を否定した。


 今さらだ。


 判断は、下された。

 署名も、交わされた。


 これは失敗ではない。

 だが――


 取り消せない選択だった。


 その頃、王宮の外では。


 第二王子の陣営が、

 静かに動き始めていた。


 交渉は、慎重に。

 判断は、早く。


 同じ国の中で、

 二つの“基準”が並び立ち始めている。


 それに気づいている者は、まだ少ない。


 だが、この日を境に、

 王宮は確実に一つのものを失っていた。


 ――引き返すための余地を。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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