第15話 ずれ始めた責任
王宮の会議室は、どこか落ち着きがなかった。
「……この件、誰の判断ですか?」
文官の一人が、控えめだがはっきりと問いかける。
「聖女様の意向を尊重した結果です」
別の者が答えると、室内に微妙な沈黙が落ちた。
「尊重した、というより……確認を省いたのでは?」
誰も否定しない。
最近、こうしたやり取りが増えている。
判断が遅れ、
結果が曖昧になり、
その責任を“誰が負うのか”が見えなくなった。
「問題は小さい。
だが、積み重なっている」
年配の文官が、低い声で言った。
「このままでは、現場が疲弊する」
アルベルトは、眉を寄せる。
「だから、調整役を増やすと言っただろう」
「増えています。
ですが……線を引く人がいません」
線。
誰が、どこまで決めていいのか。
誰が、最終責任を負うのか。
それを明確にする人間が、いない。
別の部屋では、騎士団の代表が声を荒げていた。
「補給が遅れています。
理由は単純だ。判断が回ってこない」
「今は聖女様の回復行事が多く……」
「それと、補給は関係ないだろう!」
言葉が、少し強くなる。
以前なら、
この段階で調整が入っていた。
感情がぶつかる前に、
利害が整理されていた。
今は、それがない。
午後、聖女エミリアのもとに、複数の相談が集まった。
「こちらの判断を……」
「殿下はお忙しくて……」
彼女は困ったように視線を泳がせる。
回復はできる。
人を癒すこともできる。
だが、線を引く役割ではない。
「……できる範囲で、考えます」
そう答えるしかなかった。
それが、善意の限界だった。
夕刻、アルベルトは一人、執務室で書類を眺めていた。
小さな赤字。
小さな遅延。
小さな不満。
どれも、致命的ではない。
だが――
誰かのせいにしなければ、処理できない段階に入っている。
「……前は、こんなことは」
言いかけて、言葉を飲み込む。
前、とはいつだ。
その問いに、答えは浮かばなかった。
夜。
文官の一人が、廊下で小さく囁いた。
「最近、誰も判断を引き受けたがらない」
「責任を負う役目が、曖昧だからな」
「……誰かが、線を引いてくれていた気がするんだが」
その名は、まだ出ない。
だが、
不在だけが、確実に存在を主張し始めていた。
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