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SIREN-裏社会の警告者-  作者: ルゥナ
第一案件 青少年暴力支配組織

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1/25

無視された警鐘

 薄暗い室内に、紙の擦れる音だけが響く。


 ここは、裏社会をさらに裏から監視する組織、SIRENの執務室。そこに、一人の女ーーー波多野真凛が座り、資料を眺めている。


 普通ならば、アイドルと見紛うほどの美貌を持つ、清楚な黒髪を結い、ポニーテールにした若い女。だが、その表情は、非常に苦々しいものだった。


「…全く…」


 手元の資料に記されているのは、とある組織が、青少年を暴力で支配し、強盗致傷を強制しているという実態。


 資料を一枚ずつめくる。その度に、女の眉間に、深くしわが刻まれていった。


「失礼します。お茶が入りましたよ。少し、お休みされては?」


 静かな声とともに、扉が開く。そこには、紺色のメイド服に身を包んだ、小柄な女性ーーー月乃友奈がいた。肩まで伸ばされた銀髪が、薄暗い室内の中では妙に白く浮かび上がって見える。


「…えぇ、そうさせてもらうわ。ありがとう、月乃」


 波多野はようやく資料から顔を上げ、月乃の方へと視線を向けた。その表情には、わずかに疲れたような笑みが浮かんでいる。


 月乃はカップを置き、自然な動作で資料へと視線を落とした。


「…ご覧になられたようですね、真凛」

「えぇ…。個人的にも…いい気分にはならない案件ね」


 そう言うと、波多野は再び資料へと目を落とし、かすかに苦笑した。


 この組織には、すでに警告文を二度に渡り、送っている。だが、記録によれば、SIRENからの警告を送った後、活動を休止するどころか、むしろ加速させていることも確認されている。


 ーーーどうやら、自分達の鳴らしているサイレンを聞く気は、微塵もないらしい。その事実が、余計に波多野の顔を険しくしていた。


「…この連中、災害時に鳴らされる警報などを何だと思っているのでしょうね」

「さぁね…。ただ、少なくとも、自分に都合が悪ければ聞かないということだけは分かるわ」


 波多野はそう言うと、月乃の淹れた紅茶を一口含んだ。良い茶葉を使っており、自分の好みの味になっている。


「…月乃。締め切りは、もう過ぎたのよね?」

「はい。昨日付で、最終締め切りは過ぎています」

「そう…」


 警告も行った。猶予も与えた。だが、相手は改善するどころか、むしろ警告を嘲笑い、活動範囲を拡大してきた。


 ーーーもう、穏当に解決する必要はなさそうだ。


「…月乃」

「はい」


 波多野は、確認していた資料を、机の上に置いた。その様子を見て、月乃は何かを察知したようだ。だがそれでも、一ミリも動じる様子はない。


「未来ある若い少年達を暴力で支配し、本人達から選択の余地を奪った上で、自らの手を汚さずに犯罪行為を行っている…」

「はい」

「これは、明確な『意志の剥奪』…と認定せざるを得ないわ」

「えぇ」

「今回は、あなたにお願いするわ。行ってくれるかしら?」

「承知いたしました」


 月乃はそれだけ言うと、軽く頭を下げる。

 二人の間に、それ以上の言葉は不要だった。


 月乃は空になったカップを回収すると、そのまま執務室を後にした。


 一人になった波多野は、息を吐きながら、椅子の背もたれに寄りかかった。


「私達は、SIREN…。この裏社会に、『警鐘』を鳴らす者」


 警報は、危険を知らせるためのもの。そして、逃げる時間を与えるためのものだ。だが、それを聞いてどうするかは、聞き手次第だ。

 だからこそ、それを意図的に無視すればどうなるのか。その結果を選ぶのも、彼ら自身の意志だ。


「…『警鐘』は、もう二度も鳴らされた。その先の行動は、あなた達の意志よ」


 波多野は静かにそう呟くのだった。

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