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二十九話 グールの集団との戦い

 素晴らしく短気なデデレデは赤い眼の剣の挑発に乗って、怒りに任せて突進しそうだったので、翔英はまだ握ったままだったデデレデの手を引いて彼女を止める。


「危ないですよ!」

「キャッ! な、何よ!」


 慌ててデデレデは手を離し、翔英を睨んでくる。

 手を握ってきたのはデデレデの方だったと思うのだが、その事を言うとまた話がこじれそうだ。


「ここは僕と赤い眼の剣に任せて下さい。この剣の強さは別格です」

「ああ、自分の目で確認しろ」


 赤い眼の剣がそう受け合うので、翔英は一人集落から出ようとするが、デデレデが引き止める。


「何をカッコつけようとしてるの! あの数が一人でどうにかなると思ってるの?」

「そうだな、せっかくだからちょっとした曲芸を見せてやろう。耳女、お前は風の魔術を使えるみたいだが、空を蹴る事が出来るようになる魔術は使えるか?」

「耳女、だと?」

「細かい事を気にするな。どうなのだ?」

「エアウォーク程度、私でなくても使えるわよ」

「ではそれをコイツにかけろ。あの程度、物の数では無い事を証明してやろう」


 デデレデはまだ何か言いたそうだったが、ふくれっ面で何かの魔術を使う。

 その効果で、翔英は体が軽くなった気がした。


「さて、それじゃ試してみるか」


 赤い眼の剣がそう言うと翔英の体の自由を奪う。

 ひょいと垂直に飛ぶと、さらに空中でジャンプしてみせる。


「二段ジャンプ?」

「召喚人はそう言いたがるが、これはそうではない。考え方としては足の裏に常に地面を貼り付けている状態で、空中でも走ることも跳ねる事も出来ると考えれば良い。さて、それではあの耳女に格の違いを見せてやろうか」


 赤い眼の剣は楽しそうに言うと、そのまま集落の入口の門を飛び越えて行く。

 かなりの高度になったところで翔英の足は空中を蹴り、枯れ木人間グールの群れに向かって弾丸のように突っ込んで行く。


「うおわぁ!」


 さすがに翔英は悲鳴を上げるが、赤い眼の剣はまったく意に介する事も無い。

 空中で体を反転させると、翔英はグールの一体を蹴って勢いを止め、そのままバク転しながら剣を振ると、グールを簡単になぎ倒す。


「相変わらず硬いが、手応えがあるのは悪くない」


 翔英には手応えはイマイチ感じていないのだが、赤い眼の剣の切れ味の良さの為だろう。

 そう考えているうちに翔英は地面に降りようとするが、その途中で空中を蹴ってグールに突進する。

 今度はグールを蹴るのではなく、その勢いのまま剣を振ってその軌道上のグールを切り払う。

 坂を上っていたグール達はドミノ倒しのように倒れて坂から転げ落ちるが、翔英はそれに目を向けず、空中を何度も蹴って勢いを付けてティガーに向かう。

 その際にも赤い眼の剣は縦横無尽にグールを切り倒していく。

 完全に人の動きではないので、翔英としては文字通り目が回りそうになっているのだが、その動きはとてもグールで追えるものではない。

 赤い眼の剣が操る翔英は一度も地面に降りないまま、特大グールであるティガーの頭上に乗る。


「さて、このティガーだが、見覚えが無いか?」


 赤い眼の剣に言われて、ティガーを見下ろすと、片目は潰れて眉間にも穴が空き、首の左側が大きく裂けている。


「これは、何日か前に倒したティガーですね」

「ああ、心臓も抜いているからな」


 赤い眼の剣に言われてさらに下を見るが、角度が悪くて胸を見る事は出来ない。

 しかし、頭部の損傷を見るだけで十分だ。


「なるほど、この死体を操っている奴は俺達が倒した輩を操っていると言う事だな。道理で動く死体に首が無いわけだ」


 赤い眼の剣に言われ、翔英はティガーグールの頭上から周囲を見る。

 首が無いと言うより、枯れ木人間のどこからが首なのかが分からないのだが、ひょろりと細長いシルエットを見る限りでは肩の位置から考えると首はありそうに見える。


「いや、それは魔術で操る上で奇形化しているだけだ。このティガーにしても死体になってからの日数が経っていない上にこのガタイのせいで奇形化が遅れてはいるが、いずれこれもデカいだけのグールになる」

「強さはどうですか?」

「さて、俺はそう言う事に詳しくないのでな。だが、機動力は大幅に落ちている分硬度が増しているのは間違い無い。それが強くなっているか弱くなっているかは判断に苦しむところだ」


 ティガーグールが緩慢な動きで頭上に手を伸ばしてきたので、翔英は空中へ逃げる。

 沼の足場の悪さもあり、ティガーグールがジャンプしてくると言う事は無いので空中は安全地帯と思われる。

 翔英はそう考えたが、相手もそこまで甘くなかった。

 ティガーグールは近くのグールの一体を掴むと、翔英に向かって投げつけてくる。

 まったく予想外の飛び道具に驚かされるが、赤い眼の剣にとっては想定内だったらしく飛来してくるグールを簡単に避ける。

 ティガーグールはさらに手近なグールを掴むが、今度は翔英を狙わず、適当に投げている。


「おっと、こいつは一本取られたか」


 赤い眼の剣は放り投げられたグールを目で追うと、笑いながら言う。

 グールに知能や知性は無さそうなので、おそらくは術者の命令なのだろうが、ティガーグールは空中にいる翔英ではなく、より効果的な狙いやすい方を狙ってきた。

 ティガーグールは、グールを沼エルフの集落に投げつけ始めたのだ。

 ティガーグールの腕力は凄まじく、グールは沼エルフの集落を守る門や柵に激突する。

 それによってかなりの硬度を持つらしいグールも粉々になっているが、沼エルフの集落の門や柵も破壊される。

 穴さえ開けば、今度はグールを無傷で集落に投げ込む事が出来る。


「この発射台さえ動かなくすれば、村は守れます」

「術者を殺る方が早くないか?」


 赤い眼の剣の提案も一理あるのだが、無力化するべき沼の一族を保護して街の実力者と目される魔術師を殺すと言うのは、さすがにギルドに対する敵対行為とみなされてもおかしくない。

 それならこの魔術師の主戦力と思われるグールを無力化してしまう方が、後の事を考えると都合が良い。

 そして、グールが一気に減ってしまった上で集落を陥落させる事を成功させるには、この発射台にかかっている。

 逆に言えば、この発射台が無くなってしまえば後は枯れ木を折るようにグールの掃除をすれば済む。


「まあ、その通りだとは思うが、随分と積極的じゃないか。どうしたのだ?」

「何もしてないって言われてばかりですからね。本当に何もしていないワケじゃない事を見せないと」

「いや、何もしていないのは事実だからな」


 手厳しい。

 この世界は翔英に厳しすぎるのではないか、と考えてしまう。

 何もしない奴は何も得られない、ともう一人の翔英は言っていた。

 行動を決める指針にはならない、と族長に言われた。

 よほど翔英は怠け者だと思われたみたいだったので、翔英なりに考えたのだ。

 誰に何と言われても、翔英が直接戦闘を行ったところで赤い眼の剣やデデレデには及ばない。

 これまでの翔英は、それなら足を引っ張らないように空気でいようとした。

 あの夜に現れたもう一人の翔英は、それを認めず否定を続けていた。

 そこで翔英は考えてみた。

 自分には何が出来るのか、と。

 直接戦闘が出来ず、魔術なども使えない翔英は援護などにも向かない。

 それどころか赤い眼の剣の戦闘能力を活かすには、翔英は必ず最前線に出ないといけない。

 だとすると翔英に出来る事は、標的の選定、すなわち指揮である。

 赤い眼の剣は桁外れの戦闘能力を誇るが、視野は狭いので目の前の敵にしか集中していない。

 それも逆に言えば相手さえ選定していれば、その戦闘能力をその相手に徹底的に集中する事が出来るのだ。


「お前程度の指揮にどれほどの効果があるかは分からないが、面白い事を考えたな。では俺はこの発射台を破壊すれば良いと言う事か。どの程度破壊するのだ?」

「徹底的に」

「そうでなくてはな」


 空中にいた翔英と赤い眼の剣は、発射台と化したティガーグールに斬りかかる。

 見た目にはティガーの原型を留めているものの、これは見た目に気持ち悪い操り人形でしかない。

 まずは既に落ちかけている首を狙う。

 普通ならティガーの首は位置が高すぎて狙う事は困難なのだが、今は空中を自由自在にと言えるレベルで移動出来る。

 このティガーグールは喉が左側に大きく裂けているので、さらに右側へ大きく切り開く。

 赤い眼の剣を振り抜いた後、翔英はティガーグールの顎を蹴り上げてティガーグールから離れると、ティガーグールの頭は自重に耐えられず沼に落下する。

 が、それで絶命する訳ではない。


「右腕を狙いましょう。このティガーの右腕は切断していたはず。おそらく魔術でくっつけたとかそう言う感じでしょうから、左腕より耐久力が落ちるはず」

「ああ、やってみよう」

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