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第三十一話 足の引っ張り合い

「全員で対応しましょう! 一人でなんて、危険過ぎる!」

「耳どもがどれだけ揃っても無駄だ。俺一人の方がマシだから、お前達は家に帰って震えていろ」

「ここで口論はマズイですよ!」


 赤い眼の剣とデデレデの間に翔英は割って入るが、牛の方も同じように考えていたらしく、翔英やデデレデの方に突進してくる。

 足元が泥であるにも関わらず、牛の突進は早い。

 翔英もデデレデも恐怖で硬直していたが、赤い眼の剣は翔英の体を使ってデデレデを抱き寄せるとさらに沼の方に飛ぶ。

 突進は避けることが出来たが、泥沼にダイブなどバラエティー番組でも中々見る事は無くなった事をやる羽目になってしまった。


「どうして出てきたんですか? 危ないですよ」

「危ないのは貴方よ! 一人で無茶しないで!」


 けっこう本気で怒られてしまった。

 たしかデデレデは翔英に命の借りがある事をこだわっていたので、それを返す前に翔英に死なれては困るのだろう。


「私も手伝うわ!」

「耳女に出来る事など無い。さっさと帰れ」


 赤い眼の剣は吐き捨てるように言うが、デデレデに帰る意志は無いみたいだ。


「それなら、さっきの空を飛ぶ魔術を使えませんか? 空中戦の方が戦う幅が広がりますし、集落から離れて戦う事が出来ます」

「エアウォークね。分かったわ」


 さすがに強敵との戦闘であれば、デデレデも素直に協力してくれる。

 ここで下手に意地を張るのは命に関わる事は分かっているのだろう。

 デデレデが魔術を使う時、デデレデの周囲に風が集まるのは凄く神秘的だったが、泥まみれなのが残念だ。

 そして体が軽くなる感覚。


「これで空に逃げられても戦えるようになりましたね」

「空中戦か。曲芸勝負ではあるが、この際仕方が無いか」


 赤い眼の剣はそう言うと、泥の中から空中に浮かぶ。

 同じようにデデレデも空に浮かぼうとするが、彼女は地面から離れる事が出来なかった。

 泥の中から手が生え、彼女の足を掴んでいたのだ。


「何? スネアハンド?」


 デデレデは細身の剣で泥の腕を切り払おうとするが、突進を躱された牛がこちらを向きなおしている。

 今突進されるか炎を吐かれては、翔英はともかくデデレデは避ける事は出来ない。


「牛の向きを変えましょう。こちらから斬りかかるべきです」

「おう、上からで良いか?」

「急ぎでお願いします」


 翔英の言葉に従うように、赤い眼の剣は翔英の体を使って、牛に向かう。


「ショーエー!」

「いいからお前はその手をどうにかしろ!」


 翔英の代わりに赤い眼の剣が怒鳴る。

 牛は動けないデデレデではなく、僅かに上方から襲いかかってくる翔英に狙いをつけたらしく、空に向かって炎を吐く。

 余裕をもって躱す事も出来たし、デデレデも無事だった。


「耳女! 今すぐ風の結界を張れ! 狙われているぞ!」


 赤い眼の剣が足元の手を切り払うデデレデに言う。

 デデレデはその言葉に従って風の結界を張ろうとしたが、泥の中に倒れる。


「デデレデさん!」

「おい、そいつは囮だ!」


 赤い眼の剣は制止しようとしたが、翔英は倒れたデデレデの方へ行く。

 デデレデは左肩を射抜かれていた。

 地面にいてはデデレデを捕まえていた泥の手に捕まる恐れもあったので、翔英はデデレデを抱き上げると空中に逃げる。

 グールを相手にしているのならそれで一息つけるのだが、今回はそういうわけにはいかない。

 両手が塞がるのも致命的なので、デデレデを左側に抱えるようにして右手で赤い眼の剣を持つ。

 赤い眼の剣は翔英を狙った矢を剣で防ぐが、沼から羽ばたいて来た牛を止める事は出来ない。


「いくら俺でも、片手でレッドブルの翼は切断出来ないぞ。決断した方が良いのではないか? その耳女は役に立たないだろう」

「ショーエー、貴方は街の人間でしょ? 私を捨てて、レッドブルを倒せば手柄になるはずだから、そうして」


 デデレデは右手で左肩の傷を押さえているが、初日のように抵抗はしない。


「悩んでいる暇は無いぞ。どうするつもりだ?」

「いい事を思い付きました。デデレデさんにも付き合ってもらいます。良いですか?」


 翔英の質問にデデレデは泣きそうな表情ではあったが、小さく頷く。


「射手がどこにいるか分かりますよね?」

「ああ、そう離れていないがどうするつもりだ?」

「手柄を譲ります」

「なるほど、面白い手だな。獲物を譲るのは好きではないが、何も出来ない無力な連中を見るのは嫌いではない」


 良い性格をしている。

 プライドの高い戦闘狂の赤い眼の剣なので意地でも敵を倒すのは俺だ、と言い張る事も考えはしたが、デデレデに格の違いを見せるなど自身の優秀さを見せるのも好きみたいなので、自分なら倒せる相手に苦戦しているのを見るのも悪くないと思ったみたいだ。

 羽ばたいて来た牛は翔英を睨んでいるので、翔英はデデレデを抱いたまま集落から離れていく。

 

「ショーエー、皆で倒すんじゃないの?」


 デデレデは沼の一族総出で牛と戦うと思っていたみたいだ。


「こっちの足を引っ張るつもりなら、こっちも同じ事をしてやるんですよ」

「近くだ。向こうはまだ見つかっていないと思っているみたいで、逃げようとはしていない。面白くなりそうだな。そろそろ降りるぞ」


 デデレデを左側に抱き、右手で赤い眼の剣を持って地面に降りる。


「念の為風の結界を張ってもらえますか?」

「もう張ってあるから、心配いらないわ」

「さすがですね。安心しました」


 翔英は牛を見ながら言う。

 デデレデの止血もしたかったが、今逃げるのは全てを集落に呼び込む事になりかねない。

 地面に降りた翔英を狙って、牛が滑空してくる。

 中々漫画でもゲームでも映画でも見る機会の無い光景であったが、のんびり見ているわけにもいかない。

 翔英は牛の空中からの突進である滑空を避ける。


「ちいっ!」


 泥の中から声が聞こえると、泥の中から射手が、近くの泥の中から魔術師が現れた。


「召喚人、何のつもりだ!」

「後、よろしく」


 翔英は文句を付けてきた射手に言うと、牛を飛び越えて集落の方へ逃げる。

 その翔英を狙って射手は弓を射るが、その矢は翔英ではなく牛の大きな翼に遮られる事になった。

 牛は敵を翔英から射手に定めたみたいで、射手に炎を吐いている。

 いわゆるヘイト管理と言うモノだ。

 翔英は狙われてはいたものの、攻撃しようとしたものの一度も牛に対して攻撃を当てていない。

 その一方、射手は特に狙われていたわけではなかったのだが、矢を牛に当ててしまった。

 ゲームではよくある手であるが、実際にもただ逃げ回るだけの存在より、こちらに攻撃を仕掛けてくる方を排除しようとするモノだ。

 地面に降りた牛を泥の手が掴んでいるところは見えたが、翔英はそれ以上そちらの方を見ないで集落の方へ戻る。


「デデレデさん!」


 集落の見張りの面々が、翔英からデデレデを奪い取るようにして保護する。


「左肩を射られています。すぐに治療して下さい」

「ショーエーはどうするつもり? まさか、助けに行くとか言わないでしょうね!」


 デデレデは左肩を抑えながら、翔英に言う。

 出血のせいでただでさえ白い肌から、さらに血の気が失せている。


「向こうも街の戦力ですし、僕がやった事を向こうもやらないとは限りません」

「ここにいて」


 デデレデは翔英の方に来ようとするが、周りの沼の一族に止められている。

 涙目で上目遣いに言われるとドキッとするが、今はこの集落の柵や門もティガーグールやグールのせいで破損している。

 防衛力としても翔英に離れられては困る、と言う事だろう。


「牛を倒して、すぐに戻ってきます」

「だったら私も……」

「その傷では無理でしょう。すぐに戻りますから」

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